ヴァルプルギウス、夜霧の館①/謎の家
「よう、どうだった?」
「ふん。楽勝に決まってんでしょ」
「そうか?…………その割には汗臭いぞ、お前。走り回ってたんじゃね?」
「女の匂い嗅ぐなこの変態!!」
「あいっでぇ!?」
カグヤと合流した俺はいきなり殴られた……なんで?
でも、こいつもスッキリしたような顔してる。いろいろ溜まってたものを吐きだせたようだ。
二体の氷魔獣を倒した俺とカグヤは、ツララの国に向かって歩きだす。
「とりあえず、仕事は終わり……プリムを返してもらってミカちゃんとこ行くか」
「……ねぇ、アンタさ、あの天使と一緒に行動してたんでしょ?」
「ああ。仲間の天使を迎えに行くって言ってたし」
「ふーん……で、これからどうすんの?」
「あ? いやだから、プリムを迎えに」
「ちーがーう。プリムを迎えに行って、あの赤毛天使のとこ行ったらよ。まさか、あの赤毛も仲間にするんじゃないでしょうね」
「俺はどうでもいいけど。それに、あいつは一時的な共闘って言ってたし、聖天使協会に帰るんじゃね?」
「……まぁいっか。で、アタシらはどうする?」
「そりゃもちろん冒険の続きだ。ぶっちゃけ、この吸血鬼の国じゃ堂々と歩けないし……あ、確かパープルアメジスト王国ってのが近いんだよな。そこ行ってみるか!」
「パープルアメジスト……確か、特級冒険者がいる国ね」
「そうなのか?」
「ええ。それに、魔動機関が発達してる国だから、けっこう面白いって聞いたことあるわ」
「おおー! なんかワクワクしてきたな!」
カグヤと談笑しながら歩き、ツララの国の門まで来た。
「やぁ、おかえり」
門の前にいたのは、ツァラトゥストラだった……え、なんでここに?
思わず、俺は質問した。
「…………王様が出迎えかよ?」
「うん。だって、キミみたいな男を国に入れたくなかったからね」
「は?」
「あのね。本来ここは男子禁制の国なんだ。いくらお願いをしたとはいえ、男を国にいれる許可を出した覚えはないんだ。ごめんね?」
「……あの、喧嘩売ってるのか?」
「いやいや。事実事実。ね、プリムちゃん」
「え、えっと……」
『わん!』
すると、ツララの背後からひょっこりとプリムが顔を出した。
その後ろには仏頂面のアイシェラ、尻尾をブンブン振るシラヌイもいる。
ツァラトゥストラはプリムに向き直り、目線を合わせるために跪いた。
「プリムちゃん、よかったらまた遊びに来てね。その時はこの国を案内してあげるよ」
「ありがとうございます。ツァラトゥストラさん。お子さんたちにもよろしくお伝えください」
プリムはスカートの裾を持ち上げる。
おいおい、後ろのアイシェラがハァハァしながらお尻を凝視してるぞ。どこまでも変態的な奴だな。
シラヌイは、俺の足元でお座りした。なので蚊帳の外の俺はひたすらシラヌイを撫でる。
「アイシェラちゃん、そしてそっちの銀髪の子も。遊びに来てね」
「ふん……お嬢様を保護してくれたことは礼を言う」
「アタシは嫌。まぁ、ガチで戦ってくれるならいいけどね」
「あはは。じゃあ」
ツァラトゥストラは、手のひらから青い鳥を作り出す。
氷鳥はパタパタ羽ばたき、プリムの肩に止まった。
「その鳥がヴァルプルギウスの国まで案内してくれる。気を付けてね」
「はい。ありがとうございました!」
こうして、俺たちはツララの国を旅だった。
「……あいつ、最後まで俺を見なかったな」
「アンタが嫌いなんでしょ」
「私はお嬢様が大好き!」
「アイシェラうるさい。それより、ようやくフレアたちに合流できました!」
「だな。さーて、ミカちゃんと合流すっか。クロネの奴もにゃんにゃんしてそうだし」
「にゃんにゃん……? おい貴様、なんだそれは」
「いや、ネコだし」
プリムの肩から小さな鳥が飛び立ち、俺たちの前をゆっくり先導してくれる。
さて、急ぐ旅でもないし。のんびりミカちゃんとこ行きますかね。
◇◇◇◇◇◇
「…………」
「にゃん……たまげたにゃん」
ミカエルとクロネは、真祖の一人ヴァルプルギウスの管理する領土に入った。
そう、『入った』のだ。
「どういうこと……ここ、国よね?」
「にゃん。情報がほとんどないからわからないにゃん……」
ハンプティダンプティの領土でフレアと別れ、ヴァルプルギウスの領土に向かっていたのは間違いない。そして……しばらく進み、国境のあたりで妙な霧に包まれた。
包まれたと思った瞬間、目の前には巨大な『扉』があり、扉を開けるとそこは、とてつもなく広大な『室内』だったのである。
「家の中、よね……どういうこと? まさか、もう攻撃を受けているんじゃ……!!」
ミカエルは、神器『焱魔紅神剣レーヴァテイン・プロミネンス』を手元に顕現させる。
クロネもネコミミをピクピク動かし周囲を警戒する。
「……すっごく広い家にゃん。ここ、リビング?」
テーブルにソファ、棚には本が詰め込んであり、高級そうなカーペット、シャンデリア、どこに通じているのかわからないがドアもいくつかある。
ミカエルはソファに触れてみた。
「……本物、ね」
「床も本物っぽいにゃん。土とか砂利とかじゃない……どうなってるにゃん」
「とりあえず、警戒しながら進むわよ。たぶん、もう敵の腹の中……」
「…………」
クロネは右手に装備した『短弓』を展開する。
ミカエルはリビングルームを見渡し、とりあえず一番近いところにあるドアにそっと触れた。
「……開けるわよ」
「にゃん……」
恐る恐るドアノブを捻り、そっと開ける……そして、剣を構え踏み込んだ。
「……え、なにこれ?」
「つ、通路……な、長いにゃん」
そこは、とんでもなく長い通路だ。
一番奥が霞んで見える。両側の壁にはドアがいくつも設置され、ドアにはプレートが掛けられている。
「キッチン、遊戯室、寝室……浴室に倉庫。ん……『レンゲの間』? なにこれ」
「……どうやら、とんでもないところみたいにゃん」
全く持って、意味が分からない。
ハンプティダンプティの国から出て、国境辺りで霧に包まれ、謎の家の前に立っていた。
中に入るとあら不思議。妙に広い空間……そして、やけに長い廊下だったり、噓か本当かわからないドアプレートが掛けられたドアがいくつもある。
「あーもうわけわかんない!! 全部燃やせばスッキリするかしら……?」
「だだ、駄目にゃん!! 慎重に行くにゃん!!」
「冗談よ。それにしても、人の気配がないわね……どうなってんのかしら」
「うちも何も感じないにゃん。もう、わけわかんないにゃん」
「どうする?」
「にゃん……とりあえず、適当に進んでみるにゃん?」
「そうね。じゃ、行きましょ」
ミカエルとクロネの探索が始まった。




