え、こんなところで再会?
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「え、なによこの空気。つーか誰?」
「オレに聞くなよ……固まってるぞ」
カグヤとダニエルの声が聞こえているようで聞こえなかった。
え、なにこれ? 目の前にいる女の子……めっちゃ見覚えあるぞ。
「え、プリム?」
「ふ……フレア? え、なぜここに」
「いやそれ、俺のセリフじゃね? ブルーサファイア王国にいるんじゃねーの?」
「え、えっと、おつかいを頼まれて」
「おつかいね。いやはや、こんなところまで大変だな。それにダンジョンにお使いとか」
「……そ、そうですね」
「ああ。お、そっちはアイシェラか。あと……ん? なんか見覚えのあるやつだな」
未だに硬直してるアイシェラと、どこか見覚えのあるフードを被った……女かな?
ブルーサファイア王国にいると思ったのに、こんなダンジョンで会うとは思わなかった。
『わんわんっ!!』
「きゃっ!? わわ、シラヌイ、久しぶりですっ」
『くぅぅん……』
よくわからんが、目の前にプリムがいる。それとアイシェラも。
「落ち着け落ち着け……ふぅぅ。よし!! おい貴様、なぜここにいる」
「よ、アイシェラ。久しぶりじゃん。相変わらずプリムに変態的なことしてんのか? プリム、毒蛇は使ったか?」
「い、いえ……」
「おい、貴様と世間話するつもりはない。なぜここにいる。ブルーサファイア王国に戻ったんじゃないのか?」
「いや、ブルーサファイア王国に戻ろうとしたらさ、乗る船間違えてイエロートパーズ王国に来ちゃったんだよ。しかも次の船は二年後とか言うし、仕方ないからプリム宛に手紙送って冒険してたんだ……って、手紙は受け取ってないか?」
「は、はい」
「あー……そっか。まぁ、ニーアは無事に送り届けたから。天使もブチのめしたし」
「…………あの、頭が混乱しそうです。フレアに会えて、会えて……嬉しいんですけど、いきなりすぎて」
「ま、そうだよな。俺もちょっと驚いてるぞ。あはは」
と、なんとなく笑って部屋を見渡す。
広い半円形の部屋で、立派な装飾のドアが三つあった。どうやらここから分岐ルートになるようだ。
部屋の隅っこには魔法陣もある。たぶん、あれが出口だろう。
「ねぇフレア……そろそろ紹介しなさいよ」
「あ、そっか」
そういえば、カグヤとダニエルは初見だな。
プリムとか、カグヤをチラチラ見て気にしてるっぽいし。
「紹介するよ。こいつはカグヤ、レッドルビー王国で俺に喧嘩売って返り討ちになってくっついてきた冒険者。そこそこ強くて俺にリベンジしたいんだって」
「紹介雑!! つーか負けてないし!!」
「か、カグヤさん……すっごく綺麗な人ですぅ。あの、フレアと一緒に旅を……?」
「まぁね。コイツと一緒に依頼受けたりしてここまで来たの」
「そ、そうですか……むむむ」
なんかプリムが唸ってる。
ま、いいや。
「あー……よくわからんが、知り合い同士か? この六十階層は分岐点だし安全だ。積もる話もあるなら、今日はここらで帰ろうぜ。そこの魔方陣で地上に「ダメにゃん!!」
と、フードを被った女が叫ぶ……にゃん?
女がフードを取ると、ネコミミがぴょこっと飛び出した。あれ、なんか見覚えあるな。
「…………あ!! 思い出した!! クロネニャンだ!!」
「ちっがう!! クロネ、ク・ロ・ネ!! クロネが名前にゃん!!」
「そうそう、それそれ。なんか久しぶり……って、なんでプリムと一緒に?」
「……いろいろあるにゃん。それより、外はヤバいにゃん。バケモノがいるにゃん」
「バケモノ? 魔獣か?」
「ち、違う……そんなものとはくらべものにならないにゃん。全身の毛が逆立ったような感覚……昔、一度だけ味わったことがあるにゃん……」
クロネは蒼い顔で震えていた。
プリムがそっと寄り添い、アイシェラは眉をひそめている。
そして、震えながら言った。
「あ、あれは……天使にゃん。悪意に満ちた天使が来てるにゃん」
「なーんだ。天使か」
「な、なーんだじゃないにゃん!! 天使にゃん天使!!」
「ふーん……何しに来たか知らんけど、俺に喧嘩売るならブチのめすだけだ」
「にゃ……ば、馬鹿にゃん」
クロネは頭を抱えてしまった……ああそっか、これが天使に対する認識だった。
恐怖、そして絶対的な存在。俺からすればうっとおしいだけなんだが。
「……フレア。クロネも怖がってますし……ここなら安全ですよね? 今日はここで休みませんか?」
「俺はいいけど」
「アタシもいいわ。食べ物もあるしね」
