温泉郷ユポポとゴーレム④/エミリーのゴーレム講座
温泉郷ユポポの源泉に、野良ゴーレムが出現。
野良ゴーレム退治をギルド長から依頼された俺とカグヤは、さっそく村の外へ出て源泉を目指した。
案内人は、俺がぶちのめしたゴーレムマスターの一人エミリー、自分のゴーレムが修理中なので顔パンパン女……じゃなくアルコのゴーレムを借りての案内だ。
街道を無言で案内するエミリーに、カグヤは言う。
「アンタさ、なんで案内してくれんの? わざわざゴーレム借りてまでさ」
「……本当はアルコの仕事なんですが、アルコがあなたに怯えて仕事にならなかったんです。だから代理としてあたしが案内を」
「ふーん」
なんかエミリーの声が硬い。
無感情というか、俺たちと話したくないのか。
「あのさぁ、元はと言えばアンタらがシラヌイを蹴とばしたのが原因でしょ? なーに不機嫌になってんだか知らないけど、仕返しでボコられたのは当然の結果よ」
「っ……」
「おま、煽るなよ」
「ふん。言いたいことも言わずにウジウジネチネチした奴が大嫌いなだけよ」
こいつ、ほんとに敵作るの上手いな。
前を歩くエミリーが振り返ると、ゴーレムも一緒に振り替える。
「あたしは、選ばれたゴーレムマスター……そのへんの冒険者とは違うんだから! C級のくせに、ゴーレムマスター舐めんじゃないわよ!」
「お、いいわね。そっちのがアタシ好みかも」
「うるさい! あんたのせいであたしたちのチームは馬鹿にされてんのよ!? 生身の、しかも素手のやつに負けたゴーレムマスターって!!」
「いや、悪いのはお前らじゃん。シラヌイを蹴ったし」
「う……そ、それは」
「それにさ、その辺の冒険者と違うって……何がどう違うんだ? ゴーレムを操れるから特別なのか?」
「そ、そうよ!! ゴーレムマスターは選ばれた」
「でもさ、そんな人形よりも俺のが強いぞ」
「…………ぅ」
やべ、エミリーが涙目だ。
カグヤは欠伸してるし、なんか苛めてるみたいじゃねーか。
「ま、まぁ特別なのはよーくわかった。お互いのためにもさ、さっさと案内してさっさと終わらせてさっさと帰って報告し二度と会わないようにしようぜ」
「…………」
エミリーは無言で歩きだすと、ゴーレムも歩きだす。
なんだかその背中が、やけに小さく見えた。
◇◇◇◇◇◇
源泉は、村から三十分ほど離れた場所にあった。
大きなタンクがいくつも並び、その周辺を高さのある金網が囲っている。
「地面の下に大きなパイプが通ってて、そこを温泉が通るの」
「地面の下とかすげぇな」
「確かに。さすが技術大国パープルアメジストね」
エミリーは国を褒められて少し機嫌がよくなった。
今回の依頼内容を改めて説明してくれる。
「この金網は取り替えたばかりだけど、最近この辺りに出る野良ゴーレムが金網とタンクを傷つけるのよ。それを定期的に退治するのがあたしたち『新人クラス』のゴーレムマスターの仕事だったの」
「「ルーキークラス?」」
「ゴーレムマスターだけの階級よ。『新人』、『中堅』、『熟練』、そして最上級の『玄人』クラス……最上級クラスは殆どいないけどね」
「へぇ~……ちなみにアンタ、ゴーレムマスター歴はどのくらい?」
「…………一か月」
なんと、エミリーたちはゴーレムマスターとして一か月目でした!
