BOSS・第三真祖『黒血』ハンプティダンプティ③
俺は全身を赤く燃やし、そのまま跳躍。
全身から燃え上がる炎を槍のような形にして、ハンペンめがけて放つ。
「第一地獄炎、『九龍真炎槍』!!」
炎の槍は九本。狙いはハンペンの身体全体だ。
鎧のように身体を覆っている黒い塊の硬度は今なお高い。とりあえず突いてみる。
すると、ハンペンは防御せずにそのまま動かなかった。
「お前はまだ理解していない」
「───なっ」
ハンペンは、槍を全身で受けた。
黒い塊に直撃した炎は霧散し、皮膚が露出している部分にも炎は命中した……二の腕や顔半分、心臓部分は槍が貫通し、真っ黒に焦げている。
でも、ハンペンは欠けたままの顔で笑っていた。
「わらわは真祖。死を克服した吸血鬼……心臓が破壊されたとて滅びはしない」
「おいおいマジかよ……」
たぶん、さっきみたいなドームで囲って蒸し焼きにする方法はもう効かない。でも、あれはあれで有効だったし、いろいろわかったこともある。
まず、こいつは心臓が弱点じゃない。でも……不死身ってわけじゃない。
「死を克服したとか言ってるけど、弱点はあるぜ。たとえば……お前も生物である以上、呼吸はしないといけないはず」
「さきほどのように炎で閉じ込めるか? 無駄……もう同じ手は通用しない」
「だよな。それと、弱点が心臓じゃないってんなら、どうやって死を克服した? 吸血鬼の弱点は心臓……つまり、心臓が潰されても問題ない『何か』がお前にはある」
「…………単純馬鹿と思いきや、なかなか頭が回る」
「そりゃどうも……まぁ、とりあえずブッ叩いてみるか!!」
俺は炎を纏わせたまま突っ込んでいく。
ハンペンは黒い槍を両手に持ち、クルクル回しながら構えを取る。意外にも隙がないことから、これがハンペンの戦闘スタイルだと確信した。
ハンペンは、長槍と短槍を振り回す。
「このっ、けっこうやるじゃねぇか!!」
俺は槍の軌道を読み、最低限の動きで躱す。
炎を解除し、身体能力を底上げする呪術で全身を強化。ハンペンの槍を躱し続け、チャンスを待つ。
そして、長槍を左手で弾き、突き出された短槍を『漣』で受け流した。
「───!!」
「滅の型、『轟乱打』!!」
両手を使った乱打。
だが、黒い塊には亀裂すら入らない。ハンペンもそれがわかっていたのか、敢えて鎧で受けたようだ。
轟乱打の勢いを利用し、俺はハンペンから距離を取る。
「無駄だ。この『黒血』はブラックオニキス最硬度の血。これを破れた者は存在しない」
「んー……なんかいけそうなんだよなぁ」
俺は手をコキコキ鳴らし、もう一度呪力で全身強化する。
今度はもうちょっと力を込めてみる。そして、もう一度突っ込んだ。
「『黒血槍・十』!!」
「流の型、『流転掌』!!」
ハンペンは俺の真似をしたのか、黒い槍を瞬時に十本生み出し俺に飛ばしてきた。
だが、流転掌で槍の軌道を変え、再度懐に潜りこむ。
今度は乱発ではない、力を込めた一撃だ。
「甲の型、『衝烈拳』!!」
ズドン!!と、ハンペンの身体がくの字に曲がる。
全身の関節を固めた渾身の一撃。だが……これでも黒い鎧に亀裂すら入らない。
ハンペンは、いつの間にか俺の背後に槍を生み出していた。
「もういい……死ね」
「いやだね!!」
俺はハンペンの腹に蹴りを入れて方向転換、飛んでくる槍を全て叩き落し、もう一度ハンペンの元へ。
がむしゃらに、とにかく攻撃を繰り出してみる。
「甲の型『打厳』!! 甲の型『鉄槌』!! 滅の型『轟乱打』!!」
「ぬっ───っ!!」
固めた拳、肘撃ち、そして乱打。とにかく鎧をぶっ壊そうと攻撃を当てまくる。
その間も、ハンペンの槍は飛んだり振り回されたりする。だが、ハンペンはようやく気付いたようだ。自分の攻撃が俺にカスリもせず、自分だけが攻撃を受けていることに。
「ああ……鬱陶しいわ!!」
「うるっせぇぇぇっ!! 滅の型、『桜花連撃』!!」
「なにぃぃっ!?」
流れるような拳と蹴りの連続攻撃……ついに手ごたえが。
黒い鎧に亀裂が入った。これにはハンペンも目を見開く。
桜花連撃の衝撃で吹っ飛んだハンペンは、体勢を崩している。
「甲、滅の型【合】───『捻打厳』!!」
「っご、がぁぁぁっ!?」
右手に呪力を渦上に纏わせた正拳突きを喰らったハンペンは吹っ飛び、鎧は砕かれた。
もちろん、俺の追撃は終わらない。両手のひらに呪力を集め、ハンペンの身体をなぞる。
「流の型、『波紋掌』」
「こ、のっ!! がぁぁぁっ!!」
「おっと」
