表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第六章・魔法王国イエロートパーズ/天使の炎と地獄炎

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

124/395

断罪の天使ショフティエル

 ダンジョンへの定期便が到着した。

 プリムたちは荷車から降り、百階建ての『塔』こと『アメノミハシラ』を見上げる。


「ふわぁ……これがダンジョンですか」

「大きいですね……確か、空間歪曲という技術が用いられてるとか」

「そうにゃん。階層の広さは最大で町一つとかあるにゃん」


 クロネはフードを被ったまま歩きだす。プリムとアイシェラも後に続いた。

 ダンジョン前はかなりにぎわっている。小さな町のようなところで、露店や武器防具屋、情報屋や臨時冒険者ギルド、換金所や商隊などが集まっている。


「ダンジョンのお宝を換金したり、商人が珍しい道具を買ってくれるにゃん。宿屋もあるし、湯屋もある。昔はこんなににぎわってなかったみたいだけど……今じゃ立派な町にゃん」


 クロネはどうでもよさげに歩いている。

 プリムは珍しい物を見るかのようにキョロキョロし、アイシェラはそんなプリムにぴったりついていた。

 町を歩くのは冒険者ばかり。そして……。


「え……あ、あれ」

「…………」


 プリムは、三人組の冒険者パーティーを見た。

 正確には、鎖に繋がれた二人の獣人。しかも……子供だ。黒い痣のような物がいくつも浮かび、目は死んでいた。

 恐ろしいのは、子供たちを連れている冒険者パーティーが、とても楽しそうに嗤い合っていることだ。

 

「……道具にゃん」

「え……」

「あの子たちは『道具』にゃん。あの冒険者たちが腰に差してる剣やナイフと同じ……ただの道具」

「く、クロネ……」

「このイエロートパーズ王国は獣人の扱いが最低にゃん。本当に……」


 クロネはフードを深くかぶり、歯を食いしばった。

 アイシェラは何も言わず、プリムは……。


「私、ちょっと行ってきます!」

「にゃ」

「ちょ、お嬢様!?」


 プリムは冒険者パーティーの元へ。

 リーダー各らしき男に話しかけた。


「あ? なんだいお嬢ちゃん」

「あの、この子たちは」

「ああ、そこで買ったんだ。『罠避け』だよ」

「こんな小さな子を買うなんて、人としてどうかと思います! あなたたち、この子たちをなんだと思っているんですか!! 恥を知りなさい!!」

「……なんだこいつ? 可愛い顔してるくせにイキりやがって。相手してほしいのかい?」

「ふざけないで!! 人身売ば「お嬢様!!」もがっ」


 アイシェラがプリムの口をふさいだが、もう遅かった。

 冒険者三人組がイラついた表情でプリムを見ていた。


「済まない。その……わ、罠避けを買った場所を教えてくれ」

「……そんなもん、道具屋に決まってんだろ」

「ありがとう。迷惑料だ」


 アイシェラは金貨一枚を男に渡し、プリムを引きずって離れた。

 当然、プリムは怒る。


「アイシェラ!!」

「申し訳ございません。ですが、私はお嬢様の安全を考えた上で行動しました。お嬢様……このイエロートパーズ王国では、獣人は道具のような扱いを受けている事実、お受け止めください」

