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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第七章・闇夜に煌めく吸血鬼

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ハンプティダンプティ、夜の宴⑩/救出、そして

 フレアが養殖場入口で大暴れしている頃、クロネとミカエルは養殖場内にある倉庫へやってきた。

 クロネの手にすでに地図はない。マップを記憶したので必要ないのだ。

 ミカエルは剣を担ぎ、クロネに聞く。


「ここ?」

「にゃん。ここが『商品』の保管場所……くんくん、匂いがするにゃん」

「なるほど、ね」


 巨大な鉄扉だった。

 近くには運搬用の荷車も置いてある。ここに商品を保管し、ブラックオニキス領地全体に運ばれるのだ。

 クロネが鉄扉を開けようと鍵穴を探していると、剣を構えたミカエルが。


「どきなさい」

「え、ちょ」

「『炎上刃(バルジャンブレード)』」


 剣が真っ赤になり、超高熱を帯びた剣になる。

 目にも止まらぬ斬撃で、鉄扉はバターのように細切れになった。

 

「さ、行くわよ」

「……力技にゃん。こいつ怖いにゃん」

「何か言った?」

「な、なんでもないにゃん!!」


 二人は倉庫内へ。

 倉庫内は広く、四肢を固定された人間、獣人、天使などが全裸で拘束されていた。

 全て『商品』なのだろう。拘束されている者たちの目に生気はなく、裸だというのに羞恥すら感じていないようだった。

 倉庫内には、見張りの吸血鬼が数人。


「なんだ貴様「邪魔」


 だが、ミカエルにあっさり切り殺された。

 ミカエルはクロネに質問する。


「けっこうな人数ね……百人くらいかしら?」

「たぶん、今日『完成』した『商品』にゃん。あっちの別倉庫には妊娠している奴とか、子供とかもいるはず……数にして二百くらいにゃん」

「さすがに、全員を運ぶのは骨ね……あ、そうだ。外にあった荷車使えないかしら?」

「それを言おうと思ってたにゃん。あの大きさなら一台で五十人は乗れる。力のある獣人たちに引かせれば、三台くらいで全員乗れるにゃん」

「わかった。じゃあ……まずは全員をここから出さないとね」

「うちはあっちの倉庫に行くにゃん」


 ミカエルは剣を掲げ、倉庫内に響く声で言う。


「聞きなさい!! あたしは聖天使教会十二使徒『炎』のミカエル!! 吸血鬼のムカつくやり方に頭にきてるからアンタらを解放してあげる!! 自分の自由な人生を送りたい奴はあたしに付いてきなさい!! どう!? 自由になりたい!?」


 ミカエルの叫びに、『商品』たちの目が輝きを取り戻す。

 

「自由……」「行きたい……生きたい」「外に、出たい」

「もう、餌なんて嫌」「おれは生きる、生きるんだ」

「ミカエル……ミカエル」「ミカエル、ミカエル」

「「ミカエル、ミカエル」」「「ミカエル、ミカエル」」

「「「「「ミカエル、ミカエル!! ミカエル!! ミカエル!!」」」」」


 倉庫内に、ミカエルコールがこだまする。

 さすがのミカエルも恥ずかしいようで、静かにするように怒鳴った。

 ミカエルは、全員の拘束を叩き斬り、外にあった荷車に乗るように指示を出す。


「力のある獣人は手分けして押すように!! 女子供が優先よ、さっさと乗りなさい!!」

「…………」

「なによ、クロネ」

「いや、あんた、すごいリーダーシップがあるにゃん」

「当然」


 全員を荷車に乗せ、力のある獣人たちが荷車の周りに集まった。

 ちなみに、全員素っ裸だったので、クロネが適当なシーツを集めて男たちの腰に巻く。さすがに見たくない物もブラブラさせながら外に出るのは嫌だった。

 

「脱出路は?」

「隠し通路があるにゃん。この養殖場、入口が正面だけって思われてるけど、実は大昔に作られた地下経路があるにゃん。今は使われてないけど、外まで繋がってるはずにゃん。解放軍もそこで待ってるはず」

「都合のいい通路があったもんね……まぁいいわ。フレアを呼ぶわよ」

「にゃん、頼むにゃん」


 ミカエルは剣を掲げ、炎の玉を打ち上げる。

 炎玉は空中で花火のように爆ぜた。


「……お、やったのか」


 これを見ていたフレアは、クロネたちに合流……する前に、最後の仕込みを発動させた。


 ◇◇◇◇◇◇

 