ハンペンの身体に触れたが、すぐに槍が飛んできたので回避した。
砕かれた鎧の下には白い肌があり、俺の一撃で内出血したのかどす黒くなっている……が、ブクブクと泡立ったかと思いきや完全に治ってしまい、鎧も一瞬で復元された。
「誇ってよいぞ。貴様……わらわの鎧を砕いたのだ」
「ああ、めっちゃ硬かった」
「だが、見ろ。貴様の攻撃も、砕かれた鎧も……元通り。何の意味もない」
「…………」
「貴様の技量は認めよう。その若さで恐るべき熟練度の技の数々だ。このまま戦いを続けても貴様の勝ちはないが……わらわの国は甚大なダメージを負うのは免れん。どうする? このまま帰るのだったら追撃はしない、罪も問わん。それとも、わらわのために働くというなら側近にしてやってもいい」
「いや遠慮しとく。それに、もうわかったから」
「…………なに?」
俺は勝利を確信した。
なーんだ。蓋を開ければ大したことねぇじゃん。
「あんたの不死の秘密わかったし、そこを潰せば俺の勝ちだ」
「……狂ってしまったようだな」
「いや、違う違う。あんたの鎧は確かに硬いけど、身体は生身だよな? 波紋掌……鎧を壊して肌に直接触れただろ? あれは攻撃じゃなくて、あんたの体内に呪力で波紋を作って身体の中を調べる技なんだ」
「…………」
「それで、不死身の秘密なんかわかんねーかなーって思ったら、簡単にわかった」
「…………」
なんとなく、違和感はあった。
最初の『九龍真炎槍』を受けたの、どうもわざとらしかった。
心臓が弱点じゃない。だから心臓を破壊しても無駄。そういう風に見えた。
でも、答えがわかれば簡単だ。
「あんた、心臓がないんだろ? たぶん、自分の心臓を抜き取ってどこかに隠してる。心臓が破壊されれば死ぬってんなら、最初から心臓だけをどこかに隠せばいい。体内を波紋掌で診たとき、心臓のある部分が空っぽだったからすぐわかった」
「…………」
「さて、ここで問題になるのが、お前の命とも呼べる心臓の場所だ。隠すならやっぱり、誰も知らない金庫とか、厳重な封印ってところだろ? お前がそれを言うとは思わないし……」
「…………貴様」
「なら簡単。身体に聞けばいい」
俺の身体から、純白の炎が燃え上がった。
◇◇◇◇◇◇
純白の炎が燃える。
「第四地獄炎の聖母『天照皇大神』よ───」
純白の炎は形となる。
真っ白な白衣が俺の身体に。白磁の縁で作られ、羽のような意匠の片眼鏡が片目に装着される。
とても清らかな炎だった。優しく、ほんのりハッカ臭がするのが心地よい。
「魔神器───『天照如意羽衣』」
第四地獄炎の魔神器『天照如意羽衣』。
これは、あらゆる情報を見ることができる。そして、純白の炎で治療可能。さらにすごいのは魔力を消費することなくどんな怪我や病気も治せる。
もちろん、かなりヤバい対価もあるけど、今はいい。
「な、なんだ……それは」
「お前、もう終わりだよ……『診断』」
モノクルに、ハンペンの肉体情報が表示され、俺の脳内に直接情報が入ってくる。
やはり思った通り、心臓がない。
「ほうほう。心臓を再構築することもできるな。でもいいや。こいつの心臓がどこにあるか…………ああ、見つけた。この真下か」
「貴様!!」
ハンペンの心臓を治すために必要な情報が表示される。つまり、失った心臓を治すために、元の心臓がどこに隠されているか、その情報をスキャンしたのだ。
驚いたことに、ハンペンの心臓はこの部屋の真下。部屋とかではなく、地中深くに埋められていた。
俺は魔神器を解除し、突っ込んでくるハンペンの槍を素手で摑む。
「一度だけチャンスをやる。心臓ぶっ潰されて死ぬか、カグヤたちに謝ってプリムたちの居場所吐くか……選べ」
「……っ」
もう、俺には勝てないと踏んだのか……ハンペンの手から力が抜けた。
「……わかった。わらわの負けじゃ」
「よし。じゃあ終わり……お、あっちも終わったみたいだな」
今気づいたが、ミカエルとクロネとシラヌイも、吸血鬼たちを倒し終えたようだ。
さてさて、ようやくこれで終わりだな。
すると、ハンペンが言う。
「一つ聞かせろ……あの純白の炎を最初から使えば、お前の勝ちではなかったのか?」
「ああ、あの魔神器のことか。あれ使うと、戦う力が全て奪われるんだよ。腕力も赤ちゃん並になるし、格闘技も使えない。治療特化しすぎて戦う力を失った姿……みたいなもんか」
「……なるほどな」
ま、はったりかまして使ったけど、あの時に攻撃されたらやばかった。
とりあえず、戦いは終わりかな。




