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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第七章・闇夜に煌めく吸血鬼

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ハンプティダンプティ、夜の宴⑧/養殖場襲撃

 真祖は三人いる。だが、敵対しているわけではない。

 ブラックオニキス領土を三分割し、個々に王国を築いている。そのうちの一つがフレアたちのいる『ハンプティダンプティの夜会』という王国だ。


 この『ハンプティダンプティの夜会』には養殖場がある。人間、獣人、天使を『生産』し、二人の真祖が治める王国へ『輸出』しているのだ。

 当然、見返りもある。それぞれの王国が吸血鬼にとってなくてはならない存在であるということは、三人の真祖も重々承知している。


 真祖たちは同格の存在だ。

 誰か一人でも欠ければブラックオニキスは大きくゆがむ。そうならないように、裏切らないように、三国を発展させてきた。

 

 そして、『ハンプティダンプティの夜会』で最も大きな養殖場。

 ここには巨大倉庫もあり、養殖した『餌』にある程度の知能を持たせる施設があった。知識の高い『餌』は血も美味であるということは吸血鬼にとっては常識である。

 だが、餌の中にも優劣があり、知識を習得することが遅い者などは容赦なく『廃棄』される……大昔は『掃き溜め』と呼ばれる下水に直接投棄していたが、最近は『処理機』と呼ばれる魔道具に投棄してミンチにするのが一般的だ。


 ミンチにした肉はそのまま加工され、吸血鬼に振る舞われるという。

 吸血鬼は血液だけでない。肉も野菜も食べる。

 ただ……血が好きなのだ。好きだからこそ主食なのだ。

 

 ある日。養殖場の警備担当である吸血鬼のエドモンドは、大きな欠伸をしながら同僚のミッツカルロに話しかけた。


「なぁミッツ、今日はどうするよ?」

「あぁ? ったく、お前も物好きだな……廃棄処分の餌なんてマズいじゃねぇか」

「へへ。わかっちゃいねぇなぁ。廃棄の餌ってばいい声で鳴くんだよ。肩の肉を食いちぎって吸血するとビクビク痙攣しやがるんだぜ? その時の恐怖がいいスパイスになって、血の味に深みが増すんだ。それに、食いちぎった肉の味も「あーあー、お前のゲテモノ好きはわかった」……んだよ」


