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ハンプティダンプティ、夜の宴⑦/解放軍

 解放軍。

 吸血鬼の血液養殖場と呼ばれる施設で『作られた』人間、獣人、天使たちだ。

 種族なんて関係ない、互いを同士と呼び合い協力し、未だ解放されずに『食事』になっている同胞たちを助けるために集まったようだ。

 人数はざっと五十人。全員まともな食事をしていないのか、やせ細っている。

 普段の食事は、外で野草を採取したり、下水道にいるネズミなどを捕まえて食べているのだとか。

 現在、俺とミカエルは解放軍の拠点……下水道の一室に案内され話を聞いていた。どうやらここは倉庫らしく、何に使ったかわからない木箱が積んである。


「同胞を解放する!!」

「そうだ。そのためにあなた方の力を貸してほしい」

「どうか、死んでいった仲間たちのために……」


 獣人の代表、ジュウジ。

 天使の代表、ナシエル。

 人間の代表、ヒュウマ。


 名前がなかったので、互いに付け合った名前だ。

 同胞を解放するとか言うけど、具体的な案は全く出てこない。なので、クロネが持ち帰る情報に期待することにして、質問をしてみた。


「あんたら、言葉が喋れるのね。あたしの聞いた話だと、養殖された生物は大半が狂っているって聞いたけど……」


 ミカエルがそう聞くと、ナシエルが首を振る。


「吸血鬼たちは知能の高い生物のがより美味い血が流れると言っていました。産み落とされた我らは教育を受け、数年で血液を採取されます。最初は血を専用の道具で吸い出され、しばらくすると直接吸い出されるようになるのです」

「直接……」

「ええ。吸血鬼による吸血……その段階までいくと商品として出荷されます。人間、獣人、天使……噂では商品加工もされているとか」

「やめろナシエル。それ以上は……」

「すまない。ヒュウマ」


 加工……あんまり聞きたい内容じゃない。ミカエルも黙ってしまった。

 俺はナシエルに聞いてみた。


「なぁなぁ、天使って光を出せるんだろ? 吸血鬼とかやっつけられないのか?」

「あいにく、翼を取られているので……」

「前に言ったでしょ。天使の力の源は翼なの。翼がなければ魔法も使えないし、神器だってうまく使えない」

「あらら、残念。じゃあ獣人のおっさんは?」

「ガルル……この爪で引き裂けるモノなら引き裂いてやる!! だが、ここにいる獣人たちは皆、爪や牙を持たぬ者たちばかりなのだ」

「そっかー……じゃあ、ヒュウマは?」

「知識はあるが、武器を持ったことなどない……それに、こんな細腕で武器を握ったところで、吸血鬼には敵わないだろう」

「ありゃー……」


 おいおい、どうしようもないじゃん。まともに戦えるのジュウジだけじゃん。

 しばし、沈黙……すると、ドアがノックされた。


「ヒュウマさん、外から獣人の女の子が来た……ここに来てる人間と天使に会わせろって」

「あぁん?」

「あ、大丈夫大丈夫。俺たちの仲間」


 クロネ、無事だったか。よかったよかった。


 ◇◇◇◇◇◇


「勝手にいなくなるにゃん!! 置いてかれたかと思ったにゃん!!


 激おこクロネだった。

 どうやら、俺とミカエルが最初にいた部屋から出て、こんな奥まで来ているとは思わなかったらしい。部屋に戻ってびっくり誰もいない。匂いを辿ると下水道奥で、解放軍に囲まれてさぁ大変。俺とミカエルの名前を出したらようやく信じてもらえたとか。


