五刃
大きな斧を持った巨漢を前にしてガイは天晴とミスティーと協力して戦うことになった。
刀を構えるガイ、忍者刀を構える天晴、そして全身に魔力を纏うミスティー。
三人が戦闘態勢に入った中、巨漢は雄叫びをあげるように大きな声で叫び出す。
「うおっ、うるさいな」
巨漢の叫び声に驚く天晴。
その天晴の隣でガイはミスティーに目の前の巨漢について質問をした。
「あの男……サイクロプスについて何か知ってることはあるか?
情報があるならぜひとも教えてもらいたい」
「ええ、あるにはあるわ。
でもアナタが求めるようなものかは……」
「些細な情報でもいい。
何も知らないよりはマシだ」
「そう……。
さっきも言ったけどアイツはサイクロプス。
斧で狙った相手を斬り殺して頭以外を爆発させて殺す快楽殺人者よ。
あの斧で斬り殺した後、斧に仕込まれた爆薬か体に巻いたベルトに隠されてる爆弾で現場の証拠と一緒に相手の体を爆破するのが手口よ」
「能力者じゃないのか?」
「能力者よ。
ただ……元々の能力とはかけ離れた変化をした能力だけど」
「?」
「サイクロプスの能力は「怒髪」。
元々は感情の高ぶり……怒りに呼応して身体能力を爆発的に強化するものだったらしいのだけど、いつの間にか痛覚を強化して痛みを感じない能力になったのよ」
「能力が変化したのか?」
「ええ、そうらしいわ」
ミスティーの説明に驚くガイ。
能力の変化、それに驚きを隠せなかったのだ。
能力者の能力とは本来生まれた時に宿すのが基本的だ。
この時点で能力が宿らなかった者が能力を持たない者として扱われるのだが、その後歳を重ねることで能力に目覚めるという話も少なくはない。
ガイ、天晴、ミスティーの三人は生まれた時から能力を宿していた能力者であり、それは目の前の巨漢でサイクロプスも同じだろう。
だがサイクロプスの能力は何らかの理由で変化した。
能力の変化自体が無い訳では無い。
例えば焚き火程度の能力が爆炎になったり、そよ風程度の能力が暴風になったりの成長による「強化」などの事案はあるし、ガイも昔から仲のいい炎の能力をあつかう友人で目の当たりにした経験がある。
が、サイクロプスのは違う。
元々の能力が発展するのではなく、べつの能力に変化しているのだ。
どうしてそうなったかは分からない。
が、ガイはミスティーの話を聞くと天晴とミスティーに指示を出した。
「オレと天晴でサイクロプスを仕留めるために接近する。
ミスティー、オレたちでヤツの注意を引きつけるからアンタは可能な範囲で援護してくれ」
「了解よ」
「おっ、暴れていいんだな?」
「ああ……暴れるぞ!!」
ガイが叫ぶと彼と天晴は走り出し、二人が走り出すとサイクロプスは叫ぶと重々しい体で動き始める。
重々しい体で動くサイクロプスは斧を振り上げるとガイと天晴に向けて振り下ろして仕留めようとする。
が、振り下ろされた斧をガイは刀で受け流すようにして回避し、天晴、音も立てずに姿を消すとサイクロプスの背後へと移動する。
「!?」
「派手にいくぜ!!」
自身の背後へと移動した天晴に驚くサイクロプス、その反応によりサイクロプスに隙が生じ、天晴はその隙を突くように忍者刀でサイクロプスの体を貫こうとする。
が、天晴がサイクロプスを仕留めようと放った一撃はサイクロプスの体に弾かれ、サイクロプスは体を大きく回転させると斧を振って天晴を殺そうとする。
「うおっ!!」
迫り来る斧を天晴は何とかして避けるとサイクロプスに斬撃を放つが、放った斬撃はサイクロプスの体に傷をつけることすらなかった。
「……硬すぎないか!?」
自身の攻撃が通じないことに戸惑う天晴。
天晴が惑う中でガイはサイクロプスに向けて斬撃を放つが、放った斬撃はサイクロプスの体に傷をつけることはなかった。
(たしかに硬いな。
普通の刀に比べて切断力の劣る忍者刀ならまだしも刀の一撃を受けてもキズ一つつかないとなると相当な硬さだが……痛みを感じ無くなってるだけでそんなことが?
何かカラクリがあるとしたら……)
斬撃を受けたサイクロプスの体の結果を見たガイはある考えに至り、それを伝えようと天晴に向けて叫んだ。
「天晴!!
一撃にこだわらずに連続で攻撃しろ!!」
「任せろ!!」
ガイの指示を受けた天晴は忍者刀を逆手に持ち、大きく息を吸うとサイクロプスの周囲を縦横無尽に駆けるように加速しながら走り、サイクロプスの周囲を走る中で次から次に忍者刀で斬撃を放っていく。
天晴の放つ攻撃は全てサイクロプスに命中するが、その全てがサイクロプスにダメージを与えるにまで達していない。
「くそ〜、やっぱ硬いな」
「いや、それでいい!!」
自分の攻撃がサイクロプスに通じないと嘆く天晴に向けてガイは言うとサイクロプスの背後に移動すると刀を鞘に収め、鞘に収めたままの刀でガイはサイクロプスの膝裏に打撃を叩き込む。
「鞘流し……!!」
「!!」
鞘に収めたままの刀でガイがサイクロプスの膝裏に打撃を叩き込むと突然サイクロプスの全身に衝撃が走り、サイクロプスは口から血を吐き出す。
「えっ!?
