旅は続く。フレアとプリムとカグヤ
「だーかーらー、僧侶の爺さんが腹空かせてたのをシラヌイが見つけて、パンあげたら襲って来たんだってば。信じろよー」
「「「「…………」」」」
カグヤ、アイシェラ、クロネ。そしてプリムの視線が突き刺さる。
どうも信用されてない。俺が吹っ飛ばされて水浴び中のプリムに抱き着いたのがそんなに頭にきてるのか……まぁ俺が悪いのかな。
でも、僧侶の爺さんがいたことも疑われてる。
「なぁシラヌイ、爺さんいたよな?」
『わん!』
「ほら、いたって」
「アンタ、『わん!』って鳴いてるだけじゃん……」
「貴様は許せん!! お嬢様の柔肌に触れられるのは私だけなのにぃ!!」
「アイシェラうるさい。でも……お爺さんはともかく、もう許してあげましょう? それに、フレアが嘘を付くとは思えませんし」
「さすがプリム! カグヤとアイシェラなんかとは違うな!!」
「「あぁん?」」
カグヤとアイシェラが睨む……いやはや、このパーティメンバーってマジで濃いな。
すると、クロネが欠伸をする。
「なぁ……もう寝たいにゃん」
「くぁぁ……たしかに、わたしも眠いです」
「おう。じゃ俺が見張ってるから寝ろよ。カグヤとアイシェラも寝ておけ」
「……ま、いいわ。じゃあおやすみ~」
「お嬢様。馬車の中での警護はお任せを」
「クロネ、一緒に寝ましょう」
「どうでもいいにゃん……」
「お嬢様ぁぁぁぁんっ!!」
馬車の中には折り畳み式のベッドが二つある。テントには寝袋が二つあるので、二対二に分かれて寝るのが今後のスタイルになりそうだ。
プリムとクロネが馬車、カグヤとアイシェラがテントで寝る。俺は基本的に夜警で、馬車が出発してから馬車の屋根で寝る予定だ。
というわけで、全員がテントと馬車に入ったら俺の時間。
「シラヌイ、おいで」
『くぅぅん』
シラヌイを近くに寝かせ、焚火の傍で武具の手入れをする。
手入れが終わると、ヴァジュリ姉ちゃんの日記を紐解く。
「…………」
人の日記を読むのはいけないことだ。でも……故郷の匂いを感じれるのは、先生の残した呪具『ケイオス』と、この日記だけ。
ヴァジュリ姉ちゃんの日記には、俺のことばかり書いてあった。
『傷だらけのフレア。でも……この子は毎日笑顔で私のところに来てくれる。タックさんは武術の師、私は呪術の師だと言って慕ってくれる。呪闘流の基本系、『蝕の型』を習得するために……フレアは、毎日毎日頑張っている』
ヴァジュリ姉ちゃん……俺、ヴァジュリ姉ちゃんの教えてくれる呪術の授業、好きだった。
タック先生は格闘技をこれでもかと仕込んでくれたけど、ヴァジュリ姉ちゃんは優しかった。
家族のいない俺にとって、母であり姉のような存在だった……先生は父ってか師匠って感じだけど。
「フレア」
「ん、おお、プリム……どした、寝れないのか?」
「いえ。なんとなく、フレアが暇してるかなーって……あ、それ。ダンジョンで見つけた本ですね?」
「ああ。ヴァジュリ姉ちゃんの日記だ」
プリムは寝間着のまま俺の隣に座り、日記をチラッと見た。
「……難しい言葉ですね」
「呪術言語だよ。呪術師が呪をかけるのに使う言葉で、呪術の洗礼を受けた者じゃないと読めないし解読できない」
「洗礼?」
「ああ。俺たち呪術師は、呪術を習得する前に魂に呪を刻む……らしい。俺もよくわからんけど、生まれてすぐに呪をかけるらしいぞ」
「そ、そうなんですか……すごいですね」
「あはは。それが普通だったからな」
俺は鉄瓶を火にかける。
中には各種ハーブが入っており、クロネが『喉乾くだろうし、飲め』と言っておいてくれたのだ。
カップにハーブティーを注ぎ、プリムに渡す。
「ありがとうございます……わぁ、いい匂い」
「だな。明日にでもクロネを撫でてやるか」
しばし、ハーブティーを堪能した。
プリムはハーブティーで目が冴えてしまったのか、俺に聞く。
「フレア。フレアのこと、教えてもらっていいですか?」
「俺のこと? 俺のことって?」
「その、昔のこととか」
「昔ねぇ……生まれてすぐに両親が死んで、先生に引き取られて呪闘流の後継として育てられた。引き取られたって言っても、俺は両親が残した家に住んでたけどな」
「先生……強かったですか?」
「勝てる気しないな。あはは」
俺のことばかりなので、プリムにも質問してみる。
「なぁプリム。ホワイトパール王国はどうなってんだ?」
「…………第一皇子マッケンジー兄さまと、第四皇子マーナ姉さまが国家反逆罪で拘束されたそうです。間違いなく、第五皇子ウィンダー兄さまが動いています」
