四十三刃
「達磨屋不佐久?」
アドミニストレータという共通のゴールに向かうために手を組むことになったガイたちと砂弥。ファミレスを出たとこ四人は次の目的地に向かっていたのだが、その中で砂弥はある男について話していた。
「達磨屋不佐久は政治家、議員だ。今の日本政府の官邸に出入り出来るだけの立場にある議員であると同時に色々と悪いウワサが絶えない男でな。オマエらはまだ学生みたいだが、能力者が軍人や警察官になるには条件が厳しい理由は知ってるか?」
「国からの徹底した審査と調査を通らないとなれないんだよな?」
「たしか安全を守る立場にある人間が一方的に力を行使しないためにも善悪について平等に考えられる心があるかどうかだったよな?」
「そうだ。それ故に賞金稼ぎというものが制度として許されてるが、総理は警視総監らと話し合いをして警察側に対能力者専門の部隊「ギルド」の設立を依頼、それによって能力者犯罪の対処を図ろうとしている」
「でも賞金稼ぎが悪人裁きしてるような中なのに何でまた……」
「賞金稼ぎが増えすぎてるせいで賞金稼ぎ間での問題も増えつつある。賞金稼ぎ間での問題に関して警察側が動こうにも相手はほとんどが能力者、そんな相手を拳銃や警棒なんかで対処しなさいってのは無理がある。能力者には能力者と言いたいが警察や軍は長く続く治安の安定のために能力者の採用を厳重化したことでそれも難しくなっている。そこで「ギルド」の設立を依頼することになったんだが、この達磨屋不佐久というのは「ギルド」の設立をするくらいなら能力者を簡単に採用して国内に留まらず国外にも治安維持のための抑止力があることを示すべきだと発言したんだ」
「全面的に能力者が国を統治するってことか?」
「だが黒徹砂弥、その話は達磨屋の私欲に塗れた戯れ言として副総理に却下され他の議員からは戦争を引き起こそうとしていると苦言された上で能力者を道具としか見ていないと叩かれたはずだ。そんな男が何故ここで話に出てくる?」
達磨屋不佐久に話す中で警察や軍に能力者が簡単に雇用されないことやそれについて砂弥が話す中でアストは何故達磨屋不佐久という男が何故今話に出てきたのかを彼に問い、アストに問われると砂弥はそれについて話していく。
「その達磨屋不佐久が「コード・プレデター」と呼ばれていたであろう男に資金を援助していたとしたら?そして雷吾をホムンクルス・デッドにした野郎に金を横流ししていたとしたら無関係と言えるか?」
「何?」
「それって……」
「なるほど、資金源か。ホムンクルスを生み出すだけの材料を集められるだけの費用はもちろん、ヤツらがホムンクルスや実験をするための施設までも用意できると考えれば金をある程度動かせる議員が絡んでるとなれば納得いくな」
「政治家の汚職は何も今に始まったことでは無い。まして国外にも力を示そうと考えるその思想の在り方はホムンクルスを生み出すヤツらにとっては利用価値が高いだろうし言葉巧みに動かせば達磨屋不佐久のような男は多少のリスクの中で金を横流ししてでも理想を実現するだろうな」
「ならその達磨屋不佐久の悪事を暴けば……」
「残念だが刀使い、達磨屋不佐久は三週間前から行方不明らしい。さらに言うなら行方不明になる数日前から咳込んだり吐血などし初め、肌に湿疹のようなものが出ていたらしい」
「それって……」
「おそらく「コード・プレデター」もしくはアドミニストレータってのに万一裏切った時の保険として身体をイジられたんだろうな。その拒絶反応で吐血などの症状が現れ湿疹のようなものも確認されたのだろうな。オレが持つ達磨屋不佐久についての情報についてはそこで止まってるが、ヤツが今も生きてるとすればおそらく敵の本陣に身を隠すかどこかで暗躍してるだろう」
「直接関与の証拠でも手に入れれば金の流れを止められると思ったんだけどな……」
「バカかガイ。相手は日本を売ろうとしてるクズだ。証拠見つけて警察に通報だの他の議員に知らせて議員としての職を止めさせるなんてムダだろ。どうせ関与してると分かった段階で殺すかするしかないのは確定だから諦めろ」
「……そうだな」
ガイは心の中では達磨屋不佐久という男を何とかして罪を裁かせるための公の場に連れ行こうと考えていたのだろう。だが現実は彼が思うほど優しくはない。ソラの言う通りで達磨屋不佐久は戻れないところまで進んでるであろう悪党、そんな悪党がガイの望みを聞き受けて無抵抗でお縄につくはずはない。
出会えば殺し合いになるだろう、そう思っておかないと殺されるのはこちらだ。その事をガイは言われるまでもなく理解しながらももう一度再認識するようにソラの言葉に頷くと甘い考えを捨てる。
ガイが甘い考えを捨てると砂弥は足を止め、砂弥は足を止めてある方向に視線を向ける。
視線の先、そこには教会があった。
「あの教会か」
「あそこから左手を伝ってホムンクルス・デッドを生み出したアドミニストレータってのがいるのが分かる」
「運がよければ渦波拓海にも会えるかもな」
「……アドミニストレータと渦波拓海の関係性、それをハッキリさせて終わらせるためにもここで決着をつけるぞ」
この先の教会にアドミニストレータはいる。そしておそらくは渦波拓海もそこにいる。そしてそれはここまで続いてきた「コード・プレデター」から始まった一連の事件の全てを終わらせるための最終決戦を意味している。
ガイ、ソラ、砂弥は武器を構え、アストも即座に戦闘に移行できるように能力を発動させる準備をしていく。
四人の戦う意思は出来ている、あとは向かうだけだという中で教会の方から仮面をつけ黒い管が体に埋められた大量のホムンクルス・デッドがぞろぞろ歩きながら現れる。
ホムンクルス・デッドがここで現れた、やはりここに敵の親玉はいる。それを確信に変えたガイたちは隠れることも無くホムンクルス・デッドの前に堂々と立つと構え、アストはガイたちに指示を出す。
「黒徹砂弥は対ホムンクルス・デッド用の毒を可能なかぎり温存して戦え。アドミニストレータがホムンクルス・デッドとなっているならオマエの毒は有効打になる。ガイとソラはなるべく目の前の敵を一撃で仕留めるようにオレと一緒に攻撃を放て。ホムンクルス・デッドの相手は二度目、初見でないからこそ対処法をわかってるのなら躊躇うことなくそれを実践しろ」
「「了解!!」」
「ここで全てを終わらせるぞ。
……いくぞ!!」
ガイが叫ぶと四人は走り出し、四人が走り出すとホムンクルス・デッドも迎え撃とうと動き出す。
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教会内部
そこには黒いフードを被った何者かがいた。その何者かは外で始まっている戦いの音が教会の中にまで聞こえてきているのに慌てる様子も驚く様子も見せずに落ち着いた様子で座っていた。
「……ついにこの時が来たか。ライトニングが倒され、達磨屋不佐久も結果を求めて焦ったあまり私の助言を無視して独断で動き出している。やはり私の計画は私の完璧な指揮がなければ完遂されないか」




