いざダンジョンへ
魔法学園を出て、カグヤとシラヌイと一緒に街で食べ歩きをして宿へ。
夕飯は宿の食堂で食べることに。今日のメニューはおすすめ定食で、肉の炒め物と焼き立てのパンだった。肉をパンに挟んで食べると肉汁が染み込んで美味い。
明日はダンジョンということで、少しだけ酒も飲むことにした。
軽めのワインを注文し、カグヤと乾杯する。ちなみにシラヌイは部屋で寝てる……食事の場に犬を入れちゃダメって怒られたからな。
カグヤはワインをグイッとあおる。こいつけっこう酒強いんだよな。
「ぷっはぁ、おいしいわね。ねぇフレア、明日はダンジョンだけど、ダンジョンのことわかってる?」
「あん? ブリコラージュが言ってただろ、六十階層から分岐するって」
「ええ。六十階層まで行けばその先は大丈夫だけど、問題はむしろその前……ランダム階層ね」
「……なんかお前詳しそうだな」
「ま、冒険者ですから」
カグヤはワインを飲み、デザートへ手を伸ばす。
カットした果物が蜜漬けになっていて、楊枝を刺して口の中へ入れると、幸せそうに微笑んだ。
「レッドルビー王国にいたときに聞いたのよ。ダンジョンのランダム階層には謎解きや迷宮もあるって。こんな言い方はアレだけど……アタシとアンタ、頭悪いじゃん? 行けると思う?」
「…………」
わからん。つーか、こいつよりは頭いいと思う。
カグヤはカグヤなりに考えてるっぽいな。果物を食べつつ周囲を見る。
「この食堂にいる連中、みんな冒険者ね。ダンジョンで稼いでる冒険者も多そう……」
「ま、とりあえず進んでみればわかるだろ」
「頭悪いわね……ま、その通りだけど」
デザートはカグヤに食い尽くされた。まぁいいけど。
「目的はダンジョンで遊ぶこと……じゃなくて、最上階にあるお宝だったな」
「ええ。魔法学園理事長が欲しがってるみたいね。遊びながら向かいましょっか」
「だな。じゃ、ごちそうさん。さーて風呂入って寝るか」
「あ! お風呂はアタシが最初だからね!」
明日はダンジョン。今日はさっさと寝るか。
◇◇◇◇◇◇
翌日、冒険者ギルドへ。
受付に行くと、指名依頼が入っていると言われた。
「依頼主は魔法学園理事長ブリコラージュ様となっております。依頼内容はこちらでご確認ください」
依頼書を受け取り、中身を改める。
ダンジョンの攻略と宝の入手が達成条件になっている。依頼をクリアすると冒険者等級の格上げと白金貨二枚の報酬だ。三等冒険者が受ける依頼では例がないみたい。
カグヤは興奮していた。
「じゃ、いくわよ!! ダンジョンダンジョン♪」
「おう。で、ダンジョンってどこだ?」
受付嬢さんに聞くと、定期便が出ているらしい。
王国東門から出ている定期便に乗って、三大ダンジョンの一つ『アメノミハシラ』へ向かうようだ。
せかすカグヤに引っ張られギルドの外へ。
シラヌイを連れ、イエロートパーズ王国東門に向かうと、そこには巨大なウシと連結した大きな荷車がいた。どうやらこれが定期便らしい。
御者のおじさんに聞くと。
「片道銅貨三枚だよ。乗るかい?」
「乗りまーす! フレア、支払っておいて」
「俺かよ!? お前、自分のぶんくらい……ああもういいや。すんません、犬はいくら?」
「犬? 非常食かい?」
「違うし!! 仲間だし!!」
「まぁタダでいいよ」
荷車には、ダンジョンに挑戦する冒険者がいっぱい乗っていた。
同世代の奴もいれば、お爺ちゃんお婆ちゃん、脂の乗った若手冒険者グループや俺よりも年下なんてのもいる。これ、全員が三等冒険者より上の存在なのか。
荷車はゆっくり走りだし、ダンジョンへ向かって進む。
荷車には椅子がないので立っている。すると、近くにいたハゲ冒険者が俺に言った。
「おいお前、犬なんて連れてくんじゃねぇよ。クセーんだよ!!」
「いや、昨日洗ったよ。な、シラヌイ」
『わぅん』
「うるせぇ!! てめぇ、等級は!!」
「え、三等」
「は!! オレは二等だ、等級が上の冒険者に敬意を払うのは冒険者の常識だぜ? おい、先輩が命令する……この犬、外に捨てろ」
「…………」
周りは何も言わない。あ、クスクス笑ってる奴もいる。
もちろん、捨てるなんてしない。というか。
