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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第七章・闇夜に煌めく吸血鬼

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ハンプティダンプティ、夜の宴⑨/吸血鬼の貴族と魔性化

 吸血鬼、なんか顔色悪いし耳は尖ってるし牙みたいな歯も生えてる。

 血が大好物って話だけど、人間や天使を養殖してまで飲みたいのかね。


「なぁ、お前ら吸血鬼ってメシ食えねーの?」

「め、メシ?」

「うん。肉とか魚とか。あとお菓子とか……血じゃないとダメなのか?」

「い、いえ。そんなことはありません。他の食事も取れますし、血は飲まなくても死んだりしませんが、その……やはり他の食事と血を比べると、血の方が美味なので」

「ふーん。とりあえず他のメシ食えるならそうしろよ。お前らだってさ、ブラックオニキス領地以外の場所で、吸血鬼が『美味』だからって嬲り殺しにされたらいやだろ?」

「は、はい! そ、その通りです……」


 俺は、養殖場の壁際に吸血鬼の一人を追い詰めていた。

 吸血鬼は俺に敵わないと知るな否や敬語になり、ブンブンと首を縦に振る。

 こいつに言ってもしょうがないけど、言いたいことはいわせてもらおう。


「とりあえず、この養殖場をぶっ壊すか」

「えぇぇぇっ!?」

「…………なに? 文句あんのか?」

「いえ全く滅相もない」

「ん、よし」


 吸血鬼は、俺の背後に転がる無数の吸血鬼たちを見て顔をさらに蒼くする。

 ざっと百人。俺を始末しようと襲ってきた吸血鬼の警備員たちだ。

 戦っているうちにわかった。吸血鬼は怪我してもすぐに治るけど、締め付けたり継続的な痛みを与えるのが効果的らしい。いろいろ実験しているうちに全滅してしまった。


「あんまり聞きたくないけど、養殖場で『人間や天使』ってどうやって作るんだ?」


 俺は『エサ』という単語を使わなかった。当たり前だけどな。

 吸血鬼は、俺が怖いのか震えている。いや、ビビらせるつもりはないんだけど。


「えええ、えっと。同種族のオスとメスを交配させます。幼体ができたら母体管理をして「あーもういい、わかったわかった」は、はい」


 たぶん、碌な方法じゃないな。

 

「じゃあ、この施設をぶっ壊すの、どうすればいい?」

「こ、壊すのですか……えっと」

「ないのか? じゃあ仕方ない。物理的にぶち壊すか。地獄炎で徹底的に燃やせばいいだろ」

「え……ほ、ホントに壊すんですか!?」

「うん。だってムカつくし」


 仮に、仮にだ。

 もしブラックオニキス領地じゃない別の領地で吸血鬼が虐げられ、理不尽な扱いを受けていたら。そしてその吸血鬼に助けを求められたら。俺はきっと手を貸すだろう。

 俺は正義の味方だ。なんて言うつもりはない。

 でも、ブラックオニキスの吸血鬼のやり方はムカつく。人をエサとかふざけんなっつーの。メシ食えるならメシを喰えっての。

 吸血鬼は歯ぎしりをしていた……む、なんだ? 笑ったぞ。


「舐めるなよエサ風情が!!」

「っ!!」


 吸血鬼が叫ぶと同時に俺は横っ飛びする。すると、巨大なハルバードが背後から突き出され、俺の目の前にいた吸血鬼の心臓に突き刺さった。


「こ、ぁ……」


 吸血鬼の弱点である心臓が潰れ、俺と会話していた吸血鬼がボロボロのクズになって消滅した。

 俺は、このハルバードの持ち主である吸血鬼を見る。


「よくもまぁ、暴れてくれたものだ」

「まーな。不意打ちクソ野郎」


 デカいな。

 二メートルくらいの身長、華奢かと思いきや意外と鍛えられた肉体をしている。

 装飾の施された立派なマントを付けた、オールバックのおっさんだった。当然だが吸血鬼である。

 不意打ち吸血鬼はハルバードを肩に担ぐ。


「エサが暴れていると聞いて来たが……やれやれ、警備隊の質も落ちたものだ。なまじ強い再生力があるからと訓練を怠けてしまう。人や天使にも手練れがいるということを忘れてしまっているな」

