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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第六章・魔法王国イエロートパーズ/天使の炎と地獄炎
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イエロートパーズ王国にさよなら

 ダンジョンから出ると(目立たないようにこっそり最上階から飛び降りた)、外は大いににぎわっていた。何事かと聞くと、なんでも神隠しがあったらしい。

 このダンジョン周辺に来た人が、忽然と姿を消してしまったのだとか。

 

「何があったんだろう?」

「さぁね」

「にゃん……怖い気配、消えたにゃん」

「……うし。じゃあオレはここで失礼するぜ」


 ダニエルが俺たちから離れ、振り返る。


「楽しかったぜ。またダンジョンに挑戦するときは雇ってくれ」

「ああ。ま、もうこんなのは懲り懲りだけどな」

「違いない。ミカエル、オレのことは黙っててくれよ?」

「……ま、いいわ。それどころじゃないし、聖天使協会に戻ってる暇もないしね」

「ネコミミちゃんも、元気でな」

「クロネ!! ちゃんと名前で呼ぶにゃん!!」

『わんわんっ!!』

「ワンコも元気でな」


 報酬は金貨1枚だったが、大金貨を1枚渡した。

 ダニエルは『お、いいね。今日はとことん飲めるぜ!!』と喜び、軽く手を振って雑踏に消えていく。

 どこまでも堕天使っぽくない天使だった。


「ダニエル。あいつ、ああ見えて頭が回るのよ。ズリエルの前任で事務仕事してた時なんてそりゃもう真面目で」

「真面目ねぇ……なんか軽そうなやつだったけどな」

「そんなことどうでもいいにゃん。これからどうするにゃん?」

「まずは依頼を果たす。その前に……着替えとメシだな。ミカエル、お前荷物とかあるのか?」

「あるけど、全部魔法の袋に入ってるわよ。シャワー浴びたいから宿に行くわよ」

「お、おお。天使も宿とか使うんだな」

「当たり前でしょ。というか、生活に関しての水準なら人間のが高いわよ」


 俺、クロネ、ミカエル、シラヌイという異色のパーティーは、イエロートパーズ王国の定期便に乗って戻ってきた。ミカエル、普通に荷車に乗ってたから驚いたよ。さっきまで俺と殺し合いをしてたのに。

 やっぱり、憎めないんだよなぁ。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 俺の泊まっていた宿へ戻ると、ミカエルはさっさとシャワーを浴びに、クロネも装備を整えるとかで出ていってしまった。

