四十二刃
「……アドミニストレータってのが渦波拓海か否かはさておいてオレが自我を保って人である間にこの負の連鎖を終わらせたい。生命を弄ぶような罪人とそれに加担するヤツらを根絶やしにした上でオレは左手に残っているこの欠片ごと消滅して悪用されないようにしたいんだ。その行動を成し遂げる前に死ぬのはゴメンだ。だから……オマエらを頼りたいんだ」
ガイたちを頼りたい、そう口にした砂弥の言葉が気になってしまうガイ。だがソラは彼の話を聞く中で不信感を抱いているのか話を聞こうとせずに砂弥に言い返した。
「オマエが何かしようと動いてるのはよく分かった。だがオレたちは危険な道を進むつもりはない。ましていつ操られるか分からないような相手と行動するなんて余計に出来ない」
「ソラ……」
「よく考えろガイ。オレたちはヒロムに依頼されて黒徹砂弥について調べようとしてたんだぞ。その黒徹砂弥にこうして出会った時点で素性が知れたんだ。そいつはホムンクルス・デッドにされかけた危ないヤツ、ならこれ以上深入りする必要は無いはずだ」
「相馬ソラの言い分はたしかだな」
ソラに続いてアストまでもが砂弥に関与するのを反対するような言い方をし、その言葉を受けたガイが言葉を詰まらせているとアストはガイに向けて伝えた。
「だが、オレはアドミニストレータってのについてはまだ知れてない。まして渦波拓海について中途半端に知ったせいで引くに引けないところまで来てるのはたしかだ。だからオレはここで引かずに敢えて進む方を選ぶ」
「アスト……」
「このままホムンクルス・デッドが野放しにされたらオレの仕事に影響を及ぼす。「コード・プレデター」の件が終わったのに新しいことを放置して過ごすのは夢見が悪いからな」
「……そういう事だな。そいつがどう思おうが勝手だがオレたちで終わらせようとするのに勝手についてくるなら足でまといにならないかぎりは好きにさせてもいいかもな」
「ソラ、オマエ……」
「いつ操られるか分からないならそれまでは囮でも何でも使えるだけ使って利用すればいいだけだろ。アドミニストレータってのが何企んでるかはさておいて野放しにしたまま帰って厄介事が増えたらそれはそれでヒロムにうるさく言われるだけだ。解決できるなら解決する、それが最善手ならやらない手はないだろ」
「……そうだな。二人の言う通りだな。
このまま何もしないなんて選択肢にないもんな」
「オマエの好きにしろよガイ。
オマエが指示するなら受け入れてやるよ」
「このチームのリーダーはオマエだ。オマエが黒徹砂弥をどうしたいか決めればいい」
「なら……答えは決まってる」
ソラとアスト、二人の思いに応えるべくガイは考えを一瞬でまとめると砂弥にそれを伝えるべく真剣な面持ちで彼を見て伝えた。
「黒徹砂弥、オレはアンタの力を借りたい。ホムンクルス・デッドについて詳しく知らないオレたちにとってヤツらを封じられる毒を操るアンタの助けが欲しい」
「万一操られたら?」
「オレがその左手を切り落としてでも止める。だから頼む」
「……リスクがあることは承知の上で責任を負うつもりか。そこまでの覚悟があるのならいいだろう。オレがどこまで役に立つかは分からないがオマエらと手を組もう」
ガイの頼みを聞き受ける意思を見せる砂弥はガイに握手を求めるように右手を差し伸べ、砂弥の手を握るようにガイは右手で強く握ると握手を交わす。
同じ目的を持つ者が手を組み共通の敵を倒そうとする。だがその裏では……
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その頃のヒロムとイクトは何かを調べようと外に出ていたらしいのだが、二人のいる場所では爆発音が響いていた。
爆発音が響く中何かから逃げてきたと思われるヒロムとイクトが勢いよく飛んでくると着地し、着地を成功させた二人が構える中二人が飛んできた方から次から次に仮面をつけた体に黒い管のようなものを埋め込まれた人間が迫っていた。
