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森を超え、パープルアメジスト領土へ

 熊鍋の翌日。

 今日は渓谷を抜け、その先の森に入る予定だ。

 荷物を積み、白黒号のブラッシングをするプリムの隣で、アイシェラは地図を広げている。

 俺とカグヤは軽い組手を行い、カグヤはクロネを連れて汗を流しに川へ向かった。

 俺は、地図を見るアイシェラの元へ。


「どした? なんか難しい顔してるけど」

「……いや、地図が古いのか、現在位置が曖昧でな。方角は間違っていないと思うが……この地図によれば、渓谷を抜ければブラックオニキス領地から抜け、森からパープルアメジスト領地になっている」

「お、ようやくブラックオニキスを脱出か」

「ああ。この小川沿いに進めばいいと思うが……」


 小川はけっこう小さい。地図ではもう少し大きな川になっている。

 どうやら困っているようだ。なら……ここは俺の出番だろ。


「じゃあさ、確認しようぜ」

「は?」

「ここで地図見てウンウン唸ってもわかんねーだろ? よし、行くぞ」

「え」


 俺の背中から緑色の炎が噴き出す。

 そして、アイシェラの背後に回り、後ろから抱き着いて飛び上がった。


「ぬぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

「おい、地図見ろよ。ほらほら」


 下でウンウン唸るくらいなら、上空から確認すればいい。

 プリムたちのいる場所から真上に飛んだ。雲の近くまで浮いてるからけっこう高い。それに……かなりの絶景である。


「おおー……見ろよ、渓谷だ。山と山の間から太陽が見えるぞ」

「きき、ききき、貴様っ!! ははは、離すなよ!? 離したらしぬぅぅっ!!」

「おい暴れんなって。地図見ろ地図」


 青ざめるアイシェラは、震える手で地図を広げ確認する。

 数分で落ち着いたアイシェラは、ペンを取り出し地図に何かを書き加えていた。


「……やはり、地図は古いな。地形が変わっている」

「あ、見ろよあれ、集落じゃね?」

「む……本当だな。森の集落か……パープルアメジスト領土の最初の村といったところか。規模が小さいから補給はあまり望めそうにないが」

「いいから行こうぜ!! へへ、楽しそうじゃん」

「そういうと思ったぞ。まぁいい、パープルアメジスト領土の情報を得るのに村や町に立ち寄るのは必要だ。それに、野営ばかりだと疲れが抜けん。暖かいベッドで眠るのも必要だ」


 アイシェラがそう言った。

 俺やカグヤは平気だ。でも、プリムは野営慣れしてきたとはいえ、つい最近まで旅も野営もしてこなかったお嬢様だ。疲れはあるだろう。


「……よし。地図が完成した。地上に降りろ」

「はいよ。第五地獄炎、戦闘以外でも役に立つな」

「ああ。空を飛べるというのは羨ましいぞ」


 …………なんかアイシェラが優しかった。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 地上に降りると、なぜかプリムがむくれていた。


「むー……おかえりなさい」

「おう。って、どうした?」

「……二人が仲良しです」

「は?」

「お嬢様!! 私の一番はお嬢様なのでご安心くださ嫉妬かわえぇぇぇぇっ!!」

「近づかないで触らないで抱き着かないで」


 アイシェラは嫌がるプリムに抱き着いて頬ずりしていた。

 すると、水浴びを終えたカグヤとクロネが戻ってきた。


「なにやってんの、アイツ?」

「いつものにゃん。それより……あんた、水浴びしないのかにゃん?」

「え、俺?」

「そうにゃん。あんた、昨日もおとといも水浴びしてないにゃん。着替えもしてないし……さすがにばっちいにゃん」

「でも俺、着替えとか持ってないし」

「「「「え……」」」」


 プリム、アイシェラ、カグヤ、クロネが顔をしかめた。

 え、なにこれ。けっこう傷付くんですけど。


「き、貴様……服や下着の替えを持ってないのか?」

「うん。必要ないし」

「ふ、フレア……その、汚れとかあると病気になっちゃいますし、その、汚れはダメですよ?」

「そういや、アタシと一緒に旅してた時も着替えしてなかったわね……」


 うーん。なんか『汚い人』扱いされてる。

 でも、着替える必要はない。ちゃんと理由がある。


「服とか身体の汚れは『汚いのは御免だ(リ・フューザル)』って呪術で分解してんだっつーの。身体の脂とか汗、服の汚れとかを呪力で分解してるから、常に清潔な状態だぞ。たぶん水浴びしてるお前らよりもな」