「そういや、けっこう兄弟いるんだっけ」
「はい……もう、関係ないですけどね。今の私はガブリエル様の義娘ですから」
確か、七人兄弟の末っ子だ。
そのうち三人が国家反逆罪で捕まり、末のプリムは国外逃亡……なんともすさまじい。
「なぁ、父親に会わなくていいのか?」
「…………もう会えませんよ。私は逃げたんですから」
「んー、そんなもんか?」
「はい……フレア、心配してくれてありがとう」
「おう」
なんとなく、プリムは寂し気に見えた。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
出発して数時間後、でっかい熊魔獣が現れた。
馬車を急停車させると同時に、俺とカグヤが飛び出し、アイシェラが叫ぶ。
「レッドベア!! Bレートの魔獣だ、気を付けろ!!」
『グルルルァァァァッ!!』
赤い毛並みの熊は全長三メートルくらいある。
筋肉質で堅そうだ。というか、こういう魔獣久しぶり。
俺はカグヤに言う。
「そっちに飛ばす。とどめよろしく」
「おっけ」
『ゴァァァァァッ!!』
真正面に飛び込んだ俺を叩き潰そうと、ぶっとい腕を振り被るレッドベア。
俺は構え、振り下ろされる腕の真横に流れるように移動して腕の真横をぶったたき、流れるように背後に移動、背中に当身を食らわせた。
「流、甲の型【合】……『波打背撃』!!」
『ガッ!?』
態勢が崩れ、背中を強打されたレッドベアは前のめりに倒れる。
倒れた先に立っているのはカグヤだ。
「裏神風流……『首狩』!!」
右足のオリハルコン製具足の脛が刃となり廻し蹴り。倒れたレッドベアの首がスパッと飛んだ。
首を切断されたレッドベアは即死。カグヤの近くにズズンと倒れた。
俺はカグヤの傍へ行き、ハイタッチ。
「お疲れ、さすがだな」
「アンタもね。けっこういい技じゃん」
「お前も、すっげぇ切れ味だな……見ろよ、首の切断面。吹っ飛んだ首を当てればくっつくんじゃね?」
「一応、頭と心臓が『死』を実感しないように苦痛なく殺したわ。心臓が動いてれば切断面から血が出て血抜きになるし」
「血抜きって……これ、食うのか?」
「食べないの?」
「いや、硬そうだぞ?」
「そんなの食べてみないとわからないでしょ。ほら、心臓止まったし解体するわよ!」
「へいへい。おーいクロネ、手伝ってくれ!」
「……あんたら、すごいにゃん」
レッドベアの血の匂いでほかの魔獣が集まるかもしれないので迅速に解体。食べられそうな肉を俺の炎で凍らせて持っていくことに。
解体した骨や内臓は売れば金になるらしいけど、邪魔なのでそのまま放置。この辺に住む魔獣が食べてくれるだろう。
「熊肉~♪」
「なぁなぁ、熊鍋ってどうだ? なんか美味そうじゃね?」
「お、いいわね!」
俺とカグヤは馬車の屋根で熊肉について語り合う。このメンバーの中で料理が得意なクロネも引っ張り出し屋根に連れ込んだ。
「触った感じ、ちょっと筋っぽいけど煮込めばいいんじゃない?」
「けっこう生臭いにゃん。香草をいっぱい使って臭みを取らないと。でも煮込むのは賛成にゃん」
「熊鍋かぁ……なぁなぁ、この山に山菜とかあるよな? 昔、先生が熊を仕留めて鍋にしたときは、山菜を山ほど入れたぞ」
「山菜いいわね! じゃあさ、今日は少し早めに野営の準備してさ、山菜取りに行きましょうよ!」
「いいね。俺は賛成!」
「うちもいいにゃん。鍋もいいけど、焼いてパンに挟んで食べるのも美味しそうにゃん」
「「おお!」」
やばい。今日の晩御飯楽しみ。
あ、そういえば忘れてた。
「クロネ、ちょっと来い」
「にゃん?」
「すっかり忘れてた……ほら」
「?……にゃっ!?」
俺はクロネを掴み、胸元に引き寄せる。
いきなりのことでクロネは驚いたのか、俺の胸に顔を埋めて真っ赤になった。
「にゃにゃにゃ……にゃにすん」
「撫でるって約束だろ? ほーれほーれ、よしよしよしよし」
「うにゃっ!? やや、やめ、ふにゃぁっ!?」
頭を撫で、顎を撫で、ネコミミを揉む。すると、抵抗していたクロネの力が弱まり、ぐにゃぐにゃになっていた。
それを見ていたカグヤはなぜか睨む。
「……あんた、そういう趣味があったの?」
「いやいや、約束してたからな。いっぱい撫でてやるって」
「うにゃぁぁ~……ああそこ、ネコミミもっとカリカリしてほしいにゃん」
「ここか? ほれほれカリカリ」
「にゃぉぅ~ん……」
クロネは借りてきた猫のようにおとなしくなり、俺の胸に甘えていた。




