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ツァラトゥストラ、夜想のしらべ③/気味の悪い虫

 俺は首をコキコキ鳴らし、両腕の仕込みブレードを確認。回転式の銃弾を確認した後に樹から飛び降り、軽く準備運動をした。


「そう言えば……珍しく先生が褒めてくれたっけ」


 茂みからツララの国を見る。

 氷で作られたような、気持ち悪い歪な国だ。

 男が入れないとか、女だけの国とか……平和そうな雰囲気だけど、なーんか変な感じ。

 さて、侵入してみるか。

 俺はフードをかぶり、顔を隠す。


「先生が言ってたな。俺……『暗殺者(アサシン)』の才能があるって」


 気配の消し方がなかなか上手い。気配の探り方がなかなか上手い。

 身体の隠し方がなかなか上手い。気付かれずに接近するのがなかなか上手い。

 つまり、暗殺者向きだな……先生がそう褒めてくれた。当時はあまり嬉しくなく、苦笑するだけだった。


「さーて……」


 俺は、カグヤとアイシェラが入った『氷の門』を見る。

 門兵が二人、氷みたいな槍を持って周囲を警戒している。真正面から入るのは難しいな。

 次に、国を囲うように建っている『氷の壁』を見る……うん、高い。それにツルツルして取っ掛かりがないし、登るのに苦労しそうだ。


「炎を噴射すれば登れそうだけど……たぶん気付かれるな」


 兵士は門だけじゃない。壁の上にも巡回している兵士……もちろん女、がいる。

 やべ、楽しくなってきた。

 先生の修行でこんなのあったな。スケルトンの徘徊する廃墟で、スケルトン一匹にも気付かれずに廃墟最奥に置いた証を取って来いってのがあった。

 ちなみに、スニーキング修行は先生ですら感心するくらい完璧だった。


「へへ、燃えてき───




 ───ミー……。




「へ?」


 頭の中に、妙な『声』……いや、『音』が聞こえた。

 

 ◇◇◇◇◇◇


「…………」


 いつもの、地獄炎の魔王がいる空間だった。

 マジかよ。このタイミングで……って、はい?


『…………』

「…………」

『…………』

「…………」


 なんか、いた。

 なにこれ? え? 


『…………』

「…………え、えっと」


 俺の目の前にいたのは……む、『虫』? だった。

 一言で言うなら『デカい蝉』……だよな?

 緑色の腹、デカい四枚の翅、目は何個もあり、脚は蜘蛛みたいに毛むくじゃらで太い。しかも大きさが二メートルはあるぞ。

 ぶっちゃけ、めちゃくちゃ気持ち悪い虫だった。

 デカい蝉は何も言わず、じーっと俺を見ている。


「あ、あの『ジージージージージージージージージージージージー!!』うおぉぉっ!?」


 と思ったら、いきなり蝉みたいに鳴きだした!!

 ガチでビビった。いや生き返ってこれほどビビったことはない。


『ミーンミンミンミンミンミー!! ミンミンミンミンミンミーン!! ミーンミンミンミンミンミンミンミンミーンミーンミンミンミンミンミンミンミンミーンミンミンミンミンミンミーン!!!!』

「だあぁぁぁぁぁっ!? なな、なんだこいつは!?」


 けたたましい鳴き声だった。

 いきなり呼ばれたと思ったら目の前に巨大なバケモノ蝉。意味もわからずミンミン鳴きだし、デカい四枚の翅をバッサバッサして飛ぶ。

 俺は思わず逃げてしまった。


「だぁぁぁぁぁぁっ!? こ、こえぇぇぇぇぇっ!!」

『ミーンミンミンミンミンミンミンミンミーンミーンミンミンミンミンミンミンミンミーンミーンミンミンミンミンミンミンミンミーンミーンミンミンミンミンミンミンミンミーン!!!』

「あぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ!?」


 蝉が飛んだ。

 二メートルあるデカい蝉が飛んだ。なぜか俺に向かって。


 俺は心底恐怖し、必死に逃げ───。


 ◇◇◇◇◇◇


「───はっ」


 気が付くと、ツララの国。いや、藪の中にいた。

 汗びっしょりで呼吸も荒い……せ、蝉、蝉が迫ってきた。

 そして、気が付いた。


「……………………いや、なんで?」


 俺の背中から、『緑色の炎』が噴き出した。

 全く意味がわからなかったけど……ま、まぁそういうことなんだろうな。

 

「第五地獄炎『空蝉丸(うつせみまる)』……いくぞ!!」


 背中から緑の炎を噴射し、俺は跳躍した。

 

「おぉぉーっ!! 飛べる、飛んでるぞ!!」


 緑の炎の能力は『飛行』と『気体干渉』。

 赤の炎で飛ぶのとは全く違う。赤の炎は直線的に飛ぶ……というか吹っ飛ぶだけだが、この緑の炎は違う。自由自在に方向転換できるし、空中で止まって浮くこともできる。

 つまり、空を自由に飛べる。これが第五地獄炎『空蝉丸』の炎……もちろん、飛ぶだけじゃない。

 というか……あの蝉、なんで俺を認めて炎をくれたんだろう?


