ツァラトゥストラ、夜想のしらべ④/カグヤとアイシェラ
「へぇ~……けっこう栄えてるじゃん」
「お嬢様、どこへ……おい、お嬢様を乗せた馬車の情報を探るぞ」
「ねぇねぇ、先にご飯食べない? アタシお腹へった」
「後にしろ。今はお嬢様をお救いするのが先だ!!」
「えぇ~……じゃあせめて飲み物だけでも」
カグヤとアイシェラは、ツララの国のメインストリートを歩いていた。
今まで行った王国と同じ、街並みは栄え人々が歩いている。ただし、全員が女だ。
「女の国ねぇ……なんだっけ、ツララ? そいつ、なんで女だけの国なんか作ったのかな」
「さぁな。だが、私は知っている……昔、騎士の仕事でとある貴族の屋敷に踏み込んだことがあった。その屋敷には女性ばかりで男は誰一人としていなかったんだ……貴族は重度の女好きでな、禁止されている薬物を使って女性を意のままに操っていた」
「あ、ベリージュースだって。すみませーん、一つくださーい」
「聞け!! 全く……とにかく、女だけの国など気色悪くてかなわん。さっさとお嬢様を見つけて、この国……いや、ブラックオニキス領地から出るべきだ」
「じゅるる……お、甘酸っぱくておいしいじゃん」
カグヤは聞いてないのか、ベリージュースに夢中だ。
「……とにかく。情報収集だ」
「あ、あっちにクレープ売ってる。ほら行くわよ」
「ま、待て貴様!! ああもう……」
最初こそ険悪な二人だったが、意外にもいいコンビだった。
二人はクレープの屋台でクレープを注文。アイシェラはクレープ屋の女主人に聞いてみた。
「唐突で済まない。この国に来たばかりなのだが、ハンプティダンプティの国から運ばれた人間はどこへ行くんだ?」
女主人はクレープを焼き、フルーツをカットしながら答える。
「ああ、外から来たのかい? ここは女の国ツァラトゥストラ。ここに来た女性は必ず最初にツァラトゥストラ様の元に運ばれるのさ」
「ツァラトゥストラ……真祖だっけ? めっちゃ強いのよね」
カグヤはニヤッと笑う。
女主人はうっとりしながら言った。
「そう、真祖ツァラトゥストラ様……あのお方の顔は忘れられないねぇ。一度でいいから抱かれてみたいもんだ。あたしみたいなおばさんじゃチャンスなんてないけどねぇ」
「……国を出ればいいじゃないか。男は他にもいるぞ」
「馬鹿言っちゃいけないよ。あたしらはツァラトゥストラ様に選ばれてこの国にいるんだ。あのお方のためにここで働けるのがなによりの幸せってもんさね」
「あ、アタシの生クリームたっぷりで」
二人はクレープを受け取り、屋台から離れた。
「決まりだな」
「ん、おいしいっ」
「違う。お嬢様はツァラトゥストラの元に運ばれたはずだ」
「んー……じゃあ、あの氷の城ね」
ツララの国で最も大きな建物。青く透き通るような氷の城に、プリムはいる。
アイシェラは、クレープをガツガツ食べて完食した。
「よし。ツァラトゥストラに謁見を申し込もう。ハンプティダンプティの遣いとでも言えば会えるかもしれん」
「フレアはどうすんの?」
「奴はこの国に入れん。それに……」
アイシェラは、カグヤを見てニヤリと笑う。
「もう、負けないのだろう?」
「……へぇ、アンタも言うじゃん」
「ああ。有事の際は任せる」
「ふふん。任せなさい」
カグヤとアイシェラは同時に氷の城を見上げ───。
「どわぁぁぁーーーっ!? いて、いってて、痛いって!!」
氷でできたカラスにつつかれるフレアが目の前に落下してきたのを見た。
◇◇◇◇◇◇
屋根の上を飛んでいたら、氷のカラスの大群が襲ってきた。
「いででででっ!? ああもうなんだこれっ!?」
最初は数匹だったのに、いきなり爆発的に増えた。
どうも、空中で氷が現れてカラスの形になり俺を襲っている。倒しても倒しても現れることから、どうやら俺の存在が完璧にバレたようだ……無念。
