BOSS・第三真祖『黒血』ハンプティダンプティ①
城の中に入ると、数人の吸血鬼が出てきた。
俺は構え、ミカエルは剣を突きつけ、クロネは右手の短弓に矢を番える……が、吸血鬼たちは丁寧に一礼し、俺たちに言った。
「我らが主がお待ちです。ご案内いたします」
「え、なんで? なぁミカエル」
「知らないわよ。でも……用心しなさい。相手は真祖よ」
「真祖ねぇ……」
「くんくん……にゃ、匂うにゃん。アイシェラともう一人……ここ、匂うにゃん」
クロネがくんくん匂いを嗅ぐ。
獣人ってすごいなと思いつつ、俺たちは吸血鬼に付いていくことに。
案内されたのは、ダンスホール……なのか? なんかめっちゃ広い空間だ。半円形で、天井にはいくつものシャンデリア、壁には壁画が描かれていた。
「ちょ、あそこ!!」
クロネが何かに気付き、指さす。
部屋の奥には大きな椅子があり、そこに二十歳くらいの女が座っていた。
それだけじゃない。椅子には鎖が二本伸びており、その鎖は首輪に繋がり、その首輪は……俺のよく知る女二人の首に巻かれていた。
「アイシェラ、カグヤ。ようやく見つけた……ったく、素っ裸で何やってんだ」
「待ちなさい。様子がおかしいわ」
「……血の、匂い」
クロネが、ポツリと言った。
俺は首輪に繋がれ、倒れたままのカグヤを見る。
素っ裸だった。そして……首のあたりの皮膚がボロボロになっている。気を失っているのか、たまに痙攣していた。
「…………」
俺の中で、何かが急激に冷えていく。
すると、玉座に座った女が、肘掛けに肘をつき優雅にほほ笑んだ。
「やってくれたなぁ……お前たち、養殖場を燃やしてくれるとは」
「なぁ、その二人を返せ」
「ふむ? この餌の仲間かえ? 悪いがそれはできん。そもそも、お前たちをここに招いたのは」
「放せっつってんだ……!!」
俺の身体は、いつの間にか燃えていた。
女は目を見開き、感心したように言う。
「なるほど、呪術師……まだ生き残りがいたのか」
俺はカグヤとアイシェラの元へ歩きだす。すると、俺たちをここまで案内した吸血鬼が、道を塞ぐように立ちはだかる。
「主がお話し中です」
「それ以上は「どけ」
俺は吸血鬼二名に触れ、一気に燃やす。
叫び声も上げることができず、吸血鬼二人は炭化した。
俺は、玉座に座る女に言う。
「なぁ、お前ってここで一番偉いのか?」
「いかにも。わらわはハンプティダンプティ……この国の女王じゃ」
「ああ、ハンペンなんちゃらか。その二人に何した?」
「血を吸っただけじゃ。若く美しい処女の血は極上の甘露……人間のお前にはわからんだろうがな」
「ああ、知らねーよ。でも……そいつら二人は俺の仲間だ」
俺はハンペンなんちゃらの傍まで行く。
ハンペンなんちゃらは特になにもせず、カグヤを抱き起す俺をじっと見ていた。
ミカエルとクロネは、そんな俺を見ている。
「おい、カグヤ。おい……しっかりしろ」
「…………ぁ」
「よお、迎えに来たぞ」
「……な、い」
「あ?」
カグヤは、うつろな瞳でぼそぼそ呟いていた。
俺が見えているのか、青白い顔で、俺ははっきり聞いた。
「あ、たしは……負けて、ない」
「…………ああ、そうだな。お前は負けてない。お前は強いからな」
「……ぅ」
そして、俺の胸に顔をうずめ……ポロリと涙を流した。
アイシェラを見ると、完全に気を失っているようだ。カグヤと同じように、首元に刺されたような傷が無数にあり、失血によるショックで気を失っているようだった。
ハンペンなんちゃらは、くだらなそうに言う。
「美しいだろう?」
「…………」
「ふふ。安心しろ、まだ死にはしない……これほどの甘露、そうやすやすと死なせはせんよ」
「…………」
「お前、こいつとアイシェラの血を吸ったな?」
俺は、カグヤをそっと抱きしめる。
血を流しすぎたのか、身体が妙に冷たい。
きっと、血を多く吸われたのだろう。それでも屈することなく耐えていた。
「こいつは……バカで間抜けで単細胞で、大飯ぐらいで何かあれば文句ばかり言う。自分勝手でムカつく奴だけど……強くて、誇り高い。俺はこいつのそんなところがけっこう好きだ」
出会った時から、戦いのことしか頭にない奴だった。
自分勝手で傍若無人、頭も悪いしいちいちムカつく。
でも、強かった。
「そんなカグヤを、ここまで追い詰めやがって……真祖だか何だか知らねーけど、俺の仲間にした仕打ち、覚悟できてんだろうなぁ……!!」
俺はカグヤとアイシェラを拘束している鎖を掴み、炎で一気に焼き切った。
そして、ハンペンなんちゃらの顔色が変わる。
「ああ……お前、わらわに喧嘩を売ってるのじゃな?」
「そうだな。てめぇの顔面ぶん殴ってやりたいって思ってる」
「ふん。やれるものならやってみろ……お前たちをここに呼んだのは、わらわ自らの手で断罪してやろうと思ったからじゃ。養殖場を破壊した罪、命で支払ってもらおうか」
すると、天井から何人もの吸血鬼が下りてきた。今まで蝙蝠のようにぶら下がっていたらしい。
俺はミカエルとクロネに言った。
「ミカエル、雑魚はよろしく。クロネはカグヤとアイシェラを」
「……ええ、任せるわ」
「わかったにゃん!」
俺はハンペンなんちゃらを睨むが、ハンペンなんちゃらは肘掛けに肘を付いたままだった。
この野郎、完全に舐めてやがる。
「呪闘流甲種第三級呪術師ヴァルフレア。お前、マジで許さねーからな」
「第三真祖『黒血』ハンプティダンプティ……やれるものならやってみろ」
俺は決めた。このクソ吸血鬼、ぶちのめしてやる。