「ま、まぁいいや。それより、空を飛べるっていいな」


 俺は雲の上にいた。

 ツララの国は雲のせいで見えない。でも、この炎を使えば氷の壁を超えられる。

 俺は上空からツララの国を眺める。


「氷の壁が円形に……お、城っぽいのもあるな。どこか兵士のいない場所……お、みっけ」


 俺は呪力で視力を強化し、上空からツララの国を観察する。

 そして、兵士のいない外壁を見つけた。巡回の穴ってやつだな。たぶん交代の時間とか?

 俺は緑の炎を噴射して急降下。炎を解除し、外壁に着地した。


「よし、侵入成功。へへ、ここからは見つからないように行くぞ」


 俺は外壁を伝い、人気のなさそうな場所を選んで町に飛び降りた。

 そして、すぐに近くの民家の屋根によじ登る。外壁と違い民家には取っ掛かりがいくらでもあるので、登るのに苦労することはない。

 

「ここがツララの国か……なんかキラキラしてんな」


 俺がいる民家の屋根もそうだが、町の建物は全体的に青かった。

 氷でできたような建物や照明。歩く人々の種族は様々だが全員女性。そして、着てる物は上質な素材で、食べている物もいいものばかりだ。なんかクレープとか飴とか普通に食べてるし、カフェでお茶している子もいっぱいいる……まぁ、みんな女だけど。


「とりあえず、プリム探すか。あとアイシェラたちと上手く合流───」


 ここで、気が付いた。

 頭上に何かいる。

 俺は瞬間的に右人差し指を立て、赤の呪炎弾で狙いを付ける。


「───カラス?」


 それは、氷のカラスだった。

 嫌な予感がしたので呪炎弾で粉砕。氷のカラスは粉々に砕け散る。

 

「……ヤバいな。念のため離れるか」


 俺は民家の屋根から屋根に飛び移り、高い場所を目指して走り出す。

 誰にも見つからないように、気配を殺して俺は飛んだ。


 ◇◇◇◇◇◇


「───んん?」


 第二真祖『氷血』ツァラトゥストラは、大きな欠伸をしてベッドから起き上がる。

 ベッドには何人もの女性がスヤスヤ眠っている。

 種族もバラバラだ。吸血鬼に人間、天使や獣人と統一感がない。

 ツァラトゥストラは全裸のまま、部屋にある氷の鏡に手を振れた。


「あぁ~……なんか、一匹壊れちゃったなぁ。『氷烏(こおりがらす)』……壁にでもぶつかっちゃったかなぁ?」


 金色の髪をかきあげ、再び欠伸をした。

 そして、ベッドにいる少女たちをチラリと見る。

 少女たちは真っ青だった。そう、寝ているのではなく、血を失い意識を失っていたのだ。


「ちょっと吸いすぎちゃったかなぁ? ふふ、かわいい女の子の血って本当に美味しいや……あ、そういえば、ハンプティダンプティからもらった女の子、そろそろ到着する頃かなぁ?」


 ツァラトゥストラは、自分と同じ金色の髪の少女を想う。

 金髪で目麗しい少女だった。肉付きもよく柔らかそうで、久しぶりの『天然もの』だ。

 養殖された血ではなく外の世界からきた人間の血は、真祖や吸血鬼にとってとんでもないご馳走なのだ。


「おっと。楽しみは後に取っておいて……おーい、誰かいない? この子たちの手当てよろしく~♪」


 ツァラトゥストラは、ベッド上の少女たちを全て運ばせ、治療を命じた。

 ツァラトゥストラにとって女は餌。そして娯楽であり愛でるもの。

 壊しはしない。血をもらい、ベッドを共にし、娯楽を与え、快楽を与える。そして、自分から逃れられないように……。


「───また?」


 再び、『氷烏』が破壊された。

 ツァラトゥストラは少し不機嫌になり氷の鏡を覗き込む。そして、気が付いた。


「…………へぇ」


 氷烏は、ツァラトゥストラの国全体に飛んでいる。ツァラトゥストラの生み出した監視用の目だ。

 つまり、ツァラトゥストラは氷烏と視界を共有できる。破壊された氷烏とは別の氷烏が見ていた。


「侵入者……しかも、男ね」


 フードを被り、両手に奇妙なブレードを装備した男だ。

 その男がブレードで氷烏を砕く瞬間を、別の氷烏が見ていた。

 ツァラトゥストラは薄く微笑む。


「この国に、男はボクだけでいい」

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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