ダンジョン攻略~上層階編~
このダンジョンが踏破されない理由、なんとなくわかった。
「カグヤ、そっち行ったぞ!!」
「わかってる!! 神風流、『凪打ち』!!」
カグヤがゴブリンの首を蹴り砕き、俺は目の前にいたゴブリンの上位種を炎で燃やす。
現在六十五階層。森の中で、多種多様なゴブリンが湧きだす階層にいた。
俺とカグヤが現れるゴブリンをひたすら殴り蹴る。
「お嬢様、私の後ろへ!!」
「う、うん!! みんな、怪我したら言って!! わたしが治すから!!」
「おいおい、オレは非戦闘員だっつの!!」
「やかましいにゃん!! いいから戦うにゃん!!」
アイシェラ、ダニエル、クロネも戦っている。
アイシェラは剣でゴブリンを両断、ダニエルはナイフでゴブリンの首をかっ斬り、クロネは籠手みたいな短弓で援護射撃している。
数が多すぎて俺とカグヤだけじゃさばけない。それに、森の中ということもあって大技が使いにくい。
「あぁぁもうぅっ!! フレア、全部焼いちゃってよ!!」
「いや、いくらダンジョンと言っても森が火事になるし……なんか木々が焼けるのを見たくない」
「このアホ馬鹿!! おりゃぁぁっ!!」
カグヤの蹴りがホブゴブリンの首をへし折った。
俺も負けじとゴブリンの群れに突っ込む。
「流の型、滅の型【合】……『散葉舞踊』!!」
流れるような連撃を叩き込み、ゴブリンたちの急所を的確に突いて倒す。
『ガァァァッ!!』
「流の型、『漣』……からの滅の型、『百花繚乱』!!」
剣を持った細長いゴブリンことゴブリンナイトの振り下ろしを受け流し、顔面を狙った連撃で倒す。
「そこっ!!」
「お……ありがとよ」
「いいからさっさと戦うにゃん!!」
「おう!!」
俺の横を素通りして『矢』が飛んで行くと、背後から忍び寄っていたゴブリンの顔面に突き刺さった。
クロネの援護射撃だ。というか、あの籠手みたいな短弓いいなぁ。
俺も回転式を抜き、飛びかかってきたゴブリンたちに発砲した。
「いやっははは!! なんかみんなで戦うって楽しいな!!」
「もう飽きてきたけどねっ!!」
カグヤにそう言うと、苦笑するような返答が帰ってきた。
◇◇◇◇◇◇
「半日進んでたった二十階層かぁ……」
「なんか遅いわね。もっとペース上げないと夜になっちゃうわよ」
「いやいやいやいや待て待て待て待て」
現在八十階層まで来た。
Sレートくらいの魔獣、数ばっかり多くて面倒な階層ばかりが続き、半日で八十階層までしか進んでない……そうカグヤと愚痴っていると、ダニエルが割り込んできた。
「いいか? 普通は六十階層より上はな、命がけで進む階層なんだよ。最初の泉とか、ゴブリンの集団とか、普通は六人で挑むような階層じゃないんだぞ? 最高到達階層は九十三だか四だか忘れたけどよ、その冒険者パーティーは五十人以上のクランで挑み、九十まで到達すんのに四十人以上死んだって話だ」
「「ふーん」」
「……お前ら、大物なのかバカなのかわからん……頭がおかしくなりそうだぜ」
「馬鹿に決まっているだろう。ね、お嬢様」
「え、えーっと……すごく強いってことはわかりました!」
「貧困な感想にゃん」
というわけで、現在八十階層。
ぶっちゃけ、魔獣は大したことがない。一匹だけの場合が殆どで、パンデミック階層は非常に面倒くさい。一匹だけだと高レートの魔獣が現れるが、俺とカグヤの敵じゃない。
「次、アンタね」
「おう。パンデミックだったら全員な」
「ん。プリム、休まなくて平気?」
「はい。私は皆さんが守ってくれますから……フレアみたいに闘える力があればいいんですけど」
「ま、気にすんな。なぁアイシェラ」
「その通り。お嬢様は可愛いから許されるのです。おい貴様、きりきり働けよ」
「……ほんと、あんたは変わんないな。ニーアを見るレイチェルを思い出すよ」
逆に安心する。
俺は回転式に銃弾を込め、ブレードの点検をしながら言う。
