不知火
天気も良く、絶好の徒歩日和だ。
俺ことフレア、姉弟に嫌われまくってる末っ子王女プリム、頭のおかしい騎士アイシェラと、馬屋で買った白犬ことシラヌイの一行は、ブルーサファイア王国に向かって歩いていた。
ブルーサファイア王国は海に浮かぶ王国で、海沿いの町から船が出ているらしい。そこまで馬車で半月ほどなのだが……徒歩だと一月はかかるそうだ。
「……というかフレア、説明が酷すぎます!!」
「おい、頭のおかしい女騎士だと?」
「いや、なんで俺の心を読んでるの? なぁシラヌイ」
『きゃうぅぅんっ!!』
シラヌイは尻尾を振ってハッハッハと息を荒くしていた。
まぁ、これが俺たち一行だ。
しかもプリム、天使とかいう妙な連中に狙われてるっぽい。
「なーなー、天使ってまた来ると思う?」
「わからん。だが用心しておけ、それがお前の仕事……お前はなるべく天使から狙われるように行動し、その隙に私と姫様が全力で逃げる……うむ、いい作戦だ」
「それ、俺を見捨ててるだけだろ……」
「雇われ護衛の務めを果たせ。私も姫様と添い遂げる覚悟を決めよう」
「アイシェラ、キモい」
「うっ……ふぅ」
アイシェラ、ガチでキモい。こいつが一番の危険人物に見えるのは俺だけか?
街道をのんびり歩いていると、シラヌイがピタッと止まる。
『ぐぅるるるるぅぅ~……っ!!』
「ん、シラヌイどうし……」
ガサガサと近くの藪が揺れ、黒いオオカミが飛び出してきた!!
俺もアイシェラも気付かなかった。
俺はすぐに拳を構えようとしたが、すでに飛びかかってきているオオカミのが早い。
覚悟を決め、二の腕に噛みつかせてそのまま燃やしてやろうと考えた瞬間。
『ガァッ!!』
「え、シラヌイ!?」
なんと、シラヌイの身体が燃えた。
比喩なんかじゃない。マジで燃えた。
『ガァルルルッ!!』
『キャウゥゥッッ!? ガァァァッ!?』
そのまま黒いオオカミの喉笛に噛みついて地面に落とし、燃える身体と牙で黒いオオカミの喉を食い破り、黒焦げに燃やしてしまったのだ。
これには、俺もアイシェラもプリムも驚いた。
「あ、あの……犬って燃えるの?」
「ば、バカを言うな……こんなの、知らんぞ」
「…………燃える犬。どこかで……あ、あぁぁっ!! もしかして!!」
『きゅーん』
シラヌイの身体の炎が消え、尻尾を振りながら俺のもとへ……もしかして、撫でてほしいのか?
俺はシラヌイを撫でると、尻尾をブンブン振って喜んでいた。
プリムは、シラヌイをなでなでする。
「たぶんこの子、『焱犬アマテラス』ですよ。火を司る霊獣です!!」
「なーんだそれ? 白犬じゃん」
「貴様!! なでなでしながら説明する姫様の説明を遮るな!! あぁもう可愛い……抱きたいぃぃぃぃっ!! あぁぁっ!!」
「アイシェラ死ねクソが。あのですね、この世界には八つの属性がありまして、それぞれを司る霊獣が存在するんです。たぶんこの子はその内の一体……真っ赤に燃え上がるワンちゃんなんて聞いたことありませんし」
「八つの属性?」
「はい。火、水、土、風、光、闇、雷、そして無です」
「へー……なんで馬屋に霊獣がいたんだ?」
「そ、そこまでは……でも、きっとフレアと出会ったのは運命ですよ」
「ふーん。まぁいっか、燃える犬なんて面白いしな」
「そ、そこですか……」
シラヌイはずっと尻尾を振ってる。
俺はプリムの隣にしゃがみ、シラヌイを撫でた……うん、やっぱフツーのワンコにしか見えん。
すると、プリムの暴言に悶えていたアイシェラが言う。
「と、とにかく……それが『焱犬アマテラス』だろうが野良犬だろうが、先に進むことに変わりありません。行きましょう」
「そうね。それとアイシェラ、私の髪の匂い嗅がないで」
「アイシェラ、あんたマジで天使より危険かもな」
「ここ、これはその……姫様の髪に葉っぱが」
葉っぱねぇ……めっちゃ嘘くさい。
ともかく、シラヌイが燃えるワンコで、けっこう強いことがわかった。
新しい護衛として、これからも役に立つだろう。
それに、俺に懐いてる。
『がるるるるるっ!!』
「な、なんだこの白犬め!! 面白い……姫様、この犬から離れてください!! こいつは私が!!」
「あなたが私の胸に触ったからよ。ね?」
『くぅぅん』
あとプリムに懐き、アイシェラはガチで嫌われてる。
うん。アイシェラが一番の危険人物ってことで。