 ミッツはエドモンドの話を遮る。

 彼らが警備しているのは養殖場の正門である。養殖場にはこの正門しかなく、仮に脱走するならこの門を抜けるしかない。

 過去、脱走した例は今のところない。それもそのはず……脱走者はみんな『掃き溜め』から脱走しているのだから。


 それに、この養殖場を襲撃するメリットはない。

 吸血鬼にとってここは食事を作るレストランのような場所だ。もし襲撃しようものなら真祖が黙っていないだろうし、上級吸血鬼……貴族と呼ばれる吸血鬼も出てくる。

 一般的な吸血鬼とは格の違う吸血鬼を敵に回すなど、あり得なかった。


 だが、それは吸血鬼に限ってのこと。


「あん?……おい、なんだあれ」

「……脱走か?」


 一人の少年が、のんびりとした歩きでやってきた。


「おお~……ここが養殖場かぁ。今まで見た城よりデカいな」


 のんびりした口調で養殖場を見上げ、本当に感動しているようだ。

 エドモンドとミッツは顔を合わせ、とりあえず仕事をすることに。


「ったく、どこのどいつだ。餌に服なんか着せて歩かせてんのは……新鮮さを保つために生かしとくとこういうことがあるんだよな」

「ま、お前みたいな特殊性癖じゃねぇの? 餌をペットみたいに飼う奴もいるしな」

「はは、って、オレはそんな性癖持ってねぇっつの。まぁいい。とりあえず回収して倉庫にしまっとくか。所有者が引き取りに来なかったら処分する」

「そうだな」


 目の前の少年を『餌』としか見ていない。

 ミッツが少年の首を掴もうと手を伸ばした瞬間だった。


「滅の型、『百花繚乱』」


 顔面だけを狙った超高速の片手連弾がミッツの顔面をぐちゃぐちゃに潰した。


「ぴゅげびゃっ!?」

「なっ……」


 エドモンドは驚き、片手を突き出したままの少年を見る。

 少年は頭をポリポリ掻き、軽い口調で言った。


「んー……みんなの手前言ったけどさ、襲撃とかいかにも悪役だし迷ったんだ。でもまぁ、あんたらクソ野郎みたいだし、もう迷わないことにするわ」

「な、なんだこいつ!? おいミッツ!!」

「ぐ、ぬぅ……」


 ミッツの潰れた顔が、ブクブクと泡立つようにして修復される。

 心臓を潰さない限り吸血鬼は不死……再生能力も半端じゃない。

 少年は感心したようだ。


「へぇ~……再生能力だっけ? 羨ましいなぁ」

「ミッツ、この餌なかなかやるぞ」

「ああ、クソが……捕獲は止めだ。このまま廃棄してやる」

「…………あのさぁ」


 少年は、頭を掻きながら言った。


「その『餌』っての、むかつくからやめてくんね?」


 恐るべき殺気に、エドモンドとミッツの背が凍り付いた。


 ◇◇◇◇◇◇

 

「ひっ、ぎぃぃぃ……ぎゃぁ!?」

「だ、だずげ……あっぁ」


 俺は守衛吸血鬼二人の顔面を鷲掴みし、門の向こうへ引きずっていく。

 ちなみに、俺の握力は鉄板を握りつぶすくらいわけない。呪力で強化してるってのもあるが、怪我してもすぐ治るこいつらには、血を流させるより万力みたいな力で締め上げるのが効果的だった。


 ほかにも、いろいろ試してみた。

 打撃はそこそこ効く。打撲とか打ち身はすぐ治るけど、殴られるのは嫌みたいだ。

 斬撃はあまり効かない。ブレードで突き刺したり切ったりしたがすぐ治ってしまった。

 銃は微妙……弾丸が体内に残ると苦しむが、治る工程で排出されてしまう。


「やっぱ心臓かなぁ……お、来た来た」


 養殖場の敷地内に入ると、警備隊っぽい吸血鬼がうじゃうじゃ湧いて出てきた。

 俺は吸血鬼の顔面を握り。


「あぎぃぃっ!?」

「うぎゃぁっ!?」

「あ」


 やべ、顔面の骨が砕けちゃった。まぁ治るみたいだしいいや。

 吸血鬼を放り投げ、ぞろぞろ湧いてきた吸血鬼たちに言う。


「へいへい、かかって来な!! 俺はこの養殖場をぶっ壊すぞー!! ぎゃっはっはー!!」


 ちょっと演技っぽいかな……?

 万歳し、手をパタパタさせて本気をアピール!! うんうん、演技っぽくない。


「増援を呼べ!」「貴族様も呼ぶんだ!!」

「餌の分際で……!!」「武器を持て!!」


 剣や槍を持った吸血鬼がわんさと現れた。

 なんとなく感じてた。こいつら、俺の言葉なんか聞いちゃいない。手ごわい『餌』が暴れてる程度の考えしかないようだ。

 このブラックオニキスでは、ヒトがヒトじゃない。獣人も天使も関係ない。

 ただの餌……魔獣と変わらない。


「……ははっ」


 ま、そっちがその気なら別にいい。俺もそうするだけだ。

 俺は全身を燃やす。真っ赤な炎が火柱となり、夜の空を赤く燃やす。


「吸血鬼ってさ……地獄炎で燃やされても治るのか? 検証してみるか」


 結論。吸血鬼はムカつく種族だ。


 ◇◇◇◇◇◇


 フレアが大暴れしている隙に、ミカエルとクロネは養殖場に侵入した。

 施設内の地図はすでにゲットしている。


「よく見つけたわね……」

「簡単にゃん。守衛室にいっぱいあったし」

「そうね。それより、貴族とか言ってたわね……」

「上級吸血鬼にゃん?」

「ええ。第一階梯~十二使徒くらいの強さの吸血鬼よ。それに、貴族クラスの吸血鬼は普通の吸血鬼にない力を持っている」

「……心配にゃん?」

「……さぁね。それより、さっさと行くわよ」

「にゃん。『餌』は倉庫にいるはず。一気にいくにゃん!!」

「そうね」


 二人は、施設内を全力で走り出した。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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