三十四刃
アストの登場、かつて「コード・プレデター」を倒した彼の登場はガイにとって予期せぬものだったが、彼が口にした言葉はそれよりも驚きだった。
「アスト、今何て言った……?」
「アドミニストレータ、だ。
この言葉を姫神ヒロムがホムンクルスの口から聞いたらしい」
「その言葉に何の意味がある?」
「落ち着け、相馬ソラ。
あまり初対面の相手にそうやって問い詰めるのは感心しないぞ」
アドミニストレータ、その単語についての意味を知ろうと解説を急ぐソラに対してアストは落ち着くように言うが、ソラはアストの言葉に少し苛立ってしまう。
アストが初対面の相手に対して問い詰めるのは感心しないというのと同じようにソラとしては初対面のアストにそこまで馴れ馴れしく話される理由もないのだ。
「とりあえず答えだけ教えろ。
オマエが誰かとか初対面だとかそんなのはどうでもいい
」
「そうか。それもそうだな。
どうせオレもオマエとガイが困ってると思ったから助け舟を出しに来ただけだからな」
「助け舟だと?」
「アスト、そのアドミニストレータってのは何なんだ?」
助け舟という点に引っかかるソラに対してガイは話を進めようとアストに彼の言うヒロムが聞いたという言葉について質問した。
ガイに質問されたアストは元々話すつもりだったのかソラの相手をすることも無く話を進めていく。
「アドミニストレータってのは所謂情報システムに関する用語だ。コンピューターやネットワークにおけるインフラを良好に保つために責務を負っている管理者を指し、システムの利用者側の管理者としてシステム全般の知識を求められる存在だ」
「情報システムの言葉をホムンクルスが口にしたのか?」
「おかしな話ではない。
最近学者たちの間では情報システムに関する単語やAI部門に関する用語を用いた説を力説する者が現れるくらいだからな。能力者の能力というのは人間にとっては未知の部分が多いから同じように未知の領域にありながら進化を続ける機械的なシステムなどと同等に考えを並べられることが増えてきたんだよ」
「なるほど……じゃあ変な話では無いのか」
「けど問題はアドミニストレータってのがそのまんまの意味ならホムンクルスどもには「コード・プレデター」の他に親玉がいるって言ってるのと同じになるぞ。
呑気に何関連の言葉かとか話してる余裕ないだろ」
「相馬ソラの言う通り、ホムンクルスの口にした言葉のアドミニストレータと言うのが管理者を意味するものなら「コード・プレデター」だったあの男……トーカーの他に錬金術の使い手がいることになる。何より最悪なのはその存在がトーカーと別の方向にいる場合だ」
「別の方向?」
アストの言う別の方向というのが分からないガイは質問するように聞き返し、聞き返されたアストはガイとソラに自身が言った別の方向とは何を指すかを話していく。
「トーカーはあくまで錬金術とホムンクルスによって今の人類と能力者を一掃して新たな人類種となるホムンクルスを軸とした新世界を創造しようとしていた。その手始めとしてホムンクルスを街で暴れさせて自分の邪魔をしようとするオレやガイたちを始末すべく「コード・プレデター」に狙われているフリをして近づいてきた。
そこまでをホムンクルスとなったユリウス・キッド単体の協力で進められたと思うか?」
「それは……」
「つうかそのユリウス・キッドってのがそもそもホムンクルスとして完全に死んでんのか怪しいって話だよな?