「「「「!?」」」」


 あれ、なんかみんなの目つきが変わった。


「そ、そんな便利な呪術があるんですか!?」

「え……ま、まぁ」

「ね、ねぇ……それ、アタシらにも使える?」

「おう。呪いの一種だから平気だぞ」

「……そんなのがあるなら早く言え」

「え、なんだよアイシェラ」

「つまり、こいつは一人だけいっつも綺麗なままだった……ってことにゃん」

「おいクロネ、何ボソボソ言ってんだ?」


 すると、プリムが手をポンと叩く。


「フレア。これから野営で水浴びができないとき、その呪術で皆さんの服と身体を綺麗にしてください。よろしくお願いしますね」

「え、あ……はい」


 なんかプリムが怖かった。

 カグヤたちもウンウン頷いてるし……逆らわないほうがよさそうだ。


『わん!!』

『ブルルルッ!!』

「む。シラヌイと白黒号が呼んでいるな。そろそろ出発しよう」


 アイシェラがそう言い、俺たちは馬車に乗り込んで出発した。


 ◇◇◇◇◇◇


 俺とカグヤは馬車の屋根、アイシェラが御者、プリムとクロネは馬車の中にいた。

 もはや、馬車の上が定位置となっている俺。カグヤは馬車の中に入ることもあるので、今は俺と話をしていた。


「村ねぇ」

「ああ。渓谷越えたらあるってさ」

「そうね……久しぶりにベッドで寝たいわ。身体ガチガチなのよ」


 カグヤはうーんと胸を張って伸びをする。

 俺も首をコキコキ鳴らした。


「だな。それに、魔獣もけっこう少なくなってきたし、道もだいぶ広くなってきた。いい感じに休めそうだぜ」

「魔獣が出ないのはちょっと残念ねー」

「ブラックオニキスじゃ戦い多かったし、のんびりしたいぜ」

「アタシは戦い足りない」

「お前な……何がお前をそこまで戦いに駆り立てるんだよ」

「アタシの本能よ」

「……そうですかい」


 こいつ、やっぱアホ───「っとぉ!?」


 馬車がいきなり止まった。

 いきなりだったのでバランスを崩したカグヤを俺は胸で受け止める。


「っと、大丈夫か?」

「え、ええ。ありがと……ちょっとアイシェラ!! 危ないでしょ!!」

「…………なんだ、あれは」

「「?」」


 アイシェラは正面を見ていた。

 馬車の窓が開き、プリムとクロネも顔を出す。

 まもなく渓谷を抜け、パープルアメジスト領土の森に入る直前だ。そこに現れたのは……なんとも奇怪な何かだった。


「……て、鉄の人形? フレア、なにあれ?」

「俺が知るか……つーか、気配をまるで感じなかったぞ」


 俺たちの目の前には、『鉄の人形』が立っていた。

 錆びて腐食した身体。細長い金属の腕、顔は欠けており妙な部品が顔をのぞかせ、ガラスみたいな一つ目が赤く光っている。

 

「…………フレア、あれ」

「ああ……気味悪いな。気配どころか生気も感じない」


 鉄人形はガラスのような眼をチカチカさせていた。

 戦意は感じないが、あまりにも不気味だったので俺は馬車から降りて構える。


「カグヤ、周辺を頼む」

「了解。そいつは任せるけど、次に出たらアタシがやるからね」

「はいはい。おいクロネ、これは?」

「…………これ、どこかで見たにゃん」


 クロネはネコミミをぴくっと動かす。

 すると、鉄人形の頭が妙な音を立てながら動き出した。


『キュイイ、キュイーッ……キシキシ』

「な、なんだこいつ……敵なのか?」

『ギギ。ギギギ。ギギギ……ギィィーッ!!』


 鉄人形は、機械の手をガシャガシャさせながら向かって来た。

 規則正しい動きで、関節がきしむような音をさせながら。

 そして、クロネが叫んだ。


「わかったにゃん!! これ……『鉄機兵(ゴーレム)』にゃん!!」


 ゴーレム。

 よくわからん鉄人形が、俺に向かって走り出した。

コミカライズ版は明日更新!(一度書いてみたかった) 

書籍版の予約が各種書店のWebサイトで始まりました。Twitterの方にいろいろ書きましたので、よかったら見てください。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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