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三十三刃


 ヒロムに頼まれてガイはソラとともに警察が捜査している連続失踪事件に関与してると思われる謎の人物・黒徹砂弥を探そうとしていた。

 

 ヒロムがイクトの力も借りて調べようとする連続失踪事件、それが「コード・プレデター」とどのような関係があるかは定かではないがとにかくガイはヒロムの頼みを聞きいれて何かを知ってるであろう黒徹砂弥を探そうとソラと動いていたが、ガイとは異なりソラは乗り気ではなかった。

 

「……絶対に怪しい」

 

「ソラ?」

 

「アイツは何か隠してやがる。

「月翔団」の頼みでもねぇのにアイツが自分から動くと思うか?普段のアイツなら面倒なことは必ず避けるか断るような性格なのに何で今回は蓮夜の関与も無いのに事件とは関係ないアイツが真相を突き止めようとしてんだ?」

 

「まさかヒロムは「月翔団」からの頼みを受けたことを黙ってるのか?」

 

「アイツの性格上それは無い。

大体蓮夜の頼みをアイツが受けたのなら調べようとするオレたちのところに蓮夜の部下が来るなり動きがあるはずだがそれが無いのならヒロムが蓮夜の頼みを受けてないっての確かな事実ってことになる」

 

「なら他の可能性か? 」

 

「それしかないな。

だが問題はヒロムを動かして行動させるほどの理由だ。中途半端な理由やくだらないことで動くはずもないし、ヒロムを行動させるとなれば何かしらアイツに関することが関わってるはずだ」

 

「その理由をイクトが持ってきた、とか? 」

 

 ないな、とガイが口にした言葉をソラは早く否定すると否定したその理由について話していく。

 

「前回の「コード・プレデター」の一件でアイツはオマエが向かうように情報を与えたってことでかなり怒られていた。オマエの行動をあえて隠すように口裏合わせしたオレもそれなりに怒られたわけだし、今回に限って連続して自分が怒られるような真似をすることはないはずだ。まして今回のこの胡散臭い一件の主導権はヒロムが持ってるように見える。イクトは単にその手伝いをさせられてるに過ぎないだろうな」

 

「情報を集めるためにイクトが利用されているってことか。でもヒロムは「姫神」の力も借りようとしてるんだろ?蓮夜の指示でないにしろヒロムが「姫神」に相談したら蓮夜たちが反応して動かないのか?」

 

「そこも謎なんだよ。

オレはアイツが「姫神」の家の力も借りるっていう言い方をしたから蓮夜の関与を疑ったんだが、アイツはそれを否定した。「姫神」の家自体はヒロムに情報収集のために使われても文句はないんだろうが、おそらくオレたち同じような疑問は持つはずだ」

 

「ヒロムの行動の積極性についてはヒロムを知る人間なら疑うか。

でも、そうなってくると謎は深まるよな」

 

「ああ。ヒロムを突き動かすほどの何かがあってアイツがそれを何かしらの方法で知ったからこうなってるんだが……」

 

「いや、そうじゃないよ」

 

「あ?」

 

「方法というよりはきっかけじゃないか?

ヒロムが見聞きして知ったんじゃなくて何かを目の当たりにしたからこそ今回の行動を起こしてるんじゃないのか?」

 

「……いや、言い方変えただけで論点はあってるだろ?」

 

「ちょっと違う。

ソラはヒロムが「月翔団」の関与無しに「姫神」の情報網を使うだけの理由と方法を気にしてるけど、よく考えたらこの連続失踪事件についてヒロムはオレが倒したはずの「コード・プレデター」についてわざわざ触れていた」

 

「……偽物の「コード・プレデター」にアイツは接触していたな。何か言われたのか?」

 

「可能性はあるな。

ヒロムが自ら動く理由としてはホムンクルスとして用意された個体に何か言われるなりしてヒロムがそれについて気にしてるのならこの無理矢理な調査依頼も納得が行く」

 

「なら問題は……」

 

「ヒロムが何を言われたか、だ。

人類を滅ぼして新世界を錬金術で作ろうとしていたトーカーの用意していた「コード・プレデター」のホムンクルスはヒロムに何を言ったかだ。

単純に考えればヒロムを仲間に誘い込むかこの世界の必要性について問われるかくらいが妥当だけどヒロムがその手の話で自分の考えを変えるはずもないしこんな行動起こすことも無いだろうな」

 

「そもそもヒロムが相手をしていた個体が得た情報からホムンクルスで組み上げられた偽のヒロムとなってオマエを襲ったんだろ。

ならその線を怪しむべきだろ」

 

「オレも一瞬それを考えたよ。

けど、他のところに理由があるとは思えないんだ。トーカーが能力のないヒロムよ強さを狙ったところまでは前回の件として考えられる要因だけど、今回のこの一連の件には関連性がないように思える。何と言うか……弱すぎる」

 

 話を進める中で何故ヒロムがわざわざ無関係な連続失踪事件を調べるに至ったかを考察するガイとソラだが、話はまとまらない。話がまとまらない上に話せば話すほど謎だけが大きくなって解決させてくれなくなる。

 

 「月翔団」からの関与ではなくヒロムの意思により始められたと思われる今回の捜査。連続失踪事件を調べるために距離を置いているはずの「姫神」の情報網すら使おうとするヒロムのやり方にガイとソラは悩むしか無かった。

 

 答えが見えない。それなのに謎ばかりが生まれて彼らを苦しめ悩ませる。

 

 そんな中、ガイの携帯電話の着信音が鳴る。ガイは慌てて携帯電話を手に取ると画面を確認し、画面には「姫野ユリナ」と表示されており、それを確認するとガイは電話に応じるように画面をタッチして携帯電話を耳に当てる。

 

「もしもし、どうかしたか?」

 

『どうかしたかじゃないよ!!