ちょっと意外。そんな目で見ているとエミリーが言う。
「し、仕方ないでしょ。ゴーレムマスター養成所を出て一年くらいは自分のゴーレムを買うためにお金稼がなきゃいけないんだから! ノーマルクラスのゴーレムマスターの下で整備点検の仕事したり、皿洗いや溝掃除しては貯金したり……ベテランの冒険者にくっついて依頼受けたりしてたから、冒険者等級だけは上がっちゃって……」
「な、なんかゴメン……アンタも苦労したのね」
ちょっとだけ同情……シラヌイ蹴ったことはまだ許せんけど、こいつも苦労してんのな。
なんとなくエミリーのゴーレムを見ていると、エミリーが言う。
「アルコのゴーレムは【防御型】だから、援護は期待しないでね」
「防御型?」
「……あーもう、知らないこと多すぎよあんたたち」
「仕方ないだろ。ゴーレムなんて初めて見たし」
「そうよ。パープルアメジストじゃ当たり前でも、他国じゃ全然見れないからわかんないのよ」
「……そっか。他国にゴーレムを連れていけるのは『熟練クラス』以上だけだし、厳正な審査と何枚もの書類提出をしてようやく許可が出るんだっけ……知らないのも無理ないか」
なんかめんどくさいんだな。
俺、そういうのは絶対いやだわ。
「とりあえず、源泉の近くを見回りましょう。野良ゴーレムがいたら対処をよろしく」
「はいよ」
「わかったわ。あ、アンタは手を出さないでね。アタシがやるから」
「へいへい。好きにしろよ」
戦闘バカのカグヤを先頭に、俺たちは源泉周辺を歩きだす。
金網は円を描くように囲ってある。周囲の樹は綺麗に伐採されているので見晴らしもよく、敵が現れてもすぐに対処できるだろう。
とりあえずカグヤに警戒を任せ、俺はエミリーに質問した。
「なぁ、なんで野良ゴーレムは源泉を襲うんだ?」
「金属反応があるからよ。野良ゴーレムのほとんどは数世代前の戦闘タイプで、熱源を感知して自動攻撃するタイプなの。源泉タンクには高温度の源泉が溜まってるし、源泉を攻撃するために邪魔な障害物……金網にも攻撃を仕掛けてる。でも、数世代前のゴーレムじゃこの源泉タンクに傷一つ付けることはできないでしょうね……それでも、タンクに攻撃する野良ゴーレムは退治しないと」
エミリーは、めっちゃ丁寧に説明してくれた。
さて、さっきの続きだ。
「で、【防御型】ってのは?」
「その名の通り、ゴーレムのタイプを示す物よ。【攻撃型】、【防御型】、【援護型】が主なタイプで、ほかにもいろいろなタイプがあるわ。ちなみに、あたしのゴーレムは青銅級の【援護型】なの。量産型の安い奴だけど、けっこういいパーツを使ってる」
「青銅級……」
「ああ、ゴーレムのクラスよ。一番下が【青銅級】、次に【白銀級】、【黄金級】、そして最上位の【金剛級】……いつかあたしも金剛級ゴーレムを持つわ」
「へぇ……すごいんだなぁ」
「そりゃそうよ。金剛級ゴーレムは純度百のオリハルコン製。玄人クラスのゴーレムマスターが操れば天使様にも勝てるって言われてるんだから」
「そ、そうなのか……」
オリハルコンか。けっこう硬いんだな。
エミリーの補足説明が入る。
「ここパープルアメジストは、世界で唯一のオリハルコン鉱山がある場所だからね。あたしたちのゴーレムは合金製だけど、白銀級からは低純度のオリハルコン合金が使用されてるの。オリハルコンを含んだ合金は並みの合金とは桁違いの硬度を持つからね……あんたのパンチでも壊せないわよ」
「ま、試してみるさ」
滅の型『極』に壊せない物はない……でも『極』って奥の手だから、そうポンポン使用したくないんだよな。前は怒りに任せて使ったけど、『極』の使用はなるべく控えよう。
「ま、俺の武器は拳だけじゃない。ブレードも銃もあるし、炎だってある」
「ブレード、銃?」
「ああ。これ」
俺はエミリーにブレードを見せ、銃も見せる。
「へぇ~、このブレード……うそ、オリハルコン製じゃない。こっちの銃は……なんだ、数世代前の銃か。古いわね」
「え、これレッドルビー王国じゃ最新式なんだけど……」
「回転式ね。今ではオートマチック式が殆どよ。装弾数も二十発以上あるし、ライフルやスナイパー式……ああ、言ってもわからないか」
「うるせ。つーかどんだけ技術あるんだよこの国は」
回転式を取り返しホルスターに納める。
すると、エミリーが質問してきた。
「ねぇ、あたしも聞いていい? その……アルコにした、あなたの能力……あなた、特異種なんだよね?」
「ん、ああ。まぁ……うん」
「他人の能力を聞くのはマナー違反、だっけ? 確か特異種にはそんな決まりあったわよね」
「おう。だから気にすんな。もう使うつもりないし」
敵がゴーレムならなおさらだ。ゴーレムに腹痛とか頭痛とか効かないよね。
呪術はあいまいにぼかし、炎を見せようとした。
「あ、なんかいるわよ」
「え……あ、野良ゴーレムよ!! 金網を破ろうとしてる!!」
十メートルほど先の金網に、錆びた鉛色のゴーレムが金網を破ろうとしていた。
だが、ちょっとおかしい……野良ゴーレムは三体だが、そのうちの一体がやけに大きく、身体も鉛色ではなく銀色だった。
これを見たエミリーが青ざめる。
「うそ……は、白銀級の野良ゴーレム!? まさかこのタイミングで……」
「なぁ、敵か?」
「え、うん……でも、白銀級は」
「カグヤ、敵だって」
「ふふん、お任せあれ!!」
カグヤは、とても嬉しそうにゴーレムの群れに突っ込んで行った。