 俺もやることがあるのでさっそくとりかかる。

 テーブルの上には、ダンジョンの秘宝……古ぼけた本が置いてあった。


 それから数10分後。ミカエルがシャワー室から出てきた。

 着替えたのか服が新しくなっているし、あれだけ殴ったのに怪我もさっぱり消えていた。


「はぁ~さっぱり。ん、なによ?」

「いや、怪我……治ってるのか?」

「外面はね。中身はボロボロだし翼も焼けちゃってるから飛べないわ。顔とか身体が傷だらけだと弱く見られるしね」

「ふーん」

「で、なにやってんの?」

「ああ、いろいろ仕込みだよ」

「……よくわからないけど、ブラックオニキス王国に行くなら早めに出るわよ」

「わかってる。明日の早朝には出発するよ。それくらいはいいだろ」

「わかった。それと、今回は戦力的な意味で同行してあげるけど、あたしとあんたは敵同士。たまたま利害が一致したってことだけは忘れないでね」

「はいはい」


 俺もシャワーを浴びて着替えを済ませ、『事故治癒(イ・ヤーシ)』の呪術で怪我の治療、そして装備を点検した。

 ミカエルの奴、一人でさっさと食事してすぐに寝てしまった。まぁ夕方だし仕方ない。

 そして、クロネが帰ってきた。


「ただいまにゃん。旅の準備ができたにゃん」

「よし。俺も用事を済ませてくる」

「……特級冒険者のところに行くにゃん?」

「ああ。依頼品を渡さないとな」

「…………」

「なんだよ?」


 クロネは、ポツリとしゃべり始めた。


「…………特級冒険者序列四位、ブリコラージュ。奴は獣人の命を道具として使ってるにゃん」

「…………」

「うちは、この国の出身で……故郷も近くにあったにゃん。でも、魔法実験で使う道具の調達で獣人狩りが行われて、故郷も家族も失ったにゃん」

「…………」

「たまたま逃げ出せたうちを拾ったのが暗殺者で、そのまま暗殺者として育てられたにゃん。仕事をこなしているうちに故郷や家族のことも忘れて……この国に戻ってきたのに、なにも感じない。うちの心はもう、死んでるにゃん」

「…………」

「でも、お願いにゃん。ブリコラージュ、奴を……」

「殺さないよ」

「…………わかってる。今のは忘れてほしいにゃん」

「ああ。俺は依頼を果たす。ブリコラージュは殺さない。あいつは天寿を全うして死ぬべきだ」

「…………」


 クロネは俺から目をそらし、小さくうなずいた。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 魔法学園の守衛に俺が来たことを伝えると、すぐに理事長室へ案内された。

 以前はカグヤと一緒だったが今はいない。シラヌイはなぜかミカエルに懐いていたので、本当に一人だ。まぁそれはいい。

 

「よく来てくれた。依頼を果たしてくれたようだね」

「……まぁな」

「おや、あの活発そうな少女がいないね? 死んだのかい?」

「…………」

「まぁいい。ふふ、どうやら嫌われているようだ。さっさと依頼を果たしてくれ。私も実験で忙しいのでね」

「……実験?」

「ああ。きみが持ってきてくれたアナンターヴァイパーの素材があるだろう? それを使った投薬実験をしているのさ。呪術とは呪い。毒物のようなもの。ちょうど新鮮な素材が入ってきたのでね」

「新鮮な素材……獣人か」

「ああ。近くの集落に隠れ住んでいたようだ。まだ若いし体力もある。子供の方はすぐに死んだが、大人の獣人の体力ならいいデータが手に入る。また呪術の深淵に一歩近づいたよ」


 不思議と、頭が冴えていた。


『こんな力、別に欲しくなかったんだけどね───』

『どうせなら、外を元気に走れる力が欲しかったな───』

『ねぇフレア? あなたのお話を教えて───』


 頭の中に、優しい表情の女性……ヴァジュリ姉ちゃんの顔が浮かぶ。


「あんた、なんで呪術を欲しがるんだ?」

「決まっている。最強最悪の力だからさ。天使ですら恐れた力。この世界を破滅させかねない力。ふふ、この力を誰でも使えるようになれば、天使たちの支配から解放される日が来るだろう。研究にはまだまだ時間が必要だが、私の特異種としての能力があれば話は別だ」

「…………」


 とても楽しそうだった。

 外見は同世代くらいの少女だが、中身はドロドロに濁った糞だ。

 俺は本を取り出し、机の上に置く。


「これが秘宝だ」

「おお……おお!! 間違いない。これは呪術言語……呪術師にしか読めない言語。ふふ、解読は全く進んでないが、いずれ解読してみせよう!! ああ、報酬を支払おう。少し色を付けてやる。死んだ仲間の分も支払って




「蝕の型『極』───【無限地獄天寿全キミシニタマフコトナカレ】」




 俺は手を伸ばし、ブリコラージュの手にそっと触れた。


 ◇◇◇◇◇◇

 