「っ……でも」

「あそこでお嬢様が怒っても意味がありません。それどころか、軽率な行動でお嬢様自身が危険な目に合うところだったのですよ?」

「…………」


 うつむくプリム。

 そこに、クロネが言う。


「どのみち、あの子たちはもう長くないにゃん。あの黒い痣、魔法研究所の実験で受けた痕……あの痣がある子供は、長くても一週間ほどの命にゃん」

「え……そ、そんな」

「見てわからにゃい? あの目……もう、命を諦めてるにゃん」


 よく見ると、冒険者たちは獣人の子供を……『罠避け』を連れていた。

 道具を携帯するのに罪悪感を持つ者はいない。獣人の子を鎖で引くのに、罪悪感などなかった。


「ぅ……」

「お嬢様。これが……現実です」


 プリムは口を堅く結び、目に涙を浮かべる。

 先ほどの冒険者たちは、ダンジョンの中に入ってしまったようだ。


「帰るかにゃん? ぬくぬくした温室で育ったお姫様には辛い現実にゃん」

「おい、やめろ」

「ふん……世界がどれほど臭いかを知らない奴」

「黙れ……っ」


 アイシェラとクロネが険悪になるが、プリムはそこに割って入る。


「クロネ、アイシェラ。行こう」

「……」

「お嬢様……」

「私は平気。それに……これが現実でも、もう逃げないよ。私は、私にできることをするだけだから」

「……きっと辛いこと、いっぱいあるにゃん」

「それでも、私は進む。ようやく手に入れた自由だからね」

「……ふん」


 クロネはそっぽ向き、アイシェラはそっとプリムに抱き着いた。


「お嬢様、お強くなられた……」

「そうかな? あと胸を触らないで」

「あん♪」

「台無しにゃ……」


 クロネがげんなりした瞬間───。




「ふむ、ここが半天使の造りし塔、ですか」




 全身の毛が逆立つかと思った。

 ほんの十メートルほど後ろに、得体の知れない何かがいいた。

 黒いローブ、黒い本、オールバックの髪型、縁なし眼鏡。そして、整った顔立ちが浮かべる微笑。


「クロネ?」

「おい、どうした?」


 プリムとアイシェラは気付いていない。

 獣人だからこその感覚。周囲を見ると、『罠避け』の子供たちも何かを感じ取ったのか震えていた。

 クロネは真っ蒼になり、冷や汗をダラダラ流す。


「に……逃げるにゃん!!」

「え?」

「お、おい?」

「走れ!! 速く!!」


 クロネは逃げ出した。

 わけがわからないプリムとアイシェラはその場から動かない。プリムから一定距離離れたクロネの全身に激痛が走る。だがクロネは止まらない。


「く、クロ「走れっつってるにゃん!!」は、はいっ!!」


 プリムとアイシェラは走り出した。

 向かうはダンジョンしかない。プリムたちはクロネと並ぶと、ようやく質問できた。


「おい貴様、何を」

「ヤバい奴がいた。ヤバい、ヤバい……」

「や、やばい?」

「死ぬ。死ぬにゃん……あれは違う。人じゃない。あれは……やばい」


 言葉になっていない。それに、クロネは真っ蒼になったまま前を向いていた。口元がカタカタ揺れ、平常心を失っているようだ。

 そして、ダンジョンの入口に到着した。

 入口には冒険者たちが並び、何やら騒ぎになっている……どうやら『罠避け』の獣人たちが震え始め、ピクリとも動かなくなったのだ。


「おい、なんだこれ……不良品か?」「こっちもだ。おい、動け!!」

「なんだぁ? 一斉に」「ったく、返品しなきゃ」


 誰も、気付いていない。

 原因が、『懲罰の七天使』の一人、ショフティエルということに。

 クロネは、騒ぎになっている隙にダンジョンの入口に突っ込んだ。もちろん、プリムとアイシェラも一緒に付いていく。


「おい!! 待て!!」

「ごめんなさいっ!!」

「仕方ない……すまんが通るぞ!!」


 冒険者の制止を無視し、クロネたちはダンジョンの中に逃げ込んだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 ショフティエルは、プリムたちなど見ていなかった。


「さて、始めますか……『断罪の書ジャッジメント・ノート』」


 手に持った黒い本のページが一気にめくれ、ばらばらになって宙に飛び出しては千切れていく。

 他者の『罪』がページとなり、本そのものが『審判』を司る『黒神器』で、断罪と審判を司る天使であるショフティエルの力であった。

 当然、黒い本からページが飛び出した瞬間は、大勢の冒険者たちが見ていた。


「なんだぁ?」「神父か?」「なにあの本?」

「特異種?」「おいおい、なんだよあれ?」


 道化師を見るような感覚で集まる冒険者たち。そして、ショフティエルを警戒し武器に手を添える玄人冒険者たち。

 だが、その判断は間違っている。正しい判断は……逃げ出すことだけだ。


「静粛に」


 ピタリと、騒ぎが止まった。

 正確には『審判の場』が形成され、ショフティエルがこの場を支配したのだ。

 宙を舞う紙吹雪が『断罪天秤』へ姿を変え、この場に存在するすべての命の『罪』を計る。


「ではこれより、あなたたちの『罪』を計りましょう」


 一方的な『断罪』が始まり……数百名いた冒険者たちは『紙』となってショフティエルの本に収まった。


「む……?」


 だが、ショフティエルの『断罪』から逃れた冒険者たちもいる。

 審判の場には射程距離があり、遠巻きからショフティエルの断罪を見ていた冒険者たちだ。ダンジョンに挑戦する玄人冒険者たちは不用意に近づかず、離れた場所からショフティエルを狙っていた。


「ふむ。裁きが足りないようですね……まぁ問題ありませんが」


 だが、それも意味がなかった。

 裁きは、平等に下される。


 ◇◇◇◇◇◇

 

「じゃ、行くわよ」

「うん」


 ミカエルとラティエルは、ダンジョンに向かって空を飛んでいた。

 目指すは最上階。すべては、必ず現れるであろうフレアの元へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