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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第六章・魔法王国イエロートパーズ/天使の炎と地獄炎
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船上の出会い

 魔法使いの王国イエロートパーズ。

 この船は一年に一度、イエロートパーズ王国に物資を届ける船らしい。閉鎖的な国で他国と殆ど貿易をしていないという理由もあるけど、一番の理由はイエロートパーズ王国への海路が安定するのが一年に一度しかないからだ。

 俺とカグヤは、間違えてイエロートパーズ王国行きの船に乗ってしまった。しかも、イエロートパーズ王国からブルーサファイア王国へ向かう船はない。

 船乗りから聞いた話はこんなところだ。ちなみに、この船に乗っているのは殆どがイエロートパーズ王国の魔法学園とやらに通う魔法使いの卵らしい。

 看板の柵にもたれかかり、俺はカグヤに聞いた。


「お前、魔法使える?」

「んなわけないでしょ。魔法使いと戦ったことはあるけど、詠唱してる隙に顎を蹴り砕いてやったわ」

「……ふーん」


 ま、俺も似たようなもんだ。レッドルビー王国で魔法使いと戦ったけど、魔法は炎で相殺して呪いを叩き込んでやった。

 それにしても参ったな……イエロートパーズ王国かぁ。


「めっちゃ面白そうだけど……プリムに悪いことしたな」

「で、どうすんの? ブルーサファイア王国行くの?」

「無理だろ。船は出てないし、海を凍らせながら歩いて行くのは不可能じゃないけど、何日かかるかわからん。というか迷子になったら死ぬ」

「ふーん。じゃあイエロートパーズ王国で冒険? 魔法使いの国とか、めっちゃ面白そうなんですけど!」

「わかる。俺も冒険したい! 魔法使いとか楽しそうじゃん。俺も魔法使えるかなー」

「アンタは全身から火ぃ出せるでしょ」

「それはそれ、これはこれだ」


 魔法使いの大国とか面白そう。それに、魔法学園とかヤバい。

 行ってみたい。冒険したい。でもプリムとの約束が……うむむ。


「とりあえず、港に到着したら手紙出したら? 間違ってイエロートパーズ王国行きの船に乗っちゃったーって」

「お、それいいな。ついでに、俺のことは気にせず冒険に出かけろって送るか」


 レッドルビー王国から飛ばした手紙には、ニーアを送り届けたことも書いたし、ダルツォルネが養子にしたってことも書いた。レッドルビー王国の印や証明書も同封したし、ギーシュも信用するだろう。

 

 プリムには悪いけど、イエロートパーズ王国を冒険してみるか。


 ◇◇◇◇◇◇


 事情を知ると、船の景色がガラッと変わる。

 若い連中が多いと思ったが、全員がイエロートパーズ王国で魔法を習う奴らだった。

 魔法使いっぽい奴らは杖やローブを着てるし、剣士っぽいのや格闘家っぽいのもいる。年代もバラバラで、子供が多いけど大人もいた。

 

「んー……どれも大したこと……お、まぁまぁ強そうなのもいるじゃん」

「ん、どれどれ……ああ、あれね」


 俺とカグヤが注目したのは、短い髪を梳かし油で固めたような少年だった。

 ぱっちりした目、キリっと結ばれた口、油で固めた髪はとてもまじめそうに見える。服装は兵士っぽく、しゃれっ気のないシャツとズボンの上に皮鎧と円盾、腰にはロングソードを差していた。

