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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第七章・闇夜に煌めく吸血鬼

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ハンプティダンプティ、夜の宴⑤/純白

 俺たちを襲ったのは、天使と犬の獣人と人間だ。

 解放軍とかいう、吸血鬼の養殖場で作られた『餌』らしい。今さらだが吸血鬼って生物のことなんだと思ってんのかね。

 天使が頭を下げ、非礼をわびた。


「いきなり襲い掛かってすまなかった。この下水道は長らく放置された場所でね……同胞たちが眠る場所であると同時に、我々解放軍の本拠地なのだよ」

「……眠る場所?」

「…………見ればわかるさ。さぁ、我々の拠点へ案内しよう」


 天使が悲し気に微笑み、ゆっくり歩きだす。

 下水道の奥、さらに奥へと進み、到着したのは……なんとも悲惨な光景だった。


「なんだこりゃ……死体、か?」

「ぅ……臭いの原因はこれね」


 下水道の最奥にあった巨大な溜池には、山のような死体が積み重なっていた。

 種族はバラバラだ。人間、天使、獣人……男も女も関係なく、肉が腐り落ちていたり、四肢が消失している死体もあった。

 すると、人間の男性が顔をしかめ涙を流す。


「皆……廃棄された同胞だ。血を吸われ、死んだ者たちがここに廃棄された」


 よく見ると、天井には大きな穴が開いており、そこから落ちてきたようだ。

 墓もなにもない、まるでゴミのように捨てる。これは……なんとも許しがたい。

 獣人男性も歯ぎしりしている。


「埋葬もできない。弔うこともできない……我々にできるのは、この光景を目に焼き付け、吸血鬼たちへの恨みの力へと変えることのみ!!」

「……でも、かわいそうだろ」

「なに!?」

「こんな状態じゃかわいそうだろ」


 先生が言っていた。死者は、肉が残る限り魂が宿ったままだと。

 弔い、埋葬し別れを告げることでようやく、この世界の肉体に別れを告げ、魂が天に還るのだと。生きている者は死者を弔うことをしなくてはならない、と。

 俺の言い方が気に食わないのか、獣人男性が胸倉をつかむ。


「ではどうしろというのだ!! 埋めることもできない、こんな暗い下水道では何も」

「燃やす」

「……なに?」

「燃やせばいい。肉体を燃やして、魂を解放してやるんだ」

「そんなことできるわけがない!! こんな湿った下水道で火など」

「俺がやる。俺が弔うよ」

「…………」


 俺は右手を燃やす。

 全てを焼き尽くす地獄炎だけど……死者の魂を解放するくらいのことはやりたい。なぁ焼き鳥、そうだろう?

 すると、天使が獣人の手をそっと緩め、俺の胸倉が解放される。


「あなたは、半天使だったのですね」

「いや、呪術師だよ。まぁなんでもいいけど」

「同胞の魂を、解放してくれますか?」

「うん」

「……ありがとう」


 ミカエルは、何も言わなかった。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 下水道の最奥広場には、大勢の『はぐれ』が集まった。

 全員、解放軍だ。養殖場を脱走し、餌となっている同胞たちを解放しようと集まった天使・獣人・人間たち……全員が、山のように積み重なった死体を前に、涙し、歯を食いしばっていた。

