三十八刃
黒徹砂弥の手掛かりとなるであろう彼のかつての相棒である白妻雷吾が最後に引き受けたとされる討伐依頼のターゲットたる「ワイルドティーガ」と名で呼ばれる賞金首の集団に狙いを定めたガイたち。ガイたちはアストの更なる調査によって標的となる「ワイルドティーガ」の潜伏先について情報を得るとそれをもとに標的のいるとされる場所へ来ていた。
潜伏先として出てきたのは今は使用されていないゴミ処理場。潜伏してるのか怪しいほどに出入り口は警備すらされておらず、ガイたちは信じられないほど簡単に入ってしまえた。
あまりに簡単に入れたことから何かあると警戒してガイ、ソラはいつでも戦闘に移行できるように武器を手に持ち、アストもいつでも戦えるように周囲の警戒をしていた。
「アスト、ここで合ってるよな?」
「オレを疑いたくなるのは分かるが、「ワイルドティーガ」のヤツらが出入りしてるという目撃情報を得ている。そこだけを見てもここを調べる価値はあるし、最悪「ワイルドティーガ」がいなくとも何かしらの痕跡が残っていればそれを調べるまでだ」
「つまり、どうなるかはこの先の動き次第ってことか」
「そうなるな。オマエとしては細々としたことを気にしなくて済むから楽だろ相馬ソラ」
「……まぁ、それはそうだ」
「とにかく今は何かしらの手掛かりか情報を聞き出せるようなヤツがいればそれで十分だ。邪魔するヤツは倒す、単純明快な行動理由のもとで動けばいい」
「了解だ」
「……いくぞ」
敵は排除する、アストのその一言を受けたガイとソラは先陣を切るように奥へと進み、2人はアストが後ろからついてくる中でゴミ処理場の奥へと歩を進める。ゴミ処理場の名に相応しいというか辺りは汚く、悪臭も酷い。今は使われていないが故に長く放置されていてとにかく不快感しかない中をガイたちは歩き進める。
そんな中、ソラは何やら液体を踏む。何らかの汚物なのかただ何かから漏れ出た油なのか水なのかが気になったソラは足を止めて足元に視線を向け、踏んだ液体の正体を知ったソラはガイとアストに止まるように伝えた。
「止まれ」
「ソラ?」
「何か見つけたか?」
「……今何か液体を踏んだから確認したんだが、厄介なことになりそうだ」
ソラは何を言おうとしているのか、それが気になったガイとアストはソラの足元に視線を向けて何があるのかを確かめた。
ソラが踏んだ液体……それは血だった。それも一人分の血では無い大量の血だ。血の池とでも例えられるほどのただならぬ量の血、それを目の当たりにしたガイたちは得体の知れぬ緊張感に襲われ、その緊張感に襲われる中でガイとソラは互いに見合うと恐る恐る歩を進め直す。
ピチャッ、ピチャッと歩を進めるたびに足元で大量に広がる血を踏む音がし、ゴミ処理場という不快な場所が更に不快感を増させる。
ゆっくりとゆっくりと歩を進めるガイたち、少し開けた場に出ると……そこにはゴミの山の中に紛れるように無数の人の死体が血を流しながら無作為に置かれていた。置かれていた、というよりは破棄されていたと言うべきだろう。死体が流す血はガイたちがピチャッピチャッと踏んでいた血の池のような大量の血と繋がっており、この異常な光景にガイとソラは周囲を見渡す。
そう、彼らはこの異常な光景を前にしてある答えを出したのだ。
「アスト、周囲に人の気配はあるか?」
「いや、今のところはない。だが確実にどこかにいるはずだ」
「……手当り次第焼くか?」
「待てソラ。何が仕掛けられてるか分からないのにそんな派手なことは出来ない」
「ガイの言う通りだ相馬ソラ。
この死体をここに破棄したヤツが潜んでるなら用心する必要がある」
「……だとしてもここにいるのは確かだろ。
破棄された死体、その死体から血が流れてるってことはこれをやった野郎はまだここにいるはずだ」
「それ以前に破棄されてるこの死体の身元は一体……」
「そいつらはオマエらが手がかりにしようとしてた「ワイルドティーガ」だよ」
