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戦いの終わりと聖母乃愛

「うっわ……黒こげじゃん。生きてんのか、それ?」

「当たり前でしょ」


 ミカエルの炎が直撃、炎上した少女は真っ黒こげだった。

 服と翼は燃え尽き、髪の毛もすっかり燃えて丸坊主、全身火傷でビクンビクンと痙攣していた。

 ちょっと気の毒だと思っていると。


「天使の生命力なら死なないわ。ってか、地獄の苦しみに合わせてやろうと思って手加減したのよ。このまま聖天使協会まで連れてってやる」

「あ、そっか……やっぱり帰るのか」

「……っ!! ま、まぁ」


 ミカエルと目が合うと、なぜか反らされた。

 顔も赤いし、熱でもあるのかね?

 とりあえず、戦いは終わった。


「じゃ、プリムたちのところに戻るか。お前の仲間もいるしな」

「う、うん」

「……なんか素直だな。あ、それ持つか?」

「い、いい。あたしが持ってく」


 やけに素直なミカエルは、倒壊した家屋からロープを見つけ、黒焦げ天使の身体にギッチギチに巻き付けて引っ張る。苦しそうな呻き声はすっぱり無視している。

 俺はミカエルからロープを奪う。


「な、なに」

「無理すんなって。俺が持つからお前も休めよ。怪我は治ったけどさっきまで死にかけてたしな」

「う……うん。その、ありがと」

「……なぁ、マジでどうした? 素直すぎる」

「べ、別に……あぁもう、さっさと行くわよ!!」


 ミカエルはさっさと歩きだしたので、俺は付いていった。


 ◇◇◇◇◇◇


 避難所の教会に、黒焦げ天使の部下たちが縄で縛られていた。

 ミカエルはそいつらをギロリと睨み、黒焦げ天使を目の前に転がす。


「帰ったら処分あるから」

「「「「「ひぃぃっ!?」」」」」


 すげぇ、たった一言で全員震えあがったぞ。

 教会内に入ると、仲間たちが揃っていた。


『わんわん!!』

「お、シラヌイ。さっきは助かったぞ」

『くぅぅん』


 さっそく寄ってきたシラヌイを撫で、怪我人の手当てをしていたプリムとアイシェラの元へ。

 ミカエルはヴァルなんちゃら……あー、ヴァル爺さんでいいや。爺さんのところにいる天使の女の子のところに行った。


「あ、フレア……終わったんですね?」

「ああ。悪い天使はやっつけたぞ」

「ふん、ようやく一安心か……やれやれ、お嬢様と愛し合う時間すらないとは」

「愛し合いませーん」


 俺は軽く笑い、周囲を見渡す。

 けっこうな怪我人だが、プリムの能力で治療したようで包帯を巻いたり死にかけたりしているような人はいない。


「ガブリエルさんから力を分けてもらったんですけど、回復力がすごく上がってるんです」

「へぇー……俺なんて力使うとめっちゃだるくなるのに。いいなぁ」

「えへへ。お役に立てるのが嬉しいです!」

「お嬢様きゃわわ!」

「……あれ、カグヤとクロネは?」


 そういえば、あいつらがいない。


「カグヤはこの辺りを見回って残党がいないか確認、クロネも付いていきました」

「そっか。そういや、蟲がどうこう言ってたけど」


 この問いにはアイシェラが答える。


「先ほどまで黒いダンゴムシのような魔獣がいたんだが……急にピタッと動きを止め、溶けるように消えた。まるで、何かの役目を終えたようにな」

「ふーん……黒いダンゴムシねぇ」


 どこかで聞いたような、見覚えがあるような。

 ま、どうでもいいや。

 すると、ミカエルとヴァル爺さん、ラティエルが揃って俺の元へ。さらに、教会のドアが開きカグヤとクロネも戻ってきた。


「あーもう。なんにもいなかったわ……」

「いいことにゃん。うちはもうのんびりしたいにゃん」

「はぁ~あ……あ、フレアじゃん。なーんだ、ほんとに終わっちゃったのかぁ」


 なぜかガッカリしているカグヤ。

