三十九刃
ライトニングが叫ぶと動かぬはずの死体は操られた人形のように動き出し、ホムンクルス・デッドと呼ばれたそれが迫る中ガイは刀を構えると走り出し、ソラは拳銃を構えると敵を殺そうと弾丸を放つ。
放たれた弾丸はホムンクルス・デッドの一体の眉間を射抜くが、弾丸に眉間を射抜かれてもホムンクルス・デッドは動きを止めようとしない。
次々に弾丸を放っていくソラだが、弾丸が命中してもホムンクルス・デッドの意に介さず止まることなく前進してくる。
「おい、ホムンクルスだからって死なねぇとかありかよ……!!」
「動きを止めないどころか意に介さず来るのか……ガイ!!
弾丸を受けても止まらないならオマエの刀で切り倒せ!!」
「了解」
ソラの攻撃を受けても怯まず前進してくるホムンクルス・デッドを前にしてアストはガイに指示を出し、ガイは指示を受けると刀に魔力を纏わせながら敵に接近し、接近と同時に目にも止まらない速度の一閃を放って一体のホムンクルス・デッドの首を斬って頭を胴から落とさせる。
確実な手応え、目で見て明らかに攻撃が命中したのは確かであり頭を切り落としたことで敵は確実に仕留めたとガイは思った。だがホムンクルス・デッドは一瞬だけ動きが止まっただけで倒れようとしない。それどころか頭を失った姿で動き続けようとするのだ。
「なっ……!?」
「嘘だろ……!?
ガイの一撃で致命傷受けたのに倒れねぇのか!?」
「このホムンクルス……トーカーの生み出したホムンクルスの強化版と言い切るには不気味な点が多いな」
「冷静に分析してんじゃねぇ、どうすりゃいいんだよアスト!!
撃っても死なねぇ、頭切られても止まらねぇ相手だぞ!!」
「そうだな。なら……徹底して破壊するしかない」
アストは全身に魔力を纏うと黒いエネルギー波を発生させ、発生させた黒いエネルギー波をビームのように撃ち放ってホムンクルス・デッドの体を貫いていく。アストの攻撃を受けたホムンクルス・デッドはそれでもなお動こうとするが、アストの放った黒いエネルギー波によるダメージが深刻なものだったのか徐々に動きを鈍くさせながら動きを止めて倒れる。
ようやく動きを止めた、ガイとソラは心の中でそう思うと同時に目の前にまだ残っているホムンクルス・デッドを制すには情け容赦なく一切の加減をせずに殺すしかないと悟ると全身に魔力を纏う。
「ソラ、やれるか?」
「オマエこそ、しくじんなよガイ」
「ああ!!」
ガイは魔力を強く纏うとそれを蒼い炎へ変えながら走り出し、ソラは拳銃を構えると構えた武器に炎を纏わせる。炎を纏わせるとソラは炎の弾丸をいくつも撃ち放ってホムンクルス・デッドに命中させ、炎の弾丸は敵に着弾すると敵の全身を飲み込むように炎の勢いを増して敵を焼き消していく。
ガイは刀……霊刀「折神」に蒼い炎を纏わせると目にも止まらぬ速さで無数の斬撃を飛ばし、飛ばされた斬撃は蒼い炎を纏って敵に襲いかかると敵を切り刻んで倒していく。
ホムンクルス・デッドの数がある程度減るとガイとソラはアイコンタクトで意思疎通を取り、ソラは敵に向けて攻撃を続け、ガイは走り出すとライトニングに迫っていく。
ガイが迫り来ている、そんな状況でもライトニングは余裕があるのか構えようとせず、構えないのならばとガイは霊刀に蒼い炎を強く纏わせながら一撃を放って倒そうとする。
しかし……
ガイの放った一撃はライトニングに命中する瞬間に雷のようなものに阻まれて防ぎ止められてしまう。ここで終わらせまいとガイは続けて攻撃を放つも同じように雷のようなものに止められてしまい、攻撃を阻まれることにガイが何か違和感のようなものを感じているとライトニングは右手をかざすなり雷を強く放出してガイに襲いかからせ、雷の攻撃に襲われそうになるガイは蒼い炎を前面に集めて盾のようにしながら凌ぐと一旦距離を取ろうと後ろに跳び、ソラはガイが一度下がると判断したのか後方から炎の弾丸を放ってライトニングの動きを封じようとする。
