四十一刃
黒徹砂弥と話をするべくガイたちはひとまず悪臭漂うゴミ処理場を後にし、四人で移動をするとひとまずファミレスへと入店した。ライトニングの件や「コード・プレデター」については無関係な民間人が多くいるこの場に紛れるように席についたガイはひとまず砂弥にこれまでのことを隠すことなく全て話し、話を聞いた砂弥はコーヒーを飲むと状況を整理していく。
「なるほど。オマエたちは3週間前の謎の騒動の黒幕たる「コード・プレデター」と名乗っていたトーカーという男を倒し、トーカーという男が用いていた錬金術とそれにまつわる賢者の石による悪行を止めたが、連続失踪事件の最初の数件が「コード・プレデター」の被害者が最後に訪れたとされる薬品倉庫である事とオマエらの仲間の男がホムンクルスから聞いたアドミニストレータってのが怪しいとして調べようとする中で監視カメラが捉えていたオレを探してたってことか」
「そういうことになるな。アンタが白妻雷吾について尋ねに訪れた集会所でアンタが白妻雷吾のことと一緒に渦波拓海のことを調べてるのを知ったんだ。その……」
「イカれた研究者だ。テメェの快楽だけで人の命すら弄ぶようなクズだ。ヤツが追放されることとなった傷害の他にも窃盗に似たことにまで手を出してるような野郎だ。うまく雲隠れして瑠みたいだが数多の悪行に手を染めたことでヤツを捕まえるなり始末するように懇願するヤツが現れてやがる」
「叩けばいくらでも埃が出てくるような野郎ってか。そんな野郎がなんで誰に聞いても情報が得られないみたいな事言われてるんだ?」
「それはヤツが追放された際に犯した罪が大きすぎるせいで他が隠れてるってだけだし、別だん人殺して逃げ回ってるでもないから無駄に情報が出回らないんだよ。オレが聞いた話のほとんどもここ何日かでようやく得たくらいの情報だからな」
渦波拓海について話す砂弥、彼の話を聞くガイとソラが真剣な表情を見せる中アストは砂弥に向けてある質問をした。
「そもそも何故渦波拓海について調べ始めた?オマエは見たところかなりの観察眼があるらしいから戦闘向きのはずなのに何で罪を犯した渦波拓海を追うようなことをしてたんだ?」
「情報を統括してるアンタなら存じてるだろうがホムンクルスの騒動は何もこの東の地方に限った話じゃない。一部の北の地方でも騒動は起きていた」
「えっ、そうなのか?」
「初耳だな」
砂弥の口からホムンクルスの騒動は他の地域でも起きていたと初めて耳にしたガイとソラは驚いてしまうが、驚く中でガイは冷静に考えてみた。トーカーこと「コード・プレデター」は今の人類を消してホムンクルスを新人類にしようとしていた。その点を踏まえればトーカーがあらかじめホムンクルスを自分のいる地域と遠く離れた場所に潜ませているのもおかしな話ではないのかもしれない。
その可能性もあったことを認識したガイは改めて砂弥に質問をした、
「アンタはその北の地方でのホムンクルス騒動を目の当たりにしたのか?」
「一応はな。その騒動の中でオレは雷吾と再会を果たしたわけだがさっきのように変貌していたんだ。そこでヤツがホムンクルス・デッドと呼ばれる存在になったことを知り、ヤツがアドミニストレータってヤツの駒になってることを知ったんだ」
「再会が敵対になったのか……」
「つうか、アンタが当たり前のように言ってるホムンクルス・デッドってのは何だ?アンタはライトニングと名乗った白妻雷吾のあの謎の力について知ってる?」
「それはオレが雷吾を止めるべく足取りを辿る中である研究所に踏み込んだ時に見たからだ。オマエらは覚えてるか?ホムンクルス・デッドの体に血管のような黒い管が浮かび上がっていたのを」
砂弥に質問されたガイとソラは彼の言ったことを思い出そうとし、それらしい点を思い出すと頷く。二人が頷くと砂弥はホムンクルス・デッドについて自身の知る情報を明かしていく。
「あれはホムンクルス・デッドのために用意されたとされる生命維持装置だ。あれを介してアドミニストレータってヤツの指示を受信して無理やり動かされてるんだ」
「無理やり?」
「ホムンクルスは人形だから無理やりも何も……」
