襲撃者
「せいはぁぁっ!!」
「おりゃぁっ!!」
俺は拳、アイシェラは剣で戦っている。
敵はゴブリンオークという、ゴブリンとブタを合わせたような魔獣で、力も強く繁殖力も強いし意外と頭もいいという厄介な相手だ。
現在、俺とアイシェラはそいつら相手に戦っていた。
「あーもうめんどくさい!! 丸焼きパンチ!!」
『ギャァァァァッ!?』
両手に真っ赤な炎を宿してゴブリンオークをぶん殴ると、骨も残らず燃え尽きる。
全く熱くないので全身を燃やしてゴブリンオークの群れに突っ込み、片っ端からゴブリンオークを燃やして走る。
「わっはっはーっ! これやっぱいいな! 燃やすなら呪術は必要ないし!」
「黙って戦え!! 姫様がオークに蹂躙されるところを見たい……い、いや見たくない。姫様の初めてはこの私の物だぁぁぁぁぁーーーーーッ!!」
「よくわかんねーけどたぶん違うと思う」
アイシェラの戦いを初めて見るけど、けっこう強い。
なんというか、軽いのだ。剣の素材がいいのか、スッと斬るだけでオークの腕や足が綺麗に切断される。目もいいし、オークのパンチをギリギリまで引き付け、カウンターの要領でスパッと切るのだ。
ゴブリンオークはまだまだいっぱいいる。
「めんどくさいな……一気に燃やすか」
俺は全身から炎を噴き出し、両手に集中させる。
炎を纏わせた拳で殴るのが一番威力が出る。拳から離れると温度は下がるという特性を理解した。
なら、絶えず炎を放出すれば?
「第一地獄炎・『火焔砲』!!」
両手を合わせて開き、全力で炎を放出するイメージ。
すると、両手から放出された炎は直線上のオークを燃やし尽くした。
ここが何もない街道でよかった。森の中で使ったら大火事になる技だ。
「あーちちちちちちっ!? おいこらバカ!!」
「あ、ごめん」
アイシェラに燃え移ることはなかった。ちょっと近すぎたせいで熱気が伝わっただけみたい……よく考えたらこれ、味方が近くにいると使えないな。
ちょっとした火の粉でも燃え移ればヤバいもんな。
「よし、一掃完了!! あ、豚の丸焼き食べたかったなー」
「馬鹿者。オーク肉ならともかく、ゴブリンオークの肉は臭くて食えんぞ」
「残念。まぁいっか」
魔獣を一掃すると、近くの岩陰に隠れていたプリムと、護衛として傍にいたシラヌイがひょこっと顔を出した。
「お、終わりましたか?」
「おう。今日はブタの丸焼きにしたくなったぜ」
「黙っていろ。姫様、お怪我はありませんか?」
「はい。フレア、アイシェラこそお怪我は?」
「大丈夫。なぁ、魔獣ってこんなにいっぱい湧いて出るもんなのか?」
『きゅーん』
俺はシラヌイを撫でながら聞くと、アイシェラが顎に手を当てて言う。
「いや……ゴブリンオークの群れは珍しくない。だが、こんな街道の真ん中で会うような魔獣でもないのだがな」
確かに、ここは街道のど真ん中だ。
岩影がそこそこあり整備された道で、木々は少なく開けている。馬車の轍や馬の足跡もあるので、けっこうな通りがある場所─────。
「─────ん?」
ふと、視線を感じた。
プリムが隠れていた岩の反対側を見る。
「フレア? どうしました?」
「いや、視線が……」
「……何も感じないぞ」
「……うーん。気のせいか?」
『くぅん?』
シラヌイも首を傾げている……犬に感じないってことは気のせいかな?
「悪い、なんでもなかった。それよりさ、ゴブリンオークじゃなくてオークを仕留めようぜ。豚肉パーティーしたい!」
「豚肉パーティー!! したいですしたいです!!」
「私も姫様としたい!! したいです!!」
「死ねアイシェラ」
「はぁぁんっ……はぁはぁ、ありがとうございます」
「プリム、アイシェラに口内炎いっとく?」
「お願いします!!」
「お、おいやめろ!!」
そして、運よくオークを見つけ、豚肉パーティーを始めたのだった。
◇◇◇◇◇◇
「─────危なかった。犬の嗅覚ですら誤魔化せる秘伝の消臭剤を使っていたのに……あの人間、ヤバい」
◇◇◇◇◇◇
さて、魔獣を倒しつつ進むこと数日。
今日も野営だ。街道を抜けて小さな森に入り、大きな岩場を背に休むことに。
野営にもだいぶ慣れてきたプリムとアイシェラが足りない分の薪を拾いに行き、俺とシラヌイはテントを組み立ててかまどを準備していた。
「きょお~の夕飯ヘビス~プ~♪」
『きゃんきゃんきゃーんっ!!』
仕留めたヘビの皮を剥ぎ、食べやすいサイズにカットして自生していた薬草や山菜と合わせて鍋に入れる。
ヘビの群生地を通ったおかげで、食材には事欠かない。
再び皮を剥き、今度は串に刺して焼く。
「シラヌイ、生と焼いたのどっちがいい?」
『わうん!!』
「焼いたのな。りょうかい」
尻尾をブンブン振るシラヌイ。うんうん、シラヌイもすっかりヘビの味に慣れてきた。
呪符を取りだし、呪文を紡ぐ。
「焼けろ……よし。あとは明かりを……光球」
呪符が燃え、両手に収まるくらいの光球が生まれる。
これは明かり。俺の呪力で生み出した小さな太陽みたいなもんだ。虫よけになるし、放っておいても一晩は明るい。
岩場の傍に光球を設置し、調理に取り掛かる。
近くに落ちていた薪じゃ足りない。プリムとアイシェラ、早く帰ってこないかな。
「…………」
『きゃう?』
俺は、シラヌイを撫で─────右手の人差し指と中指を首の前で合わせた。
「─────誰だ」
指と指の間には、小さな針が挟まっていた。
針先がヌルっとした……毒だ。
あ、そっか。俺が狙われたのか。
「『逃げるなボケ』」
呪符が燃え、青白く細長い炎となり飛んでいく。
すると、近くで何かが落ちる音と、バタバタと暴れる音がした。
俺は仕込み籠手のナイフを展開し、俺を狙った何者かのツラを拝むことにする。
「シラヌイ、念のためプリムとアイシェラのところへ」
『わうん!!』
シラヌイはダッシュで向かった。
俺は全神経を集中させながら何者かへ近づく……仲間がいるかもしれない。
だが、夜の闇討ちは慣れている。先生なんていくつも気配を偽装して襲い掛かるもんだからな、一つ程度の気配で俺を討てるわけないだろ。
そして、拘束呪術に縛られている覆面の何者かが地面に転がっていた。
「誰だ? なんで俺を狙った? 狙うならプリムじゃねーの?」
首筋にナイフを当てて質問し、何者かの胸倉をつかむ……あれ?
「なんだこれ……ああ、おっぱいか。なんだお前、女か?」
「っっ……さ、触るなっ!!」
「いや、触るだろ。武器は毒針? 隠し武器は?」
「ひゃぁぁっ!? あ、ぅんっ……ふぁぁっ!?」
胸をまさぐり、ズボンやポケットに手を突っ込む。背中や胸を覆うサラシっぽいのにも手を突っ込み、小さなナイフと数種類の毒針を回収した。
最後に覆面を外して顔を露出させ……驚いた。
「なんだこれ……作りものか? やわっこい耳だなぁ」
「にゃぁぁぁぁんっ!?」
襲撃者の頭には……ネコみたいな耳が生えていた。