「おいハゲ……アンタ、アタシのシラヌイになんて言った?」
カグヤだ。俺も頭にきてたけどこいつのが早かった。
ハゲ冒険者はカグヤを睨みつける。
「クセェっつったんだよ。おいメスガキ、お前も捨てられたいのか? あぁん?」
やっべ……カグヤの額に青筋が。
ま、最初に喧嘩売られたのは俺だ。ボコボコにしてやりたいけど我慢しよう。
「蝕の型、『口内炎になっちまえ』」
「おっぶぉぉっ!?」
ハゲ冒険者にそっと触れ、口の中いっぱいに口内炎を作ってやる。するとハゲ冒険者は口を押え、痛みのあまり声も出せず震えていた。
俺はハゲ冒険者を蹴り殺そうとしたカグヤの足を押さえる。
「ま、こんなもんだろ。つーか、俺が売られた喧嘩を勝手に買うな」
「アンタが腰抜けだからでしょうが。シラヌイをボロクソに言われて頭に来ないの?」
「来てるからこうして苦しませてんだろ。殴ったり蹴ったりするだけが鬱憤晴らすわけじゃねーんだよ。たっぷり苦しんでる間はたてつく気は起きないだろ」
「陰険。アンタって根暗系?」
「お前も喰らうか? この狭い荷車で盛大に漏らせば冒険者カグヤは終わりだな」
チリチリとした殺気……ハゲ冒険者よりカグヤのがむかつく。
すると、ハゲ冒険者は痛みで気を失った。
ああもう、さっさと到着してくれ。
◇◇◇◇◇◇
アメノミハシラ。
一言で表すなら、『デカい塔』だった。
空間歪曲という魔法が掛けられた塔で、各階層の広さは最大で町一つの広さになることもあるとか。
階層には宝箱が設置され、上階にいけばいくほどレアなお宝が入っているという。冒険者たちは中層まで進み、魔獣を狩ってその素材売買で生計を立てているらしい。
ちなみに、踏破だれたことはないのだとか。
俺とカグヤとシラヌイは、そんな塔を見上げていた。
「あのてっぺんか……お宝」
「なんかワクワクしてきたかも!」
『わんわん!!』
「とりあえず、六十階層まで進んで、そこから討伐ルートに進む。んで最上階まで行ってお宝ゲットだな」
「うん! 楽しみね、早く行きましょ!」
「おう。ふふふ、腕が鳴るぜ」
俺もけっこう興奮してきた。
初ダンジョン。ふふ、呪術師の村にはこんな面白そうなのなかったからな。
しばらくは楽しませてもらおう。
「見て、ここ道具屋とか宿とかもあるみたい」
「お、ほんとだ。泊まり込みで挑戦できるのか」
塔の周りには露店もある。いい匂いもするし、挑戦前の腹ごしらえでもするか。
すると、変な男が近づいてきた。
「兄さん姉さん、どうだい、情報買わないかい?」
「は? 情報?」
「おうよ。このアメノミハシラの地図さ、二十階層までのルートを示した地図。お安くしとくぜ?」
「へぇ~、いいな。カグヤ、どうする?」
「なんか胡散臭いわね……つーか、アンタなに?」
「オレは情報屋。地図は金貨一枚、二十階層以上のルートを知りたいなら直接案内するよ。オレをパーティーに加えてくれたら最上階も夢じゃないぜ? ちなみに、雇う場合は一日金貨一枚だ。どうだいどうだい?」
情報屋と名乗った男は、皮鎧に剣を差した三十代くらいの男だ。
髪はボサボサで髭も生えてるし、なんか胡散臭い感じ……でも、不思議と悪い感じはしない。
金はあるし、どうすっかな。
「どうする?」
「いらないわよ。なんか臭いし」
「臭い!? あの、胡散臭いならいいけど臭いは酷くない!? ねぇお嬢さん!!」
「お嬢さんって言うな!! アタシはカグヤよ」
「胡散臭いはいいのかよ……」
「で、旦那、どうよ? 見たところ初挑戦だろ? アメノミハシラの罠にかかって死ぬの嫌じゃね? 適度なスリルを味わえつつ適度なルートを案内するよ?」
「……ま、いいか。じゃあ案内してよ。とりあえず金貨三枚ね」
「まいどっ!!」
「ちょ、フレア!! いいの?」
「別にいいだろ。それに、お前とずっと二人きりも嫌だし」
「はぁぁぁぁ!? アタシこそ嫌なんですけど!!」
「まぁまぁお二人さん、喧嘩しなさんな」
「うっさい臭い!!」
「ひでぇ!! お嬢さんひでぇ!!」
「お嬢さん言うなこの……アンタ、名前は? 情報屋じゃない方よ」
情報屋は「しまった」と言った感じで咳払いし、名乗った。
「オレはダニエル。このアメノミハシラで情報屋やってる一等冒険者さ!!」