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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第七章・闇夜に煌めく吸血鬼

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ハンプティダンプティ、夜の宴②/『黒血』ハンプティダンプティ

 それは『夜』が女を模ったようなナニカだった。

 漆黒のドレス、青白いを超え純白のような肌、濡羽色の髪、そして……この世の物とは思えない美しく妖艶な肢体。

 『それ』が現れた瞬間、全ての吸血鬼たちはその場に跪いた。

 

「……なに、こいつ」


 あまりにも異次元すぎる強烈な存在だった。

 強い、弱いというカテゴリーに属さない『何か』に、カグヤの背に冷たい汗が流れ落ちる。

 それは、プリムとアイシェラ、そしてラティエルにとっても同様だった。


「ひ、っひ……」

「お、お嬢様……ちょ、直視してはいけません」

「まさか、なんで……し、真祖」


 真祖。

 このブラックオニキス最強の吸血鬼。その三人の内の一人。

 吸血鬼の『女のようなナニカ』は、うすぼんやりとした表情で中途半端に虚空を見つめ、ほんの僅かに鼻をスンと嗅いだ。


「匂う」

「……は?」


 カグヤは、震える心に喝を入れる。

 神風流『不動心』で、揺れない心を保ち、目の前のナニカに向けて構えを取る。

 幸い、周囲の吸血鬼は跪いたままだ。弱点が判明した今、この周りの吸血鬼はカグヤの敵ではない。油断ならない相手もいるが、目の前の女が現れた時点で周囲の吸血鬼たちの戦意が消えていた。

 そして、女吸血鬼はカグヤを真正面から見た。


「初心なおなごの匂い、じゃ」

「───っ」

「ククク……久しぶりの馳走、しかも四人……」


 女吸血鬼が、ペロリと舌なめずりした。

 不動心が、崩れかけた。

 目の前の女の目が、赤く蘭々と輝いた。

 カグヤは、生まれて初めて『恐怖』した。

 こいつはヤバい。只者じゃない。戦う逃げるの次元じゃない。自分は捕食される。


「っっだらぁぁっ!! なめんじゃないわよ!!」


 カグヤは両足を思い切り地面にたたきつけ平静を取り戻す。

 

「アンタ!! ここはアタシが何とかするから、その代わりそいつら連れて逃げなさい!!」

「無理だよ……もう、逃げられない。『黒血』ハンプティダンプティ……最強の吸血鬼の一人がもう、私たちを見ている……」

「っく……プリム、アイシェラ!!」

「……ぁ」

「……はぁ、はぁ」


 プリムは震え、アイシェラは汗だくでプリムを守ろうと前に出た。

 完全に、呑まれていた。

 目の前の女、ただ見ただけで戦意を根こそぎ奪った。まだ何もしていないのに。

 だが、そんなこと……カグヤは許さない。


「吸血鬼……こいつも吸血鬼なのよね!! だったら……倒せる!!」

「やめっ、止めなさい!!」


 飛び出したカグヤをラティエルは止めようとしたが、カグヤはすでに走り出していていた。

 右足を形状変化、鋼鉄のように硬化。

 跳躍し、右の前蹴りを繰り出す。狙いは女吸血鬼の心臓、吸血鬼の急所だ。


「裏神風流、『流星杭』!!」


 左足をバネのように変化させ、跳躍力を強化。カグヤの飛び蹴りはまっすぐ女吸血鬼の心臓を狙う……が、女吸血鬼は動くことも、心臓を守ることもしなかった。

 

「おらぁっしゃぁぁぁーーーっ!!」


 恐怖を誤魔化すように叫び、カグヤの右足が女吸血鬼の心臓を貫いた。

 真っ赤な血が女吸血鬼の背中から噴き出し、女吸血鬼は吐血した。


「おらぁぁぁっ!! 死ね「恐れなくてもよい」───え」


 死なない。

 心臓が滅茶苦茶に破壊されているのに、女吸血鬼は死んでいない。

 そして、気が付いた。

 カグヤの足が抜けない。真っ黒な血(・・・・・)が、返り血となってカグヤを濡らす。


「な、なにこれっ!?」

「ふふ……可愛い、可愛いのぉ……恐れ、誤魔化し、勇み……あらゆる感情が混ざりあっておる」

「ア、アンタ……なんで心臓、なんで!!」

「わらわは、弱点を……死を克服した吸血鬼」

「このっ」


 右足が抜けないなら、このまま身体に突き刺さったまま固定。

 カグヤはその体勢のまま、左足で女吸血鬼の首を切断しようと足を振り上げる。だが、今度は女吸血鬼に防御されてしまった。


「ふふっ───まずは味見」

「は、離せこのアホたれ!! ぶっ殺「───カァァッ」


 がぶり。

 女吸血鬼の首が伸び、カグヤの首筋に食らいついた。


「っひ……っが、あぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」


 じゅるじゅる、じゅるじゅる、じゅるじゅる。

 カグヤの力が急激に抜けていく。血が吸われていく。

 完全に力が抜けると同時に、女吸血鬼の口が離れ、カグヤの足も抜けた。

 力なく、カグヤは崩れ落ちる。


「甘い、少し癖の強い蜜……ふふ、いい味じゃ」


 女吸血鬼は長い舌を伸ばし、唇をペロリと舐める。

 そして、ラティエルを見て言う。


「聖天使協会は、吸血鬼に干渉しないはずではなかったかの?」

「……ここに来たのは事故です。お願いします、ここから帰してください」

「無理。無理無理。極上の天然物の処女が四人、わらわの国に迷子になったのじゃ。手厚く歓迎せねばなるまいて……ふふふ」

「それは、聖天使協会十二使徒である私に対しての宣戦布告。敷いては、聖天使協会に対する戦争行為ということになりますが……お覚悟はあるのでしょうか」

「もちろん。吸血鬼が天使ごとき恐怖するとでも? 教えてやろう、吸血鬼の弱点が心臓というのは過去の話……上位の吸血鬼はすでに弱点を克服しておる。天使が最強種というのも過去の話じゃて」

「…………」

「おとなしく捕まれ。なぁに、殺しはしない……わらわの食事として飼ってやる。ふふふ……」

「…………わかりました」


 ラティエルは、気を失って倒れているプリムとアイシェラの傍に。


「何度でも言います。手荒な真似は」

「しない。約束しよう……ああ、こちらのおなごもな」


 吸血鬼の女こと、真祖ハンプティダンプティはカグヤを見下ろす。

 ハンプティダンプティはそれ以上言わず、闇に溶けるように消えた。

 同時に、周囲の吸血鬼たちがカグヤを拘束、ラティエル、プリムとアイシェラも拘束した。

 ラティエルは、ハンプティダンプティが消えた向こう側に向かって言う。


「ああ、言い忘れたけど……炎の天使と地獄炎の呪術師が、ここに向かっているかもね」

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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