再会と分岐
戦いは終わった。
ハンペンが敗北を認め、全ての吸血鬼が戦いを止めた。
ハンペンは、俺たちが欲している情報を全て話し、カグヤとアイシェラを解放すると約束した。
応接間みたいなところに移動し、ソファに座って待っていると、ハンペンに連れられたカグヤとアイシェラが入ってきた。ちなみにシラヌイは床で丸まって寝てる。
二人ともちゃんと装備を身に付けている。ちなみに、カグヤの怪我は俺の白炎で治療し、傷一つない身体にしたんだけど……こいつ、ずっと無言なんだよな。
「天然物は惜しいが命には代えられん。約束通りこやつらは返そう。それと、お前が望む情報も与える」
「おう。とりあえず無事でよかったぜ、カグヤとアイシェラ」
「「…………」」
「おい、聞いてんのか? ここまで来るのけっこう大変だったんだぜ?」
二人ともだんまりしてる。
ハンペンを見るが首を左右に振るだけ。ミカエルとクロネも首を傾げてる。
話しかけてもシカトなので近づいてみると。
「お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様…………」
「あたしは負けてない……負けてない、負けてない」
「……うわぁ」
だいぶ病んでいた……これは白い炎でも治療できないわ。
アイシェラはプリムと引き離されたショックで、カグヤは屈辱感で満たされていた。
「おいアイシェラ、おーい?」
「お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様……ああ、お嬢様。どんな辱めを受けている? ああ、お嬢様……私が、どうせなら私が」
「ふんっ」
「あいたっ!? 貴様何をする!!」
「あ、戻った」
軽く頭を叩くと戻った。というか、めっちゃ睨んでくる。
「貴様……お嬢様が、お嬢様が!!」
「いや、わかってるって。これからプリムを助けるから落ち着け」
「あああ……お嬢様、いったいどんな辱めを。私が考えていたようなプレイだったりして……はぅぅ、羨まし……ダメだダメだ!! お嬢様、お嬢様は」
「……ダメなのはお前だろ。まぁいいや」
とりあえず、アイシェラは大丈夫そうだ。
問題はカグヤだ。
俺はカグヤに顔を近づける。
「おい、しっかりしろよ」
「……なによ」
「ハンペンに手も足も出なくて悔しいんだろ? 安心しろ、ハンペンは俺が倒したから、もう怯える必要はない。よかったな、俺がいて」
次の瞬間、本気の殺意が籠った蹴りが首に飛んできた。
俺はその蹴りをなんとか防御……こいつ、マジで殺す気だ。
「怯えるですって? アタシを誰だと思ってんのよ!!」
「おーおー、そうやって意気込んで戦った結果があの姿だろ? 認めろよ、お前は精神的な部分が弱い。負けても負けを認めない。意地貼るだけじゃどうしようもないってことを学んでない」
「……アンタ、本気で殺すわよ」
「無理。ハンペンにすら勝てないお前じゃ俺には勝てない。絶対に……ぜっっったいにな」
俺はカグヤを煽る。
応接間に殺気が充満し、クロネの尻尾の毛が逆立つ。
アイシェラは冷や汗を流し、ミカエルは何も言わず足を組んで座っていた。ハンペンだけは「私の名はハンプティダンプティ……」とか言ってたけど無視。
「とりあえず、暴れたいなら後でたっぷり暴れさせてやる。俺がムカつくなら相手してやってもいい。でも、これだけは言っておく……お前は俺より弱い」
「…………」
カグヤは足を引っ込め、ソファにドカッと座る。
とりあえず、カグヤを煽って闘争心を燃やしておく。今言ったが、こいつは精神的な部分が脆いと思う。勝ち気でどんな相手にも怯まないが、勝てない相手に対しても負けを絶対に認めない。それが悪いことじゃないけど、ダメな場合もある、
昔、先生に教えてもらった。強いってのは技だけじゃない、心にも関係あるって。
俺も座り、アイシェラも座る。すると、ハンペンが俺たちの対面に座った。
「……長話をするつもりはない。質問があれば答えよう」
「あのさ、プリムと……えっと、こいつらと一緒にいた天使はどこだ?」
「半天使と天使か。天使はヴァルプルギウス、半天使はツァラトゥストラが連れて行った」
「…………ごめん、もう一回」
「天使はヴァルプルギウス、半天使はツァラトゥストラだ」
「…………」
ハンペンといい、なんで吸血鬼の名前って複雑で長いのよ。
すると、ミカエルが言う。
「ヴァルプルギウス……第一真祖『老血』ヴァルプルギウスね」
「そうだ。奴の国に連れて行かれた」
「……チッ」
ミカエルは舌打ちする。そしてハンペンに質問した。
「真祖は死を克服した。つまり、残りの二人もあんたと同じと考えていいの? 心臓を身体から抜き取り、小賢しくどこかに隠してるのかしら?」