「あー確かに。こいつら全員雑魚すぎる。動きも素人だし剣の振り方もへなちょこだしな」

「そうだな。では死ね」

「うおっ!?」


 いきなり振り下ろされたハルバードを俺は躱す。

 なかなかの速度だった。不意打ちという効果もあり、ちょっとだけ驚いたぞ。

 俺は構え、不意打ち吸血鬼を睨む。


「あんた、けっこう強そうなくせに、不意打ちばっかだな」

「闘争に不意打ちも卑怯もあるまい」

「ま、確かに。偉そうな態度からけっこう偉い吸血鬼とみた!」

「……餌に名乗っても仕方ないが」


 不意打ち吸血鬼は優雅に一礼した。


「我が名は吸血貴族オルバニード。主ハンプティダンプティ様よりこの養殖場の警備長という職を賜った吸血鬼である」

「俺はフレア。よろしく」

「よろしく。では……死ね」


 ハルバードをクルクル回転させ、オルバニードが襲い掛かってきた。


 ◇◇◇◇◇◇


 はっきりと思う。

 俺は羨ましかった。


「くっ、はぁぁっ!! この、逃げるなっ!!」


 装飾の施された立派なハルバードだ。

 槍と斧が合体したようなデザイン……いいなぁ。


「このっ!! エサごときにっ!! この私、がっ!!」


 武器か……ブレードと銃も立派な武器だけど、男としては剣や槍を使ってみたい気持ちもある。

 そこで出たのがこのハルバードだよ……なにこれ、欲しいんだけど。

 

「流の型、『漣』」

「ぬおっ!?」

「滅の型、『桜花連撃』!!」


 突き出されたハルバードの側面を叩いて軌道を変え、体勢が崩れたところで連撃を叩き込む。

 オルバニードの顔面や身体に突き刺さった拳は骨を折り顔面が潰れ、歯が折れる。だが、ブクブクと泡のような物が浮かび上がり傷が治っていく。


「っく……このエサめ、なんて技の熟練度」

「んー、あんたは大したことないな。というかさ、吸血鬼って回復力あるだけで弱っちいな」

「……なんだと?」

「だって、鍛えるとかしてないんだろ? あんたのハルバードだってそこそこは使えるみたいだけど、俺から見れば大したことないし。振りも大雑把だし、身体の動きで次の手が簡単に読める」


 ラルゴおじさんの槍裁きに比べたら雑魚も雑魚だ。

 遠目で見ただけだが、ラルゴおじさんが俺と同年代くらいの呪術師に武器術教えてたなー……あれは羨ましかったよ。

 俺の言葉に腹が立ったのか、オルバニードの額に青筋が浮かんでいく。


「舐めやがって……吸血鬼の恐ろしさも知らねぇエサが!!」

「いや、怖くないって。あんた雑魚だし」

「ほざけ!! だったら見せてやる……貴族のみに許された真の力をな!!」


 オルバニートはマントを放ると、身体から蒼い光がボウッと浮かぶ。

 そして、全身に青筋のような線が浮かび、肉体が膨張して顔つきが変わっていく。身長も四メートルくらいになり、二足歩行で歩く全身毛むくじゃらの牛みたいな姿になった。


「なんだこれ……牛? 牛肉か?」

『はははははっ!! 恐れろ、これが吸血鬼の真の姿『魔性化』だ!! 貴族のみが得ることのできる究極の姿……フハハハハハ!! 貴様はこの姿で喰らいつくしてやる!!』

「ふーん。まぁいっか」


 オルバニートはハルバードを持つ。

 身長が大きくなったので棒切れみたいに見えるな。


『さぁ、死ねぇぇぃっ!!』

「牛かぁ……なんか肉が食いたい。終わったら肉食べようっと」


 振り下ろされたハルバードを躱し、俺はオルバニートの懐へ潜り込む。

 こんなにデカい牛だ。さぞかし食いごたえがあるだろう……なんてな。


「第一地獄炎、『煉獄葬送』」


 オルバニートの足に触れ、全力で『着火』した。

 巨大な火柱がオルバニートを包み込む。


『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァーーーーーーッ!?!?』


 生きたまま焼かれるのは辛いだろうな。

 俺も経験がある。肉が崩れ、魂だけになり焼かれる……まぁ慣れれば問題なかったけど。

 オルバニートは真っ黒こげになり、墨のようになって倒れた。

 火を止めると、木炭が転がっているようにしか見えなかった。

 ここまで燃やせば再生しないようだ。また新たな発見。


「うし、終わり……はぁ、腹減ったなぁ」


 こうして、足止めするはずが警備隊を全滅させてしまう俺だった。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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