四刃
建物の屋上から屋上へと次々飛び移るように走っていくガイと天晴。
走る中、天晴はガイに向けて質問をした。
「なぁ、ガイはミスティーについて知ってるのか?」
「……「色煙」のミスティー。
能力に関しては煙を操る程度しか知らない。
イクトから前に聞いた話では銀髪の美人らしい」
「なるほど」
「天晴の方は?」
「女ってことしか分かんね」
「……そうか」
ミスティーという人物についてどちらも知らない。
それを理解したガイは走る中でため息をつくと天晴にある事を伝えた。
「揃いも揃ってミスティーについて知ってることが少ない状態だ。
下手な詮索や相手を刺激するような言葉は控えてくれ」
「うーん……オレ頭悪いからそういうの苦手だな」
ガイの話を聞いた天晴は首を傾げながらガイに言い、それを聞いたガイは何も言わずに少し間を開けると天晴にあることを伝えた。
「ならオレが話をする。
天晴はひとまず「コード・プレデター」が現れないか見張っててくれ」
「え?
オレらのとこに現れんのか!?」
ガイの言葉を聞いて思わず足を止めてしまう天晴。
足を止める天晴に合わせるようにガイも止まり、ガイはため息をつくと天晴に先程の言葉を訂正するように伝えた。
「ヤツが何かしらの方法で自分を倒す輩の存在に気づいたら間違いなく始末に来る。
それが本人か、それとも使いの人間かは分からないがとにかく警戒する必要がある。
天晴は敵が接近してるかを見張っててもらえばそれでいい。
ミスティーを説得して仲間にしたら三人ですぐに移動する」
「そういうことか。
でももし現れたらオレが倒してやる!!」
「……現れるかもって聞いてビビってたのにか?」
「気にすんなよ」
「……わかったよ。
目的の場所は?」
あっちだな、と天晴は自分たちが向かうべき場所の方へと指を指し、ガイは天晴が指さす方に視線を向ける。
その方向を確かめるとガイは天晴の方を見て頷くと走り、天晴もガイに続くように走っていく。
***
一方……
アストの言葉に腹を立てたイクトは一足先に街に戻っていた。
「腹立つな、アイツ!!
オレだってその気になれば力になれるのによ!!」
一人ブツブツ愚痴をこぼすイクト。
そのイクトは愚痴を零すとため息をつき、頭を抱えるように右手で額を押さえる。
「……とりあえずガイが動きやすいように大将誤魔化さなきゃな」
(なんかいい方法ないかな?
旅行……はガイ好きじゃないからバレるな。
修行……は普通すぎてバレやすいか。
なら……)
「何してる?」
どう誤魔化すかを悩むイクトの後ろから誰かが声をかけ、声をかけられたイクトは驚きながらも振り向いた。
振り向いた先にはオレンジ色の髪の少年が立っており、少年はイクトをじっと見つめていた。
「ど、ども……」
「あ?
昼間会ってたろ?」
「い、いやぁ……なんかソラさんに会うと挨拶しないと殺される気が……」
「何言ってんだ?」
「な、何でもないです!!」
イクトは少年……相馬ソラに悟られぬようにどこかわざとらしい芝居をしながら話し、イクトの反応を受けてソラは怪しむような目で彼を見ていた。
「は、はは……」
(ダメだ!!
オレこの手のこと苦手だ……!!)
「……オマエ一人か?」
「あ、ああ……ちょっと前までガイも一緒だった。
けどなんか慌ててどっか行ったよ」
「慌てて?
どこに?」
「さ、さぁ?
ヒロムに何か問題でも……」
「ヒロムならさっきまでオレといたぞ。
そんでさっきユリナと一緒に送り届けた」
「……」
(やらかした……!!)
誤魔化そうとしたイクトだったが、余計なことを言ったがためにソラは彼のことをより一層怪しむ目で睨み、イクトは思わずソラから目を逸らしてしまう。
「……」
「……」
(めっちゃ睨んでる!!