「……その認識で間違いない。それに、私の心臓を抜き取ったのはヴァルプルギウスだ」
「わかった。それで十分……勝算はある」
ミカエルは立ち上がり、ドアに向かう。
「おい、待てよミカちゃん。行くなら」
「無理。あんたは人間を助けたいんでしょ? ヴァルプルギウスとツァラトゥストラの国は、このハンプティダンプティの国の左右隣にある。どちらかを優先したら、もう片方は助からない可能性がある」
「まぁそうかもだけど……」
「それに、収穫はあった。不死の真祖にも弱点があるってわかっただけでもありがたい。フレア、あたしたちの共闘はここまでよ。それじゃ」
「は? お、おい?」
そう言って、ミカエルは部屋を出ようとした……いや待て待て。
「ミカちゃん、おいミカチャンってば」
「ミカちゃん言うな。なによ」
「じゃあさ、クロネを連れて行けよ。一緒にいたならわかるだろ?」
「にゃんですと!?」
「は? なんで?」
「いや、なんとなく。えーと……あ、天使の子を助けたら落ち合おうぜ。俺たちもプリムを助けたら合流するからさ」
「いや、だからなんで?」
「お前、何も考えてなさそうだしな。真祖とかいう奴に喧嘩売って、国ごと相手にしそうな気がする。とりあえず、まずはクロネに情報集めてもらったり、メシとか準備してもらったりしろよ。ここにきて情報の大事さはわかっただろ?」
「…………まぁ、確かに」
俺はクロネに言う。
「クロネ、ミカちゃんのこと頼む。アホな真似しないようにちゃんと止めろよ」
「て、天使を止めるにゃん? うち、そんなこと」
「頼む。プリムを助けたら合流しようぜ。場所はこの国の入口辺りで」
「……わかったにゃん」
「仕方ないわね……クロネ、行くわよ」
「了解にゃん」
ミカエルは、別れの挨拶もなしに部屋を出て行った。
クロネは俺に軽く手を振り出て行く。さて、これで部屋には俺とカグヤとアイシェラ、そしてハンペンだけだ。
さて、質問再開。
「じゃ、続きな。プリムを連れてったのは「どんな奴だ!!」うおっ」
アイシェラが怒鳴るように言う。
こいつ、プリムのことになると急に元気になるな。
「ツァラトゥストラ。第二真祖『氷血』ツァラトゥストラ……奴の国では、人間の『品種改良』が行われている」
「……嫌な予感しかしないな」
「ああ。奴にとって血は遊び道具であり食事、そして実験道具……と言われている。正直、私にもよくわからん。あくまで噂だが、人と魔獣を融合させ混じり合った血を飲んだりと、いわば……珍味好きだ」
「珍味……」
「そうだ。私の国ではあくまで養殖するだけ。本格的な『加工』はヴァルプルギウスとツァラトゥストラが行っている……と、思う。中でも、ツァラトゥストラは異常だ……正直、私はあいつと関わりたくない」
話によると、真祖同士だが互いのことはよくわからないらしい。
それぞれの国に不干渉。これも真祖のルールなのだとか。
「……で、プリムはどこに連れ去られた?」
「恐らく、ツァラトゥストラの個人研究所だ。噂程度しか知らんが、あそこの実験場は悲惨だ……数十年ぶりの天然モノだし、そう簡単に壊されないとは思うが……ここからツァラトゥストラの研究所までは約二日。あと一日ほどで到着するだろう」
「急がねーとヤバいな。カグヤ、アイシェラ、シラヌイ、行くぞ」
俺たちが立ちあがると、ハンペンが言う。
「……こんな言い方をするのは怒りを買うやもしれんが……我々はこれからも人間や獣人、天使を作り続けるだろう。我々が生きるためにな」
「ふーん……ま、いいんじゃねーの?」
カグヤとアイシェラが俺を見る。少し驚いているようだ。
別に、俺は正義の味方じゃない。確かに人間たちが食い物にされているのを見てると気分が悪い。血じゃなくて肉とか野菜食えと思わないでもない。
でも、こいつら吸血鬼はずっとこうやって生きてきたんだ。いきなり生活を変えろなんて無理だろう。
「じゃあさ、せめて作ったなら最後まで責任取れよ。物じゃなくて、命として扱え。お前ら吸血鬼だって、外の国でモノみたいに扱われたらいやだろ?」
「…………善処する」
「それと、覚えておいた方がいいぞ。人間には俺みたいな奴もいる……ちょっとした匙加減で、この国が亡ぶ、いや……吸血鬼が滅ぶことだってあるんだからな」
最後、脅すように殺意を向けると、ハンペンがビクッとした。
「じゃあな」
「……次に会ったら蹴り殺す」
「お嬢様、今行きますからね!!」
こうして、ハンペンの国での戦いが終わった。
俺たちは第二真祖ツァラトゥストラの元へ、ミカエルとクロネは第一真祖ヴァルプルギウスの元へ。
それぞれ、プリムと天使を救うために、それぞれの道へ進む。