六刃
「一かバチか……だ」
刀を抜刀したガイは構え、彼の支持を受けた天晴とミスティーはサイクロプスを足止めしようと構えた。
「その一かバチかで倒せるんだよな?」
「ああ、倒せる。
オレの考え通りに事が進めば全て上手く終わる」
「でもサイクロプスを足止めするなんて長く持たないわよ。
その一かバチかってすぐ終わることなのよね?」
「もちろん。
間合いさせ合えば、な」
ガイの言葉にミスティーはどこか不満があるような顔でため息をつき、ミスティーはガイに念押しするように言葉を伝えた。
「私はこんなとこで死ぬ気は無いわ。
死ぬ気もなければ怪我してまで倒したいとも思わない。
それを理解した上で足止めしろって言うなら……確実に仕留めなかった時は私がアナタを殺すわ」
「……それでいい。
万が一の時はオレを殺して逃げればいい」
「何ですって?」
「……三分でいい。
三分足止めしてくれれば終わらせる」
「……」
「大丈夫、信じてくれ。
必ず倒す」
「……分かったわ」
ガイの言葉にミスティーは頷くと天晴に視線を向け、視線を受けた天晴は大きく頷くと忍者刀を構え直して走り出した。
魔力を纏い加速する天晴。
瞬く間に常人が捉えれそうもない速度に達し、その域に達すると天晴はサイクロプスの周囲を縦横無尽に駆け回る。
「うおおおおおお!!」
縦横無尽に駆ける天晴の姿を捉えようとサイクロプスは雄叫びをあげると大斧を振り回して攻撃するが、速度を増した天晴はその程度では止められない。
サイクロプスの放つ攻撃に一切触れることなく避けると天晴はカウンターの一撃を放つが、その一撃を受けてもサイクロプスは怯まない。
「やっぱ堅いな!!」
天晴はさらに一撃を放つと姿を消すように走り、サイクロプスはどこからか取り出した爆薬を周囲に投げると火花を散らして爆薬を爆破させる。
……が、天晴は加速する中でそのスピードを高めることでサイクロプスの爆撃の中を無傷で走り抜け、サイクロプスの背後に移動すると後ろから首を切り落とそうと斬撃を放つ。
しかし……
鈍い金属音が響くと天晴の忍者刀は弾かれ、攻撃が弾かれると天晴は慌ててサイクロプスから距離を取るように離れた。
「今何が……!?」
何が起きたのか?
サイクロプスの身に何が起きたのか分からない天晴は敵をよく見て観察しようとし、そしてその結果自身の忍者刀が弾かれた原因を見つけた。
「あれって……」
天晴が見つけたもの、それはサイクロプスの首裏にあった。
サイクロプスの首裏、そこには肉に埋め込まれるかのように入れられた鋼鉄製の骨格のようなものだった。
「あれに弾かれたのか。
けど何で……」
「走りなさい!!」
ミスティーは天晴に向けて叫ぶと煙の拳を無数に出現させてサイクロプスに放ち、放たれた煙の拳はサイクロプスの動きを止めようと何度も殴るが、殴られるとサイクロプス雄叫びを上げながら肉体を大きく強化させていく。
「くっ……私の攻撃じゃ弱すぎる!!」
「はぁっ!!」
自身の攻撃が通じないことに苛立つミスティーを支援しようと天晴は再び忍者刀で攻撃するが、放たれた攻撃はまた弾かれてしまう。
「また!?」
「鈍足なサイクロプスは死角になる部位に改造を施してるみたいね……。
このままやっても分が悪いわ!!」
「分かってるけど時間を稼がなきゃ勝てねぇだろ!!」
天晴は忍者刀に魔力を纏わせると構え、呼吸を整えると地面を強く蹴って走り出し、加速すると目にも止まらぬ速さで連撃を放ち、放たれた連撃を受けたサイクロプスはダメージを受けることは無かったものの天晴の攻撃の力によって吹き飛ばされてしまう。
「!!」
「倒せなくても時間稼ぐくらいは出来る!!」
「……それもそうね!!」
天晴がサイクロプスを吹き飛ばすとミスティーはサイクロプスに向けて大量の煙を放ち、放った煙は鎖のようになるとサイクロプスを縛り上げる。
「ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」
煙に拘束されるサイクロプス……だがサイクロプスは雄叫びをあげると自分を拘束する煙を強引に消し去り、そして大斧を構えるとミスティーを睨みながら走り出す。
「なっ……」
(あの巨体だから走れないと思ってたのに走れるのかよ!?)
「ミスティー!!」
「……馴れ馴れしく呼ぶな!!」
危険を感じた天晴はミスティーの名を叫ぶ中で彼女を助けようと走り出し、天晴に名を呼ばれたミスティーは両手を大きく動かすと巨大な煙の拳を出現させてサイクロプスを何度も殴ろうとする。
「スモークレイド・トールハンマー!!」
巨大な煙の拳はサイクロプスの体を何度も何度も殴るが、サイクロプスは止まることなく走り続け、気づけば大斧が届く範囲まで迫っていた。
「そんな……止まらない!?」
「はぁぁあ!!