「ただいまー」

「帰ってきたにゃん」

「……何してたの?」

「依頼を果たしただけだよ。さぁて、メシでも食いに行くか」

「うちも行くにゃん。お腹へったにゃん」

「あたしも」

「クロネはともかくお前は食べただろ……」

「うっさいわね。いちいち」

「カグヤみたいなやつだな……しばらく騒がしくなりそうだ」


 宿の外に出て飲食店街へ向かうと、フリオニールたちと出会った。


「お、フレアじゃないか!!」

「やぁ! これから食事かい? ボクたちはもう終わったよぉ」

「あれ? カグヤさんは? そちらの方たちは?」


 フリオニール、ラモン、レイラ。

 魔法学園の新入生。この国でできた友人たちだ。

 クロネはフードをかぶり、ミカエルはどうでもよさそうに欠伸してる。


「カグヤはその……ちょっと依頼でさ、ダンジョンにいるんだ」

「そうなのか。なら伝えてくれ、また食事を共にしようと」

「ボクたち、これから寮に戻るんだぁ。またね」

「では、失礼します!!」

「ああ……みんな、またな」


 フリオニールたちを見送った。

 今度は、カグヤだけじゃなくプリムたちも連れていこう。


「さ、ご飯食べるわよ」

「ああ。肉食べたい。お前との闘いでだいぶエネルギー使ったからな」

「うち、魚がいいにゃん」


 出発は明日。イエロートパーズ王国最後の夜だ。


 ◇◇◇◇◇◇


「ば、バカな!!……わ、私が、この、ショフティエルが……神の代弁者だ!!」


 ショフティエルは火傷だらけの身体を引きずり、ダンジョン郊外の森を歩いていた。

 フレアとミカエルの炎が直撃し、何もしてないのに敗北した。

 というか、相手が悪すぎた。


「おのれ……傷を癒したあと、この借りは「ああ、無理だね」……あ?」


 ショフティエルの正面に、一人の男が立っていた。

 どこにでもいそうな男だった。

 その辺の武器防具屋で売ってそうな安っぽい装備。無精ひげを生やした三十代半ばの男だ。

 だが、ショフティエルにはすぐにわかった。


「あ、あなたは天使!! いえ、堕天使ですか!! ははは、ちょうどいい!! 我が復讐の手助けを!!」

「…………」

「我が組織と堕天使は敵対関係にあらず!! あなた方堕天使にとって聖天使協会は邪魔な存在のはず!! ぜひともお力を「やっかましいなぁ」……え?」


 ダニエルは苦笑し───本気の殺意を見せた。


「あんたさ、人間を何人殺した? オレや天使にちょっかい出すならいいけどよ……お前が殺した人間の中に、オレのダチがいっぱいいたんだわ……久しぶりに頭に来てるぜ」

「え、あの? なぜ? 人間とは裁かれる存在」

「じゃあオレはお前を裁くわ」


 ダニエルは地面に向けて手をかざす。すると、大地が隆起し、巨大な石斧が現れた。

 推定数トンはありそうな石斧を片手でつかむダニエル。


「ひ、あ、あ……」

「死ねよ、ゴミ野郎」

「あぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」


 ぶちゅり。

 石斧で叩き潰されたショフティエルは、あっけなく即死した。

 ダニエルは石斧を投げ捨て、ショフティエルの死体を地面の奥深くに埋める。


「さーて……弔い酒でも飲むか」


 元・聖天使協会十二使徒『地』のダニエルは、その場を後にした。


 ◇◇◇◇◇◇


「いいの? マキエル?」

「ええ。ショフティエルさんは必要ありません。BOSSからの命令です」

「はーい」

「ラハティエルさん。ワタクシたちも帰りましょうか」

「ん。おなかへった」


 ◇◇◇◇◇◇


「う、おっげぇぇぇぇぇーーーっ!! はぁはぁはぁ……うげぇぇっ!!」


 ブリコラージュは嘔吐した。

 発熱、嘔吐、悪寒が止まらない。

 四肢には発疹もできて震えが止まらず、喉が腫れあがり会話も食事もままならなかった。


「あ゛ぁぁ……ぐるじ……にゃ、だごれ……ヴぁ」


 腹痛も併発。突き刺すような頭痛、立つことができず身体を引きずりながら理事長室を這いまわる。