そいつが生きてたら「コード・プレデター」の件も終わった終わってないの問題じゃなくなるだろ」
「フッ、察しがいいな相馬ソラ。
オマエの言う通りユリウス・キッドが本当に死んでいるかどうかがカギとなるが、オレはユリウス・キッドは既に死んでいると思って間違いないと考えている。ユリウス・キッドはトーカーの忠実な部下として賢者の石の恩恵を受けてホムンクルスとなった。その恩恵を受けているということは賢者の石を砕かれたことでガイの攻撃に耐えれず滅びたトーカーと同じ末路を辿っていてもおかしくないだろうからな」
「オレたちが受け持った雑魚ホムンクルスも全員塵になって消滅してるからその線はあるかもな。けどそのユリウス・キッドってのは自我があるんだろ?オレやヒロムが倒してた雑魚とは違うなら……」
「おそらくユリウス・キッドはキミが倒していた雑魚のホムンクルスの個体に魂を憑依して乗り換えを行うことで何度も蘇るような演出をしたのだろうが、その雑魚のホムンクルスの体を形成している物質を肉体として紐付けしていた賢者の石が失われたからホムンクルスは肉体を維持出来ずに消えたためユリウス・キッドは乗り移れる個体か見つからずに魂はこの世界に維持されずに焼失してるだろうな」
「なら「コード・プレデター」の忠実な部下は死んだってことか」
「でもヒロムは黒徹砂弥という男を調べさせようとしている。そしてアストがここにいるってことは……何か情報を掴んでるってことだよな?」
その通りだ、とアストはガイの言葉に返すとガイとソラにある情報を明かしていく。
「オレがここに来たのは姫神ヒロムの話を「死神」から聞いた上で疑問を解決したいと思ったと同時にガイが動くと考えたからだ。そして、オレが動こうと思ったのはトーカーを倒した後にホムンクルスや錬金術のことを調べていたわけだが、その時に抱いていた疑問と姫神ヒロムが話していたという話しが一致したんだ」
「そういやヒロムはイクトに何を話させたんだ?」
「仲介を挟んでの話だからすこし解釈の違いがあるかもしれないが、姫神ヒロムはトーカーがホムンクルスを暴れさせたあの一件の最中で雑魚のホムンクルスを倒していたらしいが、その中である人物のホムンクルスが目の前に現れたそうだ。その人物の名は……姫野ユリナだ」
「「!!」」
アストが聞いたとされる話からユリナの名が出るとガイとソラは驚きが隠せない顔を見せ、二人の顔を見たアストは話を続けていく。
「オマエたちも知ってるようだが、姫野ユリナというのはごく普通の女子中学生だ。トーカーやユリウス・キッドと関係の無い、あの一件の争いに参加していない人物なのにホムンクルスとして現れた」
「ユリナの姿のホムンクルス……」
「だからヒロムは……」
「躊躇いがある中で何とか姫神ヒロムは倒したらしいが、倒した後そのホムンクルスは先程話していたアドミニストレータというワードを発したらしい」
「……つまりヒロムはユリナの姿をしたホムンクルスが現れたこととそのホムンクルスが発した言葉に違和感を覚えて調査をしてたってことか。そんでこの一件で頼れるであろうアンタをイクトに頼る形で接触した、と」
「いや、接触したのはオレからだ」
「アストから?
アストはイクトを避けてたんじゃないのか?」
「別にそんなつもりは無い。
ただ……ガイと違ってアイツは軽い部分があるから苦手なだけだ」
「……人はそれを避けるって言うと思うんだが?」
「その話はいいだろガイ。それより、アンタがイクトに接触した理由は?」
アストがイクトを避けてる避けてないの話はどうでもいいと一蹴するとソラはアストが何故イクトに接触したのかを問い、問われたアストはその理由を明かしていく。
「簡単な話にはなるが、雑魚のホムンクルスが暴れたあの一件、奇妙なまでに街がパニックになっていただろ?」
「ああ、そりゃな。自分と同じような姿のホムンクルスが暴れてるわ、身内の姿したヤツが襲ってくるわでそりゃパニック確定だわな」
「……まさかだけどアスト、それに何か秘密があるのか?」
「おそらく……だがオレが抱いた疑問と姫神ヒロムが調査を始めた理由はそこにある。姫野ユリナという無関係なはずの人間の姿をしたホムンクルス、ガイや相馬ソラとは面識がないような街の住人の姿をしたホムンクルス……この二つに共通しているのは民間人であると同時に「コード・プレデター」を名乗っていたトーカーと接触していない可能性が高いということだ」
「つまり……」
「ヤツら錬金術師ってのはどんな人間もホムンクルスで生み出せるってことか」
「仮に今起きてる連続失踪事件の犯人がトーカーの協力者ならあの騒動はまた引き起こされる可能性がある。ホムンクルスを生成するのに必要なものが何かは分からないが、姫神ヒロムの話からヒントは得た。何かしらの方法で得た人間の記憶を元にホムンクルスを生み出す……今の時点で出せる仮説でしかないが、この仮説通りなら今度起きるホムンクルスの騒動は想像を絶することになる」
「……それを止める最初の可能性が黒徹砂弥にあるってことか」
「そうなるな。実際オレもその男が何か知ってると考えているし、早々に見つけて手を打ちたいからな」
「……ん?手を打ちたいってまさか……」
アストの言葉に何か気になる点があったらしくガイは聞き返し、ガイが聞き返すとアストは静かに頷いた後にガイに伝えた。
「チーム再結成といこうか、ガイ。
オレも……ここからはオレも二人と行動させてもらう」