攻撃効いてたのか!?」
「鞘流しは相手の体内に衝撃波を流し込んで体内からダメージを与える技だ。
痛みを感じない体になってるサイクロプスには時間稼ぎ程度にしかならない!!」
ガイは天晴に説明する中でサイクロプスから離れるように後ろに跳び、着地したガイのもとへと天晴が駆け寄ると詳しく話を聞こうとした。
「時間稼ぎにしかならないってことは倒せないのか?」
「いや、倒せるのはわかった。
たしかにヤツは痛みを感じないしオレたちの外からの攻撃ではダメージを受けないほどに硬い。
けど……ダメージを受けるのは間違いない。
やり方を変えれば……」
「オレたちの攻撃も通用するってことか!!」
「そういうこ……」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
ガイが天晴に説明してると突然サイクロプスが叫び始め、叫ぶサイクロプスは体に巻きつけたベルトから何かを取り出すとガイと天晴に向けて投げ飛ばす。
小さな箱型の何か……見た目だけでは分からないものだが、ミスティーからの事前情報を受けたガイはそれがなにかすぐに気づいた。
「爆弾か……!!」
ガイは抜刀するなり刀を勢いよく振り、それによって生じる剣圧でサイクロプスが投げたもの……爆弾を壊して対処しようとするが、剣圧を受けた爆弾は強い光を発しながら発火しようとする。
「天晴、避け……」
「ガーディアンズ・ローブ」
ミスティーが言葉を発するとガイと天晴は煙に覆われ、発火した爆弾が爆発してガイと天晴に襲いかかると二人を覆う煙が爆発を相殺していく。
「これは……」
「援護するわ」
ガイが爆発を相殺していく煙に目を奪われているとミスティーはサイクロプスに向けて手をかざし、ミスティーが手に魔力を纏わせるとサイクロプスの頭上に煙が集まって出来た巨大な拳が現れ、現れた煙の拳がサイクロプスを殴る。
「!?」
「すげぇ!!」
「……煙が物理攻撃っておかしくないか?」
殴られたサイクロプスは怯み、煙の拳に興奮する天晴の隣でガイは煙が敵を殴ったことに違和感を感じていた。
「煙って空気なんじゃ……」
「そもそも煙は不完全燃焼の果てにできる微粒子を含んだ空気の塊。
その中に含まれる成分の大半は炭素……その炭素と煙の密度を操作すれば可能よ」
それに、とミスティーが魔力を纏わせた手を動かすとサイクロプスの口もとに煙が集まり、集まった煙がサイクロプスの口から体内へと入り込んでいき、煙が体内に入ったサイクロプスは膝をついてしまう。
「生み出す煙の成分を調節すれば毒性を持たせることも出来るわ」
「……さすが、アストが推薦するだけのことはあるってことだな」
「感心するのは後にしてトドメを……」
ミスティーがガイにサイクロプスにトドメを刺すように言う途中でサイクロプスは全身に魔力を纏うと雄叫びを上げると周囲に強い衝撃を放ち、その衝撃はガイと天晴、そしてミスティーを吹き飛ばしてしまう。
「うわっ!!」
「ガァァァァァア!!」
雄叫びを上げるサイクロプスの全身の筋肉が膨れ上がり、全身が大きくなる中でサイクロプスは立ち上がると斧を強く握りながらガイたちに向けて歩き出す。
吹き飛ばされた三人は慌てて起き上がるが、サイクロプスの身に何が起きたのか分からないでいた。
「な、何が起きたんだ!?」
「分からないわ。
でも……私の能力を受けたはずなのに……」
「……そういうことか」
戸惑う天晴とミスティーと違い、何かに気づいたガイ。
ガイが何かに気づいたのを感じたミスティーは彼に説明を求めた。
「どういうことなの?」
「……ミスティー、アンタはアイツの情報として能力が変化したと言っていた。
オレも天晴もアイツに攻撃して痛覚の強化による痛みの遮断だと思った。
けど……実際にサイクロプスの身に起きていたのが変化ではなく「覚醒」だとすれば?」
「まさか……サイクロプスは何かのきっかけであの能力を!?」
「……だとしたら今のにも説明がつく。
ヤツが痛みを感じぬだけでダメージを受けにくいのは常に「怒髪」の能力が機能してるから。
つまり……何かしらの怒りを常に抱くことで身体能力を極限まで高めている」
「じゃあ今オレたちを吹き飛ばしたのは……」
「オレたちの攻撃を受けたことによる怒り……。
このまま確実に仕留められないで長引けばオレたちは不利だ」
ガイが二人に現状を伝えているとサイクロプスが接近し、勢いよく斧を振り下ろす。
振り下ろされた斧に対して三人は回避行動をとり、ミスティーは何か方法がないかをガイに訊ねた。
「アレを倒す作戦は何も無いの?」
「作戦……ってほどじゃねぇけど。
強引に終わらせる方法がある」
「マジか!?
ならそれで……」
「一回かぎりの方法だ。
失敗すればオレたちは……死ぬ」
「マジかよ……。
じゃあどうすれば……」
「天晴はアイツを翻弄してくれ。
ミスティーはその援護を頼む。
トドメは……オレが引き受ける」
ガイは刀を抜刀すると構え、構える中で彼はサイクロプスを睨みながら話す。
「一か八か……オレの持つ力でどうにかする」
「アナタの能力でどうにかなるのね?」
どうかな、とガイは曖昧な返事をすると彼女に向けて伝えた。
「この力を能力と言うべきかどうかは目撃したものだけが分かる。
……オレのとアイツ、どっちが強いか試すにはな」