「おーい、終わったぞー」

「遅い。行くわよ」

「にゃん。こっちにゃん」


 フレアが合流し、クロネ案内のもと荷車は走り出す。

 途中、壁を突き破ったりしながら到着したのは、養殖場の最奥にある資材置場だった。

 というか、行き止まりである。


「おいクロネ」

「ここでいいにゃん。えーっと……あ、ここ」

 

 地面をペタペタ触るクロネ。

 そして部屋の隅にある床を足でコツコツ蹴り、ミカエルに言った。


「ここを斬るにゃん。あ、丁寧にお願い……地下通路の入口にゃん」

「こ、こんな倉庫の下に?」

「そうにゃん。言ったはずにゃん、今は封鎖されて使ってないって」

「そ、そう……とりあえずわかった」


 ミカエルがバターを切るようにクロネの指示で床を切る。

 床を取り除くと、地下へ通じる道が現れた。スロープのようになっていて、荷車程度なら簡単に通れそうな、しっかりした造りの通路だ。


「たぶん、大昔にここで作られた人が残した脱出経路にゃん。見つかって封鎖されたようだけど、ちゃんと残っているようにゃん」

「へぇ……お前、短時間でこんな道まで見つけるのすげぇな」

「ふん。当然にゃん」


 一行は、地下通路へ降りていく。

 殿を務めるのはフレアで、最後に思いきり全身を燃やし、倉庫内を大火事にした。

 

「っと……これで養殖場は燃え尽きるだろ。あちこちに仕掛けた種火もよく燃えてるみたいだし、この炎は水じゃ消えないし、施設を焼きつくす頃に消すか」


 倉庫から出火して一時間後……養殖場は完全に燃え尽きた。

 これにより、ハンプティダンプティの国ではエサの養殖がしばらく不可能になる。

 これまでにない、食料不足の到来であった。


 ◇◇◇◇◇◇


 地下通路の途中、崩れている箇所も少しあったが、俺とミカエルの炎で吹き飛ばしながら進み、出口が見えてきた。

 

「お、見えた……外だ」


 外に出ると、ハンプティダンプティの国がやけに遠くにあった。


『わんわんっ!! わんわんっ!!』

「お、シラヌイ。解放軍の護衛、ありがとな」

『わぅぅん』


 シラヌイには、下水道から外へ移動する解放軍の護衛を依頼していた。

 そして、解放軍たちは、同胞の解放に喜んでいた。

 ナシエルは、俺たちに言う。


「このままイエロートパーズ王国まで向かう。廃村までの護衛を頼みたいところだが、あとは我々が力を合わせて進むことにする」

「大丈夫なのか?」

「ああ。幸か不幸か、知識だけはある。魔獣を避けつつ廃村まで向かうルートはすでに構築済みさ。それに、まだ戦える獣人もいるし、なんとかなるだろう」

「……気を付けなさい」


 ミカエルが腕組みし、ナシエルに言う。


「生まれは違えども、あんたらは同じ天使の仲間。何かあったらあたしを呼びなさい……力になるわ」

「……ありがとう。もし可能なら、他の領土にいる同胞たちも救ってくれ」

「ああ。できたらな。な、クロネ、ミカエル」

「にゃん。できればにゃ」

「そうね。できたら」


 ジュウジやヒュウマとも挨拶し、解放軍たちはイエロートパーズ王国の廃村に向かって出発した。

 それらを見えなくなるまで見送り、残ったのは俺たち三人。


「なぁ、あいつら食料とか大丈夫なのか?」

「いちおう。作物の種とか渡したにゃん。少し時間がかかるかもだけど、あの廃村には畑もあったはず。手入れすればすぐに使えると思うにゃん」

「……詳しいのね」

「……故郷、だったからにゃ」


 ほんの少しだけ、クロネは寂しそうに俯いた。

 俺はクロネの頭を撫でると、手を払いのけられた。


「さわんにゃ」

「はいはい。じゃ、行くぞ」

「え?」


 クロネが不思議そうに聞いたので、俺は迷いなく言った。


「あの国で一番偉い奴。ハンペンなんちゃらのとこだよ。プリムたちを助けないとな」


 吸血鬼の強さを知った俺は、真正面から乗り込むことに決めた。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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