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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第六章・魔法王国イエロートパーズ/天使の炎と地獄炎
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ダンジョン攻略はとっても順調

「第一地獄炎、『火炎砲』!!」


 フレアは、両手に炎を集中させ前に向かって放つ。

 一本道であること、魔獣が列を成して襲い掛かってくることから、直線的な攻撃はかなり有効で、火炎砲は魔獣を焼きながら通路の行き止まりまで進んで燃え尽きた。


「裏神風流、『巨神鉄槌』!!」


 カグヤは、右足を巨大化させた前蹴りを放ち、フレアと反対側から向かってくる魔獣をまとめて蹴る。

 直接的な攻撃は有効。それはフレアの攻撃で証明された通りで、道幅いっぱいまで巨大化した足は容赦なく魔獣たちを吹き飛ばし、行き止まりでプチっと潰れた。


「す、すっげぇ……」

「ねぇ、どんだけ出るの?」

「あ、ああ。後ろの扉が開くまでだ」


 ここは、三十五階層。

 階段を上った先には小部屋があり、目の前に扉に閉ざされた階段があった。そして、両側には細長い通路が伸び、そこから無数の魔獣が襲ってきたのである。

 フレアとカグヤが魔獣を燃やし、蹴る。

 ダニエルは隅っこでシラヌイを抱えて蹲っていた。


「お、お前のご主人様たち、すっげぇな」

『わん!!』


 それから間もなく、三十六階層へ続くドアが開き、目の前に階段が現れる。

 魔獣もリポップせず、この階層はクリアとなった。

 ダニエルは二人をねぎらい……同時に驚く。


「いやはや、たった三時間ほどで三十五階層とは……オレが案内したパーティーで最も早いぜ。最高記録だ最高記録」

「当然でしょ。それより、今日中に六十階層まで行くわよ。討伐ルート討伐ルート♪」

「だな。つーか楽勝すぎる……なぁダニエル、もっと複雑で面白いルートないのか?」

「いやいや、三等冒険者でダンジョン初挑戦なら、一日で十階層まで行ければかなり優秀なパーティーだっつの。それにお前らパーティーじゃなくてコンビじゃねぇか。三十五階層まで来てかなり強い魔獣が出現してんのにものともしない……マジで踏破しちまうかもな」

「いや、するんだって。あ、小腹空いたから何かくれ。あと水」

「へいへい」


 ダニエルはカバンからサンドイッチと水筒をフレアとカグヤに渡す。

 シラヌイには干し肉を与え、自分も酒のボトルをグイっと煽る。


「ふぃぃ~……いやぁ、長くダンジョン案内してるけど、お前らみたいなのは初めてだ」

「いい意味でか?」

「ははっ、そうかもな。このペースなら数日で踏破しちまいそうだ」

「当然よ!」

「ま、案内は任せな。それと……そろそろ、冒険者たちの狩り場に入るはずだ。血の気の多い奴もいるから気を付けろよ」

「ああ。えーと、『ダンジョン内のもめ事は一切関与せず』だっけ」

「そうだ」


 冒険者ギルドは、ダンジョン内のもめ事に一切関与しません。すべて冒険者同士の責任です。

 つまり……この中で殺しがあっても関係ないのである。死体はダンジョンに吸収されるし証拠も残らない。中には冒険者を狙った狩りが横行している階層もあるとか。


「……ま、オレがいるから大丈夫。ってことにならないんだよなぁ……絡まれたらマジで頼むぞ」

「あんた、一等冒険者なのに弱っちいんだな」

「は、はっきり言いやがる……フレア、勘弁してくれよ」

「おーい男ども、そろそろ行くわよ!」

『わん!』


 すでにサンドイッチを完食したカグヤは、次の階層へ向かう階段に足をかけていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 それから、四十階層まで進んだ。

