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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第七章・闇夜に煌めく吸血鬼

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ハンプティダンプティ、夜の宴④/作戦会議

「で、どうする?」


 仮眠から起きた俺たちは、これからのことを話し合う。

 ミカエルもクロネも洗って乾かした服を着ていた。どうもミカエルが炎で乾かしたらしい。

 おっと。そんなことより、これからどうするかが問題だ。


「とりあえず、ラティエルたちはこの国の真祖のところにいるはず。ついでにあんたの仲間もね」

「その真祖とかいうの、ヤバいのか?」

「そりゃもうね。できれば戦いたくない。今のあたしじゃ苦戦しそう」

「んー……それもだけどよ、とりあえず情報が欲しいな。あてもなくプリムたちのいそうな場所をうろつくのもなぁ」

「なら、うちに任せるにゃん」


 クロネが立ち上がり、軽く伸びをする。

 ネコミミと尻尾がピコピコ動くのがやる気の表れなのか、張り切っているような気がした。


「情報収集はうちの得意分野にゃん。あいつらの居場所、しっかりつかんで見せるにゃん」

「大丈夫なのか?」

「任せるにゃん。隠密と逃げ足には自信ありにゃん」

「……そうね。見つからないに越したことはない。最短ルートでラティエルたちを救出して、こんなところからはおさらばしましょう。とりあえず、噂程度だけど、あたしの知ってる吸血鬼のことを話しておく」

「頼むにゃん。どんな些細な情報でも、吸血鬼のことは知っておくべきにゃん」


 ミカエルは、知っている限りの吸血鬼の情報をクロネに話した。

 弱点は心臓、鼻が利き、夜になると第一階梯天使クラスの力を得ること。貴族と呼ばれる吸血鬼は十二使徒クラス、真祖と呼ばれる天使は十二使徒三人分の強さを持つことなど。


「胸糞悪い話だけど、吸血鬼の国には『人間・天使・獣人養殖場』があるわ……そこで食事となる生き物を作っている」

「なんだそれ……普通のメシは食えないのかよ?」

「食べられないこともないけど、生物の、特に知能の高い生物の血が何よりのご馳走なのよ。天然……養殖物じゃない人間や天使の血は、吸血鬼にとって宝石並みの価値を持つ。だから今のラティエルたちは非常に危険よ。ちっ……捕まったのがあたしだったら、この国ごと焼き尽くしてやるのに」


 ミカエルは歯ぎしりした。

 クロネはそこまで聞くと、音もなくドアへ向かう。


「四時間後、戻ってくるにゃん」

「え、それだけか?」

「ふん。これだけの規模の町、情報なんて腐るほど転がってるにゃん。うちの腕なら問題なしにゃん」

「おお、ネコミミすげぇな」

「関係ないにゃん!! まったく……」


 そう言って、クロネは出て行った。

 すげぇな……外に出た瞬間気配が消えた。以前とは違う、本気の気配隠蔽だ。


 残された俺とミカエルは、特に会話もなく過ごす。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、残された俺とミカちゃんだが……。


「なぁ、ミカエル」

「なに?」

「なんか退屈じゃね?」

「……クロネが出て一時間も経ってないわよ」

「いやー、なんか暇だ。面白い遊びとかねぇの?」

「あるわけない。つーか、馴れ馴れしい。あたしとあんたは敵なのよ」

「んー……それなんだけどよ。俺、お前のこと嫌いじゃないって言ったよな?」

「……で?」

「お前さ、俺と一緒に冒険しねぇか? この世界をいろいろ回るんだよ」

「はぁ? バカ言ってんじゃないわよ。一時の共闘が終わればまた敵同士。あたしはもっと強くなって、あんたを焼き尽くすわ」

「はー……そうですかい。まぁいいけどよ、気が変わったら言えよ?」

「安心なさい。それはないから」


 と、楽しい会話を繰り広げていた。

 なんというか、カグヤみたいなやつだ。赤い髪をかき上げたり、たまに大きな欠伸をしたり、暇そうだから話しかけても不機嫌だし。

 ま、クロネが帰ってくるまでけっこう時間がありそうだ。


「よし。暇だからこの下水道を探検してくる!」

「は?」

「けっこう古い下水道だし、町に通じてるのは間違いない。何か面白……いや、使える道があるかもしれないし。それに巨大ワニとか巨大ネズミとかいれば面白そうじゃん」

「あんた、バカなの?」

「やかましい。じゃ、そういうことで」


 部屋を出て、出口とは逆の、暗い方向へ向かう。


「…………」

「…………」

「……どうした? ミカちゃん」

「ミカちゃん言うな」

「……待ってていいぞ?」

「…………」


 ひ、暇なら暇って言えよ……俺の後ろにピッタリ付いている。

 まさか、いや……そんなことないよな。


「なぁ、もしかして……暗いところとか、独りぼっちが嫌だとか?」

「っ!!」

「あ、赤くなった。図星か」

「殺すわよ」

「お、怒るなよ……置いていかないから、な?」

「黙れ」


 怒らせてしまった。

 でも、なんか可愛いなこいつ。暗いところが苦手とか女の子かよ。

 俺は苦笑しつつ、下水道の奥へ歩きだす。


光球(デラセ)


