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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第六章・魔法王国イエロートパーズ/天使の炎と地獄炎

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特級冒険者序列第四位『虹色の魔女』ブリコラージュ

 俺とカグヤとシラヌイは、夕暮れ前にイエロートパーズ王国城下町に戻ることができた。けっこう全力で走ったから疲れたけどな。

 城下町に戻った俺は、カグヤに聞く。


「報告、どうする?」

「冒険者ギルドは日暮れまでだし、今からいけばギリ報告できんじゃない? 行っちゃう?」

「んー……そうだな。明日も依頼受けたいし行くか」


 ということで、冒険者ギルドへ。

 討伐の証であるアナンターヴァイパーの牙、毒袋、目玉は箱にしまってある。これをギルドに卸せば依頼完了……ふふふ。三等冒険者に格上げされ、ダンジョンに挑戦できるってわけだ。

 ギルドに入り、何度も顔を合わせている受付嬢さんのところへ。


「おつかれーっす。アナンターヴァイパー討伐しましたー」


 元気よく言うと、ギルド内がどよめく……あ、夕暮れ前で依頼完了報告が多いのか。けっこう人でにぎわっているな。

 俺とカグヤはそれらを無視し、アナンターヴァイパーの素材が入った箱をカウンターへ。

 受付嬢さんはなぜか震えていた。たぶん、俺たちが生きて帰ってくるとは思ってなかったんだろう。


「え、ええと? あ、アナンターヴァイパー……と、討伐ですね?」

「ええ。素材入ってます。確認して」

「報酬ちょーだい」

『わんわんっ!!』


 俺もカグヤもシラヌイも腹が減っている。さっさと金もらってメシにしたい。

 受付嬢さんが箱を開けると、液体に満たされた箱から毒袋と目玉が、牙を包んだ布にはアナンターヴァイパーの牙が入っていた。

 受付嬢さんは青ざめ、いつの間にか集まってた冒険者たちが騒ぐ。

 

「あああ、アナンターヴァイパーのそそ、素材……ほ、本物」

「ま、待て待て、ちゃんと確認したほうがいい!! ど、道具鑑定人を呼べ!!」

「嘘だろ!? まさか、だ。SSレートの魔獣を……依頼掲示板の隅でホコリかぶってた依頼を」

「お、おい待てよ!! あのガキ二人がそんな大物!!」

「偽物だ!!」「おい、道具鑑定人はまだか!!」


 何やら大事になってしまった。

 そして、道具鑑定人という老人が現れ、素材を鑑定する。


「……間違いなく、これはアナンターヴァイパーの素材ですな」

「「「「「おぉぉぉぉっ!!」」」」」


 ギルド内がどよめく……すると、いい加減ウンザリしたカグヤが受付嬢さんに言う。


「ねぇ、どうでもいいけど報酬は? さっさと帰りたいんだけど」

「あ、はい。申し訳ございません。実はこの依頼、討伐報酬は依頼人の方が直接支払うことになってまして。素材をお持ちして報酬をお受け取りください。依頼は達成されたようですので、ギルド規約に従い冒険者フレア様、カグヤ様のお二方は一階級昇進。本日より三等冒険者となります」

「「「「「さ、三等だと!? SSレートを討伐したのが……三等!?」」」」」


 なんか気味悪いくらい揃った。冒険者たちやかましいな。

 面倒だし、聞くこと聞いて帰るか。


「あの、依頼人ってのは?」

「はい。えー……魔法学園理事長ブリコラージュ様です。特級冒険者のおひとりですね」

「特級? まぁいっか。じゃあ明日にでも届けるよ」


 そういえば、フリオニールが言ってたな。魔法学園の理事長は特級冒険者だって。

 毒蛇の素材なんて何に使うのかね?