 銀髪を揺らしながら俺の元へ。クロネはミカエルをちらりと見て、安心したように微笑んでいた。

 ミカエルは、キリッとした表情で俺に言う。


「あっちに別室がある。そこで話しましょう」

「ん? 話?」

「……いいから来て。仲間も一緒に」

「おお。わかった」


 ミカエルたちと一緒に、教会の別室に向かった。


 ◇◇◇◇◇◇


 簡素な部屋だった。

 椅子もテーブルもなく、小さな祭壇と壁にデカい絵が描かれただけの部屋だ。

 部屋に入るなり、ミカエルは頭を下げた……ヴァル爺さんに。


「まずは謝罪を。身内がとんでもないことをした」

「ふむ……」

「サリエルは十二使徒から除名。神器没収の上で正式な裁判にかける。おそらく永久幽閉処分が下されるでしょう」

「……で?」

「……後日。正式な謝罪に」

「ふむ。わしからすれば、この手でサリエルとやらの処刑を。ついでに吸血鬼に宣戦布告した聖天使協会にしかるべき対応をせねばなるまい」

「…………」


 ミカエルは黙り込む。

 ラティエルもうつむいてしまった。

 そりゃそうだな。どう見てもサリエルとかいう天使が勝手に表れて町を滅茶苦茶にしたんだ。誰だって頭にくるし、戦争行為にしか見えない。

 

「なぁ爺さん。天使と戦争すんの?」

「……呪術師か。ふん、かつての戦争を思い出すか?」

「いや知らねーし。でもさ、無駄に戦うのはやめとけよ。誰も幸せになれねーぞ」

「確かにそうじゃな。だが、この件を有耶無耶にするわけにはいかん。例えば、わしら吸血鬼が天使の国ヘブンに乗り込み町を滅茶苦茶にして、『謝るから許せ』など言って納得するかの?」

「あ、そりゃそうだ」


 手をポンと叩いて納得する俺。

 アイシェラがため息を吐く。


「馬鹿は黙っていろ。……確かに、どう見ても戦争行為だ。町を襲撃した天使を吸血鬼が迎撃したにすぎん。血を流さねば納得できない……」

「アイシェラ!! あの、ラティエルさん……どうすれば」


 プリムがラティエルに質問するが、ラティエルは首を振る。


「……ヴァルプルギウスさん。わたしとミカちゃんは謝るしかできません。この件は全て包み隠さず聖天使協会に報告し、後日改めて謝罪に来ます。吸血鬼がどのような要求をしようと受け入れるつもりです」

「……悪いのは確かにあたしたち。でも……命を要求された場合、戦うしかない」


 ミカエルは苦し気に言う。

 ヴァル爺さんは目を閉じ、小さくため息を吐いた。


「あ、じゃあさ、『何もなかった』ことにするのはどうだ?」

「「「「「「「は?」」」」」」」


 全員が俺を見た。

 何言ってんだこいつ?みたいな目で見るなっつの。


「町はひどい有様、怪我人いっぱい、国の天井とか壁もぶっ壊れてる。修理にいくらかかるかわかんねーし、元の生活に戻るのも相当かかりそうだ……でもさ、それをもとに戻せたら? 最初から何事もなかったような状態に戻せたらどうよ?」

「「「「「「「……???」」」」」」」

「ま、とりあえずやってみるか」


 俺の全身から白い炎が噴出する。

 白い炎は広がり、プリムの腕に燃え移った。


「きゃあ!?……って、熱くない?」

「はぁ~……なにこれ、きもちいいにゃぁん」


 炎が部屋を燃やし、壁や天井を抜けて外へ。人から人、建物から建物、空気から空気……とんでもない勢いで広がっていく。


「こ、これはなんじゃ……じ、地獄炎なのか!?」

「白い炎……浄炎」

「すごい、綺麗……」


 ヴァル爺さん、ミカエル、ラティエルも驚き、白い炎に魅入る。

 建物の室内なのでわからないが、白い炎は町中を覆い、外に漏れ、国の壁や天井にまで燃え移る。

 今や、ヴァルプルギウスの国全てが純白の炎に包まれていた。


「黄昏の世界より来たりし我が炎。第四地獄炎の聖母『天照皇大神(アマテラスオオミカミ)』よ」


 白い炎がキラキラ輝き───その性質を変える。

 

