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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第六章・魔法王国イエロートパーズ/天使の炎と地獄炎

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二人の天使が向かう場所

「ダンジョン?」

「うん。たぶん、呪術師はそこにいるよ」

「ダンジョンねぇ……大昔の半天使が能力で作った遊技場、だっけ?」

「確か、そんな風に習ったよねぇ」


 ミカエルとラティエルは、イエロートパーズ王国のカフェで休憩していた。

 ラティエルの能力でフレアを探したのだが、対象に近づくにつれて探知しにくいという弱点がある。イエロートパーズ王国にいるのは間違いないが、正確な位置までは把握できなかった。


「面白そうじゃん。ダンジョンの情報は?」

「えーっと、ここのダンジョンは『塔』みたい。最高階層は百で、最上階にはお宝があるとか」

「ふーん。お宝なんてどうでもいいけど……その最上階、フレアとの戦いの場に相応しいかもね。よし決めた、あたしたちもダンジョンに行くわよ」

「えぇぇぇぇっ!?」


 ミカエルはアイスティーを一気飲みし、氷も嚙み砕く。

 

「戦うなら最高の舞台でやりたい」

「ままま、待って待って!! ミカちゃんがそんなところで戦ったらダンジョンが壊れちゃうよ!!」

「知ったこっちゃないわよ」

「でで、でも、『十二使徒の神技(ジャッジメント)』や『神器』を使ったら」

「平気よ。それなら、あんたが守りなさい」

「えぇぇぇぇっ!? わ、わたしの力じゃミカちゃんの炎は防げないよぉ」

「当たり前でしょ。あんたの神器と『十二使徒の神技(ジャッジメント)』なら、ダンジョンの倒壊くらいは防げるでしょ。仕事しなさい仕事」

「仕事って……わたしは休暇なんだけど」

「ふん。行くわよ」

「ま、待って待って!!」

「なによもう……」


 ミカエルは必死に引き留めるラティエルを見る。


「あのね、百階層までは一日じゃ到達できないと思うの」

「そうかもね。で?」

「だからその、わたしたちなら頂上まで飛んで行けば数分で行けるよね? 今日から数日、何もしないで頂上まで待つの? いくら呪術師でもそこまで空気読んではくれないかと」

「…………」

「だ、だからその……今日はさ、わたしと一緒にお買い物しない? せっかくイエロートパーズ王国まで来たんだし、少しくらい遊んでも……だめ?」

「…………」


 ミカエルは大きなため息を吐いた。


「ま、いいわ。ずっと気を張ってたし……付き合ってあげる」

「やった!! ありがと、ミカちゃん」

「ミカちゃん言うな」


 ミカエルとラティエルは、ショッピングを楽しんだ。


 ◇◇◇◇◇◇

 

「ありがとうございました。ラハティエルさん」

「ん……一人でいいの? 誰かよぶ? キトリエルなら呼べるよ?」

「必要ありません。私の断罪に抗える者はおりませんので……では」

「ん。帰るときは呼んでね」


 ショフティエルは一人、イエロートパーズ王国郊外の森に到着した。

 ラハティエルの次元切断により好きな場所に自在に転移できるが、まずはやるべきことがあった。


「本当に……しばらく見ない間に世界は大いに歪む。醜い、実に醜い」


 ハンカチを取り出し口元へあてる。

 目の前の街道に、盗賊がいた。どうやら馬車を襲っているようで、すでに護衛は殺され商人とその家族が取り囲まれている。

 ラハティエルは顔を歪めたまま、盗賊に近づいた。

 ラハティエルに気付いた盗賊の一人が剣を向ける。


「あん? なんだおめぇ?」

「……臭い、それに醜い。なぜこうもヒトは歪むのだ……ああ、実に醜い」

「あぁん!?」


 首を左右に振り、悲し気に顔を歪めるショフティエル。

 盗賊は激高しショフティエルに斬りかかるが、剣はショフティエルをすり抜けた。まるで透明で透き通るようなショフティエルが目の前にいるような、不可思議な現象だ。

 どうか家族だけは、と盗賊に懇願する商人たちも気づいた。


「さぁ、審判の時間である」


 ショフティエルは、手に持つ黒い本を開く。

 

「な、なんだてめぇは!!」「神父かぁ?」

「なめんじゃねぇぞコラ!!」「おい、殺せ!!」


 盗賊たちが一斉に騒ぎ出すが……。


「静粛に」

「「「「「ッ!?」」」」」


 たった一言で声が出なくなり、指先すら動かせない。それは商人とその家族も同様だった。


「審判の時間である。ヒトがヒトを襲い金品を強奪するのは悪であるか? 抗いもせずに涙を零すだけのヒトは悪であるか……罪深き者はどちらか!!」


 ショフティエルの本のすべてのページが千切れ、舞う。

 指先よりも小さくなった紙屑が集まり、まるで天秤のような形になる。

 巨大な天秤が揺れている。何かを秤にかけている。


「罪深き者に天なる罰を」


 そして、天秤が揺れ───両方の受け皿がズシンと同時に落ちた。秤が秤を成していない、あり得ない動きだった。


「ここに審判は下された。悪はヒト、他者の物を強奪し富を得ようとする卑劣な悪。抗いもせずに涙を零すだけの弱者という悪。悪は滅びるべき。ここに裁きを!!」


 ショフティエルの叫びとともに、盗賊たち、そして商人とその家族たちの身体が一瞬で砕け散った。

 砕け散った身体はショフティエルの本に吸収され、新たなページとなる。


「裁きは下された。つまり、ヒトとは罪深き者である」


 この場に、誰も残ることはなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


「相変わらずエグイですね……ショフティエルさんの身勝手な『断罪』は」


 ショフティエルの『断罪』もとい『身勝手な処刑』を陰で見ていたのはマキエルだ。

 ショフティエルは、神の名のもとにヒトに裁きを下している。それこそが自分の役目であることを疑っておらず、ヒトを家畜と称して管理する聖天使協会を死ぬほど憎んでいた。


 ヒトは、裁かれなくてはならない。

 それがショフティエルの心情であり本心。ショフティエルの前ではヒトはただの罪人。どんな理由であろうと裁くべき存在で、老若男女問わない。


 懲罰の七天使アインソフオウル・セブン『断罪』のショフティエル。

 彼が向かうのはイエロートパーズ王国、ではなく……遥か先に見える巨大な『塔』だ。


「半天使が造りし塔……あれの存在は許されない!! 呪術師、十二使徒と共に滅ぼさねば!!」


 ショフティエルはゆるりと歩き出す。

 魔獣など敵ではない。急ぐ理由もない。ショフティエルが行うのは断罪であり、処刑ではない。

 

「悔い改める時間は与えよう。罪深き者たちよ」


 黒き天使が、一歩ずつ歩きだした。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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― 新着の感想 ―
[一言] 懲罰の七天使て七つの大罪の体現者? マキエルは強欲 ラハティエルは怠惰 そんな感じがする
[一言] ショフティエル 天使なのに七つの美徳ではなく七つの大罪の傲慢をその身に宿す矛盾の存在である
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