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ツァラトゥストラ、夜想のしらべ②/女の国

 さて、どうやって潜入しようか?……そう考えてた時期もありました。

 とりあえず、国の入口である水色の結晶みたいな門の近くまで行って驚いた。

 

「おい、あれ……人間じゃね?」

「ホントだ」

「……ここは吸血鬼の国ではないのか?」


 ツララの国の門の前にいたのは、鎧を装備した兵士……しかも人間の女性だ。

 おかしいな。吸血鬼にとって人間や獣人はエサじゃなかったのか?

 なんとなく考え込んでいると、カグヤが言う。


「ねぇ、人間なら近づいて平気っぽくない?」

「馬鹿者。お嬢様が囚われている国なんだぞ。慎重に行くべきだ」

「とりあえず、話しかけてみるか? 俺とカグヤなら逃げきれるだろ」

「それもそーね。じゃ、行くわよ」

「おう」

「お、おい貴様。そろそろ下ろせ!!」


 俺はアイシェラをおんぶしたまま、カグヤと並んで門へ向かう。

 女性門兵は氷を彫刻したような槍を持ち、俺たちが見えると何故かにっこり笑った。


「ようこそ。氷の国ツァラトゥストラへ!! 観光かな?」

「めっちゃいい雰囲気じゃん。なぁアイシェラ、カグヤ」

「確かに。あのさ、聞いていい? ここって真祖の国でしょ? アンタら人間よね? なんで門兵やってんの?」

「お前、質問すんなら答えをまとめろよ」

「うっさい馬鹿」

「おい貴様、いい加減に下ろせ」

「いでで。おいアイシェラ、頭叩くな」


 なんで俺の周りにいる女ってアホばかりなんだ……なんかプリムやクロネに会いたい。

 アイシェラを下ろすと、女性門兵に質問した。


「馬鹿な連れが失礼した。私の名はアイシェラ。いくつか質問して構わないだろうか?」

「ええ。どうぞ」

「おい、馬鹿な連れって俺のことか?」

「アタシもよね?」

「うるさい。少し黙ってろ……質問だが、この国は吸血鬼の国で間違いないか?」

「はい。第二真祖『氷血』ツァラトゥストラ様の治める国です。ここは人と天使と獣人、そして吸血鬼が仲良く暮らす氷の国なんですよ!」

「なんと……ハンプティダンプティの国とはずいぶん違うな。ここにもその、『餌』となる人間たちが運ばれたはずだが……」

「はい。運ばれてきた人間や獣人、天使たちは少しだけ血を抜かれ、その後は仕事や住居を与えられて暮らすことになります。この国には人間や獣人たちの飲食店や娯楽施設も豊富にある理想の国なんですよ!」

「へぇ~……なんかすごいわね」

「だな。真祖っていい奴なのかな。ハンペンがクソなだけでさ」


 カグヤと話していると、アイシェラが言う。


「最後の質問だ。ここにハンプティダンプティの国から来た馬車を通したか?」

「ええ。つい数時間ほど前に通しました。今頃は血を抜かれて、この国に住むためのルールを学んでいる頃でしょう」

「ねーねー、アタシらも国に入っていいの?」

「もちろんです。観光客用の施設も充実していますよ!」


 カグヤがアイシェラの質問に割り込み聞いた。

 なるほどな。つまり、第二真祖『氷血』ツララはいい奴ってことだ!

 アイシェラが俺とカグヤに頷き、門兵に言った。


「では、入国させてもらおう。構わないな?」

「もちろんです。ようこそ、氷の国ツァラトゥストラへ」

「おっじゃま~♪」

「じゃ、さっさとプリム探す───」


 アイシェラ、カグヤが門兵の前を通り過ぎ、俺も入ろうとした瞬間──門兵二人の氷の槍が交差し、俺を歩みを止めた……え、なにこれ?


「一つ、言い忘れたことがあります」


 門兵は、俺をギロリと睨んで言う。


「この国は『男性入国禁止』です」

「は?」


 どうりで話が上手いはずだよ……ちくしょう。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 門から離れ、三人で作戦会議をする。


「おい、俺は置いてきぼりかよ」

「仕方ないだろう。話を聞くにここは人と吸血鬼の格差がない国だ。お嬢様を探し、そのまま脱出するのがベストだ。無理にお前が入国して騒ぎを起こす必要はない」

「アタシは暴れてもいいけどー……なーんかつまんない。ねぇフレア、アンタってハンプティダンプティの国で大暴れしたんでしょ? 家畜みたいな扱いを受ける人間が、城下町の大通りを堂々と歩いて、吸血鬼たちを殴り倒したって話よね」

「おま、誰から聞いたんだよ……まぁ当たってるけど」

「話を聞け。ともかく、この国は私とカグヤで入国する。貴様はここで寝ていろ」

「えぇぇ~……」

「…………私を背負って走りっぱなしだったんだ。少しは休め」

「「え」」

「……なぜそこで驚く」

「だって、お前が俺の心配するから」

「アンタがこいつの心配するなんてねー」

「うるさい!! とにかく行くぞ」

「いいけど、アンタが仕切んな」

『わんわん!!』

「よし、シラヌイも一緒についていけ」


 そう言って、カグヤとアイシェラとシラヌイは再び門兵の元へ。そのままツララの国に入ってしまった。

 俺は適当な樹に上り、大きく欠伸をして目を閉じた。


「寝よ……」


 とりあえず、のんびり待つか。


 ◇◇◇◇◇◇


「…………退屈だ」


 一時間ほど寝ると、辺りは真っ暗闇になった。

 でも暗くない。なぜなら、ツララの国がめっちゃ明るいから。明かりが周囲の氷に反射して昼間みたいに明るい。おかげで、のんびり読書できる。


「……ヴァジュリ姉ちゃん」


 俺は、ヴァジュリ姉ちゃんの日記を読んでいた。

 人の日記を勝手に見るのは悪いかなと思ったけど、呪術師たちはもういないし、こういう文章でしか故郷を感じることはできない。

 病気がちだった姉ちゃん……毎日毎日日記を付けてたみたいだ。中には俺のこともあった。


『今日もフレアはタックさんに修行を付けてもらってました。毎日毎日ボロボロにされて心配……でも、あの子は強いから大丈夫。それに、どんなにボロボロにされても笑顔で私のところへ来る。嬉しいけど、怪我の手当てくらいしてから来て欲しいかも』


 なんて書いてあった。

 姉ちゃん、何も言わずに苦笑してたけど……こういうことなのね。

 ヴァジュリ姉ちゃんは呪術師の村最高の呪術の使い手だった。病気がちだったけど、『疫病魔(えきびょうま)』なんて呼ばれていたらしい。

 村の連中……姉ちゃんになんて渾名付けるんだよ。


「おっせぇなぁ……」


 カグヤたち、まだ帰ってこない。

 まだ一時間ちょいだけど……はは、俺もけっこう待つのが苦手だな。

 よし、暇だし行ってみるか。


「よし、忍び込んでみるか」


 騒ぎになるから入るなって言うなら、騒ぎにならないようにこっそり入れば問題ない。

 よーし。ツララの国に行ってみよう!!

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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