新入生との模擬戦
俺の相手はラモンという小太りの剣士。魔法剣士科の新入生Aクラスで、船での選抜試験で最後まで立っていた生徒だ。
模擬戦が始まり、ラモンは剣を構えてブツブツ呟いている……ああ、魔法か。
「肉体強化……腕力強化……速度強化……感覚強化……おぉぉぉーーーッ!!」
「…………」
えーっと……実戦なら十回は死んでるぞ。それくらい無防備に魔法を使って自己強化していた。
俺も自己強化の呪いを使うけど、こんなに時間はかからない。呪術の発動速度はこれでもかってくらい鍛えられたからな。呪符を取り出して呪力を込めて放つ。最低でも瞬きほどの速度じゃないと先生の拳骨が飛んでくる。
めっちゃ隙だらけだけど待つ。これは模擬戦……相手の力を引き出すのが目的だ。
「いくぞぉぉぉっ!!」
「あ、うん」
とりあえず構え、ラモンの攻撃を避けることに専念する。
「はぃぃっ!! しゃぁぁっ!! だりゃぁっ!!」
「…………」
いや、まぁ……体型の割に動けるんじゃない? ああ、身体強化を使ったからか。
それにしても、遅い。大振りだし、身体の動きでどういう攻撃をするのか、次の攻撃、さらにその次が手に取るようにわかる……えーっと、これどうすればいいんだ?
身の危険を感じた場合に反撃してもいいって話だけど、はっきり言って掠りもしない自信がある。
「ぶしゅぅ、ぶゅぅぅ……げっふぉげっふぉ!! ぜっは、ぜっは……っ!!」
「あー……大丈夫か?」
「うっぷ……おっ、げぇぇぇっ!!」
「うわっ」
ラモンは汗だくになり勝手に止まり、盛大に吐いた。
後で聞いた話だが、気合を入れようと模擬戦の直前まで食べていたらしい。なんか憎めないというか、バカなのか……ラモンは吐きまくり、そのまま倒れた。
「…………」
「では次!! の前に……先生方、お願いします」
教師の一人が杖を振ると水の玉が生まれてラモンの吐瀉物を包み込み、そのままどこかへ飛んで行った。魔法って便利。土の地面は綺麗になった。
さて、次……お、女か。
「よろしくお願いします!!」
「あ、どうも」
どうやら格闘女子みたい。両手には籠手を装備し、何やら呪文……ああ、ラモンと同じ強化系だ。
格闘女子は構え、なかなかの速度で突っ込んでくる。
「はっ!! だっっ!! せいやぁっ!!」
「おおっ……」
正拳突き、回し蹴り、踵落とし、そして連撃。お手本のような武術だ。
たぶん、実戦経験が全くない、道場かどこかで習った型をそのまま使っているんだろう。
なんというか、ほほえましい。俺も最初はこんな感じだったっけ。
「せいやっ!! はいぃっ!! だぁっ!!」
「おっ、ととっ、ほいっと」
もちろん、俺には当たらない。
すべてを躱し、受けようと思ったがやめた。格闘家なら俺との力量は感じてるはず……でも、諦めない姿勢は評価できる。
なので、この少女のこれからを期待し、少しだけ技を食らわせた。
「だぁぁっ!!」
「流の型、『漣』」
「──えっ?」
正拳突きの流れを変えられ、バランスを崩す少女。
俺は少女の腕をつかみ、倒れないように支えてあげた。
「うん。筋はいいよ。もっと鍛錬して強くなれよ」
「あ……は、はい!! ありがとうございました!!」
「ありがとうございました」
少女は頭を下げた……って、やばい。魔法使いの模擬戦なのに稽古しちゃった。
でも教師たちは何も言わないし、羊皮紙に何かを書いていた。格闘女子も下がっちゃったし。
「では次!!」
「ういーっす……へへ、冒険者風情が。今年はオレが殺してやるよ」
次に出てきたのは、なんか小物っぽい感じの悪人顔だった。手に剣を持っている。
だが、殺してやるとか言ったのでつい反応してしまった。
「は? 殺す?」
「あん? なんだ、知らないのかよ? 毎年新入生の模擬戦相手の冒険者は、何人か新入生に殺されてるんだ。ま、こんな依頼を受ける冒険者なんて五等に決まってるからな。死んでも変わりはいるってやつだ」
「…………ふーん」
なんかむかつくな……というか、相手が俺でよかったな。カグヤにそんなこと言ったら逆に殺されてるかもしれないぞ。
そうだ。少し実験してみようかな……こういう奴だったらいいや。それに、ムカつく野郎相手ならけっこういけるかも。
「腕力強化……いくぜ!!」
「…………」
ムカつく野郎は、腕力だけ強化して俺に突っ込んできた。
しかもこいつ、俺を殺す気みたい。同い年くらいの男を殺すことに躊躇しないとは……大物なのか、何かが欠如してるのか。
俺は構えず、ただ睨みつける。
「ブッ殺すぞ、てめぇ……!!」
「───っ!?」
俺は、ムカつく野郎めがけて殺気を飛ばす。
第一地獄炎の燃料は殺気。普段、誰かをぶっ殺したいなんて考えないからな。こういう時にいつでも殺気を出せるようにしておかないと。
俺の殺気にひるんだムカつく野郎は盛大にずっこけてガタガタ震え、周囲の生徒だけでなく教師も青くなっていた……やっべ、やりすぎた?