 ぶっちゃけるとその辺にいそうな雑魚兵士だが、なかなか鍛えられた身体は鎧の上からもわかったし、立ち方や振る舞いもどこか高貴な感じがする。

 なぜか空を見上げていたが、俺とカグヤの視線に気付いたのか爽やかな笑顔を浮かべ、こっちに来た。


「やぁ、きみたちも『魔法学園』に入学希望だね」

「「いや、べつに」」

「えぇっ!? じゃ、じゃあなんでこの船に!? 次の船が出るのは二年後だよ!?」

「間違えて乗っちゃったんだ。ブルーサファイア王国に行く予定だったんだけどな……」

「そ、そうなのか……なんというか、大変だな」


 少年剣士はウムムと唸る……なんか、いいやつっぽいな。

 そして、ハッとしたように顔を上げる。


「おっと、自己紹介がまだだった。私はフリオニール、魔法学園に入学希望で『魔法剣士科』に編入希望だ。よろしく頼む」

「フレア。えーっと、冒険者」

「カグヤ。同じく冒険者よ」


 とりあえず、冒険者と名乗る。

 フリオニールと握手。せっかくなのでいろいろ聞いてみることにした。


「ねぇ、魔法剣士科ってなーに?」

「あ、俺が聞きたかったのに」

「ははは。仲がいいんだね。二人旅……ではないね」

『わんっ!!』


 シラヌイが軽く吠え、フリオニールはシラヌイを撫でた。


「イエロートパーズ王国には『魔法学園』があることは知ってるかい?」

「まぁ一応。というかさっき知ったけどな」

「アタシも」

「うん。魔法剣士科っていうのは魔法学園のクラスの一つさ。『格闘術科』、『魔法使い科』、『魔法剣士科』、『錬金術師科』……魔法に関するクラスがいくつもある」

「「へぇ~……」」

「魔法学園に入学して、三年かけてクラスで授業を学ぶ。卒業試験を受けて魔法認定を受けると、国家が認めた魔法使いになれるのさ。他国にいる魔法使いはみんな一度はここで学ぶ。その後の進路は様々で、研究者になったり、冒険者になったり、国家に仕える魔法使いを目指したり……冒険者になる魔法使いはたいがい、自分の魔法技術を試し、実践を積もうとする人たちかな」


 フリオニールはいろいろ説明してくれた。

 根が真面目なのか俺とカグヤの疑問も丁寧に答えてくれる。


「フリオニールは何を目指してるんだ?」

「私の故郷はパープルアメジスト王国でね。父は王国騎士団の団長を務めているんだ。私も父のような立派な騎士になるべく騎士見習いとして稽古をしていたのだが、ある日、魔法の適性があることに気付いたんだ。そこで、独学で魔法を勉強し剣術と融合できないかと試行錯誤……どうも上手くいかなくてな。そこで、魔法を一から勉強するべく騎士見習いを辞めて、この船に乗ったというわけだ」


 なんともクソ真面目な答えが返ってきた……というか真面目すぎだろこいつ。


「フリオニール、何歳?」

「十七になった」

「その髪、どうなってるの?」

「クセッ毛でね。アブラ木の樹液を使って固めている」

「その剣は?」

「これは故郷の武器屋で買った安物の鉄剣だ。一から始めるという思いを込めて、かつて使っていた装備は全て置いてきたんだ」

「魔法はどんなの使うんだ?」

「私は雷属性に適性があってね。剣に纏わせたり放出したりする」


 すげぇ……こいつ、何でも答えてくれる。

 カグヤも面白がっていたが、そろそろやめておく。一応、年上だしな。

 フリオニールは喋りすぎたのか咳払いをする。


「こほん。まぁ私はこんなところだ。キミたちは冒険者だったな。次の船の出向は一年後、それまでイエロートパーズ王国に滞在するのだろう?」

「いやいや、一年も待たないって。海路が駄目なら陸路で出るよ」

「……それは難しいだろう。イエロートパーズ王国の国境は危険地帯になっている。S~SSレートの魔獣はもちろん、SSSクラスの魔獣がわんさと出る『デスグラウンド地帯』だ。イエロートパーズ王国が周辺国と貿易をしない理由は、陸路があまりにも危険だからだよ」