ソラの放った炎の弾丸をライトニングは雷のようなもので防ごうとして意識がガイから逸れ、ガイから注意が逸れると一度後退しようと試みたガイは難無く距離を取って構え直す。
ガイとソラ、2人の攻撃を難無く防いだライトニング。ライトニングの力と思われる謎の雷のようなものを不審に思うアストは黒いエネルギー波を纏いながらライトニングに問う。
「白妻雷吾、今の力はオマエの能力か?」
「そんなことを聞いて何になる」
「オマエを知ることが出来る。そもそも今のオマエ判断は異常だ。ガイの「修羅」の能力を前にして頭のいい人間か腕の立つ賞金稼ぎなら避ける選択をするはずだ。だがオマエは避けるのではなく防ぐ方を選択した。つまりオマエはガイの能力を事前に把握して止める手立てを得ていたことになる」
「なるほどな、だからオレの能力かを疑ったのか。
闇の貴公子とかいうのもただの名前じゃないようだな」
「なら今の力は……」
「そう、この力はアドミニストレータがオレに与えてくれた完全な力だ。未だに発展を遂げる力、変化を続けるこの力を前にすればあらゆる能力は無力となる。あの方の持つ叡智が成す神の業、それがオレに新たな力を授けてくださったのだ」
「神の業、か。アドミニストレータと呼ばれてるヤツもトーカーと同じように賢者の石がなければ何も出来ない欲に溺れた野郎なんだろ」
「賢者の石……?笑わせるなよ素人が。「コード・プレデター」のホムンクルスや錬金術はあの石による副産物でしかない。あの方の力は道具に頼るようなものでは無い」
「これ以上は聞くに耐えないな。質問を変えるが、オマエがあの方と呼ぶそいつの目的は何だ?」
「そんなもの……教えるわけねぇだろ!!」
アストの質問に答える気は無いとしてライトニングは全身に雷を強く纏うと走り出し、走り出したライトニングはガイたちに向けて雷を矢にして次々に放って牽制しようとする。
ライトニングの放った雷の矢をガイとソラは避けると反撃の一撃を放って応戦するもライトニングに向けて放たれた攻撃は雷のようなものに妨げられて消されてしまう。
「くっ……」
「この野郎……!!」
「無駄だ!!
オマエらの能力はすでにあの方が把握している!!あの方の知識の中にオマエらの能力の情報があるかぎりオレにダメージを与えるなど不可能だ!!」
「なら試してみろ」
ライトニングの強気な発言に続くように誰かが言葉を発し、その言葉に続けて銃声が響く。
ソラが何かしたと思ったガイとアストは彼の方に視線を向けるもソラは拳銃を構えて何かした様子も無かった。なら誰が何をした?ガイたちが不思議に思っているとどこからか一つの弾丸が飛んでくる。
拳銃より少し大きな銃により放たれただろう大口径の弾丸がライトニングに迫り、大口径の弾丸が迫るとライトニングはガイたちの攻撃を防いだように雷のようなもので防ごうとした。
しかしライトニングが防ごうとしたその時、大口径の弾丸は何やら電子音のようなものを鳴らすと自壊するように炸裂し、炸裂した大口径の弾丸は巨大な爆炎を上げながら雷のようなものを無視するようにしてライトニングに襲いかかる。
「何!?」
「攻撃が通った……!?」
「……そいつのそれは魔力を感知する。
オマエらの攻撃は通用しないから無駄だ」
ライトニングがダメージを受けていることにガイが驚いているとガイたちが来た方から一人の男が歩いてくる。
右手に大口径のロングバレルタイプの銃を持った黒髪の男。左手には黒い手袋を付けたその男を見たガイはさらに驚いてしまう。
「オマエは……黒徹砂弥……!!」
「どこの誰か分からないヤツがオレを調べてると噂を聞いて来てみればこんなガキとはな。どういう理由で雷吾を狙ってるかは知らないが……アイツはオレの獲物、オレが殺す」




