懲罰の天使
『懲罰の七天使』。
聖天使教会とは違う組織で、思想の違いから聖天使教会とは対立している組織である。
構成員は七人と少ないが、それぞれが十二使徒に匹敵する強大な力を持つ天使で、翼の色が漆黒に染まっているのが最大の特徴である。
聖天使教会からは『懲罰天使』と呼ばれ忌み嫌われており、いずれ戦う日が来るであろうとアルデバロンは言っていた。
『懲罰の七天使』の本拠地入口で、一人の少女がボンヤリ座っていた。
「ほぁ……たいくつ」
『懲罰の七天使』の本拠地は異空間にあり、入口を管理するのは懲罰天使の一人ラハティエル。
異次元を切り裂く能力を持ち、懲罰天使にしか扱えない『黒神器』の一つ『魔性冥府の鎌』を使用して本拠地の入口を管理する『門』の天使である。
ラハティエルは欠伸をして床に転がる。
硬くツルツルした床はひんやりと気持ちいい。やることもないので昼寝をしようとすると……誰かがラハティエルの顔を覗き込む。
「感心しませんね。こんなところで昼寝とは。神罰が下りますよ?」
「ショフティエル……」
漆黒のローブにメガネをかけた、真面目そうな男性だ。
髪もぴっちりとしたオールバックで背筋はこれでもかと伸びている。手には黒い本を持ち、縁なしメガネをクイッと上げる。
ショフティエル。彼も懲罰天使の一人で、規律を重んじる男だ。
「ラハティエル。あなたはこの組織と現世を繋ぐ管理者なのです。懲罰天使の自覚を持ち……ああもう、だらしない……服はちゃんと着なさい!! しっかり背筋を伸ばして、髪を整えて、ああもうしっかり目を開けなさい!!」
「うぅ~」
ショフティエルの小言にラハティエルはうんざりしていた。
そこに、黒い帽子を被った男……マキエルが通りかかる。
「やぁショフティエルさん。相変わらずお厳しい」
「マキエル……ちょうどいい、貴方に聞きたいことが」
「はい、なんでしょう」
マキエルは帽子を取り、優雅に一礼した。
礼儀も態度も申し分ない。それなのになぜか勘に触る……それがマキエルという男だ。
「貴方、地獄門の呪術師と遭遇したそうですね? なぜ彼と戦わなかったのですか?」
「ああ、あの時は十二使徒の監視が主な任務でしたので。無駄な戦闘を省き、さらに十二使徒を救出し恩を売ることを優先しただけであります」
「笑止。十二使徒など放っておけばよい。あの無能共、呪術師に喧嘩を売り敗北しすでに欠員が三名も出ている……『風』に『鋼』に『操』は雑魚ですが、戦力を削れたのはいいことです。ですが、呪術師の炎が我々を焼く、ということもありえる以上、放っておくわけにはいきません」
「それも一理ありますな。ですが、今は放っておけばよいかと。呪術師を狙う十二使徒はまだいます。例えば……『炎』とか」
「……ミカエルですか。確かに、あの醜女が呪術師に挑めば双方タダでは済まない……ではマキエル、その二人を始末しなさい。貴方なら楽な仕事でしょう」
「…………」
「マキエル、どうしたのですか」
「いえ、ショフティエルさん……なぜ貴方の命令を聞かねばならないのでしょう? ワタクシが従うのはBOSSのみ。懲罰天使が懲罰天使に命令を出す権限はありませんが」
「…………あぁ、確かにそうですね」
一気に険悪になった。
マキエルとショフティエルが睨み合う。
だが、ショフティエルの言うことも一理ある。フレアの炎が懲罰天使を焼かないとも限らない。今でこそ表立って喧嘩を売っているのは十二使徒だ。フレアは売られた喧嘩を買っているにすぎない。
そして今度はミカエルがフレアに喧嘩を売ろうとしている。
「ならば、私が行きましょう。呪術師とミカエル、両方を始末すればボスも私を認めてくれる。私をボスの右腕にしていただき、私が貴方たちを導く存在となりましょう」
「……どうぞ、ご自由に」
「くぁぁ~……寝ていい?」
無言だったラハティエルが大きな欠伸をし、ショフティエルは咳ばらいをする。
「では、失礼。ボスに用事ができました」
ショフティエルは歩き去った。
その後ろを、マキエルとラハティエルは見えなくなるまで眺める。
「お手並み拝見、といきましょうか」
「くぅぅ……」
ラハティエルは、床で丸くなり眠ってしまった。