「「へぇ~」」

「……キミたち、聞いてるのか?」


 なーるほど。海路は数年に一度、陸路は超危険地帯……イエロートパーズ王国、面白そうじゃん。

 カグヤも不敵にほほ笑んでるし、危険が来るならどんとこいだ。


「なぁ、キミたちに魔法適性はないのか? もしあるなら魔法学園に入学しないか?」

「「魔法適性……」」

「ああ。調べたことは?」

「「ない」」

「……本当に仲がいいな。えーっと、魔法適性は簡単に調べられる。専用の簡易キットがあったはず」


 フリオニールは背負っていたカバンをゴソゴソ漁る。そして、小さな紙束を出した。

 紙を一枚千切って俺とカグヤへ渡す。


「これを舐めれば魔法適性がわかる。舐めると紙の色が変わって、色でどの系統かを調べられるんだ」

「へぇ~……初めて見たわ。こんな道具あったのね」

「ああ。特級冒険者の一人にして最高の魔法使いである『虹色の魔法使いアルコバレーノ・ウィッチ』ブリコラージュ様の作った魔道具だ。一枚で大金貨十枚もする」

「たかっ……いいのかよ、そんなの使って」

「道具とは使うためにある。それに実家に眠っていた骨董品だから気にしないでくれ」

「じゃあアタシは遠慮なく」


 カグヤは紙をペロッと舐めた。すると紙が緑色に変わる。


「おお、適性あり。しかも風属性とは」

「アタシ、魔法使えんの?」

「ああ。魔法学園で学べばな」

「やたっ!! フレア、アンタは?」

「どれ……」


 ペロッと舐めた瞬間、紙は一瞬で燃え尽きた……あれ?


「…………あの、燃えたらどうなんの?」

「お、おかしいな……ふ、不良品か?」

「アンタがおかしいだけじゃない?」

「やかましい」


 フリオニールは紙束を確認している。

 まぁ別にいいや。魔法は興味あるけど魔法使いになる気はないし。

 とりあえず、フリオニールはいい奴だ。せっかくだしメシにでも誘おうとすると───。


『えー……みなさん、こんにちわぁ~!! イエロートパーズ魔法学園教師デズモンドと申します~』


 と、どこからか声が。

 フリオニールは気が付いた……というか、この場にいる魔法使い見習いはみんな気付いていた。


「これは、拡声魔法だ」

「「かくせい魔法?」」

「ああ。その名の通り、声を大きくする魔法だ。魔法学園では全校集会などで使われている」


 なるほど。でも、なんでその拡声魔法が使われてんだ?

 

『えぇ~……この船に乗る魔法使いの卵さん。さっそくですがテストを行います』


 え……テスト?

 フリオニールを見たが首を振る。


『この船はあと三十分ほどでイエロートパーズ本国の港に到着します。陸に到着するまで立っていた者(・・・・・・)はAクラス、それ以外の生徒はBクラスに振り分けます。まぁつまり……闘いなさいってことです』


 はい? 


『戦闘しなかったり、戦う意志のない者はBクラスにしちゃいますね~。魔法使いたるもの、戦闘力は大事なことですから。ああ、命を奪うことは禁止です。もし誰かを殺しちゃったら命を持って償ってもらいますからね~』


 お、おいおい。なんだよそれ。


『それ以外は何をしても自由。ふふふ~……Aクラスはいいですよぉ? 教師の個別指導は受けられるし禁書庫も制限付きで立ち入りできますし、生徒寮は個室ですし、食堂でパンにシロップかけ放題という特典があります。Aクラス目指して頑張りましょ~……じゃ、始め』


 拡声魔法がプツンと切れ、船の上は静寂に包まれる。

 俺とカグヤは気付いた。たくさんいた船乗りがいない、しかも妙な『膜』が船を包んでいる。

 フリオニールは剣を抜く。


「これは、守護魔法……っく、船乗りもこのことを知っていたのか。この船が魔法学園入学生徒の選別を行う場所だということを!!」

「選別?」

「ああ。魔法学園は実力至上主義……まさか、このような選別が行われているとは知らなかった」


 フリオニールも知らなかったらしい。

 すると、船が揺れ怒号が響いてきた。どうやら戦いが始まったらしい。

 俺は、カグヤに聞いてみた。


「どうする?」

「んー……魔法学園なんてどうでもいいけど、身は守らないとねぇ」

「同感……つーかお前、笑ってるぞ」

「アンタもでしょ」

「キミたちは隠れていろ!! ここは私が」

「「いや、いい」」


 俺とカグヤは構え、フリオニールの前に出る。

 いつの間にか、甲板には入学生徒たちが集まっていた。


「カグヤ、殺すなよ」

「はいはい。アンタもね」


 じゃあ……やりますか!!

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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