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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第二章・風のラーファルエル

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聖天使教会十二使徒・『水』のジブリール

「えぇぇぇぇーーーーーっ!? ももも、モーリエさんがぁぁっ!?」


 聖天使教会本部。

 聖天使教会十二使徒ズリエルは、部下の報告を受けて仰天した。

 禿げ上がった頭、丸渕のダサいメガネ、でっぷりしただらしないお腹。天使とは思えないだらしない姿をした苦労人で、部下からも舐められている。

 聖天使教会イチの苦労人であるズリエルは、汗をダラダラ流していた。

 部下の天使が事務的に書類をめくり報告する。


「第十二階梯天使モーリエはホワイトパール王国第七王女の殺害に失敗。報告によると第七王女の護衛と戦闘になり敗北したそうです」

「ははは、敗北!? うそぉぉんっ!? にに、人間にそんな強い奴が……あ、まさか『堕天使』の連中なの!?」

「いえ。モーリエと交戦したのは若い少年という話です」

「むむむむぅぅぅ……」


 ズリエルは頭をボリボリ掻く……すると、少ない毛がパラパラ落ちた。

 それを見た部下は笑いを堪える。


「で、モーリエさんは?」

「ぶっぷ……も、モーリエは自力で帰還しましたが重傷……喉が潰れ両手の指が焼けただれていまして話も筆談も不可。ですが、酷く怯えているようです」

「怯えてるぅ?」

「はい。それと、少し気になる点が……」

「むぅん?」

「モーリエは外傷だけでなく、その……虫歯と口内炎、そして下痢と胃痛と頭痛が収まらないようで……」

「……はぃぃ?」


 ズリエルは首を傾げた。

 そんなの、ただの不摂生……いや、おかしい。


「ちょ、天使が病気になるわけないで……ちょ、まさか」


 ズリエルはサァーっと青くなる。

 そして、部屋のドアが勢いよく開かれ、高齢の老婆がズンズン入ってきた。


「ズリエル!! アルデバロンはどこだい!? 大至急報告しなきゃいけないんだよ!!」

「ひぃぃっ!? じじ、ジブリール様あぁぁっ!?」

「誰がババァだとこの餓鬼!! いいからさっさとアルデバロンを呼びな!! ケツひっぱたくよ!?」

「ひゃぁぁぁっ!? お、お願いですから怒鳴らないでくださいっ!! アルデバロン様は留守にしてますぅぅっ!! というかババァなんて呼んでないですって!!」

「やかましい!! 大至急伝えなくちゃいけないんだよ!! 留守なら呼び戻しな!!」

「ひぃぃぃっ!!」


 高齢の老婆ことジブリールは、ズリエルと同じ『聖天使教会十二使徒』の一人で、天使の身体のメンテナンスを担当する『水』を司る天使だ。

 手に持った杖でズリエルを叩く姿は恐ろしく、ズリエルはジブリールが大の苦手だった。報告に来た部下はいつの間にかいなくなっているし……。

 

「あああ、あの。アルデバロン様がどこにいるか私も知らなくて……」

「なんだってぇ!? ったくあのガキ、どこほっつき歩いてんだい!! この緊急時に」

「あの……な、なにがあったんです?」


 恐る恐るズリエルが質問すると、ジブリールの目がスッと細くなる。

 白髪に長い鷲鼻、しわしわの肌に曲がった腰。

 酒の席で酔っていたズリエルは、天使というよりは山姥ですねと冗談で言った。そしたらズリエルは殺されかけた。

 その時と同じ瞳で、ジブリールは言う。


「モーリエの身体を診てわかった。この火傷……地獄の炎によるモンだ。簡単な火傷はあたしゃの腕なら一瞬で治せるけどね、こりゃ無理だ。天使にとって究極の毒である地獄の炎をモロに浴びちまってる……モーリエは再起不能さね」

「……………………はぃ? じ、地獄の炎って……え?」


 地獄の炎。

 地獄門の呪術師が使っていた魔界の炎。

 天使にとって究極の毒。


「え、え、ちょ、ま、まま、まってくださいよ。地獄の炎は消滅したんじゃ……」

「知るか。だから緊急事態ってんだろ。はっきりとはわからんがこれだけは言える。モーリエが戦ったガキは、地獄の炎を使ってる。それに口内炎だの虫歯だの、病気にならない天使がいっぺんに病に侵されちまってる……間違いない、その餓鬼は地獄門の呪術師さね」

「うっそぉぉぉぉぉーーーーーんっ!?」

「唾を飛ばすなこのデブ!!」

「あひんっ!?」


 杖でブッ叩かれたズリエルは転がり、転がった拍子にズボンのケツが裂けた。

 ジブリールはズリエルを踏みつけながら言う。


「アルデバロンに連絡しな。第七王女とやらの殺害依頼は取り下げたほうがいい……もっと調査するべきさね」

「はぅぅぅ……な、なんてこった、なんてこったぁぁ……お、お腹が、お腹が痛いぃぃぃ」

「やかましい!!」

「はぁうんっ!?」


 すると、横からこんな声が聞こえた。


「その話、ボクに任せてもらえない?」


 長い銀髪を括り、メガネをかけたイケメン天使だった。

 初めからそこにいたのか。ズリエルもジブリールも気付かなかった。


「ラーファルエル。あんた聞いてたのかい?」

「まーね。部屋のドアが開けっぱなしで、ズリエルの豚みたいな声とジブリール婆さんのダミ声が外まで響いてたよ。聞こえないほうがおかしいよ」

「ふん……で、何を任せろって?」

「そりゃ、地獄門の呪術師の話さ。ボクさぁ、大昔の呪術師との大戦にサボって不参加だったから知らないんだよねぇ~♪ 呪術師って強いの? ボク戦ってみたいなぁ~♪」

「やめときな。あんたみたいなクソ餓鬼にどうこうできる相手じゃないよ」

「おうおうおう、そりゃないよ婆さん。モーリエみたいな最下級クソ天使と一緒にしないでよ。そりゃ十二使徒じゃ一番若手だけどさ、ズリエルが千人束になって掛かろうが、ボクには傷一つ付けらんないよ?」

「…………」


 聖天使教会十二使徒・『風』のラーファルエルはメガネを外す。すると、瞳が金色に輝き、ズリエルの執務室の書類が宙に舞う。


「ま、ボクに任せてよ。最近溜まってたし、人間で発散してくるね~♪」

「…………ちっ」


 ラーファルエルは部屋を後にした。

 ジブリールも退室し、残されたのはズボンが裂けたズリエルのみ。

 

「え?……あの、この部屋……私が掃除するの?」


 ラーファルエルの風で書類がバラバラに落ちた部屋で、ズリエルはポツリと呟いた。


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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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