BOSS・聖天使協会十二使徒『炎』のミカエル②
なんとなく、ミカちゃん……ミカエルとは闘いになる予感がしてた。
「おぉぉぉぉりゃぁぁぁーーーっ!!」
「だらぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーッ!!」
ミカエルの大剣が振り下ろされ、俺の『火乃加具土』の拳と正面からぶつかる。
こいつ相手に、他の炎を使う気になれなかった。ミカエルの真紅と俺の紅蓮、どちらが凄まじい業火なのか……白黒つけてみたかった。
ミカエルの剣技は力任せな部分があったが洗練されていた。
振り下ろし、横薙ぎ、打ち上げ。切り払い、袈裟斬りと、俺の命を取ろうと迫ってくる。
剣には炎が纏わり、俺の炎を押し返すような勢いだった……こんなの初めてだ。
ミカエルの剣を拳で打ち返すと、距離を取る。
「『烈火皇』!!」
ミカエルの身体が燃え、真紅の髪が広がった。
炎を増幅させる技か。
「第一地獄炎、『灼火闘衣』」
同じく、俺も全身をさらに燃やす。
炎を増幅させ、ミカエルに向かって走り出す。するとミカエルの背中から翼が広がり、床を滑るように迫ってきた。
右腕を振りかぶる。
ミカエルの剣が燃えあがり、炎を纏った刀身となり俺に向かって振り下ろされる。
「『炎上刃』!!」
「流の型、『刃流し』……っ!?「だらぁぁぁっ!!」
刀身の真横に衝撃を当てて軌道を反らす『刃流し』が、力任せに打ち破られた。
なんと、流した軌道を無理やり修正してきたのである。
「っぐ……っ!?」
「『返し炎上』!!」
なんとか半歩だけ身体をずらしたのも束の間、刃が地面に触れる瞬間、またしても軌道を変えてきた。
振り下ろしが横薙ぎになり、俺の胴を両断しようと迫ってくる。
なんとか右腕の籠手で防御するが、体勢が悪く吹っ飛ばされてしまった。
「いっでぇ!? っく、強「『烈火十文字斬』!!」
地面を転がりなんとか体制を整えた……次の瞬間、ミカエルの斬撃が来た。
十字に燃える炎の斬撃が、俺の真上から迫ってくる。
右腕を上げて籠手で受け止めると、あまりの衝撃に床に大きな亀裂が入った。
「ぐぅぅっ!? このバカ力めっ……!!」
「誰がバカよっ!! このやろっ!!」
剣を籠手で受け止めたおかげで、ミカエルとの距離が近い。おかげで、ミカエルの前蹴りが俺の腹筋に突き刺さる。
だが、それは意味がない。
「……!?」
「甘い!! 甲の型『鉄丸』……それにこれは俺の距離だ!!」
「しまっ」
ミカエルの足を掴み引き寄せる。態勢が崩れた!!
「甲の型、『鉄心鋼』!!」
「がっ!?」
『硬くなれ』の呪いを肘に込めた肘撃ちがミカエルの腹筋に直撃。ミカエルの目が見開かれるが、すぐに歯を食いしばり剣を薙ぐ。
だが、この接近戦こそ俺の真骨頂。
「流の型、『刃流し』からの滅の型、『三震撃』!!」
「ぐぁっがっ!? この……痛いわねぇぇっ!!」
「おわっ!?」
剣の軌道を変え、腹・胸・顔を狙った三連続パンチを食らわせるが、ミカエルは笑った。
口から血を流し俺に頭突きをかましてきたのである。さすがにこれはよけきれずモロに喰らう。
「楽しい!! あはは……楽しくなってきた!!」
「ああ、お前……強いよ」
隙があるようでない。策を巡らせることもなく、ひたすら力と剣と炎のゴリ押しだ。
だが、それが非常にやりにくく……面白い。
気付くと、俺も笑っていた。
「まだまだ勝負はこれから!! いくわよ……『覇焔烈火皇』!!」
ミカエルの身体がさらに燃え上がり、真紅の髪が揺れ天使の翼も真っ赤に燃える。
俺は構え、地獄炎を燃やす。こんな言い方はアレだが、火力はきっと低い。
なぜなら……ミカエルに殺意を持てないから。
こいつ、俺を殺す気満々だ。でも……不思議と憎めない。
「へへっ、こんなに戦いが楽しいって感じたの……初めてかもな」
「あたしもっ!!」
拳と剣がぶつかり合い、紅蓮と真紅の炎がぶつかり混ざりあう。
何分経過したかな? 一時間か、二時間か……全く疲れを感じない。
ミカエルと、もっと戦いたい。技を競い合いたい。そんな思いがあふれてくる。
「おぉぉぉぉりゃぁぁぁーーーっ!!」
「ごっはっ!? なんのぉぉぉぉぁあぁぁぁーーーっ!!」
「がはっ!?」
俺の拳がミカエルの顔面に突き刺さり、ミカエルは怯むことなく蹴り返す。
いつしか、血も流れていた。
でも……楽しかった。俺は笑みが止まらなかった。
◇◇◇◇◇◇
「まるで炎が戦ってるみたい……」
「バケモノ同士だな」
「あの赤毛天使、かなりヤバいわね……まだ本気じゃないみたいだし」
「にゃん。ってか暑いにゃん……」
最上階の隅で、プリムたちはフレアとミカエルの戦いを観戦していた。
カグヤは手を出すなと言われていたが……とても手出しなんてできない。普通の人間が近づけば瞬く間に灰に、いや灰すら残らないだろう。あそこはそれくらいの炎が暴れている。
「…………」
「ダニエルさん?」
プリムの影で小さくなっていたダニエルは、とうとう来たかと腹をくくる。
