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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第八章・温泉とゴーレム

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渓谷越えと熊鍋

 熊肉で鍋をするため、早めに野営をする。

 いい感じの小川を見つけ、馬車を止めてさっそく準備しようとしたのだが。


『ギャーッ!!』『ガガガッ!!』『ゲゲゲッ!!』

「カグヤ、そっち任せる!!」

「はいよっ!! クロネは馬車の上から援護、アイシェラは馬を守りなさい!! プリム、馬車から出ちゃダメよ!!」


 なんと、ゴブリンの群れと遭遇してしまった。

 数は三十以上。小川に馬車を止めて俺が下りると同時に、ボロボロの矢が飛んできた。

 どうやら、この小川はゴブリンの狩場らしい。俺は矢を掴み、飛んできた藪に投げ返すと、黄色い身体をした少々ゴツめのゴブリンが飛び出してきたのだ。


「ランドゴブリン! 単体ではCレート、群れではA+~レートの魔獣だ! 通常のゴブリンより体格に優れ知能もある! 気を付けろ!」


 と、アイシェラが叫ぶ。

 アイシェラは馬の傍で剣を構え、クロネの援護を受けながらランドゴブリンと戦っていた。

 俺とカグヤは、ぞろぞろ集まるランドゴブリンをひたすら始末する。


「熊鍋蹴り!! 熊肉蹴り!!」

「熊肉ステーキ連打!! 山菜熊鍋突きぃ!!」

「欲望丸出しにゃん!? 真面目にやるにゃん!!」


 クロネに怒られてしまった。

 俺とカグヤはいたって真面目。というか、これから熊肉のために山菜採り行こうとしてたのに、出てきたのがゴブリンだ。はっきり言って怒ってる。

 俺はカグヤとアイコンタクト。互いに頷く。

 そして、俺を狙っていたゴブリンをカグヤの元へ誘導し、俺は離脱。川の傍で右足に蒼い炎を纏わせた。


「カグヤ離れろ!! 第二地獄炎、『アイスニードル』!!」


 小川を蹴ると、飛沫が氷の槍となり飛ぶ。

 ゴブリンを引きつけていたカグヤは思い切り跳躍。氷の槍がカグヤを襲っていたランドゴブリンに突き刺さる。

 飛び上がったカグヤは、木と木を蹴りながらランドゴブリンに向かう。


「神風流、『飛苦無(とびくない)』!!」


 木と木を蹴っては飛び、飛び蹴りをランドゴブリンに食らわせる。

 俺は第二地獄炎を解除し、左手を黄色い炎で燃やす。


「第三地獄炎『泥々深淵』……【泥沼】!!」


 ランドゴブリンの立つ地面を泥化させ、瀕死のゴブリンたちを一気に泥の中に引きずり込んだ。

 あらかた片付け終え、地面に降りてきたカグヤとハイタッチ。


「お疲れ」

「アンタもね」


 そして、互いにニヤッと笑う。


「じゃあ行くか」

「ええ。山菜採りね!」

「ちょ、待つにゃん!!」

「じゃ、すぐ戻る」

「野営準備よろ~♪」


 俺とカグヤは、さっそく山菜採りに森の中へ。


 ◇◇◇◇◇◇


 フレアたちを見送ったクロネとアイシェラは、仕方なく野営の準備を始めた。

 アイシェラが仕留めたランドゴブリンは三体。その死体を燃やして埋めている間に、クロネが周囲を確認する。魔獣の脅威が消えたと判断したクロネは、プリムを馬車から出した。


「二人とも、怪我はしてない?」

「問題ないにゃん」

「大丈夫です。お嬢様こそご無事ですか?」

「わたしは平気。フレアとカグヤは……」


 アイシェラはため息を吐きつつ言う。


「あの二人は山菜採りに行きました。よほど熊肉が楽しみなのでしょう」

「んー、前から思ってたけどあの二人、似た者同士にゃん」

「…………いいなぁ」

「お嬢様?」

「あ、いえ……よし、野営の準備をしましょう! フレアの言う通り、今日は熊肉です!」


 張り切るプリムは荷物から折り畳み式テーブルや煉瓦を準備する。

 クロネが熊肉や野菜の下ごしらえをし、アイシェラはテントを立てた。

 何日もこうしていると、さすがに野営慣れしてきた。


「ん~……お洗濯したいです」

「お嬢様。溜まった下着類は私にお任せを」

「やだ。ねぇクロネ、お洗濯ってどうすればいいかな?」

「町まで我慢するか今やるにゃん。うちが知ってるのは、あえて夜に洗濯して魔法で熱風を出して乾かす方法にゃん。夜のうちに渇けば魔力を消費しても寝れば回復するし」

「なるほど……アイシェラ、熱風出せる?」

「ふむ。その程度なら問題ないでしょう」


 魔法には七つの属性があり、誰でも使える一般的な魔法は『無』属性。生活魔法と呼ばれる。熱風を出したり、風を起こして掃除をしたりと生活に便利な魔法のことを差す。だが、魔力を消費してまで家事に魔法を使う者はほとんどいなかった。