「どうする? あと十階層進んで休むか? 最上階まで問題なく進めそうな気はするけど」
「馬鹿者。貴様はよくてもお嬢様がいるのだぞ」
「わ、私は大丈夫。あと十階層進んでから休もう? 残り十階層は体力万全にして挑んだ方がいいと思うよ?」
「だな。カグヤ、それでいいか?」
「いいわよ。ってかお腹減ってきたし、十階層はちょうどいいかもね」
というわけで、魔獣を殺しつつ十階層登りました。
けっこうな魔獣が現れたけど、俺とカグヤの敵じゃなかった。というかカグヤ、ダンジョンを登り始めた頃よりずっと強くなってやがる。
そして、九十階層……ラスト十階層まで来た。
◇◇◇◇◇◇
九十一階層へ続く階段がある小部屋で休憩することにした。
俺は二時間ほど寝て、あとは見張り。女性連中はテントの中で着替えたり身体を拭いたりしている。アイシェラの興奮した声が聞こえたが無視した。すぐに静かになったし、クロネ辺りが寝かせたのだろう。
俺はシラヌイを撫でながら、武器の点検をする。
「よぉ」
「ダニエル……寝ないのか?」
「ああ。もうすぐ最上階だしな……いやはや、お前らみたいなでたらめな強さの冒険者、初めてだぜ。さすがは特異種」
俺はブレードを分解し、汚れを取り除きながら言った。
「なぁダニエル。お前さ……ほんとに堕天使じゃないのか?」
「……なんでだ?」
「いや、なんとなく」
ブレードを再び組み上げ、両手に装備する。
手首を反らすとカシャっと刃が飛び出した。
「なんというか……根っこの部分っていうのかな。人間っぽくない、達観したような部分があるような気がするんだ。お前みたいなやつ知ってる……俺の先生もそうだった」
「…………まいったね」
ダニエルはおどけたように手を広げ、苦笑した。
「ま、お前さんには教えてやる。そう、オレは堕天使さ」
ダニエルは一瞬だけ翼を広げ、すぐに消した。
灰色の十枚翼だ……階梯天使とは違う、上位の天使。
「なんでダンジョン案内なんかやってるんだ?」
「人間が好きだからさ。それ以外にねぇよ。それに、人間が作る酒、人間とするバカ騒ぎ、日銭を稼いで安宿で飲む酒の味……ヘブンじゃ味わえない経験さ」
「ヘブン?」
「楽園都市ヘブン。この世界の中心にある天使の住まう国だ。あの小奇麗な感じや人を見下す天使がどうしても好きになれなくてな……同じように天使を嫌う連中と一緒に裏切ったのさ。おかげで『裏切りの八堕天使』なんて呼ばれるし、聖天使教会の追手が来るし。まぁ天使の気配を完全に消して人になりきれば問題ないけどな」
「でもあんた、強いんだろ?」
「……十二使徒だったけど、争いは好きじゃない」
「ふーん」
俺は回転式を分解し、掃除をする。
ダニエルは荷物から酒瓶を出し、そのまま飲む。
「っぷは……うめぇ」
「あんま飲みすぎんなよ?」
「ああ。なぁフレア……お前、地獄炎の呪術師なんだろ? その炎について知りたいこととかないのか? 今なら知ってること教えてやってもいいぜ」
「別にいいよ。この力を極めたいわけじゃないし、炎がなくても戦えるしな」
「欲がないねぇ……ま、いいか。魔神器の真の力も理解してるみたいだし、のんびり使えばいいさ」
「おう。あ、それよりさ、プリムたちがお前宛の手紙持ってるらしいけど」
「……ガブリエルの婆さんからだろ。恐ろしくて受け取れねぇよ」
「受け取ってやれよ。プリム、ダンジョンから出たらお前のこと探し回るぞ」
「……はぁぁ、わかったよ。その代わり、こっそり抜き取るからな。オレが堕天使だって知られたくない」
「別にバラしたりしないだろ」
「気分の問題だっつの」
なんか、変な天使だな。
敵意はないし、どこか親しみを感じる。
天使がこんな奴ばかりならいいんだけどなぁ。
「さーて、オレは寝るぜ。三時間後に出発だ……ダンジョン踏破、楽しみにしてるぜ」
「ああ。おやすみ」
回転式をホルスターに収め、俺は眠るシラヌイを撫でた。