今、声をかけたのはプリムではない。アイシェラでもカグヤでのクロネでもない。
深緑色の髪をなびかせる少女……ラティエルだった。
「やっぱり! ダニエルさんですよね?」
「……さ、さぁ? 誰のことだ?」
プリムたちの視線がダニエルに集中する。
ラティエルはプリムたちに近づき、ダニエルを見た。
「ん~、ダニエルさんで間違いないですよねぇ? 元十二使徒で堕天使の」
「「「「え」」」」
「ななな、なにバカ言ってんだラティエル!! オレは……あ」
「「「「……ラティエル?」」」」
プリムたちの視線が一気にジト目になった。
ラティエルはくすくす笑い、紹介する。
「こちらの方はダニエルさん。元十二使徒で堕天使のお方です」
「だ、ダニエルさんって……あ!! あの、手紙を預かってます!! ガブリエ「あーあーあー!! ガブリエルのババァからの手紙なんて知らん!! いらん!!」
「だ、だめです! お使いですし、ガブリエルさんが心配してます!」
「心配ねぇ……オレ、あのババァに何されたか知ってる?」
「おい貴様。堕天使ということを隠していたのか」
「そりゃそうだろ……ああもう、仕方ねぇなぁ」
ダニエルは頭を掻く。
「だまして悪かったな。そう、オレは堕天使だよ」
「にゃん……ぜんぜん天使っぽくないにゃん」
「じゃ、アンタは強いの?」
「いやいや、戦い嫌いだからオレ」
「ダニエルさん、すっごく強いですよ~? かつてアルデバロン様に手傷を負わせたこともあるくらい強い天使なのです」
「めっちゃ馴染んでるけど、アンタは?」
「あ、わたしはラティエル。ミカちゃんのお友達で十二使徒の一人です。今は休暇中なんです」
「天使に休暇ってあるんですね!」
不思議と、ラティエルからは恐怖を感じないプリムたち。
いつの間にか、一塊になっていた。
アイシェラは、ラティエルの笑顔を見ながら言う。
「貴方は……ヒトを見下さないのだな」
「うん。わたし、人間のこと嫌いじゃないから。人が作るお料理とかアクセサリー、スイーツとか大好きなの。こんなこと言うと罰せられちゃうから内緒ね?」
「堕天使よりの思考だぜ? なぁラティエル、お前もこっちこいよ」
「んー……それは無理。だって」
ラティエルは、ボロボロになりながらも笑みを絶やさないミカエルを見つめる。
どこか慈愛に満ちた、聖母のようなまなざしだった。
「お友達がいっぱいいるから……ね」
「…………ぁ」
プリムは、ラティエルの表情がとても優しくなっていることに気が付く。
見た目は同い年くらい。友達になれる……そんな気がした。
ふと、ダニエルが呟いた。
「…………おいラティエル。ここに来たのはお前らだけか?」
「え?……そうだけど」
「…………」
ダニエルは、フレアとミカエルの戦いの場から視線を外す。
目を向けた先を追うラティエルも、ようやく気が付いた。
異様な何かが、迫っていた。
「こ、この感じ……うそ」
「閉鎖されたダンジョン内だから気付かなかったぜ……この気配、何か来る」
「え、あの」
「敵ね……ふん、あっちはともかく、こっちはアタシがやっていいのかしら」
「お嬢様、私から離れず」
「にゃん……もう帰りたいにゃん」
ダニエルたちの視線の先に、漆黒の天使がいた。
黒いローブを身にまとい、手には黒い本を持っている。オールバックにメガネをかけた、どこか神父風の男性だった。
「これはこれは。なんと……罪深き人間、呪術師、天使、堕天使が勢ぞろいしているではありませんか!! おお……神は私に試練を与えた!! ああ、断罪の書が震え鳴いている……断罪、裁きを降せと!!」
ショフティエルが黒い翼と本を広げると、ページが舞い千切れ、天秤のような形になった。
「ふふふ。呪術師と炎の天使よ!! 我が「「おい」」……はい?」
次の瞬間───紙の天秤が一瞬で燃えあがる。
「え」
「誰だテメェ……」
「うっさいのよ、あんた……」
地獄炎と天使の炎が、フレアとミカエルの殺気がショフティエルに突き刺さる。
「な、あ、あの」
「勝負の」
「邪魔」
「「すんじゃねぇぇぇぇーーーーーッ!!」」
フレアの紅蓮とミカエルの真紅が絡み合うように放たれ、圧倒的な炎がショフティエルに直撃した。
「ぎぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ------っ!?!?」
髪もメガネも服も翼も『黒神器』も一瞬で燃え、黒焦げになったショフティエルは大空の彼方へ飛んで行った。
「しゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「だりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
フレアとミカエルは、何事もなかったかのように戦闘を再開した。
「「「「「…………」」」」」
「あ、まぁ……うん、よかったんじゃねぇの?」
さすがにラティエルも唖然とし、ダニエルは苦笑しつつ頭を掻いた。