殺気を解きほわっと笑顔になるが、ムカつく野郎はもう立てなかっ……あらら、漏らしてる。
「アンタ、なにしてんのよ……」
カグヤが呆れたように俺を見た。すみません……俺も人のこと言えなかったわ。
◇◇◇◇◇◇
この日、全員の相手をすることができなかった。よって明日にもちこし。
教師に気に入られたのか、引き続き依頼を継続することになった。ちなみに、今日の依頼は終わりで報酬も手に入り、依頼書には依頼完了のサインがされた。これをギルドに提出すれば俺とカグヤの評価になり、冒険者の等級も上がるというわけだ……まぁ、最初の依頼を終えたくらいで上がりはしないけど。
でも、次からは指名ということで学園から依頼を受ける。
内容は同じだが、指名を受けるということは認められた証で、成功させると等級査定に大きく響くとか。つまり、四等に上がるチャンスも増えるってわけだ。
俺とカグヤとシラヌイは冒険者ギルドに依頼書を提出。報酬を受け取った。
ずっと寝てたシラヌイは腹が減ったのかキュンキュン鳴く。もちろん、俺とカグヤも腹が減ったのでメシにする。報酬はさっそく使うことにしよう。
ギルドから出るとさっそく相談。
「お腹すいた。何食べよっか?」
「もちろん肉だろ。お前もだろ?」
「ふふん、まぁね。シラヌイも肉がいいでしょ?」
『わんわんっ!!』
「肉だってさ」
「そうだな。じゃあ焼肉屋とか探して……お?」
こちらに近づいてくる三つの影があった。
三人とも見覚えがある。男二人に女一人で、全員が笑顔だった。
「おーい!! フレア君、カグヤ君!!」
「おぉ~い!! まってくれぇ~っ!!」
「ようやく会えたっ!! あぁ、よかったぁ」
「フリオニール? それに、ラモンと……格闘女子じゃん」
「レイラって言います。よろしくお願いします!!」
フリオニールはともかく、もう二人は意外だった。
戦ってる最中に嘔吐したぽっちゃり魔法剣士ラモンと、俺と戦った格闘女子だ。名前はレイラっていうらしい。
フリオニールは二人を紹介した。どうも俺に興味があったようで、フリオニールに話を聞いたところ俺たちを夕飯に誘うから一緒にどうだと誘ったらしい……って、夕飯?
「フレア君たち。よかったら一緒に夕食でもどうだい?」
「俺は別にいいけど。カグヤは?」
「アタシもいいよ。その代わり、肉が食べたいわね」
「肉!! いいねぇ、ボクも食べたい」
「わたしも肉で構いません。格闘家たるもの肉体が肝心ですので!!」
「はっはっは!! では私に任せてくれ。最高の焼肉をごちそうしよう!!」
『わんわんっ!!』
なんか一気に騒がしくなった……けど、なんか楽しいからいいや。
俺、フリオニール、カグヤ、ラモン、レイカ、シラヌイと、大人数となった俺たちは、焼肉屋を求めて歩きだした。