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三十一刃


 

 

 …………「コード・プレデター」の一件から三週間。

 

 雨月ガイはこれまで当たり前のように過ごしてきた姫神ヒロムや相馬ソラ、黒川イクトと過ごす日常へと戻っていた。

 

 学生としての生活、当たり前のように仲間と学校に行き、当たり前のように帰り道に遊んだり……そんな当たり前の日々に戻ったガイはヒロムたちと過ごすこの当たり前に安心感を抱いていた。

 

 何故なのかと言われればおそらくガイは説明出来るか曖昧なところだが、ガイはヒロムたちと過ごすこの日常があることが嬉しいと感じているのだろう。

だからこその安心感というものだろう。

 

 そしてその日常の中で変化はあった。

その変化とは……

 

「はっ!!」

 

 学校の屋上、それなりの広さのこの場所でガイは大鎌を持つイクトを相手に特訓をしていた。特訓相手を務めるイクトの大鎌に対抗すべくガイはその手に霊刀「折神」を持って挑み、実戦に近い形式での特訓が繰り広げられるのを離れたところからソラが見ていた。

 

 そして、ガイとイクトが特訓をする中でヒロムは呑気に寝転んで昼寝をしていた。

 

「はぁ!!」

 

「よっと!!」

 

 白熱するガイとイクト、実戦に近い形式の特訓だからか二人とも気合が入っており、両者手を抜くことも無く刀と大鎌を幾度とぶつけて火花を散らしては次なる攻撃へと転じていく。

 

 ガイとイクト、二人の特訓が白熱する中で何食わぬ顔でヒロムが寝る一方でソラはどこか退屈そうに座って眺めており、退屈すぎるのかソラはため息をつくと制服の下から拳銃を出してガイの方に銃口を向ける。

 

「……」

 

 イクトとの特訓に夢中になるガイに銃口を向けたソラはそのまま引き金に指をかけ、そしてガイが気づく前に引き金を引くと炎の弾丸を放つ。

 

 放たれた炎の弾丸はガイに向けて真っ直ぐ飛んでいき、ガイは銃声とともに飛んできた炎の弾丸に気がつくと刀で切り払うように防いでみせた。

 

「ソラ、何を……」

 

「スキあり!!」


 ソラの行動の真意が分からないガイの集中力が欠けて意識が逸れるとイクトはそのスキを逃すことなく狙い、大鎌の柄でガイの足を払うと体勢を崩させてガイに尻もちをつかせる。

 

「痛……!!」

 

「ここまで、だな」

 

 尻もちをついたガイの首にイクトは大鎌の刃を向けながら告げ、体勢を崩された中で大鎌を向けられたこの状態では為す術もないと判断したガイは刀を地面において両手を上げて降参した。

 

「……ここまで、だな。

実戦なら今ので死んでた」

 

「まぁ、ガイの戦闘センスは悪くないしソラの予測できない行動さえなければもっといい線いってたと思うよ?」

 

「いや、結果が全てだよイクト。

不測の事態は実戦では多々あること、それを踏まえて動かなかったオレが悪い」

 

 まったくだな、と特訓を止めるきっかけを生み出した張本人のソラは呆れながら言うと座ったままガイに向けて注意した。

 

「何のために得物使った特訓してんのか分かってやってんのか?

さっきのじゃただのチャンバラごっこだ。予期せぬ出来事を想定した立ち回りすら出来てなかったし、イクトが能力使わない前提での動きってのが見え見えで見てられなかった」

 

「悪い」

 

「オマエの剣術は近接戦闘、対するイクトは大鎌の長いリーチを活かした戦法に本来なら能力がプラスされるわけだから流れをイクトに持っていかれたらオマエは実戦なら確実に殺されるぞ」

 

「……手厳しいな」

 

「ただの事実だ。

それとも、甘やかされたかったか?」

 

「いや、そんなつもりは無いよ。

ソラの意見は参考になるから助かるよ」

 

「……その参考になる意見と似た内容を再三言ってんだがな」

 

 指摘されても動じないガイの態度にソラはやれやれと言った感じでため息をつくと話を終わらせ、話を終わらせるとソラは寝ているヒロムに声をかけた。

 

「ヒロム、そろそろ起きろ」

 

「ん……」

 

「ガイの特訓が終わった。

昼の授業開始まで時間も長くないから用意しとけ」

 

「……るせぇな。

分かったよ……」

 

 ソラに起こされたからか機嫌が悪そうなヒロムはゆっくり起き上がるとあくびをし、後ろ頭を掻く。

ヒロムが眠たそうにしているとガイは恐る恐るある質問を彼にした。

 

「なぁ、ヒロム。

いつもイクトばかりだし、たまにはヒロムが特訓相手になってくれないか?」

 

「……あ?」

 

「ほら、ソラはたまに相手になってくれるけどヒロムは全然特訓に付き合ってくれないだろ?

