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紅蓮のきらめき、真紅の輝き

 炎に包まれていた。

 

『…………殺しなさいよ』


 ミカエルは、ボロボロの身体を起こす。

 剣の支えがなければ立つこともできない。翼は千切れ、全身の出血がひどい。

 目の前にいるのは……筋肉質で髭面の男だった。


『死に急ぐんじゃねぇよ。オレは女を殺したりしねぇ……それに、久しぶりに【九本】出せた。へへ、楽しかったぜ』


 目の前の男は、口元を緩ませていた。

 周囲が黄色い炎(・・・・)に包まれ、地面がえぐれている。

 男の周辺には、凝った装飾の武器が九本、綺麗な状態で浮かんでいた。


『あたしは、命乞いなんかしない。あんたに勝てる気もしない。なら、殺すしかないでしょ……』

『確かに。喧嘩売ってきたのは天使だ。オレはお前を殺す理由がある……でもよ、オレもタックもヴァジュリもマンドラ婆さんも、おめぇらが戦争仕掛けてきたとか思ってねぇ。こんなの、日常茶飯事だからよ』

『……はぁ? あたしたちは戦争しているのよ。天使と、呪術師の戦争』

『あーあー……まぁ、言ってもしょうがねぇな。それより、行くならさっさと行きな。オレやヴァジュリはともかく、タックとマンドラ婆さんは容赦しねぇぞ』


 男の名はラルゴ。

 またの名を『魔九仙(まきゅうせん)』。

 聖天使協会が便宜的に名付けた呪術師最強の四人、『死ヲ刻ム四影(フォー・ゲイザー)』の一人にして、聖天使協会最強のミカエルが傷一つ付けることができなかった相手である。

 ミカエルは、ボロボロの身体を無理やり起こし、剣を突きつける。


『ふざ、けんな!! あたしは……この『炎』のミカエルが、引くもんか!!』

『あー……誇り高いねぇ』


 ラルゴは苦笑していた。ミカエルは、引けなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 千年前の、天使と呪術師の戦争。

 きっかけは些細なことだった。呪術師と人間の小競り合いから始まり、人間が天使を雇って呪術師に喧嘩を売り、天使が返り討ちに合い、階梯天使が返り討ちに、十二使徒が返り討ちに───そして、聖天使協会の脅威となった呪術師に戦争を仕掛けた───。


 天使は十二使徒を、階梯天使を投入。

 それに対して、呪術師の数は───たった四人だった。

 のちに、呪術師と天使の戦争が人々にも伝わるが……かなり誇張されて伝わることになり、真実を知るのは天使だけとなる。

 もちろん、真実など言えるはずがない。


 世界の管理者である天使が、たった四人の呪術師に滅ぼされかけたなんて。


 ◇◇◇◇◇◇


「…………ぁ、ぐ」

「お、まーだ生きてる。しぶとっ」


 サリエルの声。

 ミカエルは、夢を見ていた気がした。

 千年前、『魔九仙(まきゅうせん)』と戦った記憶───あの時も、今のようにボロボロだった。

 ミカエルは、なんとか身体を動かす。

 身体の上に、氷の塊が乗り、破片が腕や足に突き刺さり、腹から大量に出血していた。


 ミカエルの炎とサリエルの『十二使徒の神技(ジャッジメント)』が真正面から衝突し、ミカエルが撃ち負けたのだ。

 死ななかったのは、ミカエルの炎がサリエルに氷を少しだけ溶かし弱体化したからに過ぎない。今の負傷では苦しむだけ……でも、ミカエルは屈しなかった。


「ミカエルぅ。あんたが暴走(・・)してこの国に喧嘩売ったって報告しておいてあげる。じゃ……最後に言い残すことはぁ~?」

「…………」


 ミカエルは、残った力を全て腕に込め……中指を立てた。


「地獄に落ちて燃えろ、くそったれが」


 サリエルは神器の槍に氷を纏わせ、ミカエルの身体を粉々にしようと投擲モーションに入る。

 血を失いすぎたせいか、中指を突き立てたせいか、もう力が入らない。

 霞む視界に、ミカエルは思った。


『俺の勝ちだ』

『俺、お前のことけっこう好きかも』

『じゃあさ、一緒に冒険しようぜ!』


 自分に、聖天使協会十二使徒最強の天使に、屈託のない笑みを浮かべる炎の少年。

 フレアのことを考えると、不思議と心が安らいだ。


 ───再戦、できなかったな。


「じゃぁね~♪」


 氷の槍が、ミカエルめがけて投擲された。

 同時に、全ての力が抜けてミカエルは後ろに倒れる。

 