忍刀・枯時雨!!」
迫るサイクロプスが止まらないことに戸惑うミスティーを助けるように天晴はサイクロプスの頭を消そうと頭部に向けて何度も斬撃を放つが、サイクロプスは突然大きく飛んで斬撃を避けると地面に向けて大斧を振って衝撃波を生み出すと天晴とミスティーを吹き飛ばしてしまう。
「「ぁぁああ!!」」
吹き飛ばされた天晴とミスティーは倒れ、サイクロプスは着地すると二人を始末しようと大斧を構えて走ろうとした。
……が、
「阿修羅狩り!!」
刀を構えたガイがサイクロプスに接近すると目にも止まらぬ速さで連閃を放ち、ガイの連閃を受けたサイクロプスは天晴とミスティーではなくガイを睨むと彼を殺そうと大斧を振り下ろす。
「ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」
「……そうだ、それでいい」
サイクロプスが大斧を振り下ろすとガイは音も立てずに消え、消えたガイはサイクロプスの背後に現れると刀を鞘に収め体勢を低くして構え直した。
「……」
(意識を研ぎ澄ませ。
この刀が「あの刀」じゃなくてもやれるはずだ。
そのために……あの技のためにオレの剣技の全てを捧げてきた)
「ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」
背後に現れたことに気づいたサイクロプスは振り向くなりガイに向けて走り出し、サイクロプスが動き出すとガイは地面を強く蹴って一気に走り出し、そして勢いよく抜刀するとサイクロプスの横を通り過ぎていく。
「……夜叉殺し!!」
抜刀すると同時に斬撃を放つガイ。
ガイが斬撃を放つと刀は砕け散り、サイクロプスの横を通り抜けたガイは砕け散った刀を片手に持ったまま立っていた。
「そんな……」
「失敗したの……!?」
「……いや、成功だ」
ガイが砕け散った刀を地面に落とすとサイクロプスの体に強い衝撃が走り、そして敵の胴体には肉を大きく削いだような抉られた傷が現れ血を吹きこぼしていく。
血がふきこぼれる中サイクロプスは雄叫びにも似た声をあげるが、その声は徐々に薄れ、そして声が聞こえなくなるとサイクロプスは倒れる。
サイクロプスが倒れるとガイは残った鞘を刀代わりに構え、生死を確かめるようにサイクロプスの頭を殴打する。
殴打されたサイクロプス……だがガイの殴打を受けても動く気配はない。
「……よし」
ガイは一息つくと天晴とミスティーのもとへ向かうように歩いていき、二人に歩み寄ると手を差し伸べた。
「悪いな。
損な役任せて」
「すげぇなガイ!!
今の何だ!?」
「確かにすごかったわね。
アレは一体……」
「ん?
ああ、夜叉殺しだ」
「夜叉殺し?」
「刀の名前か?
けど壊れたよな?」
「技の名前だよ天晴。
夜叉殺し、オレが剣技だけで能力者を倒すために編み出した抜刀術だ」
「かっけぇぇ!!」
「ただ普通の刀だとその威力に耐えられず壊れるんだけどな」
「でもその技のおかげでサイクロプスを倒せたわ。
すごかったのは事実よ」
ガイの抜刀術「夜叉殺し」に天晴は目を輝かせ、ミスティーもその一撃を褒める。
二人の反応に少し嬉しそうな反応を見せるガイ。
が、天晴はふと我に返ると恐る恐る倒れたサイクロプスに近づき、本当に倒れているのかを確かめようとする。
「なぁ、ホントに倒したんだよな?」
「ああ、倒したよ。
さすがのコイツも肉抉られて立ってはいられねぇだろうからな」
「つまり今は……」
「倒れてるだけだ。
目を覚ませば襲ってくるかもしれない」
「なら始末するしかないな」
どこからか声がするとガイたちの周囲に特殊な武装をした兵士たちが現れ、現れた兵士たちはサイクロプスに接近すると何やら薬品の込められた弾丸を撃ち込んでいく。
兵士たちは弾丸を撃ち込み終えると何やら鎖を取り出してサイクロプスの体を拘束していき、彼らがサイクロプスを拘束しているとアストがガイたちのもとへとやってくる。
「アスト……」
「すまないな。
まさかサイクロプスが現れるとは思わなかった」
「……いや、気にするな。
それよりサイクロプスを縛ってるヤツらは一体……」
「殺人鬼など危険性が高すぎる賞金首を専門とする運び屋だ。
サイクロプスがここで暴れてると聞いて慌てて手配した」
「そうか。
なら再起する心配しなくて済みそうだな」
それと、とアストはガイ、天晴、ミスティーに何やら小切手のようなものを手渡すとそれについて説明した。
「運び屋がサイクロプスの捕縛証明書を発行してくれた。
「コード・プレデター」の件もあるが、まずは三人にサイクロプス捕縛の報酬を……」
いらない、とガイはアストから受け取った小切手のようなもの……サイクロプスの捕縛証明書を返すと彼に伝えた。
「オレが戦ってるのはオレの我儘のためだ。
この金はアンタが自分のために使ってくれ」
「……サイクロプス捕縛の報酬は大きいぞ?」
「構わない。
オレが欲しいのは金じゃないからな」
変わってるわね、とミスティーはガイの行動に少し呆れながら言い、ガイに対して何を求めているのかを問う。
「賞金首を倒したアナタは何を求めてるの?」
「……残念だけどオレは賞金稼ぎじゃない」
「え?」
「オレはただ強さを求めてる修羅でしかない。
賞金稼ぎのバウンティハンターのアンタとは少し違ってワケありなのさ」
「……」
それより、とガイはアストに対してある注文をした。
「刀が壊れたから新しいのが欲しい。
今回のより耐久性の高い刀をだ」
「……オマエに渡したのはS級の品質を誇る刀だったんだがな。
それ以上となると……アレしかないな」
「アレ?」
「……ここにいても何も始まらないな。
とりあえず移動するぞ」
アストはガイたちに告げると先に歩いていこうとし、三人は彼に続くように歩き出そうとした。
するとアストはガイに向けてある質問をした。
「そういえばガイ、噂で聞いたがオマエはどの刀よりも優れた刀を持ってるらしいじゃないか。
何故それを使わない?」
「……あれはオレのじゃない」
「……そうか。
まぁ、いい」
「……」
(そう、まだオレのじゃない。
今のオレじゃあの刀は使いこなせない……)