めっちゃ怒ってる!!)
「……」
イクトを睨むことをやめないソラ。
するとソラはイクトを睨みながら携帯電話を取り出すと誰かに電話をかけ始めた。
「な……」
ソラが誰かに電話をかけ始めた、それを見たイクトは内心焦り始める。
(ヤバい!!
このままじゃガイのことがヒロムに知られる!!
そうなったらガイは……)
「……落ち着け」
電話をかけようとするソラを止めなくてはと考えるイクトだが、そんなイクトを止めるようにソラは彼に向けて告げる。
「落ち着け、いいから」
「え……」
「……オレだ、ロビン。
少し頼まれてくれるか?」
ソラの言葉に驚くイクトの事など気にすることなくソラは誰かに電話をする。
が、ロビンという名を出したということは電話の相手はロビンという人物だ。
ロビン、それは彼やガイ、イクトに協力してくれている人物だ。
その人物にソラは電話している。
『どうした?』
「少しこちらで問題が起きてな。
オレとイクトでヒロムの方を何とか説得するが、何分独断で動いてるもんだから下手すればバレる」
『おいおい、ダンナに黙って何かしてんのか?』
「少し、な。
ガイが今動いてるんだが、下手すればアンタのところに確認の電話が行く可能性もある」
『口裏合わせか?
別にいいが……どうすればいい?』
「……ガイは今ある案件を処理するためにある情報屋の指示を受けて賞金稼ぎと行動してる。
ガイが今関わってる案件を全てアンタの案件として扱ってくれないか?」
『……要はオレが指示してることにすればいいんだな?』
「万が一アンタのところにヒロムが電話したらだ。
頼めるか?」
『任せとけ。
ダンナを騙すのは気が引けるが弟分の頼みを断るわけにはいかねぇからな』
「助かる」
『気にするな。
けど……無理はするなよ』
「……分かってる」
ソラは電話を終えると通話を切り、そして携帯電話を片付けるとイクトに歩み寄り、彼の額に強めのデコピンを放つ。
「痛っ!!」
「……ったく、誤魔化すの下手すぎんだろ。
元賞金稼ぎの人間ならそれらしく誤魔化すくらいしてみろ」
「……バレた?」
「バレバレだ!!
ヒロムに会わなくてよかったな」
「……なんでロビンさんに協力を?」
素朴な疑問を抱いたイクトはソラに質問し、質問されたソラはため息をつくとイクトの質問に答えた。
「どうせヒロムのために何かしてるんだと思ったからそうしただけだ。
オレが動いても無意味だろ?」
「……まぁ、頼りになるのは確かだけどな」
「……「コード・プレデター」か?」
「まぁ……ね」
「……ったく。
余計な真似しやがったな。
どういう段取りか教えろ」
ソラはイクトから話を聞き出そうとするが、イクトは恐る恐るソラに確認した。
「あの〜……大将にバラしたりします?」
「安心しろ。
そうならないように力貸してやるよ」
「ま、マジで!?」
「とりあえず口止めとして奢れ」
「……何奢らせる気なのさ!?」
ソラはイクトに冷たく告げると歩いていき、ソラの言葉をじっと考えるとイクトは慌ててソラを追いかけていく。
***
「着いたな」
ガイと天晴は目的となるアパートの前に来ていた。
年季の入った二階建ての建物、その建物を前にしてガイは天晴に指示を出した。
「ミスティーが暮らしてるのは二階だ。
事前の手筈通りにオレがミスティーに会う。
天晴は見張りを頼む」
了解、と天晴は敬礼しながら返事をし、天晴の返事を聞いたガイはアパートの二階へと向かう。
錆び付いた金属製の階段を上がっていき、そして奥にある部屋に向かう。
「ここだな」
目的の部屋の前に来るとガイは腰に携行している刀の柄に左手をかけて万が一すぐ抜刀できるように備えながら扉をノックしようとした。
「……っ!!」
ガイが扉をノックするとノックしたと同時に扉が開く。
まるでガイを中へと案内するかのように開いた扉を前にガイは恐る恐る中へ踏み込む。
中に入ると人が生活してるとは思えぬほど物が置かれずに綺麗な状態の玄関がガイを迎え、ガイは靴を履いたまま上がっていき、そのまま突き当たりの洋室に向かう。
「……」
刀を抜刀出来るように柄にかけた左手でしっかりと柄を握りながら踏み込むガイ。
ゆっくりと洋室に踏み込んでいくガイ。
すると……
「警戒しなくていいわよ」
誰かがガイに話しかけ、話しかけられたガイは声のした方に向かって構えると刀を抜刀しようとする。
が、ガイが構えた方向にいた人物……ソファーに座る銀髪の女性はガイに向けて警戒する様子もなく話し始める。
「初めましてよね?
