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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第七章・闇夜に煌めく吸血鬼

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ハンプティダンプティ、夜の宴③/下水道の拠点

「吸血鬼は匂いに敏感よ。人間と天使と獣人が一緒にいたらすぐ見つかるでしょうね」


 ハンプティダンプティの国が見える郊外の森で、ミカエルが腕組みしながら言う。

 匂いって、獣人じゃあるまいし……というか、人間の匂いってなんだ?


「にゃん。うち、秘伝の消臭剤を持ってるにゃん。それでもダメにゃん?」

「んー……物理的な匂いじゃなくて、血の匂いを感じ取るの。位の高い吸血鬼ほど嗅覚に優れているわ」

「ふーん。で、どうすんだ? 町に入れば即捕まるんだろ?」

「ええ。町ごと焼き尽くすのは簡単だけど、聖天使協会と吸血鬼は不干渉って暗黙の了解があるからね……ラティエル救出っていう建前だけで全面戦争になったら、神に粛清されちゃうわ」

「神? 神なんているのか?」

「いるわよ。あたしたち天使の神だけどね」


 なんと、この世界には神様がいました!

 地獄炎にも魔王たちがいるし、もしかしたら仲間とかだったりして。


「天使の神かー、なぁなぁ、会えたりする?」

「バカ言わないでよ。あたしだって会ったことないし。ってか会えるような存在じゃないわ」

「ふーん。地獄炎の魔王連中は気さくでいい感じだけどな……」

「は? 地獄炎の魔王に会ったの?」

「ああ。つーかたまに話しかけてくるぞ」

「えっ……」

「最近話してないけどどうかな……おーい、焼き鳥さん、おーい」


 俺は『火乃加具土』を出して話しかける……返事はなかった。


「残念。あいつ、昼寝好きみたいだし寝てるんじゃね?」

「ね、寝てるって……地獄炎の魔王って寝るの?」

「ああ、ぐーすか寝てるぞ。青いおばさんはキーキーやかましいし、もふもふのモグラはすっごいもふもふだし」

「……意味わかんない」

「にゃん。そんなことより、これからどうするにゃん? 町に入らないと情報を集められないにゃん」

「町に侵入するなら俺の力でなんとでもなるけど……」

「え、どうやって?」

「地面の下を進んでいく」

「……ま、それでいいわ。吸血鬼たちのいない場所を見つけて、情報収集するわよ」

「おう」

「にゃん。情報収集なら任せるにゃん。うちの得意分野にゃん」


 さて、方針は決まった。

 目の前に見える『ハンプティダンプティの夜会』とかいう変な名前の国にいる、カグヤたちを助け出そう。よくわからんが、嫌な予感もするしな。


「じゃ、第三地獄炎───」




『───ミ───ン───ジ───』




 ふと、そんな声が聞こえた……ような気がした。


 ◇◇◇◇◇◇


「さいっっっあくなんですけど!! なによこれは!!」

「悪い悪い。あはは、ドロドロだな」

「にゃん……」


 地中を通って町に入ることはできたが、浮上した場所が悪かった。

 静かで誰もいない最高の場所……そう、下水道に俺たちはいた。俺は土でガードしたが、ミカエルとクロネはおもいっきり汚水を頭から浴びてしまったのだ。

 

「かなり古い下水道だな。造りもしっかりしてる。見えないところをしっかり造っている町は発展するって先生も言ってたっけ」

「おい、どうでもいいことで誤魔化さないでよ」

「うちも恨むにゃん!!」

「わ、悪い悪い……臭っ」

「「殺す(にゃん)」」

「おお、落ち着け落ち着け!! なんとかするから!!」


 殺意を帯びた目で睨まれた。

 

「えーと……あ、そういえば先生が言ってたな。こういう古い下水道には管理人が住む場所があるって。そこに行けば水とかあるだろ」

「行くわよ」

「にゃん」

「お、おう」

「あと、あんたは許さないから」

「同じくにゃん」


 ミカエルとクロネはスタスタと下水道の奥へ歩きだした。

 やれやれ……まぁ、自分だけ汚水をガードしたのは悪かったよ。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 この下水道、管理人がいたようだが今はいない……正確には、下水道として機能しているが、管理人不在のまま長らく放置されているようだ。

 管理人室は見つかり、室内はすこし埃っぽかったが生活に必要そうな設備は生きていた。

 蛇口をひねると濁った水が出てきたが、十五分も捻ると綺麗な水が出てきた。

 鍋に水を入れ、俺の炎を軽く近づける……すると、一瞬で沸騰した。


「バカ、やりすぎ」

「火力調節ムズイんだよ。これでも上手くなったほうだぞ」


 たぶん、前なら鍋ごと灰に……いや、灰も残さず消えている。

 第二地獄炎で氷を作り、何個か鍋の中に投入してミカエルに渡すと、クロネと一緒に寝室に向かう。


「覗いたら殺す」

「あーもう、わかってるっつの。というか興味ないから」

「デリカシーがないにゃん!!」

「はいはい……」


 俺は軽く室内を掃除し、硬い木の椅子に座って干し肉をパンで挟んで食べた。

 いつもなら、初めての町で美味しいご飯を食べたり、街中を見て回っていろんな飲食店を探したり、冒険者ギルドに行ったり、宿の高い部屋から町を見下ろしたりしてるんだけどな。


「こんな臭い下水道の一室でパンと干し肉か……よし、次の大陸ではめっちゃ豪遊してやる!!」

『豪遊ねぇ……』

「うおっ!? あ、あああっ!?」


 右腕に『火乃加具土』が現れ、持っていたパンが消し炭になってしまった。


「お、お前、貴重な食料を!! この野郎!!」

『いで、いででっ、叩くなよ……』


 籠手をガンガン叩くが亀裂すら入らない。

 ちくしょう。この野郎……食べ物の恨みは恐ろしいからな。


『次は吸血鬼かい。火火火、退屈しないねぇ』

「まーな。なぁ、吸血鬼も燃やせるか?」

『当たり前だろ。地獄炎で燃やせないものはねぇ』

「そっか。よかった」

『それと、気を付けな。さっき天使のお嬢ちゃんが言った通り、吸血鬼はけっこう強ぇえぞ……まぁ、お前なら心配ないと思うが』

「別に、喧嘩売られなきゃ戦わねぇよ。俺はこの世界を自由に見て回りたいだけなんだし」

『自由だねぇ……ま、ほかの連中もおめーの動向を見ているからよ、ほかのクソ共から力借りたいんなら、せいぜい頑張れや』

「ほかの連中? ああ、地獄炎の魔王ね。お前と青いおばさんとモグラ以外で……えーと、あと五人か」

『……ま、頑張れや。くぁぁ~……じゃ、おやすみ』

「寝るのかよ。ま、おやすみ」


 籠手が消え、火乃加具土の声も聞こえなくなった。

 そして、寝室から寝間着に着替えた二人が出てきた……寝間着?


「はぁ~気持ちよかった。あ、あっちに洗った服干してあるから入らないでよ」

「へいへい。で、これからどうする?」

「その前に、お腹減ったにゃん。ごはん食べるにゃん」

「だな。パンも消し炭になったし、食べなおすか」


 クロネの袋から食料がいっぱい出てくる。

 聞けば、旅のために用意したものだ。魔法の袋って便利だな。


「食べたら少し寝ましょう。これからのことは、少し頭を休めてから決めるわよ」

「だな。クロネもいいか?」

「もちろんにゃん。いろいろあって疲れたにゃん……」


 俺は干し肉を噛みながら、小さく欠伸をした。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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