「オレもいいぜ。ダンジョン内の転移魔方陣がある部屋は魔獣が寄ってこないからな」
「お嬢様がいいなら私もいいです!!」
「……にゃん」
プリムはポンと手を叩く。
「よし!! では夕飯にしましょう!!」
◇◇◇◇◇◇
クロネが持っていた小さな袋の中に、テントやら簡易テーブルやら食料やらがいっぱい入っていた。
俺とダニエルでテントを組み、女性陣は夕飯の支度だ。支度と言っても、パンを切って野菜や肉を挟んで出すだけだが……火が使えないんだよね、ここ。
夕食を食べ、互いに情報交換をするのだが……。
「「ダニエル? 堕天使の?」」
「はい。その方に手紙を渡すようにと言われまして」
「だってさ。アンタ、堕天使なの?」
「ばば、馬鹿言うんじゃねぇよ。オレが堕天使なわけねぇだろ!?」
カグヤのジト目にダニエルは手と首を同時に振るという器用な真似をした。
アイシェラはフンと鼻を鳴らす。
「ま、そんな都合よくいかないな。おい貴様、ここを出たらお嬢様の仕事を手伝ってもらうぞ」
「いいけど。あんた、相変わらずだな」
「アタシもやるの? なんかめんどいなー」
「貴様には頼んでない」
「あ? オバさん、口の利き方に気を付けなさい。蹴り殺すわよ」
「誰がオバさんだと? 小娘」
「おい、やめろよカグヤ」
「アイシェラ、仲良くして」
「「……ふん」」
アイシェラとカグヤが険悪だ。
すると、プリムが俺をじーっと見て……くすりと笑う。
「フレアですねぇ……」
「なんだよ、急に」
「いえ。まさかここで会えるとは思ってなかったから……ふふ、うれしいです」
「だな。俺もお前が自由に冒険できるって聞いて嬉しいぞ。用事済んだらどうする? ブルーサファイア王国戻るつもりだったけど、プリムがいるなら違う国で冒険するのもいいな」
「あ、面白そうです。えーっと……イエロートパーズ王国の隣はブラックオニキス王国かパープルアメジスト王国ですね」
「どっちが面白いかな? まぁどっちも行くけど」
「えーっと……パープルアメジスト王国は技術大国って言われてて『魔道機関』が非常に発達しています。ブラックオニキス王国は吸血鬼の国ですね」
「ほうほう……やばい。めっちゃ面白そう」
魔道機関は魔法の力で仕掛けを動かす道具だったかな。フリオニールの故郷だっけ。
吸血鬼……ってのはわからん。
「えへへ……冒険、たのしみです」
「だな。ま、よろしく頼む」
「はい!! わわっ」
『わぅぅん』
シラヌイが嬉しそうにプリムにすり寄った。
「おい貴様。お嬢様といい雰囲気になるんじゃない!! そこは私の役目だ!!」
「なぁプリム。やっぱりアイシェラも連れて行くの?」
「え、ええ……」
「アタシ、こいつ嫌い」
「安心しろ。私もお前は嫌いだ」
「……こいつら大丈夫なのかにゃん」
「さーな。ネコミミちゃん」
この日は、遅くまで喋っていた。
俺がレッドルビーで過ごした日々や、プリムたちがブルーサファイア王国で過ごした日々。クロネがなぜここにいるかとか、カグヤと俺の戦い、そして十二使徒を倒したことなど。
ダニエルが『明日は上層に行くんだろ? もう寝ろよ』って言うまでずっと喋っていた。
見張りは、俺がすることになった。クロネが怯えている天使が昇ってきたら、対応しだいで焼き尽くすつもりだ。
「それにしても……天使は何しに来てんのかね? 天使もダンジョンに登るのかな」
◇◇◇◇◇◇
ショフティエルは『断罪』を終えた。
ダンジョン周辺の人間は『裁き』終わるころにはすっかり夜だった。
「ふむ。少し汗をかきましたね。休憩して『断罪』の続きと参りましょうか」
そう言って、この場から去った。
夜の闇に溶けるように消えたショフティエル。そして数分後……。
「あれー? 人気がまるでないね」
「ほんとね……んー、お休みとか?」
「んー……なにも感じないなぁ」
ミカエルとラティエルがダンジョンに到着。人気がまるでないことに気付いたが、ショフティエルの『断罪』で罰せられた人々が『紙』にされ、ショフティエルの本のページにされたことで痕跡自体が残っていないのだ。
探知がドヘタなミカエルはもちろん、ラティエルですら気付かなかった。
「ま、いいわ。フレアたちはこのダンジョンにいるんでしょ? 最上階で待つわよ」
「う、うん……なんだろう、この感じ」
「なによ?」
「ん、ん~? 天使、かなぁ?」
「はぁ? ま、どうでもいいわ。あたしには喧嘩売る天使なんていないでしょ。じゃ、行くわよ」
「う、うん。わかった」
二人の背中から十枚の翼が広がり、夜の空に向かって羽ばたいた。
「…………う~ん?」
ラティエルは、妙な違和感に囚われつつも……その場を後にした。




