イエロートパーズ王国の港
イエロートパーズ王国の港は、ブルーサファイア王国の港と同じくらい栄えていた。
俺、カグヤ、シラヌイは、港をのんびり散策しながら屋台を巡る。海沿いということもあり海産物が豊富だ。気になったのは魔法使いっぽい人がいっぱいいることだ……さすが魔法使いの国。
とりあえず、魚の串焼きを焼いている店へ。
魚のワタを抜き、串に刺して遠火焼きしている。魚の脂と塩が溶け合い、匂いも見た目も素晴らしい。
「すんません、その魚は?」
「ああ、ヨンマの串焼きだ。シンプルな塩味がたまらねぇ一品だぜ。海沿いの港町では大抵売ってるが、イエロートパーズ王国のヨンマは荒波に揉まれて身が締まってるから美味いぜぇ? 兄ちゃん姉ちゃん、あとワンコもどうだい? 一本銅貨五枚だ」
カグヤを見ると異論はなさそうだ。というか肘で俺をせっついてくる。
「じゃ、三本ください。あ、一本は串を抜いてもらえると」
「あいよっ!!」
店主のおじさんは俺とカグヤに一本ずつ、シラヌイ用に串を抜いたのを一匹くれた。
銀貨一枚と銅貨五枚を支払い、もう一枚銀貨を渡した。
「あの、俺たちこの国にきたばかりで。よかったらいろいろ教えてください」
「あぁ? ははは、こんな屋台のおっさんに聞かずとも、冒険者ギルドに行けばいくらでも情報集まるじゃねぇか」
「まぁなんとなく。このヨンマ美味しいし」
「ははは!! 嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」
冗談抜きでヨンマは美味い。頭から丸かじりしたが脂がすごかった。身もホクホクだし淡白な味わいと塩のしょっぱさが交わりとんでもない味わいだ。
カグヤは完食、銀貨一枚を支払いもう二匹丸かじり。シラヌイも一匹じゃ満足できないのか俺に向かって吠える……仕方なく銀貨を支払い、二匹追加した。
「で、何を聞きたいんだ?」
「とりあえず、イエロートパーズ王国のこと。ここって魔法使いの国なんですよね?」
「ああ。住人の九割が魔法使いだ。ま、オレも魔法使いだがね」
「え、そうなんですか?」
「ああ。ほれ」
店主のおっさんは人差し指に火をともす。
「オレはD級魔法使いでね。腕っぷしも強くなかったし攻撃魔法もあんまり得意じゃなかったからな。こうして屋台で日銭稼いで暮らしてんのさ。オレみてぇに魔法使いの勉強をしたけど魔法使いみてーな仕事してねぇ奴はけっこういるぜ」
「へぇ~……」
魔法使いもけっこう大変なのかな。
ハゲ頭に汗だくのシャツを着て手ぬぐいをねじって巻いているおっさん、どう見ても魔法使いに見えないもんな。
「おかわり!! あ、あと五匹ちょうだい」
『わんわんっ』
カグヤは金貨を一枚叩き付けるように屋台のカウンターに置く。
おっさんは追加のヨンマをカグヤに渡し、シラヌイにも串なしを出した。
「この辺りで面白そう……えーっと、なんか面白い場所とかあります?」
「面白い場所ねぇ……イエロートパーズは集落や町がねぇんだ。このイエロートパーズ王国だけで、外には危険なダンジョンとか、王国が管理している魔法研究施設がいくつかあるだけだ。集落や町がねぇ理由は、イエロートパーズ領地の魔獣がとんでもなく危険だから……知ってると思うが、イエロートパーズは海路でしか入国できねぇ。陸路だとSSレート以上の魔獣がわんさと出る平原を横切らなきゃならねぇからな」
「へぇ……ん?」
「あと、あんまりデカい声では言えねぇが……このイエロートパーズは奴隷に対する扱いが酷い。外の施設で奴隷を使った魔法実験を行ってるって話だ」
「…………」
ちょっと待て、なんか聞き捨てならないことを言ったぞ。
「おっさん、さっきなんて言った?」
「あ? 奴隷……」
「違う違う。その前、前」
「…………なんだ?」
「ダンジョン、危険なダンジョンってなに?」
「ああ、ダンジョンだよ。このイエロートパーズには『三大ダンジョン』の一つ、『大迷宮アメノミハシラ』があるんだ。冒険者ギルドに行けば情報が手に入るぜ」
「だ、ダンジョン……おお、本で読んだことある!!」
「お、おお。お前さん、冒険者だよな? ダンジョンを知らねぇとは珍しい」
「ダンジョン……いい、いいな。おいカグヤ、ダンジョン行こうぜ!!」
「ふあっ!? げっふぉ!?」
カグヤの背中をバシッと叩くと、口からヨンマを噴き出した……きったねぇ。
「おっさん、この辺りに宿とかある?」
「あ、ああ。城下町に行けばいくらでもあるぜ。金に余裕あるなら、冒険者ギルドの近くにある『まほう亭』がおすすめだ」
「わかった。ありがとう! しばらく町に滞在するからさ、また来るよ! いくぞカグヤ、シラヌイ!」
「げっふぉげっふぉ!! あ、アンタ、ぶっとばす!!」
『わんわんっ!!』
俺が走り出すとカグヤも走り、シラヌイも駆け出す。
このヨンマの店、また来よう。
◇◇◇◇◇◇
カグヤとシラヌイを連れて城下町へやってきた。
港からけっこう歩いての到着だ。王国なだけあってかなり広い。
「おお~……ここがイエロートパーズ王国の城下町か」
「なんか雰囲気違うわね。レッドルビー王国とは大違いだわ」
「確かに」
レッドルビー王国の城下町は活気があり、薄着の人たちや闊歩し、職人が道沿いに露店を開いて冒険者たちを呼び寄せたり、野良犬が歩きラキューダが荷車を引いたりと自由な感じ。