 ちなみに、アイシェラの魔法適正は『水』属性だ。だが魔力が少ないのであまり使っていない。


「ではお嬢様。洗濯物を」

「けっこうですー。クロネ、あなたの洗濯物は?」

「…………そこ」

「あ、これですね。じゃあ一緒にやっちゃいますね……アイシェラ、あなたのも。カグヤのもあれば」

「お、お嬢様が私のしし、下着を……おふぉぉぉっ!!」

「アイシェラ、カグヤの服と下着だけ取って」

「はぅぅっ……その冷たい視線、さすがお嬢様……」


 さすがに、フレアの服や下着を洗濯するのは恥ずかしいプリムだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 俺とカグヤはたっぷりの山菜を摘んだ。

 俺はともかく、カグヤも俺に負けないくらい山の幸を知っている。

 帰り道、カグヤに聞いてみた。


「お前、山菜とか詳しいんだな」

「まーね。神風流の道場は山奥にあったし、基本的に自給自足だから、山の幸に関しては自信あるわ。あと川魚も捌けるし、魔獣も解体できる」

「……一緒に旅してたときはあんまりやらなかったけど」

「アンタがやるのにアタシがやる必要ある?」

「…………」


 なにこいつ。できるくせにやらなかったのかよ。

 でもま、山菜いっぱい獲ってご機嫌だしいいや。


「アンタもけっこうやるじゃん。山菜、詳しいの?」

「ま、お前と似た感じだな。修行の一環で素手で何も持たずに森の中に放置されてさ、食べられる山菜とかキノコとか調べるために食いまくったからな。毒で死にかけたりもしたけど、食べられる山菜とそうじゃない山菜はそこで覚えた」

「全然似てないわよ……山ごもりはするけど、そこまで厳しくないっつの」


 カグヤは苦笑する。

 そして、しばし無言で歩き……ポツリと言った。


「ありがとね」

「は?」

「お礼。アタシ、アンタに助けられたのにお礼言ってなかった。それに……頭に血が上ってた。自分の弱さを認められなくて、迷惑かけた」

「…………え、なにどうしたお前」

「うっさい。借りはいつか返す。はいおしまい!!」

「あ、ああ」


 カグヤは赤くなりそっぽ向く……ま、いいか。

 自分なりに考えて俺に言ったんだろう。


「さーて、熊鍋が待ってる。さっさと帰ろうぜ」

「うん。はぁ、お腹減ったぁ~」


 うん。こいつは素直な方がいいな、絶対に。


 ◇◇◇◇◇◇


 山菜や香草で匂いを消した熊肉はとてもうまかった。

 熊鍋。いい、実にいい。こってりとした鍋タレに熊肉が絡みつき、濃厚な肉のうまみが口の中いっぱいに広がり……と、熊鍋はともかく絶品でした。

 片付けをするため、俺とアイシェラは鍋と食器を持って小川に来た。


「いやー美味かった……クロネの料理最高だよな」

「ああ。これほどの味、私も初めてだ」


 アイシェラも機嫌がいい。いつもは俺を見ると眉が吊り上がるんだけどな。

 しばし、無言で食器を洗っていると……アイシェラが咳払いした。


「ごほん。あー……貴様に言っておくことがある」

「ん?」

「…………感謝する」

「は?」

「感謝だ。貴様は、ハンプティダンプティに囚われていた私を救ってくれた。お嬢様のことで頭がいっぱいだったが……貴様には礼を言わねばなるまい」

「…………カグヤもだけど、いきなりなんだよ?」

「ふん。この借りはいつか返すぞ」

「お、おお……借りって、流行ってんのかそれ?」


 アイシェラは俺を睨むように見ていたが、どことなく顔が赤かった。

 よくわからんが……まぁ、借りって言うなら受け取っておくか。


「そういや、ホワイトパール王国のことはいいのか?」

「む。ああ……追手ももう来ないし、王位継承の件はもう関係ないだろう。それに、今のお嬢様の立場はブルーサファイア王国に住むガブリエル様の養子という立場だ。ホワイトパール王国はもう関係ない」

「そっか。あのさ、関係ないならホワイトパール王国行ってもいいかな? 俺、ホワイトパール王国に行ってみたいんだよねー」

「む……」


 アイシェラは少し悩んでいた。

 俺も半分は冗談で言った。プリムに危険なところに行ってほしくはない。でも、ホワイトパール王国にも行ってみたい……って感じ。


「……あまりお勧めできないが」

「あー冗談。冗談だって、今はいいよ」

「……そうか」


 食器を洗い終え、俺とアイシェラは野営地に戻る。

 野営地では、カグヤたちが片付けを終えていた。


「あ、戻ってきましたね」

「よう。こっちは終わりだ。水浴びでもしてこいよ」

「はい! じゃあフレア」

「はいはい。シラヌイと火の番しておくよ」


 俺は焚火の近くに座り、シラヌイを呼んで撫でまわす。

 着替えを持ったプリムとクロネが小川へ、そして……アイシェラとカグヤが俺の傍を通り過ぎる。


「じゃ、行ってくるわ」

「……火の番、任せるぞ」

「ああ」

『わぅん』


 あれ、いつもなら『覗いたら蹴り殺す』とか『覗いたら斬る』とか言うのに、今日は何も言わなかった。

 

「…………急に優しくなったな。なんか裏でもあるのか?」

『きゅぅん……』


 ま、別にいいか。

 それより、明日は渓谷を抜けて森を超える。気合入れていくか。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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[一言] ほっこりしたw 感想が作者のモチベーションになるなら書いとこうかな がんばって続きを書いてくださいね 毎日楽しみにしてます!
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