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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第六章・魔法王国イエロートパーズ/天使の炎と地獄炎

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BOSS・聖天使協会十二使徒『炎』のミカエル③

 俺とミカエルの戦いは長く続いている。

 切り傷や打撲はあるが、火傷はない。

 それはミカエルも同じだ。かれこれ数十分ほど全力で動き、互いの技を受けては躱し、いなしては流している。実力が拮抗しているから決定打にならない。

 はっきり言う。こんなにも俺とやり合えるのは先生以来だ。

 先生には勝てる気がしなかったけど、ミカエルは違う。勝てそうだけど勝てないかもしれない、そんなもどかしさがあった。

 俺はミカエルの剣を躱し、顔面を狙う。


「滅の型、『百花───

「『羽炎(はえん)』!!」


 ミカエルの翼の一つが燃え上がり、羽の形をした炎が飛んできた。

 百花繚乱をキャンセルし、『火乃加具土』でガードする。

 この攻撃の後、俺とミカエルの距離が空いた。

 互いに肩で息をしている……ぶっちゃけ、超疲れた。


「ねぇ……このままじゃ埒が明かないわ」

「だな……」

「まだ奥の手あるんでしょ?」

「かもな」

「あたしもある。ここは出し惜しみしないで、最強技でケリつけましょ……どう?」

「……いいぜ。いいかげん疲れたし、腹も減った。それに……やることもあるからな」

「決まりね」


 ミカエルは天使の翼を広げて上空へ。自身の愛剣を掲げ、強力な熱を纏わせ始めた。

 熱だけではない。アメノミハシラ最上階をすっぽり覆いつくせそうな炎がミカエルから発せられ、炎が上空で巨大な玉となり、さらに巨大化していく。


「な、なんだこれ……すっげぇぇ……」


 俺は、その光景に見惚れた。

 この炎が直撃すれば死ぬ。俺だけじゃなくてプリムたちも死ぬ。

 なら……俺も本気を出そう。殺すのではなく、打ち破るための炎を。


「黄昏の世界より来たりし我が炎。第一地獄炎の魔王『火乃加具土』よ」


 魔神器が燃える。

 紅蓮の炎が巻き起こる。

 ミカエルの炎に負けない紅蓮の炎が舞い上がり、形を成していく。

 それは、巨大な全身鎧。『火乃加具土』の真の姿。


「「第一地獄炎『火乃加具土』魔神解放(オーバドライブ)!! 『火乃加具土(ひのかぐつち)煉獄絶甲(れんごくぜっこう)』!!」

 

 俺が構えると、炎の鎧も構えを取る。

 ミカエルが剣を掲げ……その表情は笑み。


「勝負!!」

「来い!!」


 これが、全身全霊を込めた最強最後の一撃。

 ミカエルが真紅に輝きながら、集めた炎を解き放った。


「『炎の聖天使(ミカエル)気焱万丈(ノウヴァブレイズ)』!!」


 まるで太陽。

 小さな太陽が、このアメノミハシラ最上階に落ちてきた。

 圧倒的熱量だ。俺ですら熱さを感じる。


「焼き尽くせぇぇぇぁぁぁぁぁぁーーーーーッ!!」

「ああ……すっげぇ綺麗な炎だな」


 俺は飛んだ。

 ミカエルを打ち破るために。

 太陽を焼き尽くすために。

 

「第一地獄炎、極限奥義!! 『真・灼熱魔神拳』!!」


 煉獄絶甲の拳とミカエルの太陽が、正面からぶつかる。

 俺の地獄炎、ミカエルの天使の炎。紅蓮と真紅がうねり、絡み合い、焼き尽くし合う。

 圧倒的な熱量は、アメノミハシラ最上階にも影響を与えていた。


「あ、あつぃ……ですぅ」

「これは……死ぬかもしれん」

「あいつ……負けたら、殺す」

「あ、熱い……うにゃ」

「ミカちゃん……頑張って!!」

「……お、おい、なんかおかしいぞ」


 異変に気付いたのは、ダニエルだった。そしてクロネも気付く。

 プリム、アイシェラ、カグヤ、ラティエルは上空を見上げていたので気付かなかった。

 そして、気付いたときにはもう───遅かった。


「離れろっ!! 転移魔方陣が誤作動───」

「にゃっ!!」


 クロネが跳躍、プリムが気付いた瞬間にはもう遅かった。

 足下に魔方陣が展開していた。本来はこの階層から一階に降りるための物なのだろう。だが、魔方陣が熱の影響を受けて酷く歪んでいたのである。

 アイシェラ、カグヤ、ラティエルも気付いた。だが、もう遅い。


「───クロネっ!!」

「にゃっ!?」


 クロネの身体が一瞬だけ輝き───プリムたちは光に包まれ、どこかへ飛んで行ってしまった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ミカエルの太陽、俺の拳。