ブルーサファイア王国の城下町はキラキラして、街並みもカラフルで観光名所って感じ。お土産屋やおしゃれな飲食店が並び、砂浜では観光客が水着を着て海で遊んだりと楽し気な感じだ。
それに対し、イエロートパーズ王国の城下町は……古臭いというか静かな感じ。建物は煉瓦造りで古臭い……いや、趣ってやつか。道行く人も魔法使いっぽいのばかりだし。酒場とか飲食店もあるけど全体的に古めかしい感じだ。
「なんか陰気ね」
「確かに……まぁ別にいいか。それより、宿取って冒険者ギルド行こうぜ。ダンジョン行ってみたい!!」
「いいわね。ふふふ、ダンジョン……戦いの匂い!!」
『わんわんっ!!』
ヨンマ屋のおっさんが言っていた宿屋を目指しつつ歩くと……。
「おーい!! おーいおーい!!」
「ん……あ、あれってフリオニールじゃない?」
「ほんとだ」
聞き覚えのある声に振り替えると、フリオニールがいた。
俺たちの元まで息を切らして走ってくる。
「はー、はー……ふぅぅ。ようやく追いついた。喜んでくれ!! 君たちにも魔法学園の入学許可が出たんだ!! 君たちの戦いぶりを見ていた先生が『あれほどの逸材を逃すのはもったいない』と言って、ぜひとも魔法学園に入学してほしいと」
「「え、やだ」」
「え……」
「俺たち、魔法は面白そうだと思うけど、魔法学園に興味はないなぁ」
「うんうん。それに、ガッコーって勉強するところでしょ? アタシ、勉強嫌い」
「それに、俺たち冒険者だぞ。イエロートパーズ王国に来たのは船を乗り間違えたからだし……」
「ってか、アタシたちダンジョンに行くの。アンタはアンタで頑張りなさいよ」
フリオニールはがっくりうなだれてしまった。
「ってか、なんでフリオニールが俺たちを呼びに来たんだ?」
「え、えっと……私が君たちを呼びに行くって先生に直訴したんだ。わずかな時間だったが楽しい話をさせてもらったし、仲間ができたらうれしいと思って」
「んー、悪いな。先生とやらによろしく。あと、俺とカグヤはしばらく町に滞在してダンジョンで遊ぶからさ、時間あったら遊びに来てくれよ。冒険者ギルド近くの『まほう亭』に泊まってるから」
「あ、ああ……」
「じゃーね。フレア、いくわよ」
「おう……って、仕切んなよ」
フリオニールは燃え尽きたように手を振り、俺とカグヤは宿に向かった。
『わんっ』
「…………」
シラヌイは、フリオニールを慰めるように鳴いた。
◇◇◇◇◇◇
煉瓦造りの大きな宿だった。
『まほう亭』というカクカクした文字で書かれた看板があり、その向かいにはさらに大きな建物……冒険者ギルドがあった。
俺とカグヤはさっそく宿の中へ。シラヌイも一緒に付いてきたけど大丈夫かな。
「おぉ……なんかいいな」
「古めかしいけど、いい味出てるわね」
全体的に古めかしい。でも……なんか落ち着く宿だ。
さっそく受付へ向かうと、四十代後半くらいのおばさんが笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃい。お泊りかい?」
「はい。二人と一匹なんですけど……」
「ワンちゃんね。大丈夫大丈夫、うちは使い魔の宿泊も平気さ。もちろん料金はいただくけどね」
「使い魔……? えーと、じゃあお願いします」
「はいよ。うちは一泊一名銀貨五枚だけど大丈夫かい?」
「はい。えーっと、何泊する?」
「とりあえず十日くらいでいいんじゃない? どうせしばらくは滞在しなくちゃいけないしね」
「だな。部屋は?」
「一緒でいいわ。アンタ、アタシを女として見てないってわかったしね。まぁアタシを襲うようなら蹴り殺してやるけど」
「じゃ、二人と一匹で十日分一部屋、延長はそのつどしますんで」
「はいよ。じゃあ十日分で金貨一枚、ワンちゃんのぶんで銀貨三十枚ちょうだいします」
「じゃあ金貨二枚で」
ちなみに、銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚、金貨百枚で大金貨一枚、大金貨百枚で白金貨一枚だ。
お釣りを受け取り部屋の鍵をもらう。部屋は三階で、朝晩食事付き、お昼はお弁当を作ってくれる。
部屋に入るとけっこう広かった。ベッドが二つにトイレ付き、シラヌイ用の寝床もあるし小さいながらもベランダがある。しかもシャワーまであった。
「アタシこっちのベッド!!」
「どっちでもいいよ。さーて、冒険者ギルドに……」
「はぁ~……ねぇ、アタシシャワー浴びたい。今日は着いたばっかりだし、潮風で髪がべた付いてるから明日からにしましょうよ」
「えー……」
「慌てなくてもダンジョンも冒険者ギルドも逃げないってば。じゃ、そゆことで~♪」
カグヤは装備を外し、ラフな服装になるとシャワー室へ……。
「あ、いちおう言っておく。覗いたら蹴り殺すから」
「いや、興味ないし。つーか、初めて会ったときにお前の裸は見たから」
「そーいうこと言うなっ!!」
カグヤはシャワー室へ消えた。
俺はベランダに出て備え付けの椅子に座り伸びをする。するとシラヌイが足元で丸まった。
こいつも疲れてるのかもしれないな。
「ま、確かに……到着したばかりだし、少しくらい……あ!!」
やべ……プリムに手紙出すの忘れてた!!
俺は慌てて、手紙を出せる場所を聞きに部屋を出た。