「第四地獄炎『天照如意羽衣アマテラスにょいはごろも聖母乃愛(オーバードライブ)、【慈愛浄化炎(じあいじょうかえん)高天ヶ原(タカマガハラ)】!!」


 輝く純白の閃光と共に、白い炎は一気に燃え上がった。


 ◇◇◇◇◇◇


「───うし、終わり」


 ポンポンと手を叩き、白い炎は消えた。

 フレアは何事もなかったように大きく伸びをしてヴァルプルギウスに言う。


「これで全部元通り。元通りすぎるけど……そこはちゃんとケアするからさ」

「「「「「「「??????」」」」」」」

「ほら、外出ようぜ」


 部屋を出ると、誰一人として怪我人がいなかった。

 全員、不思議そうにキョロキョロし、怪我人だった人は自らの四肢を確認している。

 外に出ると……建物が修復されていた。

 

「な、なんじゃ……これは」


 ミカエルとラティエルは、天使たちとサリエルを見た。


「うそ……」

「さ、サっちゃん?」

「……あんた、うちに何した」


 サリエル、そしてサリエルの連れていた天使の怪我が治っていた。

 プリムとアイシェラとクロネも驚いていた。


「ふ、フレア……一体、何をしたんです?」

「とりあえず治した。第四地獄炎の真の力は『なおす』炎。人だろうと建物だろうと治しちまう。でも、ちょっと問題もあるんだよな……プリム、いざという時は頼むぞ」

「え? え?……あ、はい」


 俺は、未だに茫然としているヴァル爺さんに言った。


「建物、住人は全部治した。ちょっと問題もあるけど、それはプリムが何とかしてくれる。この国で戦いなんて起きなかった……じゃ、だめかな?」

「…………」

「あー、その。やっぱ乱暴「かーっかっかっか!!」


 ヴァル爺さんは笑い出した。


「まさか、国一つ治すとはな!! こんな地獄炎があったとは……長く生きているが初めてじゃわい」

「あ、じゃあ」

「いいだろう。今回は呪術師に免じて不問とする。その天使の処分はそちらに任せるわい」

「え……い、いいんですか?」

「それと、アルデバロンに伝えておけ。呪術師に救われたな、と」

「……伝えるわ」


 おお、どうやらうまくいったみたいだ。

 天使と吸血鬼の戦争は回避されたっぽい。いやーよかったよかった。

 すると、俺たちの前に腹を抑えた獣人がヨロヨロやってきた。


「う、ぐぅぅ……は、はら、腹が、いてぇ……」

「来た。プリム、頼む」

「は、はい!!」

  

 アイシェラが獣人を支え、プリムが能力で治療を始める。

 それを見ながらカグヤが言った。


「ねぇ、治ったんじゃなかったの?」

「あー……いや、その。けっこう大雑把で曖昧なんだよ、この技」

「……どういうことにゃん?」


 すると、頭や腹を押さえながら、顔色の悪い人たちがぞろぞろやってきた。

 どうやらこの教会、病院みたいなところでもあるらしい。

 病人を教会に誘導しながら俺は言った。


「この炎、なんでも治すんだけどすげぇ大雑把なんだ。例えばその、死滅しかけた病原体(・・・・・・・・)とか治しちまったり(・・・・・・・・・)………」


 つまり、治りかけた病気が再発した。

 死にかけた病気の元を『直し』たせいで病気がぶり返したのだ。

 他にも、かじって欠けたリンゴも直ったり、解体した古い家屋が、町の廃材場で修復され家屋だらけになったり、解体して店に並べた豚肉が修復され豚の死骸だらけになったり……必ずしもいいことばかりじゃない。

 範囲指定できない大規模で大雑把な回復。それが第四地獄炎の真の力だった。


 結局、ミカエルたちにも手伝ってもらい、この日はひっきりなしに来る病人の治療をしたのであった。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり、ミカちゃんが一番ヒロインやってるよなぁ(笑)
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