 少しずつ、少しずつ……煉獄絶甲が太陽に飲み込まれていった。


「っぐ、ぬぬぬぬぬ……っ!!」

「だぁらぁぁぁーーーーーッ!! あたしの炎がぁぁぁぁぁーーーーーッ!! 最強ぉぉぉぉーーーーーッ!!」


 体力も限界に近い。

 それはミカエルも同じだ。だから……ここからは根性だ。

 俺は燃やす。炎を、勝ちたいという意志を。


「煉獄絶甲っ……!! 焼き鳥、お前の炎はこんなんじゃないだろ……っ!!」


 ミシミシギシギシと煉獄絶甲が軋む。

 魔神器って壊れるのか? 知らないけど……この軋みはヤバい。

 焼き鳥は言っていた。地獄の炎は最強だって。天使なんかに遅れは取らないって。

 でも、ミカエルの炎はすごい。負けるかもしれない。

 

「勝つ!! 俺がぁぁぁぁ!! 地獄炎がぁぁぁーーーーーッ!! 勝ぁぁぁぁぁっつぁぁぁぁーーーーーッ!!」


 心を燃やせ、意志を燃やせ、勝利への道を燃やせ!!

 

「なっ……───」

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーッ!!」


 ミカエルの太陽に亀裂が入る。煉獄絶甲に亀裂が入る。

 俺は、残された全ての力を身体に注ぎ込み……自らの右腕を太陽に叩き込んだ。


「滅の型『極』!! 『破戒拳(はかいけん)』!!」


 滅の型、その奥義。放たれれば最後。衝撃が全身を駆け巡り全てを破壊する。それが滅の型の『極』である『破戒拳(はかいけん)』だ。

 究極の打突で、撃ちこむと同時に全身の呪力を体内に送り込み爆破させる。老若男女問わず当たれば即死。防御しても無意味。防ぐには鎧を着こんだり躱すしかない。


 ミカエルの太陽に打ち込んだのは明確な理由があったわけじゃない。人体以外で試すのは初めてだったけど、俺の呪力を送り込んだ太陽は一気に霧散した。


「なっ!?」

「勝機ぃぃぃぃぃっ!!」


 煉獄絶甲が俺の背後にいるので、俺はそれを足場に跳躍。

 全身全霊を込めた技が破られ、反撃する力も残っていないようだった。

 

「おぉぉぉぉりゃぁぁぁーーーっ!!」

「───」


 ミカエルは、ほんの少しだけ笑い───。


「あんたの勝ちよ」

「ああ、楽しかったぜ」


 俺の拳がミカエルの顔面に突き刺さり、決着を付けた。


 ◇◇◇◇◇◇


 俺はミカエルを空中でキャッチし、そのまま床へ着地した。


「はぁ~~……勝利。こんなに疲れたの初めてだぜ」

「…………」


 ミカエル、かなりボロボロだ。

 服が燃え、天使の翼も黒焦げだ。全身傷だらけで酷い有様になっている。

 ま、俺も似たようなもんだ。


「ぅ……」

「お、大丈夫か?」

「……ななっ!? は、離せ!!」

「おう。ほれ」


 ミカエルを離すと、フラフラとして倒れそうになった。なので支えてやる。


「敗者に情けをかけるつもり……」

「そんなんじゃねぇよ。それより、大丈夫か?」

「平気よ……っつつ。あーあ、負けちゃった……こりゃどやされるわね」

「なんでだよ?」

「……あんたに勝手に喧嘩売って負けたのよ? 聖天使教会最強のあたしが負けたなんて知られたら」

「別にいいじゃん。それより、また戦おうぜ。お前との戦い、すっげぇ熱くなれたし楽しかった!!」

「……うん、あたしも」

「へへ。あ、そうだ。怪我したしプリムに治してもらおうぜ」

「プリム?」

「ああ、俺の友達。怪我を治せるんだ」


 と、プリムたちのいた場所を見ると、そこには───。


「あれ?」


 プリムがいない。

 アイシェラ、カグヤもいない。

 いるのはクロネ、ダニエル、そしてシラヌイだけ。

 

「……ラティエル? あれ、ラティエル?」

「いないぜ」


 ダニエル、クロネが俺とミカエルの傍にきた。

 いない? ま、まさか……さっきの戦いで燃えちまったのか!?