 呪術で光球を作り、俺の周りに浮かべておく。


「呪術……」

「知ってんだろ?」

「ええ。呪術師、何人も焼いたわ」

「ふーん」

「怒らないの?」

「ま、天使は天使で戦う理由あったんだろ。別にケチつける気はない」


 下水道は暗く、じめじめしていた。

 だが、けっこう広い。横幅だけじゃなく天井も高く、歩きやすくあった。

 でも、やっぱり臭い。カビみたいな、肉が腐ったような匂い。


「……呪術師は、強かったわ。特にあの四人……『呪神(ノロイガミ)』、『魔火覇恕間(まかはどま)』、『疫病魔(えきびょうま)』、『魔九仙(まきゅうせん)』……あたしの仲間もいっぱいやられたっけ」

「……俺の先生と、その知り合いだ」

「先生? ああ、格闘技……呪神の弟子ね」

「ああ。先生は強かったか?」

「あたしは直接戦ってない。アルデバロンが呪神と戦ったみたいだけど」

「アルデバロン?」

「あたしの次に強い天使。あたしが戦ったのは『魔九仙(まきゅうせん)』……黄色い地獄炎を操る、武器の達人だったわ。正直、勝てる気がしなかった……」

「どんな人だった?」

「んー、筋肉質の男だったわ。髭を生やして、大地から武器を作り出して戦ってた。呪神と親しそうに喋ってたわね」

「先生と親しく……ラルゴおじさんかな」


 俺に武器術を教えてくれるはずだった人だ。呪術師の村では、俺以外の子供に武器術を教えていたっけ……俺、呪闘流の基本である格闘を極められなかったから、結局武器術は習えなかったんだよな。

 それに、甲種第三級認定を受けてすぐに地獄門に入っちゃったし……ついてないな。


「はぁ~あ……ラルゴおじさん、俺に武器術教えてくれるはずだったのに」

「武器? あんたが?」

「ああ。先生が言ってた。武器術を習得するには、呪闘流の基本である格闘を全て納めないとダメだって」

「ふ~ん。あんたの格闘、かなりのレベルだと思うけど……」

「そうか?」


 下水道の中を歩きながら、ミカエルとお喋りする。

 腐った肉みたいな匂いだけじゃなく、酸っぱい匂いまでしてきた……下水道ってマジで地獄だわ。

 

「ま、武器術を習得する機会は永遠に失われたとさ……」

「あんた、素手で十分強いから必要ないわよ」

「いやでも、剣とか使ってみたいな。これは仕込みブレードだし、こっちは銃だし」


 手を反らしてブレードを出し、銃を抜いて見せる。

 武器はあるんだけど、どうも剣のようなかっこいい武器じゃない。


「まぁ、今は炎もあるし別に」


 ふと、俺の直感が働いた。

 何かいる。いや……何かくる。


「どうし「流の型、『回転掌』!!」


 突如として飛んできた『何か』を、俺は回し受けで防ぐ。

 ミカエルも気づいていなかった。瞬間、戦闘モードになる俺とミカエル。

 

「シャァァァァーーーッ!!」

「このっ!!」

「ぶがっ!?」


 天井に張り付いていた何かを叩き落すと、下水に落下した。


「ガァルルルルルッ!!」

「ふんっ!!」

「ガルアァッ!?」


 ミカエルの背後から来た何かを、ミカエルは蹴り飛ばした。

 光球を操作し、天井近くへ浮かべると、周囲の光景がよく見える。

 俺たちを襲っていたのは……なんと、獣人と天使、そして人間だ。


「な……なんだお前ら?」

「天使、ね。あたしが誰だかわからないのかしら?」


 すると、天使の一人が言う。


「黙れ!! この下水道になんのようだお前ら!!」

「え、いや、隠れてただけ」


 さらに、獣人も怒る。


「騙されないぞ。お前たち、吸血鬼の回しもんだな!!」

「いや、違うけど……なぁミカエル、なんとかしろよ」


 ミカエルが前に出て、光の槍を持つ天使に言った。


「ねぇ、あたしが誰か知らないの?」

「……知らん!!」

「んー、なんだか本当みたいね」


 というか、こんな下水道になんで人がいるんだ?


「なぁ、あんたらは何だ?」

「我々は『解放軍』!! 吸血鬼たちの餌から解放された人間、獣人、そして天使だ!!」

「あ、そういうことね。養殖場から逃げられた人間たちか」

「そうなのか?」

「ええ。レジスタンスみたいなもんよ。とりあえず、悪いようにはしないから、話を聞いてくんない?」

「信用できるか!!」


 天使が吠える。すると、ミカエルがちょっと苛ついた。


「あのね、これは善意で言ってるの。消し炭になりたくなければ武器を下ろしなさい……!!」

「お、おい」


 ミカエルが燃えた。すると、天使や獣人、人間がアイコンタクトをして武器を下ろす。

 すげぇ、威嚇が効いたぞ。


「きみたちは、何者なんだ……?」


 天使が言う。

 いや、何者って聞かれても……人間と天使としか。


「あたしは聖天使協会十二使徒『炎』のミカエル。こいつは呪術師フレアよ。あんたたちこそ何者?」

「あ、紹介どうも。フレアです」

「……オレたちは施設を脱走した『はぐれ』だ。仲間たちを集めて吸血鬼の餌になっている同志を集めている。きみたちは吸血鬼じゃない……なら、話を聞いて力を貸してくれないか?」


 と、天使が言う。

 うーむ。退屈だったから始めた下水道探索が、思わぬことになってしまった。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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