私はミスティー……って私に用があるなら知ってるわよね?」
「……雨月ガイだ」
ガイはひとまず刀の柄を握る左手を離して名乗ると彼女に対して前振り無しに本題を伝えた。
「キミの力を借りたい。
無茶言ってるのは分かるが……」
「賞金稼ぎとしては十分な報酬をいただけないとお断りするわよ?」
「……報酬に関してはこちらからアストに交渉する。
キミの望む額を伝えるよ」
「あら、気が利くのね。
仕事の内容教えて貰えるかしら?」
「……「コード・プレデター」を潰す」
ガイが「コード・プレデター」の名を口にするとミスティーは突然ため息をつき、そしてどこか申し訳なさそうにガイに言った。
「……リスクの高い依頼ね。
さすがに件の賞金首となれば引き受けるためにも相応の額を要求するわよ?」
「問題ない。
力を貸して貰えるならオレが責任を持って交渉する」
「……熱心ね。
そんなにお金が欲しいのかしら?
「コード・プレデター」は倒せばそれなりの……」
違う、とガイはミスティーの言葉を遮るように言うと続けて自身が「コード・プレデター」を狙う理由について伝えた。
「オレがほしいのは金じゃない。
今以上に強くなるための力だ」
「……報酬はいらないって言うの?」
「ああ、オレが受け取る分の報酬はキミに譲ってもいい」
「アナタ……」
ガイの言葉を聞いたミスティーが何か言おうとしたその時だ。
突然外から爆発音が響き、アパートが大きく揺れる。
「「!?」」
外からする爆発音にガイとミスティーは顔を見合わせると互いに頷き、二人は部屋を駆け出ると何が起きてるのか確認しようとする。
「天晴!!」
外を見張る天晴を心配するガイは彼の名を叫び、そして周りの状況を確認しようとする。
アパートの周囲は爆撃されたのか煙を上げ、アパートの前には忍者刀を構えた天晴がいた、
そして……
天晴の前には大きな斧を握った巨漢がいた。
体には何かを仕組んだようなベルトを巻いており、狂気に満ちた顔で天晴を……そしてアパートの部屋から出てきたガイとミスティーを睨んでいた。
ガイとミスティーは二階から飛び降りると天晴のもとに駆け寄り、何が起きたのか聞き出そうとした。
「どうなってる?」
「わっかんね。
ガイが……この人がミスティー?」
「それはいいから報告!!」
「ガイが部屋に入ったらアイツが現れたんだ。
んで急にあの斧振ったらこの辺爆発したんだ」
「爆発……斧……。
アイツはサイクロプスよ」
天晴の話を聞いたミスティーが巨漢について話し始めた。
「アイツはサイクロプスって呼ばれる快楽殺人鬼。
狙った相手を斧で斬り殺して頭以外を爆発させて殺すイカレ野郎よ」
「詳しいな」
「ええ、もちろん。
「コード・プレデター」と同じくらい厄介な賞金首よ」
なるほど、とガイは刀を抜刀すると天晴とミスティーに言った。
「アイツを倒す。
力を貸してくれないか?」
「ああ、任せとけって」
「仕方ないわね。
援護はするわ」
「助かる。
……いくぞ!!」