ガイたちが警戒する中で天から一筋の落雷が一つのゴミの山に落ち、落ちた雷の中から人が現れる。
白髪の男、その男が現れるとアストはどこか意外そうな顔をして彼を見てガイたちに伝える。
「ヤツだ」
「ヤツ?」
「アイツが白妻雷吾だ」
「「!!」」
「さすがは闇の貴公子、オレのことをすでに調べていたか」
「……オマエを見つけ出すためには多少なりとも情報を得ておかなきゃならないからな。写真を手に入れて顔を覚えておいたのさ」
なるほど、と白髪の男……白妻雷吾はゴミの山の上から飛び降りてガイたちの前に立つと首を鳴らし、首を鳴らすなり白妻雷吾はガイたちに向けて急に話を始めた。
「それにしても……「コード・プレデター」を追い詰めたヤツらが揃いも揃って何してんだよ。オマエらが何を探してるかは知らねぇがよぉ……あんまりオレたちのことを嗅ぎ回るなよ」
「オレたち、か……。それはアドミニストレータってヤツが関係してるのか?」
白妻雷吾の話の中で「オレたち」という言葉が出たことでガイは何かを理解したらしくそれについて問うように「アドミニストレータ」について口にする。失踪事件の現場となっている附近の監視カメラで幾度と姿を確認された黒徹砂弥のことを調べようとしていたガイたちだが、アストがイクトから話を聞いたヒロムがホムンクルスから聞いたとされる「アドミニストレータ」についても知る必要があった。
前者については渦波拓海や目の前にいる白妻雷吾と次月に手掛かりとなる者が見つかってきているが、後者に関してはハッキリとした情報は得ていない。だからこそガイは目の前の男が何か知ってるとしてその言葉を口にした。
そして、ガイの一かバチかの賭けにも等しいこの選択が白妻雷吾の口から思いもせぬ言葉を引き出させた。
「あの方についてどうやって知ったかは知らねぇが、何であの方を知ってる?」
「詳しくは知らない。ただ、トーカーの引き起こしたホムンクルスの騒動の中でその名を口にした個体がいたってだけのことだ」
「……なるほど。アイツのホムンクルスに紛れ込ませてた実験体が口を滑らせたか。あの方が言ってたように欠点はあるらしいな」
「やっぱ錬金術の関係者か」
「つまり、オマエが強さを求めて足を踏み入れた厄介事はまだ終わってなかったってことだなガイ」
「ああ、そしてオレたちの知りたいことの答えを知ってるヤツがここにいる」
「それよりも……貴様はこの死体を「ワイルドティーガ」と言ったが、どういう事だ?」
死体の正体は賞金首の集団「ワイルドティーガ」だと明かしていた白妻雷吾にアストはその真意を確かめようと問い、アストに問われた白妻雷吾は不敵な笑みを浮かべると何故か楽しげに話していく。
「オレはコイツらと戦い、負傷させられた。致命傷だった。死を悟ったオレの前にあの方が現れ、オレの傷を治して新たな力を施してくださった。オレの命を救ってくださったあの方は実験のために大量の命を求められていた……だからオレは長きに渡りコイツらを利用して色々と悪事を働かせた」
「まさか「ワイルドティーガ」のヤツらが犯した罪は……」
「言い方を変えるなら都合よくあの方とオレに嵌められたってことだ。もっとも、そのおかげであの方が求められた新人類が生まれた」
白妻雷吾が嬉しそうに指を鳴らすといくつかの死体が起き上がり、起き上がった死体の体の内側から血管にも思える黒い管が浮かび上がる。虚ろな目でガイたちを見る起き上がった死体、その死体を束ねるかのように白妻雷吾は声高々に言った。
「我、ライトニングが指示を与える。ホムンクルス・デッドよ……あの方の邪魔をするヤツらを殺せ!!」
白妻雷吾が……ライトニングが叫ぶと死体は……ホムンクルス・デッドと呼ばれた死体はガイたちを襲おうと動き出す。
抵抗しなければ殺される、分かりきっていることを改めて認識するとガイたちは敵を倒すべく動き出す……