「オマエらの知るホムンクルスは一から生み出された人造の生命だ。だがホムンクルス・デッドは一から生み出される人造の生命ではなく……現存するある生命を媒体にした危険な存在だ」
「現存するある生命を……ってまさか!?」
「そのまさかだ刀使い。ヤツらは死人の体を媒体にホムンクルス・デッドを生み出している。言うならば生命を生み出すのではなく死体を器とした新造の人種……果ての話をするなら死人を甦らせるといった方面に話が発展しかねないことだ」
「まさか渦波拓海がそんなことを……!?」
「化学者の理どころか人としての倫理すら捨ててやがるな」
「仮にその話が真実だとして、何故そこまで詳しく知っている?黒徹砂弥、オマエのことを低く評価してるつもりはないが、一個人で集められるレベルの情報を超えている。情報屋ではなく賞金稼ぎのオマエが単独でどうやってそこまで調べた?」
ホムンクルス・デッドについて詳しい砂弥のことを疑うような目で見るアストの質問、それを前にして砂弥は目を逸らすこともなくアストの方を見たまま彼の質問についてしっかりと答えていく。
「さっきも言ったが北の地方で雷吾と再会をした時にヤツがある程度ベラベラと話したんだ。その上でオレも仲間に引き込もうとしてきたから戦闘になり、そこで初めて魔力を介して放たれる攻撃を吸収する力を目にした。そしてオレはそこでヤツの罠に嵌められて……こうなった」
アストの質問に答える中で砂弥は左手に付けた手袋を外すとその下にある手をガイたちに見せるが、ガイたちは砂弥が見せた手袋の下から姿を見せた左手に驚きを隠せなかった。
砂弥の左手、その左手の甲にはホムンクルス・デッドの体にあった黒い管の欠片のようなものが埋まっており、欠片が埋まっている周辺の肉は変色し指も浅黒く染まりつつあったのだ。
気味が悪い、そう一言で言えるような左手を前にしてガイたちが言葉を失っていると砂弥は左手に手袋を付け、手袋を付けると砂弥は今見せたものについて明かしていく。
「オレは雷吾の罠にかかったことでホムンクルス・デッドの生命維持装置のようなものを埋め込まれそうになり、何とかして左手で止めてそれを阻止したわけだが、左手に刺さったこの欠片だけは取り除けなくなり感覚すらおかしくなってしまった」
「死体を器としたホムンクルス・デッドなのに生者のアンタが狙われたのか?」
「いや、ガイ。そもそもコイツの話を信用するにしても雷吾って野郎は死人じゃないのにホムンクルス・デッドになれたんだろ。もはやその時点で死体をどうこうって話は辻褄が合わないぞ」
「死体をという観点だけなら銃使いの言う通りだ。だが雷吾の狙いは別にあったんだ。死体を器としたホムンクルス・デッドはただの操り人形と化すが、生者の体をホムンクルス・デッドにしようとした場合確率によるが自我を保ったままのホムンクルス・デッドになることがあるみたいだな。現に雷吾はその方法でなっているようだし、雷吾の被害を受けた薬品倉庫の警備員はこれに似た方法を試された結果拒絶反応を起こして殺されてる」
「ミイラみたいに乾涸びてか?」
「そうだ。拒絶反応を起こして死亡した被害者は捨ててるようだが、オレの場合は運良く拒絶反応を起こすことなく抵抗できたらしい。そのせいなのかは分からないが時折この左手を介してホムンクルス・デッドが動いたことを感知できるようになり、同時にホムンクルス・デッドを殺すための毒を生み出せるようになった」
「……でもそれってアドミニストレータってヤツがそう思わせるためにわざと野放しにしてる可能性もあるよな?」
「そうだな。オレが抑え込んでると思わせて何かのタイミングでオレを操る可能性もある。けど、実際オマエらと出会って目的がそれなりに共通してて助かったとも思っている」
「何故だ?」
「……アドミニストレータってのが渦波拓海か否かはさておいてオレが自我を保って人である間にこの負の連鎖を終わらせたい。生命を弄ぶような罪人とそれに加担するヤツらを根絶やしにした上でオレは左手に残っているこの欠片ごと消滅して悪用されないようにしたいんだ。その行動を成し遂げる前に死ぬのはゴメンだ。だから……オマエらを頼りたいんだ」