 視界もぼやけ、ちかちかした。

 体調が悪いどころではない。命の危機すら感じる異常が起きていた。


『これが呪術だ』


 ブリコラージュは、先ほどの少年の言葉をぼんやり思い出す。


『あった。これがお前の持ってるダンジョンのお宝か……うん、やっぱりそうだ。これは呪術言語で書かれた日記だよ。俺の師匠、ヴァジュリ姉ちゃんが書いた日記だ』


 ブリコラージュが保管していたダンジョンの秘宝が奪われた。


『ああ、お前にやったこれは俺が書いた本な。ムカつくから適当にお前への罵詈雑言を書いたから、解読してびっくりだぜ?』


 わけがわからない。

 全身が紫色になり、ブツブツが全身に広がっている。嘔吐も繰り返し喉が痛い。


『もうどうしようもないけど教えてやる。お前に掛けたのは蝕の型『禁忌』の呪術。本当に呪ってやりたい相手にだけ使えって言われたんだ。先生曰く、『本気で呪いたい奴に死は温い、天寿を全うするまで苦しませるのがいい』って。あ、先生は呪闘流の先生な。この話を聞いたヴァジュリ姉ちゃんは苦笑してた』


 何を言っているのかわからない。


『お前が死ぬまでその苦しみは続く。ちなみに、『死の拒絶(シナナズ)』の呪も込めてあるから、自殺もできないし、首を切断しようとしても呪力で防御される。解放されるには天寿を全うするしかないってことだ』


 死にたい。苦しい。呪術の恐ろしさ。


『ヴァジュリ姉ちゃんが言ってた。呪術は軽い気持ちで使うもんじゃないって。人を呪うということは、呪われた人にしかできないって。ま、俺も、呪術師の村のみんなも、呪術を習う前に呪われることから……あー、思い出したくないからいいや』


 死にたい、死にたい、死にたい。


『これに懲りたら、もう獣人を使った実験は止めるんだな。じゃあ、天寿を全うしろよ~♪』


 死にたい。死にたい。死ねない……。


 ◇◇◇◇◇◇


 後日談。

 特級冒険者序列四位ブリコラージュが、原因不明の奇病に侵されたと通達があった。

 症状は様々で、喋ることも筆談することもできない。医師や薬師は匙を投げ、魔法学園の理事長の私室で隔離状態となった。

 ブリコラージュなくして魔法研究所は呪術の研究が続行不可能となった。

 獣人たちは解放され、魔法研究所は『呪術』というテーマを廃止し、魔道機関と魔法の組み合わせの研究を始めることになる。

 噂では、ブリコラージュは呪術師の怒りに触れたとかなんとか……食事も水も与えていないのに弱る気配がなく、苦しみだけが延々と続いている。手首や首を短剣で斬っても切れず、突き刺したり毒薬を服用しても一切効果がなかった。


 フレアたちは、陸路でブラックオニキス王国を目指すことに。

 馬車などの定期便などあるはずもない。危険なデスグラウンド平原を越えていく以外にないのである。もちろん、フレアとミカエルに異論はなかった。

 クロネは、フレアに聞いた。


「……あんた、何かしたにゃん?」

「ん、まぁな」

「…………」


 何か。それが何を示すのか、聞かなくてもわかった。

 クロネはフレアの腕にそっと寄り添い、顔を腕に擦り付けた。


「ありがと、にゃん」

「おう。なんだお前、猫みたいだな」

「ふん……」


 だが、すぐに離れてしまった。

 イエロートパーズ王国の北門から、デスグラウンド平原へ出る一行。


「あっちにまっすぐ行けばブラックオニキスの領土ね」

「ん、わかった」

「……はぁ。危険地帯だらけにゃん。うち、こんな危険な冒険したくにゃい……にゃん」


 こうして、フレアとミカエルとクロネという異色のパーティーは、吸血鬼の王国ブラックオニキス目指して旅立つのであった。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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[気になる点] 師匠=先生= ヴァジュリ姉ちゃん ですか?
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