「よし、終わったわね。フレア、シラヌイ、ごはん食べに行こっ」

「おう。疲れたしがっつり食べたたいぜ」

『わぅぅん』


 ま、今は飯が大事……あぁ腹減った。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 依頼品を持って魔法学園へ。

 何度も模擬戦で来たから守衛さんとも顔見知りくらいの仲だ。

 理事長の依頼品を持ってきたことを告げると、守衛室へ戻り……ほんの数分で戻ってきた。


「理事長がお会いになるそうだ。案内しよう」


 守衛さんが案内してくれる。

 いつもは演習場にしか行かなかったので、ちゃんと中に入るのは初めてだ。

 魔法学園は五階層になっていて、一般生徒や教員は四階層まで、五階層はまるまる理事長の自宅兼研究室になっているらしい。勝手に入るととんでもないことになると、誰一人立ち入らないのだとか。

 五階層の階段前で、守衛さんは言った。


「オレはここまで。あとはこの上に行けば理事長が出迎えてくれる」

「はい。案内ありがとうございました」


 守衛さんは去っていった。

 

「じゃ、行くか」

「ええ。ねぇねぇ、終わったらどうする? ダンジョン行く?」

「お、いいね。ギルドで場所聞いて行ってみるか」

『わぅぅん』


 そんなことを言いながら五階層へ。

 階段を上ると、幅広く長い廊下になっていた。そして左右には引き戸があり、それぞれ名前が付いていた……なんだこれ?


「素材室、ため池室、実験場、素材室その②……素材ばっかだな」

「怪しいわね……ってか、理事長が案内してくれんじゃないの?」

『ぐるるる……わうわうっ!!』

「シラヌイ? どうした……───カグヤ」

「……ええ」


 俺とカグヤは警戒する……どこからか見られている。チリチリした。

 いち早く気付いたシラヌイは唸る。


「あぁ、そう構えないでくれ。ふむ……屈折率を変えて視覚を騙す魔法は完成といったところか。まぁ、見えないだけでその場にいるのだから相当な使い手には意味がない、覗き用の魔法といったところか」


 そして──俺とカグヤの背後に人が現れた。

 低い身長、傘のような帽子をかぶった女性……いや、少女?だった。

 腰まである髪は青く、少女のような体躯なのに胸がやたら大きく、露出の多い衣装を着ている。顔立ちは幼く俺より年下に見える。

 手には輪っかがジャラジャラ付いた杖を持ち、薄目でニヤリと口を歪めた。


「お前たちが私の依頼を達成した者たちか……ふむ、若いな」

「若いって、あんたのが若いじゃん。なぁカグヤ」

「確かに……子供じゃん。胸でかいけど」

「っくっははは!! こんな年寄りを若いとはねぇ。どうもありがとう」


 女性はゲラゲラとおっさんのように笑う。


「知ってると思うが名乗ろう。ブリコラージュだ」

「知らんと思うから名乗る。フレアだ」

「カグヤ。別に覚えなくていい」

『わん!!』

「面白いガキだね。私を前にした冒険者はみんな震えあがるんだが、こんな反応は久しぶりだよ。ま、茶でも出そうかね……来な」


 ブリコラージュは歩きだし、俺たちは後へ続く。

 近くの部屋に入る。どうやら応接間っぽい場所で、フカフカのソファとテーブルがあった。

 遠慮なく座ると、ブリコラージュが紅茶を出してくれる。


「じゃ、用事を済ますかね。依頼品を」

「ん、これ」

「ほぉ……」


 アナンターヴァイパーの素材を出すと、ブリコラージュは興味深げに眺める。目玉の一つをつかみ自分の目の前に持っていったり、牙を何故か口に入れたり、毒袋の匂いを嗅いだりしていた。