 俺は、最初に襲撃してきた三人……この三人、各種族のリーダーらしい……に聞く。


「じゃ、やるよ」

「ああ、頼む……」

「頼む。そして、先ほどは済まなかった」

「別にいいよ。あんたもいい?」

「……ああ」


 天使と獣人は頷き、最後に人間に確認すると、死体の中の一人を見つめたまま頷いた。


「必ず、人々を解放する……眠ってくれ」

「……知り合いだったのか?」

「ああ。一緒に養殖場を脱走した……友人だ」

「……そっか」


 そこまで聞き、これ以上は聞くべきではないと判断した。

 大勢が見守る中、俺はそっと死体の山に手をかざす……そして。




『慈悲深き心に、白き浄炎を───』




 そんな、包み込むような女性の声が聞こえた。

 俺は頷き、そっと心に炎を灯す。




「第四地獄炎『天照皇大神(アマテラスオオミカミ)』……頼む」




 真っ白な炎が俺の右手からあふれた。

 熱さではなく、包み込むような温かさが、暗く湿った下水道を清らかな純白で照らす。

 俺の背後に、黒髪に白装束の女性が現れたような気がしたが、一瞬で消えた。


「おぉ……」

「美、しい……」

「…………」


 人間、獣人、天使たち。そして解放軍たちが魅入る。

 白炎が死体の山を包み込むと、腐った皮膚や欠損部分が修復され、表情が安らかになった。

 それだけじゃない。炎によって浄化された死体が、少しずつ光になっていく。サラサラと、静かに身体が崩れていき……燃え尽きた。


『ありがとう───』


 そんな、感謝の言葉が……どこからか聞こえた気がした。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 死者を送り終えると、とんでもない疲労感が俺を襲う。

 いまだかつてない猛烈な倦怠感に、思わずよろめいてしまった。


「っく……な、なんだ? ダルい……」

「しっかりしなさい」

「お、おお……」


 意外にも、ミカエルが支えてくれた。

 解放軍の連中は涙を流し、静かに祈りを捧げている最中だ。俺とミカエルはそっと壁際に移動し、ミカエルが俺の額に手を当てた。


「な、なんだよ……」

「……白い炎なんて初めて見た。なんか変な感じがしたから気になったけど……あんた、魔力(・・)をかなり消費してるわね」

「は? ま、魔力?」

「ええ。間違いなく魔力ね。触った感じ、あんたの魔力総量の九割が失われてる。いきなりこんなに減ったら倦怠感で動けなくなるわ……というか、普通はぶっ倒れるわよ?」

「おい、魔力ってなんだよ。俺は魔法なんて使えないし、地獄炎を使ったんだぞ」

「じゃあ、白い地獄炎は魔力を消費するんでしょ」

「えー……」

「さしずめ、癒しの炎ね。腐敗や欠損部の修復と浄化が主な能力……なるほど、こんな能力があったんじゃ、呪術師たちが負けないわけね。ジブリールが知ったら羨ましがるわ」


 ミカエルがブツブツ何かを言っていた。

 魔力ってなんだ───。


 ◇◇◇◇◇◇


「……あ、久しぶりの空間だ」


 ほんの瞬きした瞬間、いつもの黒い空間にいた。

 もしやと思い周囲を見ると……いた。


『お初にお目にかかります。若い呪術師さん』

「どうも……あんたが、第四地獄炎の」

『ええ。私は第四地獄炎の聖母『天照皇大神(アマテラスオオミカミ)』と申します。他者を思いやる清らかな心、とても美しいと感じましたよ』

「うん……ありがとう」


 長い黒髪、白装束を着て、傘を差した二十歳くらいのお姉さんだった。ぱっと見人間に見えるが、神秘的な雰囲気がそれを否定する。

 天照皇大神は静かな足取りで俺に近づき、俺の頬をそっと撫でる。

 不思議と悪意はない。なんとなく、ヴァジュリ姉ちゃんに似ていた。


『私の炎は『浄炎』……癒しの炎。ですが、対価が必要となります』

「魔力、だな?」

『ええ。あなたの魔力は非常に少ない。使用には十分な注意を。それと、この炎は自らを癒すことはできませんので……』

「けっこう制約多いな……ま、ありがとな。あとさ、この炎で思ったんだけど……地獄門から出る前に、俺の身体を再生させたのって」

『ええ。私でございます。むき出しの魂のままでは仕方なかったので』

「そっかー……いろいろありがとな」

『はい。では、長くお引止めして申し訳ございませんでした。現世にお戻りを』

「うん、じゃあ」


 ───っと。

 気が付くと、ミカエルが俺を覗きこむ。


「聞いてんの?」

「え、ああ。魔力が少ないからってことだよな」

「そうね。って、別にあんたの心配してないし。それより、あっちも終わったわ。解放軍に手を貸すなら話を聞くわよ」

「ああ、わかった」


 俺とミカエルは、解放軍に話を聞くことにした。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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― 新着の感想 ―
[一言] なんだろう。今までのヒロインの中でミカエルが一番魅力的に見える……もちろん二番目はプリムで、三番目はいないんだけど
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