「わ、わるかったわるかった。よーしよーし、なでなでごろごろ」

「にゃうん……ごろごろ、じゃないにゃん!! 撫でるにゃ!!」

「おっとっと、ミカエル、なんとかしてくれよ」

「知らないわよ。それよりクロネ、じゃれてないでさっさと情報を」

「うぅ~……まぁいいにゃん」


 クロネが空いた席にどっかり座り、やや不機嫌に話し始める。


「解放軍と接触してたのは驚いたにゃん」

「いや、こいつら知ってんのかよ?」

「当然にゃん。うちの集めた情報、舐めるにゃよ?」


 ネコミミと尻尾を動かし得意げなクロネ。あとでたっぷり撫でてやるか。


「解放軍のこと、吸血鬼は知らないにゃん。というか、脱走したエサに興味なんて持ってないにゃん。今は養殖場をフル稼働させて新しいエサをいっぱい作ってる……生産方式は知らない方がいいにゃん。きっとごはんが食べられないにゃん」

「っく……吸血鬼どもめ」


 ジュウジが怒る。

 だが、これが現実だ、吸血鬼にとって解放軍は、ゴミを漁るネズミの群れみたいなもんだろう。

 養殖場のことはともかく、問題は別にある。


「で、プリムたちは?」

「…………最悪、にゃん」


 クロネは、一気に表情を曇らせる。

 

「あいつら、残る二人の真祖に連れて行かれた……にゃん」

「……どういうことだよ?」

「真祖には協定があるにゃん。迷い込んだ天然モノが複数の場合、平等に分け合うっていう協定。プリム、アイシェラ、カグヤ、ラティエルの四人のうち二人が、他の真祖に引き渡されたにゃん」

「マジか?」

「にゃん……」


 マジか……他の真祖って。

 真祖ってヤバい連中だっけ? 話し合いで返してくれるかな。


「まぁ仕方ないな。さっさと迎えに行くか。ここ、なんか辛気臭い王国だし、やることやっておさらばしようぜ」

「簡単に言うにゃん……真祖って吸血鬼の中でもかなり強いにゃん。お前でも相手になるか」

「いや、大丈夫だろ。弱点は心臓だって言うし」

「上位の吸血鬼は弱点を克服したって聞くにゃん」

「……ま、なんとかなるだろ」


 とりあえず、燃やせばいいか。

 

「すまない。同胞の解放だが……」

「……んー、手はあるにゃん。でも、解放したあとはどうするにゃん? こんな暗い下水道に全員を迎え入れるのは無理にゃん」

「安心してくれ。そこは考えている」


 ナシエルが頷く。どうやら考えがあるようだ。


「ブラックオニキス領地から出てしばらく進んだ森に、かつて獣人が住んでいた集落があった。そこに新しく村を作ろうと思っている」

「え……」


 クロネが、目を見開いた。

 ナシエルはそれを気にせず、話を続ける。


「イエロートパーズ王国に隠された獣人の集落……きっと、我らの新天地となるだろう。我らがこの下水道を出るのは、同胞を解放したときと決めていた。フレアくん、ミカエルくん、どうか力を貸してほしい」

「いいよ」

「まぁいいわ。生まれが特殊でも同じ天使、協力してあげる」

「……ありがとう」


 とりあえず、さっさと終わらせるか。プリムたちも迎えに行かないといけないし。


「うっし。じゃあクロネ、どうすればいい?」

「養殖場の警備は大したことないにゃん。泥棒とか入る心配してないっぽいし……だから、お前が表で大暴れして、その隙に中の天使たちを救出するにゃん」

「……おい、俺が暴れるのか?」

「そうにゃん。ってかお前しかいないにゃん。お前が真正面から養殖場に乗り込んで、警備を何人かやっつけて、その隙にうちとミカエルで中に入るにゃん」


 作戦は決まった。

 俺が養殖場で大暴れ、その隙に別動隊を率いるクロネとミカエルで救出。

 あれ……俺だけ大変じゃね?


「ま、いいか。じゃあ行こうぜ」

「え、今から!?」

「ちょ、ま」

「ま、マジか?」


 立ち上がる俺に、ヒュウマとナシエルとジュウジは驚いていた。

 さーて、養殖場を襲撃しますかねっと。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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