休み時間終わったらガイとソラいないし、ヒロムくんに聞いてみたら帰ったって言ってるし……何かあったの?』

 

 電話の相手は可愛らしい声をした少女だった。姫野ユリナ、それが彼女の名前だ。ガイとソラ、そしてヒロムと同じクラスの少女で優しい性格の持ち主であり、いつもヒロムやガイたちのことを気にかけてくれる優しい存在だ。そんなユリナがガイとソラが何故帰ったかは聞かされていないにしろ二人同時に帰ったことで心配になったのか電話してきた。

 

 ガイはひとまず何事もなく無事なこととあまり詮索されないように適当に誤魔化すような言葉で安心させようとした。

 

「何かあったとかじゃないよ。その、ちょっと前にヒロムの親父さんから頼まれてたことを終わらせようと思って早退しただけだ。危険なことじゃないから大丈夫だよ」

 

『そうなの?でも心配だよ。

三週間くらい前に何か変な暴動があったんでしょ?それなのに二人がいなくなってるから……』

 

「ごめんごめん、心配させちゃったな。

でも大丈夫、何かあったらヒロムと一緒に……」 

 

 心配を隠せないユリナを安心させようと何か言おうとしたガイ。そのガイは不意に自分が口にしようとした言葉を止めてしまう。止めると同時に自分の中で考えてしまう。

 

『ガイ?』

 

 電話越しのユリナは話が止まった事で心配してガイの名を呼び、ガイは少し間を置くとユリナに質問した。

 

「あのさ……ユリナ。

変なことを聞くけど、三週間前に何か怪我とかしてないよな?」

 

『怪我?』

 

「ガイ?」

 

 ガイの質問に電話越しのユリナが聞き返す中でソラもガイがなぜそんな質問をするのか気になって彼を見てしまう。

ガイはただユリナの答えを待つように静かにし、ユリナもそれを感じたのか彼の質問に答えた。

 

『怪我はしてないし、風邪とかも引いてないよ。

私はいつも通りだけどそれがどうかしたの?』

 

「……もう一つ変なことを聞くけど、三週間前に起きたその暴動があった時ってユリナは家にいたのか?」

 

『ガイ、もう忘れてるの?

その暴動があった時は登校日だったのにヒロムくんとソラとイクトが休んでて寂しかったんだって話したよ?ガイもその暴動が起きる何日か前からずっと学校来なかったし……もしかしてお父さんかお母さんが具合悪いの?』

 

「いや、そんなんじゃないよ。

ただ……確認したかったんだ」

 

『そうなの?

あっ、明日も学校だから来なきゃダメだよ!!』

 

「うん、分かってるよ。

じゃあね」

 

 ユリナの言葉に返事を返すとガイは話を終わらせて通話を切り、ガイが通話を終えるとソラは彼に確かめるように質問した。

 

「……ヒロムが動いた理由、分かったんだな?」

 

「ああ、今のでは何となく分かった。

最初は偶然そう思ったとしか認識してなかったけど、ユリナの話を聞くうちに確信に変わった」

 

「じゃあ……」

 

「ヒロムを動かした可能性の一つとして考えるのならユリナを視野に入れるのは間違いじゃない。

ホムンクルスが暴れる中でヒロムは何かが起きてユリナに危険が迫った。だからこそヒロムは「コード・プレデター」の件が解決してないと思って調べ始めてる」

 

「けど、決定打には欠けるよな。

仮にその線が当たってたとして学校にいたユリナが危険に晒されるような何かってのが問題だよな。アイツがその何かをハッキリさせないまま動くとは思えねぇだろ」

 

「ホムンクルスのあの一件が関係してるからこそヒロムはオレが「コード・プレデター」の件に関わるような真似をしたことをあえて口にしたんだ。戦闘中のヒロムと被害に遭わなかったユリナ、離れた位置関係にあった二人の間で「コード・プレデター」を倒そうとしたオレが何かを引き寄せた。その何かがまだ終わらずに残っているから今回の件が起きてるんだ」

 

 ユリナの電話、その一つの出来事から可能性を見出し話を進めていくガイとソラ。だが、所詮は可能性の話が進展しただけ。進展したこの可能性の話がこれから探すことになる黒徹砂弥とどう関係してるかはまた別の話だ。

 

「……可能性はある程度絞れたけど、やっぱり確実な理由が知りたいよな」

 

「当たり前だな。このまま黒徹砂弥とかいうのを探しても何も解決しないし、解決してもスッキリしないまま終わるぞ」

 

「だよな。それを何とかして避けないと……」

 

「ずいぶんと悩まされてるようだな」

 

 ガイとソラが未だにハッキリしない部分に悩まされていると誰かが二人に話しかけ、話しかけたその人物は静かに歩み寄ってくる。

 

「オマエは……」

 

「アスト……何でここに?」

 

「今知りたいのはそれなのか?

それを知りたいなら答えてもいいが、真に知りたいことはそこじゃないだろ」

 

 ガイとソラのもとへ歩み寄った人物……三週間前にガイとともに「コード・プレデター」を倒した能力者で「闇の貴公子」と謳われているアストだった。

 

「姫神ヒロムと「死神」が調べている黒徹砂弥のことで悩んでるんだろ?」

 

「何でそれを?」

 

「黒徹砂弥の情報はオレが与えたし、何よりオレも興味深いことを「死神」から教えられたからな」

 

「興味深い? 」

 

「あのバカはアンタに何を話した?」

 

「……アドミニストレータ、という言葉だ。

姫神ヒロムが倒したホムンクルスが発したその言葉についてオレは「死神」から話を聞いたんだよ」

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