ホムンクルス・デッド、ガイたちに襲いかかった敵が二人に迫っていたのだ。
「大将、アレってどう見てもヤバいよね?」
「ヤバいで片付けられるならそれでいい。だが問題はこの謎の敵が何を目的に襲ってきたかってところだ」
「そりゃ、オレと大将がアドミニストレータってのを調べようとしてたからで……」
「オマエがアストって能力者と連絡取れないから西の情報を牛耳ってるネクロってのに情報聞いて返事が来るのを待つ間に怪しい場所探そうとした矢先にか?ガイやソラに動くように頼んだのは黒徹砂弥とアドミニストレータってのを同時進行で調べるためだ。敵がこっちの動きを把握して罠張ってたと仮定してもタイミングが良すぎる」
「まさか二人がやられたとか……?」
「バカ言うな。オレが信頼してるアイツらが簡単にくたばるかよ。それに仮に二人がやられてるとすれば精神的に追い詰めるために二人の首でも晒しに来るのが効果的なのにそれをやらないってことはまだ無事って話だ」
「まだ、ね。呑気に調べ物もしてられないってことだよね?」
「目の前の敵さえ消せば可能な話だ。それにオレが予め「月翔団」に調査を依頼してる分もあるからその辺は問題ない」
「目の前に敵に専念……したいけど、どんだけ攻撃しても倒れないし止まらないって辛くない?」
「オレは別に辛くねぇ」
だろうね、とイクトは手に持つ大鎌を構えるなり魔力を纏わせた一撃を放とうとする……が、ヒロムはイクトが攻撃を放つ寸前で彼の前に立つと彼の攻撃を中断させた上で彼に告げた。
「そんな攻撃ではなく殲滅力の高い技で一気に仕留めろ。次から次に攻めてくるんだからそんな単発じゃ日が暮れる」
「さすが大将。こういう時も冷静で助かるよ」
「オマエが後先考えずに攻撃しすぎなんだよ。
とりあえずコイツらの対処法はそれでいいとして、問題は……」
ホムンクルス・デッド、目の前にいる人間たちがそれだと知らないヒロムは思考を働かせて敵の性質を見抜いたのだが、そのホムンクルス・デッドの奥から歩いてくる一人の男に視線を向けるとヒロムはその男について面倒そうにため息をつく。
「オマエの魔力攻撃も影の攻撃もあの男だけは吸収している。そして他のヤツらがパターン化された動きの中であの男だけは自我があるのか思考された動きを感じ取れる」
「つまり……」
「致命傷を与える点ではイクトに分があるから他のヤツらを殲滅してくれ。魔力や能力が通用しないあの男はオレが潰す」
「大将、分かってると思うけど生かしておいてよ?
アイツが「コード・プレデター」に金を援助してたのは間違いないだろうし、今回のアドミニストレータってのにも関与してるかもしれないんだから」
「その辺の心配は勝手にしとけ。悪いが……そこまで気が回せるような相手じゃないだろうからな」
ここからどう動くかをイクトに指示したヒロムはこちらに向かってくる男を警戒しながら拳を構え、ヒロムが構えると男は足を止めて右手に炎を纏わせる。
「ガキがナメた真似しやがって。せっかく預かったホムンクルス・デッドが壊れたらどうするつもりだ?」
「そのホムンクルス・デッドとやらをオマエに与えたのは誰だ?アドミニストレータって呼ばれてるヤツか?それともオマエのように裏で世間を操ろうとしてるバカか?」
「オマエ、オレがバカだって言いたいのか?」
「バカで間違いねぇだろ……達磨屋不佐久。
議員という身でありながら世間を混乱させるようなヤツらに金を横流しして自らも体を改造して力を得た愚か者、そんなヤツがバカでないってんなら何なんだ?」
「オレは新たな人類としての先駆け人に選ばれたオマエらガキが知ることの無い新たな世界に選ばれた存在、それがオレなんだよ。この意味がわからないガキは大人しく殺されてホムンクルス・デッドにされるか抵抗して惨殺されるかされろ」
「そうかよ……ならオマエの歪んだ思想を否定して殺す方を選ぶ」