 魔獣に関しては問題ない。だが、ダンジョンのトラップが出てくるようになった。

 矢が飛んできたり、ガスが噴出したり、岩が転がってきたり……だが、フレアたちはこれを難なく突破。

 それよりも厄介な、知りたくなかった事実が目の前に現れる。

 それは、四十五階層を進んでいるときのことだった。


「……いるな。冒険者たちだ」


 ダニエルがそう言う。もちろん、フレアとカグヤとシラヌイも気付いていた。

 四十階層からダンジョンの造りが変化し、まるでとても広い洞窟内を歩いているようだった。大きさが変化したためか魔獣も大型の物がいくつも出るようになる。

 そして、ここは……冒険者たちの狩り場でもあった。

 フレアたちの前に、四人組の冒険者パーティーが現れたのだ。会うなりダニエルは舌打ちし、露骨に顔を歪めている。


「よぉ、ダニエルじゃねーか。へへへ、またガキの子守かい?」

「……まぁな。それより、まだそんなの連れてんのかよ」

「あん? ああ、『罠避け』にな」

「「…………」」


 冒険者パーティーの男が連れていたのは……小さな子供だった。

 ボロきれを纏い、目が死んでいる。それだけではなく顔色も非常に悪く、所々の皮膚が黒く変色していた。それだけじゃない……子供たちには、犬や猫のような耳と尻尾が生えていた。

 さらに、首には金属の首輪が巻かれ、鎖まで付いている。

 フレアは、チリッとする気持ちを堪え、質問する。


「その子たち、なんだ?」

「あぁ? おいおい、口の利き方に気を付けな。オレらは一等冒険者だぜ」

「そうよ。礼儀の知らないガキは早死にするわ。あーっはっは!!」

「というか、『罠避け』を知らねーなんてあり得ねぇだろ?」


 冒険者パーティーの仲間たちが嘲笑する。そして、仲間の一人が子供を蹴った。


「わうっ……!?」

「ぎゃんっ!?」

「親切な先輩が教えてやる。これは『罠避け』っつって、ダンジョン内に隠された罠を探知する道具さ」

「どう、ぐ?」

「ああ。ちょうどいい、実演してやる……行け」

「っひ……」

「行け!!」

「ぎゃんっ!?」


 男は、子供の一人を蹴りつける。向かわせたのは、部屋の隅にあった横穴だ。

 子供は蹴られ、泣きながら横穴の中へ走り出す。そして……。


「ぎゃうぅぅっ!?」

「お、罠発見。見たか? こういう横穴とかに先行させて罠を発動させてから進むんだ」

「…………」


 男が鎖を引くと、獣人の男の子がズルズルと引きずりだされる。背中には数本の矢が刺さり、息も絶え絶えで泣いていた。

 男はつまらなそうにため息を吐く。


「こりゃもうダメだな。また『補充』しねぇと」

「……補充?」

「ああ。こいつら、実験の失敗作だとよ。奴隷にも使えない、余命いくばくもないガキをダンジョンの罠避けとして販売してんのさ。銀貨一枚で買えるしお得だぜ? ダンジョン上層攻略では必須の『道具』さ」

「…………」

 

 フレアは、冷静に聞いた。


「実験って?」

「おいフレア……やめとけ」

「黙ってろ、ダニエル。実験って?」

「知らねぇのか? イエロートパーズ王国郊外にある『魔法研究所』だよ。そこで特級冒険者序列四位のブリコラージュ様が獣人を使って魔法の実験してんのさ。このガキどもはその失敗作で、格安で売りに出されてるってわけよ」

「…………ああ、そうなのか」


 フレアは、冷静に聞く。

 フレアは、冷静に、冷静に……無理だった。


「お前ら、クソだな」


 ネコミミの女の子が恐怖で震えるのを見て、もう耐えれなかった。

 冒険者四人組は同時にフレアを睨む。


「待てフレア!! おいザザード、こいつは今日ダンジョンに挑戦したばかりで」

「黙ってろダニエル。おい聞いたかおめぇら、このガキ喧嘩売ったぜ? 売られた喧嘩は」


 次の瞬間、ザザードと呼ばれた冒険者パーティーのリーダーの顔面が陥没。フレアの拳がめり込んでフッ飛ばされた。

 同時に、カグヤも動く。


「アンタたち、こんな小さな子をこんな目に合わせて、なんとも思わないの?」

「は、はぁ? こ、こんなの、ダンジョン内じゃ当たり前……」

「もういい」


 カグヤの前蹴りが女の腹に直撃。ザザードと同じようにフッ飛ばされた。

 フレアは、残りの冒険者をカグヤに任せ、矢が刺さっている子供を抱き上げる。

 出血が多く、皮膚の至るところから腐敗臭がした。目は虚ろで今にも事切れそうで……フレアは取り出した呪符をそっと下ろす。


「大丈夫……大丈夫だ。痛くない、いたくない……」

「…………ぁ」


 もう、手遅れだった。

 優しく抱きしめ、頭を撫でると……子供はほんの少しだけ微笑み、だらりと手が落ちる。

 死んだ───そっと地面に置くと、ダンジョンに吸収された。

 