「本物だね。その若さで大したもんだ」

「どーも。で、報酬は?」

「ああ、大金貨百枚だね……ほれ」


 ブリコラージュは金貨の詰まった袋をテーブルの上に置く。

 数えるのが面倒なので俺のカバンの中に入れる。後でカグヤと半分こしよう。


「じゃ、帰るか」

「うん。ダンジョン行こっ」

「待て」


 用も済んだので帰ろうとしたら、ブリコラージュに止められた。

 まぁそんな気はしてた。こいつ、俺とカグヤを見る目が輝いてるし。


「お前たち、なかなかの強さを持っているようだ。どうだ? 私の頼みを聞いてくれないだろうか」

「「えー……」」

「おいおい。この特級冒険者序列第四位である私の頼みだぞ? お前たちの等級はいくつだ?」

「三等だけど。あ、アタシはこいつより強いから」

「いやいや、どう考えても俺だろ」

「は?」

「は?」

「ははは。仲がいいのだな……恋人同士か?」

「ははは。こいつは単なる同行人だよ、俺に飽きたらどっか行くと思う」

「ま、そうね。アンタに飽きたら他んとこ行くわ」

「で、頼みだが……聞いてくれるか?」


 ブリコラージュは足を組み、胸の下で腕を組む。大きな胸が持ち上げられ、服の切れ込みから谷間がめっちゃ見えた。


「あ、コイツに色香は無駄よ。男と女は生殖器が違うってくらいの認識だから」

「む? あぁ、こんな年増を女と見てくれるのか? ふふ、嬉しいことを言うじゃないか」

「年増って……アンタ、アタシより年下でしょ?」

「外見に惑わされぬことだ。こう見えて七十を越えた婆さんだぞ」

「え!? ま、マジで!?」

「話進まねぇなぁー……俺、帰っていい?」


 いい加減、面倒になってきた。

 ソファでだらけるとブリコラージュが言う。


「すまんな。SSレートを討伐したお前たちに頼みたい。このイエロートパーズ王国にある三大ダンジョンの一つ、『大迷宮アメノミハシラ』の最奥にある宝を持ってきてほしい」

「は? ダンジョンのお宝?」

「ああ。私の研究にどうしても必要なんだ」


 すると、カグヤがお茶を啜って言う。


「ダンジョンの最奥にある宝ねぇ……そもそも、三大ダンジョンって誰も踏破したことないんでしょ? なんでアンタがお宝のこと知ってんの?」

「簡単だ。三大ダンジョン……いや、四大ダンジョンの宝は恐らく共通している。今でこそ三大ダンジョンと呼ばれているが、昔は四大ダンジョンだったのだ。そこを踏破したときに見つけた秘宝が、残りの三大ダンジョンの宝が繋がっていることを示している」

「……よくわかんない。ってかアンタ、特級冒険者なら自分で行きなさいよ」

「無理だ。私は研究で忙しい。だからこそSSレートを討伐できる実力を持った冒険者が来るのを待っていたのだ」


 ブリコラージュは紅茶のカップを優雅に傾ける。

 つーか、秘宝ってなんだろう?


「ま、別にいいんじゃね? ダンジョンは行く予定だったし」

「引き受けてくれるか? もちろん、報酬は支払おう。指名依頼ということで冒険者ギルドに届けを出しておく。成功した暁には一人白金貨一枚、さらに冒険者等級を一つ上げてやろう」


 俺、白金貨なら十枚持ってるからそんなに嬉しくない。冒険者等級が上がってもなぁ……ダンジョンに入るには三等冒険者にならないとダメだから依頼受けただけだし。

 ま、別にいいや。ダンジョンで遊べるし。


「アメノミハシラは空間歪曲魔法が掛けられた広大なダンジョンだ。全百階層、六十階層からは三つのルートに分かれている。百階層までの各一層ずつ、計四十体の高レート魔獣を倒しながら進む討伐ルート、魔獣は現れないが広大な迷宮になっている探査ルート、謎解きしながら進む頭脳ルート……お前たちは」

「ま、討伐ルートだな」

「もっちろん。それ以外ないわ」


 頭使うの面倒だしな。それに戦いながら進むのは面白そう。


「では明日、冒険者ギルドに顔を出して依頼を受けてからダンジョンへ向かえ」

「おう。ま、そこそこ期待してな」

「あーあ。けっこう時間過ぎちゃったわね……オナカへった」

「私も研究があるので失礼する。この素材、さっそく使わせてもらおう」


 ブリコラージュはアナンターヴァイパーの素材を持ち、部屋を出ようとした。

 俺も紅茶を飲み干す。


「あ、ねぇねぇ、アンタってどんな研究してんの?」


 カグヤが、さして興味もなさそうに聞いた。


「私の研究? ああ───」


 そして、ブリコラージュは……怖気のするような笑みを浮かべ、言った。




「私の研究テーマは……呪術さ」




 俺はまだ気付かなかった。

 特級冒険者序列第四位ブリコラージュが狂っていることに。

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脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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