数が多すぎてさばききれず、屋根から道路に落ちてしまった。
「あ、アンタなにやってんの?」
「いででででっ!? あ、カグヤいでっ!? 見ての通り襲われてんだよっ!! ああもうこのカラスつつくんじゃねぇよっ!!」
拳でカラスを叩き壊すが、すぐにカラスが現れる。
数は二十以上。そして、問題はカラスだけじゃなかった。
「お、お……男よぉぉぉっ!?」「きゃーーーっ!!」
「男がいるぅぅっ!!」「いやぁぁぁーーーっ!!」
俺の存在が周囲にバレ、女性たちが騒ぎ始めた。
アイシェラが頭を抱え、カグヤはクレープの包みを捨てた……この野郎、なに美味そうなもん食ってんだよ。あとで俺も食べたい。
「なーんか面白くなってきたかも!! やるじゃんフレア!!」
「不本意だけどないででででっ!? おいカグヤこのカラス叩き壊すの手伝えって!!」
「……騒ぎは起こしたくなかったのだが」
俺とカグヤは氷のカラスを叩き壊す。すると、兵士っぽい女性がワラワラ集まってきた。間違いなく俺を捕まえるための兵士たちだろう。参ったな、ここでは騒ぎを起こすつもりなかったのに。
カグヤは、氷のカラスを蹴りながら言う……やべ、兵士たちに包囲された。
「動くな貴様たち!! 男は入国禁止と知っての狼藉か!!」
「いや、こいつが勝手に入ったんだ。私とカグヤは知らん」
「アイシェラひどい!! 仲間じゃねーのかよ!?」
「馬鹿。無関係を装えば私とカグヤはまだ自由に動ける。余計なことは言うな」
「聞こえているぞ!! おのれ……男入国罪及び入国補助罪で貴様らを連行する!!」
兵士のおねーちゃんが剣を抜き、部下たちが俺たちを円形に包囲する。
カグヤは足をプラプラさせてやる気満々だ。そして、思いついたように言う。
「ねぇねぇ、このままお城行かない? プリム救出作戦ってことで!!」
「お、いいな。よーし城まで走る……いや、飛ぶぞ!!」
「は?」「おい、飛ぶだと?」
「おう。いくぜ!!」
俺の背中から『緑』の炎が噴出する。カグヤとアイシェラがギョッとした。
「アンタ、また新しい力?」
「ああ。第五地獄炎『空蝉丸』……キモイい蝉の炎だ」
「「……は?」」
「じゃ、いくぞ!!」
「え、ちょ」
「ひゃぁっ!?」
カグヤとアイシェラの腰に手をまわし、俺は思いきり炎を噴射させた。
緑の炎が翼……いや、蟲の翅みたいに広がる。
「いやっほぉぉぉーーーーーーッ!!」
「とと、飛んでる!? すっごぉぉいっ!! でも変なとこ触んなこの馬鹿!!」
「だ、だめっ!! 腰は弱いっ……ふぁぁっ!?」
カグヤが暴れ、アイシェラが身体をくねらせる。
飛んでる最中も、氷のカラスが襲ってきた。
「第五地獄炎、『飛蟲ヤブカ』」
背中の炎が膨らみ、手のひらほどに大きくなった緑色の火球になる。そして火球が炎で模られた『蚊』になり、氷のカラスに向かってブンブン飛んでいく。
その数、実に五十匹。緑色の蚊が俺の背中から発射されるのは正直キツイものがある。
「……キモイ」
「言うな。俺だって嫌なんだよ……」
カグヤの冷たい目が突き刺さる。
アイシェラが静かだと思ったら、顔を赤くして何かに耐えていた。
氷のカラスが現れるたびに背中から『蚊』を発射させて相殺する。
そして、氷の城に到着すると同時に、氷のカラスは全て消えた。
中庭に着地し、俺は叫ぶ。
「おーいプリムーっ!!」
「アンタ馬鹿? 聞こえるわけないじゃん」
「うっせぇな。おいアイシェラ……アイシェラ?」
「……ふんっ」
「いっで!? な、なんで殴るんだよ?」
「黙れ。私の腰に触れた罰だ」
「???」
とにかく。さっさとプリムを返してもらって、こんなところからはさっさと出るか。
「じゃあ行くか。門から入ってないけど平気だよな?」
「しらなーい。怒られたら蹴り殺す」
「……お嬢様。今行きます!!」
ここまで派手にやったし、怒られるのは仕方ないかなぁ……。




