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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第七章・闇夜に煌めく吸血鬼

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ツァラトゥストラ、夜想のしらべ①/氷の王国

 ハンペンの国から東に向かい、プリムを乗せた馬車を追う俺たち。

 移動はもっぱらダッシュだ。今思うと、馬車とかもらえばよかった。カグヤはともかく、アイシェラは俺たちほど速く走ることができない。

 ハンペン王国から走ること一時間……とうとうアイシェラが止まってしまった。


「ま、まて……待って、くれ」

「んだよ。もう走れないのか?」

「だらしないわね」

「お、おまえら、みたいな、ばけ、ものと、一緒に、する、なぁ……っぶは」

『くぅん』


 息も絶え絶えのアイシェラ。

 全身汗だくで顔色も悪い。騎士として鍛えてるとか言ってたけど……一時間の全力疾走はかなりきついらしい。シラヌイなんて走り出してからずっと元気なのにな。

 

「仕方ない。少し休むか」

「そうね……ん、ちょうど近くに川があるみたい。水音が聞こえるわ」

「じゃ、そこまで行くか。おいアイシェラ、立てるか?」

「…………」

「……しゃーねーな」

「な、なにをっ……」


 俺はアイシェラの肩を担いでやる。

 アイシェラは嫌そうに顔をしかめたが、疲れているのか動きが鈍かった。


「くっ……お嬢様以外に触れられるなんて」

「ほんとブレないなお前。そこは素直に尊敬するよ」


 カグヤはどうでもいいのかスタスタと川へ向かう。

 到着したのは綺麗な砂利の川辺だ。魚も泳いでるぞ。

 俺は川べりにアイシェラを下ろしてやり、さっそく自分の顔を洗う。


「っぷは、気持ちいいな」

「ん、飲めるわね。おいしい」


 カグヤも顔を洗い、水をごくごく飲んでいる。

 顔には出さなかったけど、こいつも疲れてるように見えた。

 アイシェラは鎧を外し、手ぬぐいを濡らして額に乗せている。こっちもけっこう疲れてるな。


「カグヤ、大丈夫か?」

「……なによいきなり」

「いや、ハンペンに血を吸われたんだろ? 平気なのか?」

「……は、アンタがアタシを心配するなんてね」

「別にいいだろ。仲間なんだし」

「…………問題ないわ。それでいいでしょ」


 そう言って、川の上流へ向かうカグヤ。


「ちょっと水浴び。覗いたら殺す」

「これからまた走るのに水浴びかよ?」

「うっさい」


 行っちゃった……変なやつ。

 アイシェラが静かだったので様子を見る。


「アイシェラは……あ、寝てる」


 参ったな……プリムに追いつけるだろうか。


 ◇◇◇◇◇◇


「……ぅん」

「おう、起きたか」


 ようやくアイシェラが起きた。

 カグヤも水浴びから戻り、焚火にチーズを溶かして干し肉に垂らして齧っている。

 アイシェラはハッとして飛び起きた。


「し、しまった……おい、どのくらい経った!!」

「一時間くらいかな。ま、ちょうどいい休憩になったぜ」

「アンタも何か食べたら? もうすぐ夜よ」

「そんな暇はない!! 早くお嬢様をお救いせねば!!」

「待てっての。ったく、しょうがねぇなぁ……ほいっ」

「なっ!?」


 俺はアイシェラの腕を掴み足払い、体勢が崩れた瞬間に背負い投げの要領でおんぶした。

 いきなりのおんぶにアイシェラは抵抗する。


「は、離せ貴様!! なんのつもりだ!!」

「お前遅いから俺が背負っていく。軽いし大したことねぇよ」

「なんだと!? ふざけるな、貴様の手など借りん!!」

「うるせぇっての。いいか、お前に合わせて走ってたら間に合わねぇんだよ。俺とカグヤが本気出して走れば夜には到着する。面倒なことになる前にプリムを救いたけりゃ言うとおりにしろって」