「転移魔方陣だ……」

「へ?」

「転移魔方陣が誤作動を起こして飛ばされた。恐らく、お前とミカエルの炎が魔方陣の魔法式に影響を与えたんだろうぜ」

「ら、ラティエルは……まさか、ラティエルも!?」

「ああ。オレたちは見た。お嬢ちゃんたちとラティエルが、転移魔方陣で飛ばされる瞬間をな」

「ど、どこにだよ!!」

「……恐らく」


 ダニエルは明後日の方角を見た。

 クロネも同じ方向を見て、ぽつりと言った。


「あっちの方角……ブラックオニキス王国へ飛んで行ったにゃん」

「なんだ、場所わかるのかよ。よし、届け物したら行くぞ。ようやくプリムと再会できたのに、また離れ離れとか嫌だしな」

「「「…………」」」

「なんだよお前ら……」

「あんた、知らないにゃん……ブラックオニキス王国のこと」

「なんだよ?」

「あそこは、吸血鬼の国にゃん」

「だから? とりあえず下に降りようぜ。ダニエル。あー、ミカエルはどうする?」

「…………」

「フレア、聞け」


 ダニエルは、俺の肩に手を置いた。

 なんだよ一体。さっきからわけわかんないな。


「吸血鬼はやばい。いいか、ブラックオニキス王国はイエロートパーズ王国よりも危険だ」

「???」

「吸血鬼、龍人の二種族は、天使ですら手が出せない種族なんだよ。上位の吸血鬼は十二使徒クラスの強さを持つ。それに……吸血鬼の食事は『人間』だ。若い女なら極上の食材でもある」

「……は?」

「自殺行為だ。いくらお前が地獄炎の呪術師でも、吸血鬼相手じゃ分が悪い」

「わかった。じゃあ行ってくる」

「話聞いてた!?」


 ダニエルのツッコミを無視する。危険とか分が悪いとか、聞き飽きた。


「よくわかんねーけど、迎えに行ってやらないとな」

「おま……はぁ、もういい。好きにしな。オレの契約は終わりだ」

「ああ。いろいろありがとな、奢りの約束は、みんなと合流してからでいいか?」

「ああ……ま、楽しかったぜ」


 ダニエルとはここでお別れだ。別に同行とか期待してなかったし、後腐れないほうがいい。

 そして、クロネだ。


「クロネ。お前は」

「行く。あいつ……プリムには借りがあるにゃん」


 自分の首をそっと撫でるクロネ。


「あいつ、転移前にうちの『首輪』を外したにゃん。あいつと一定の距離を取ると発動する首輪……馬鹿にゃん。自分のことより、うちのことを……だから、借りは返すにゃん」

「よくわかんねーけどわかった」

「……お前に理解は求めてないにゃん」


 クロネは同行。

 そして、ミカエル。


「お前はどうする?」

「は? あたしの力を貸せって?」

「いや、友達迎えに行かなくていいのか? 方角は同じだし一緒に行くか?」

「ちょ!? て、天使と一緒に行くにゃん!?」

「別にいいだろ。それに俺、こいつのこと嫌いじゃないし。むしろ好きかも」

「「はぁぁぁぁっ!?」」

「うるさっ」


 ミカエルとクロネが同時に叫ぶ……なになに、変なこと言ったか?


「で、どうする? 一緒に行くか?」

「……ま、いいわ。翼もやられてるから飛べないし、一人じゃエデンにも帰れないし。それに、ラティエルを巻き込んだのはあたしだし……迎えくらい行かないとね」

「じゃ、決まり。三人でブラックオニキス王国へ行くぞーっ!!」

「なんで楽しそうなのかわかんにゃい……」

「はぁ、お腹減ったわ……まずは食事とシャワーね。あと、必要以上に慣れあうつもりはないから」

「はいはい。あ、クロネ。ダンジョンのお宝あるか?」

「これにゃん」

「おう、ありがとな」


 一応、ブリコラージュの依頼を果たすか。いろいろ言いたいことはあるし、許せない悪行をしている奴だけど。

 クロネが持っていた宝箱を開けると、一冊の本が入って…………え。


「にゃん? 古臭い本だにゃん……これがお宝? しかも変な字にゃん」

「この字、どこかで……フレア、知ってる?」

「…………」


 クロネとミカエルが俺の手元を覗き込み質問するが、俺は聞こえていなかった。

 

「…………なんてこった」


 これが、ダンジョンのお宝か……くそ。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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