 ───あーあ……。


 少しだけ思った。

 フレアとクロネ、三人で一緒に行動した時間……そんなに悪くなかった、と。


 ◇◇◇◇◇◇




「『火乃加具土(ひのかぐつち)煉獄絶甲(れんごくぜっこう)』!!」




 ◇◇◇◇◇◇


 ふと、温かな物がミカエルを支えた。

 命が尽きたはずなのに、まるで触れた部分に命が注ぎ込まれれるようだった。

 

「な、なっ……なな、な」


 サリエルだろうか、何かが聞こえる。

 ミカエルは、ゆっくりと目を開けた。


「よ。ボロボロじゃねーか」


 にかっと笑うのは……紅蓮の炎に包まれた少年だ。

 がっしりとした手でミカエルを支えている。

 ミカエルは、口元が震えた。


「な、ん……で」


 なんで、来たんだ。

 来るわけがない。そう思っていた。

 だって、フレアはラティエルのことなんて知らない。クロネを助けに来たならミカエルのところに来るはずがない。クロネを連れてこの国から去ればいいだけだ。

 自分のところに来る理由なんて、一つもないはずだ。


「言ったじゃん。合流しようぜ、って。まぁ俺たちのが早く終わったからこっちに来ちゃった感じだけどな。結果的によかったぜ」

「…………」


 フレアは、ミカエルの顔にそっと触れながら言った。


「無事でよかった」

「…………っ」


 ミカエルの目から、涙がこぼれ落ちた。

 そして、失いかけていた命が燃え上がるのを感じた。

 フレアは、上空のサリエルを睨む。


「で……お前、敵?」

「じゅ、呪術師……な、なんで、ここに」

「敵なんだな? あのさ、ミカちゃん殺す気だったのか? じゃあ俺もお前のこと殺すわ」


 フレアの傍らに、紅蓮に燃え上がる全身鎧がいた。

 煉獄絶甲がガッシャンガッシャンと金属音を響かせ、サリエルに飛び掛かろうとするが……ボロボロのミカエルがフレアの胸を力なく叩く。


「や、めな、さい……これ、は……あたしの、戦い、よ」

「あー……だな。じゃあ任せるわ」


 次の瞬間───ミカエルを抱いたフレアの身体が純白に包まれた。

 煉獄絶甲が消え、真っ白な炎がミカエルを包み込む。

 

「第四地獄炎、『治療炎(ファイアケアル)』」


 傷が治り、折れた骨が繋がり、失った血液も再生する。

 治療代はフレアの魔力。魔力量が赤ちゃん並みのフレアは、一日数回しかこの炎を使えない。だが、その数回を一回に凝縮。ミカエルを治すためだけに使用した。


「ほい。じゃああとはよろしく」

「…………ええ」


 フレアはミカエルから手を放し、軽い足取りでその場から離れた。

 残ったのは、サリエルとミカエルの二人だけ。


「し、白い炎? あんなん初めて見た……まぁいいや。何が起きたか知んねーけど、今度こそ終わりだし!!」

「…………」


 サリエルは巨大な氷の槍を作り出し、ミカエルに投擲した。

 だが───槍はミカエルに届く前に消滅する(・・・・)


「え? あ、あれ? も、もう一度!!」


 再び、槍を投擲───消滅。

 今度は数を増やし投擲───消滅。

 

「な、なにこれ!? あの呪術師、なにを「ねぇ……」……え?」


 ミカエルは、ゆっくりと顔を上げた。

 同時に、サリエルの全身に電気が走ったように硬直する。

 ミカエルの目が燃えていた。

 サリエルは、この目を知っている。

 かつて、呪術師に戦いを挑んだ時と同じ目。

 

「あんたは楽しんだみたいだけど、あたしはちっとも楽しくない」


 ミカエルの背中から十枚の翼が広がり、サリエルの真正面まで浮いた。


「ひ、ひぃぃっ!? なな、なんで、翼……け、怪我も、ま、まさか……さっきの白い」

「聖天使協会十二使徒筆頭の権限に置いて告げる。十二使徒サリエル。お前はなんの罪もない吸血鬼の国に喧嘩を売り、その罪を十二使徒ミカエル、十二使徒ラティエルに着せようとした……」

「は、はぁ!? ふ、ふざ」

「黙れ」


 ゴヴァァッ!!と、真紅の炎が燃え上がる。

 ミカエルは剣を構え、サリエルに向ける。


「聖天使協会十二使徒筆頭『炎』のミカエルの名において、あんたを断罪する」


 紅蓮が集まり凝縮され、小さな太陽のような形になる。

 サリエルは氷を出そうとしたが出ない。正確には、氷を出した瞬間に蒸発しているのだが、慌てふためくサリエルは気付かない。


「ま、まって待って!! う、うちはその、アルデバロン様の」

「『炎の聖天使(ミカエル)気焱万丈(ノウヴァブレイズ)』!!」


 放たれた小さな太陽がサリエルを包み込み、一気に炎上した。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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