「アタシも同意。いい加減、自分がお荷物だって気付きなさいよ」

「くっ……」


 アイシェラは俺の肩を強く握る。

 現在時刻は夕方。走れば夜前くらいにはツァラなんちゃら……ツララでいいか。ツララの国に到着する。

 カグヤは焚火を消し、その場で軽く跳躍した。


「悪いけど、飛ばすから。待つつもりなんてないわよ」

「だから? お前、俺の前を走れると思ってんのか?」

「言うじゃない……じゃあ、先にツァラ、ツァラ……ツララでいっか。ツララの王国に到着した方が勝ちね。勝った方が負けた方に何でも命令できるってのは?」

「いいね……はは、カグヤ、らしくなってきたじゃん」

「そーお? じゃ、始めるわよ」

「お、おい貴様ら……」

「アイシェラ、しっかり掴まってろよ。舌噛まないように」


 俺はロープでアイシェラの身体をしっかり固定し、首をコキコキ鳴らす。

 アイシェラは嫌な予感がしたのか、俺にしがみついた。


「じゃ、よーい……ドン!!」

「っしゃ!!」

『わんっ!!』


 俺とカグヤとシラヌイは、夕暮れの森を全力で走り出した。


 ◇◇◇◇◇◇


「ひゃぁぁぁぁぁーーーーーーッ!? は、はやっ、速すぎるぅぅぅっ!!」

「うるせぇっての。耳元で叫ぶな」


 俺は木と木の間を縫うように走り、カグヤは樹の上に登り枝と枝を蹴るように飛んでいた。

 けっこう本気で走っているけど、カグヤの奴も負けてない。

 アイシェラに合わせて走った速度の五倍くらいは出てる。ロープで固定しているがアイシェラは俺に必死にしがみついていた。

 そして、俺とカグヤに並走する魔獣が現れる。


「お、なんか来た。けっこう速いぞ」

「な……ら、ラッシュウルフだ!! Aレートの魔獣っ!! 気を付けろ、群れが近くにいるぞ!!」

『ゴルルルルルッ!!』『ガルァァッ!!』


 黄色い毛並みのオオカミが俺の後ろについてきた。

 そして、木の幹を蹴って俺の頭上から飛んでくる。どうやら頭に噛み付こうとしているようだ。

 

「アイシェラ、掴まってろ」

「っ!!」


 俺は加速し、ラッシュウルフの噛み付きを躱す。そして方向転換し、ダッシュの勢いを殺せないラッシュウルフに向かってハイキックを叩き込んだ。

 カウンターの要領で入ったので、ラッシュウルフは吹っ飛び樹に激突する。


「……うわ、なんかいっぱい来たな」


 俺たちの背後に、ラッシュウルフの群れが来た……と思ったら、カグヤが俺の目の前に着地した。


「アンタばっかり遊ばせないっての!!」

「じゃ、任せたっ!!」


 カグヤがラッシュウルフの群れに突っ込むと同時に、俺は全てをカグヤにぶん投げ走り出す。


「お、おい!? あいつに任せていいのか!?」

「ま、大丈夫だろ。それにいい足止めになる。勝負はもらったぜ!!」

「勝負って……魔獣が来てるんだぞ!!」

「関係ないね!!」


 カグヤを置いてしばらく走ると森を抜けた。

 森を抜けたと思ったらなんと、目の前に巨大な崖がそびえ立っている。しかもかなり高い……おいおい、こんなところに崖あるなんて聞いてないぞ。


「これは……くそ、迂回するしかないぞ」

「え? いや、登るし」

「ば、馬鹿な。私を背負ってこんな崖を上るというのか!?」

「だから、お前軽いから平気だって。修行時代、全身に岩だの鉄製の重りだのを身体中に巻いて崖登りの往復とか普通にやってたし。この程度の崖なんて楽勝楽勝」

「……とんでもない修行時代だな」

「それに、これだけ取っ掛かりある崖なんて平地と変わんねーよ。じゃ、行くぞ」

「えっ……」

『わんっ』


 俺は跳躍し、崖の取っ掛かりに足を引っかけて飛ぶ、飛んだ先にある取っ掛かりに足を掛けて飛ぶ、掛けて飛ぶ、掛けて飛ぶ、掛けて飛ぶ。シラヌイも同じように飛んだ。

 するとアイシェラが叫んだ。


「の、登るってこんな登り方なのか!? お、落ちるぅぅぅぅっ!!」

「だからうるさいって、よっと、修行時代じゃ両手を拘束されてこれより高くてツルツルした崖登りだってやったんだぞ? こんな穴ぼこだらけの崖なんて平地も平地だって、のっと」

 

 崖をぴょんぴょん登っていくと、崖下から声が。


「待て待てぇぇぇーーーーーーッ!!」

「げ、もう追いついた。アイシェラ、急ぐぞ」

「ひぃぃぃ!! は、早く登れ、登れ!!」


 カグヤがとんでもない勢いで崖を蹴り登ってきた。やばい、あいつ俺より速い。

 俺も急いで崖を登り切り、カグヤもほぼ同時に崖を登り切った。


「よっし!! もうちょいでゴールっ!!」

「負けるかっ!!」


 再び全力疾走……もうすぐ目的地だ。

 崖の先にあった林を全力で走ると、間もなく日が暮れる。

 そして、林を抜けると……ようやくゴールが見えて……見えて。


「……な、なんだあれ……あれがツララの王国か?」

「ふわぁ……すっごい」


 林の先にある光景に魅入ってしまい、俺とカグヤは止まってしまう。

 ツララの王国は、まるで氷の王国だった。

 遠目でもわかる。建物や壁が全て水色の塊……氷で形成されていた。

 心なしか、少し寒い。アイシェラが俺から降りると、ふぅと息を吐いて言う。


「『ツァラトゥストラの氷園』……第二真祖『氷血』ツァラトゥストラの国だ」

「ツララの国ねぇ……あながち、間違ってないな」

「真祖……ふん、喧嘩売るなら蹴り殺してやる」

「お前ら、油断はするなよ。日が暮れた……これからは夜、吸血鬼の時間だ」


 そういえば、ハンペンが言ってた。

 吸血鬼は、夜になると力が増すって。


「じゃ、行くか。プリムを乗せた馬車は……」

「ハンプティダンプティ曰く、まずは『倉庫』に運ばれるそうだ。そこでお嬢様を救出するぞ」

「じゃ、行くわよ!!」

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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