「う───けふっ、っげっふ!!」

「っ」


 悲しむ間もなく、ネコミミ少女が咳き込む───吐血した。

 そのままパタリと倒れ、どんどん生気が落ちていく。

 フレアは呪符を取り出しネコミミ少女を抱き寄せるが、やはり手遅れだった。


「───大丈夫。ゆっくりおやすみ……」

「───」


 そして、そのまま命が燃え尽きた。

 カグヤは冒険者最後の一人を徹底的に叩きのめしている。フレアはダニエルに詰め寄った。


「なんだよ、これ!!」

「……罠避けだよ。説明はさっきのザザードがした通り、ダンジョンでは罠避けとして獣人を使うんだ」

「ふざけんな!! 子供……子供だぞ!? それに実験ってなんだよ!?」

「……特級冒険者ブリコラージュの研究テーマは『呪術』だ。奴は獣人を使って呪術の実験を繰り返してる。呪術魔法によって汚染された獣人を廃棄せず、格安で売りさばいてるんだよ」

「ふ、ざけ……あんの野郎ぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 ブリコラージュ。

 子供のような容姿をした特級冒険者序列四位の実力者。

 フレアは怒りでおかしくなりそうだった。

 ダンジョンの秘宝とやらは間違いなく研究に関係する物だろう。もし依頼を達成し、秘宝とやらを渡せば、ブリコラージュの研究は間違いなく進歩する。

 

「獣人……ねぇ、獣人ってどこから連れてくんのよ。イエロートパーズは王国しかないんでしょ?」


 冒険者四人をロープで縛り吊るし終えたカグヤが聞いた。


「イエロートパーズ王国は獣人を『人』と認知していない。郊外にある獣人たちの村を襲って確保してるんだよ」

「……クソみたいな話ね。あの特級冒険者、可愛い顔して天使みたいなやつね」

「特級冒険者は頭のおかしい連中ばかりだからな……ブリコラージュは、命を道具としか思ってない。呪術という過去の魔法を復活させるためにどんなことでもするだろうぜ」

「……ふざけやがって」


 ふと、フレアの頭の中によぎる。


『───フレアは優しいね』


 寝たきりで、長い黒髪がとても美しい、二十代ほどの女性だった。

 

「……ヴァジュリ姉ちゃん」


 忘れられない呪術師の一人だった。

 フレアに呪術を教えた、もう一人の師匠。


「はっきり言うぜ。オレは獣人を『罠避け』として使う野郎どもに嫌悪感を持ってる。もしお前たちが『罠避け』を容認してたら、契約は打ち切りにするつもりだった。でもそうじゃなかった……ま、嬉しかったぜ」

「……で、どうすんのフレア、進む? それとも……あのブリコラージュとかいう奴、ブチ殺す?」

「おい聞けよ。つーか特級冒険者に喧嘩売るのやめとけ、特級冒険者は天使に匹敵する強さだぜ?」

「あ、それなら大丈夫。アタシとフレア、十二使徒を倒してるから」

「…………は?」


 ダニエルが首を傾げ、フレアの足下にシラヌイが寄り添った。


『クゥゥ……』

「……大丈夫。進もう」

「いいの?」

「ああ。最上階で秘宝とやらを手に入れよう。途中で『罠避け』とか使ってる奴見つけたらブチのめす」

「おいおい……こんな言い方はアレだが、罠避けはダンジョンじゃ合法だ。こっちから喧嘩を売ったらお前たちの評判は」

「どうでもいい。くそ、ダンジョンがこんなに胸糞悪いとは思わなかった……カグヤ、いいか?」

「いいわよ。アタシだって頭に来てるしね」


 一行は、ダンジョンの最上階へ向かって進む。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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― 新着の感想 ―
[気になる点] 王道のほうだったか… 俺はてっきり獣人が大大大大っ好きすぎてって言うパターンかと思ったよ
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