だからもし良かったら……」

 

「断る。

オマエとやっても秒で終わらせて勝つだけだ」

 

「……そっか。

ごめん、変なこと言って」

 

 即答、からの自分が強いと告げるヒロムの言葉にガイは声が小さくなりながらも謝るとこの話をここで終わらせようとする。

いや、分かりきっていたことなのだ。ヒロムは強い。この四人の中で誰よりも強く、能力無しで能力使用有りのガイたちに負けぬ身体能力を持っている。

 

 その事はこれまで彼を近くで見てきたガイが一番理解している。ソラも理解しているし、過去の一件でイクトはヒロムの強さを痛いほど思い知らされている。

 

 だからこそこの四人が集まればその中心に自然と立たされるのはヒロムなのだ。強いものに付き従う、弱肉強食の摂理に従うかのようにガイたちはヒロムのもとに集まっている。

 

 が、ヒロムはその強さをひけらかして偉そうな態度をとることも無く、今のようにガイが特訓を頼み出た時に断る口実に自らの強さを口にしない。

 

 だからガイたちにとってヒロムの態度というのは特別嫌な思いをさせられるようなものではないのだ。

 

 何ならいつものことだ、そのくらいに思ってガイは割り切っている。


 ガイがヒロムに特訓を断られる様子をソラが静かに見守る中、イクトは何かを思い出したかのようにヒロムに尋ねた。

 

「そういや大将、この間頼まれてた件調べたんだけど……いつ報告すればいい?」

 

「……例のアレか?」

 

「うん、例のアレだね」

 

「……ちょうどいい。

オレがオマエと組んで終わらせても良かったが、オレとの特訓を熱望する熱心な剣士もいることだから今聞くことにした」

 

「……オレはいないってか?」

 

「ソラはどうせ聞くだろうから省いただけだ」

 

 ヒロムの言葉にソラが噛みつき、それに対してヒロムが弁解しているとガイはその横でイクトに質問をした。

 

「例のアレってのは何なんだ?

まさかだけどまた何か動いてるのか?」

 

「そこは調査中。

けど……少なくとも新しい何かが動いてるのは確かだよ」

 

 イクトは自分の影の中に手をかざすとそのまま影の中に手を入れ、影から手を抜くとイクトはその手に何か資料が入れられたファイルを持っていた。

 

 イクトの能力「影」、便利な能力だ。自身や周囲の影に形を与えて操る力を持つと同時に自身の影の中に特殊な空間を作り出して人や物を自由に収納することも出来る。

 

 未来から来たとされるタヌキのような機械も顔負けの現代の力、何度見てもその凄さにガイは毎度感心させられる。

 

 感心させられているとイクトはガイにファイルを手渡し、ガイがファイルを開くと興味のあるソラが横から覗き込む。

 

「連続失踪事件……?」

 

「んだよ、ヒロム。

オマエいつから警察の真似事始めたんだ?」

 

「ソラ、そこ気にしなくていいから。

それは警察の調書のコピー、大将に頼まれたからコネをいくつか使って回してもらったんだ」

 

「……警察にまでアテがあるのか?」

 

「正確には警察の人とやり取りしてる情報屋だけどね。

続き読んでよ」

 

 イクトに急かされる形でガイとソラはイクトが手に入れた警察の調書のコピーをゆっくりと読んでいく。

読み続ける中でガイとソラは二人揃ってある点に気づかさせられる。

 

「おい、ガイ……」

 

「ああ、これ……奇妙だな」

 

「何で民間人の同じ特徴の人間ばかり行方不明になってんだ?」

 

「……警察の調べだと失踪事件の対象になってるのは二十代から三十代前半の男性ばかり。

それもターゲットにされてるほとんどの人は昼間の人の多い所で姿を消しているんだ」

 

「子供でもないかぎり迷子なんてありえないし、まして大人が昼間に姿を消してんなら怪しさしかないな」

 

「まだ一人も見つかってないのか?」

 

「ううん、数人は見つかってるよ。

ただ……死体でね」

 

「「!!」」

 

「死因は不明……だけど、発見された遺体の全てが体内の水分はもちろんのことカルシウムやら筋肉やらがその年齢に合わないレベルまで奪われた状態だったんだ。

所謂ミイラみたいな乾涸びた状態で、ね」

 

「そんなことが……」

 

 ガイとソラの知らぬところで起きる怪事件、昼間の人の多い場所で姿を消し、その一部の失踪者がミイラのようになって発見されるというこの事件にガイとソラは恐怖を感じずにはいられなかった。

 

 そしてソラはこの事件の一端を知るとヒロムに向けて彼が何故この事件について調べようとしていたのかについて尋ねた。

  

「警察のこの事件にオマエが踏み込むのは何か理由があるのか?

まさかオマエの嫌いなヒーローの真似事か?」

 

「……イクトが言ったのは失踪事件として扱われている被害者についてだ。

オレがこの事件について調べさせようと思ったのは……最初の数件に奇妙な共通点があったからだ」

 

「奇妙な共通点?」

 

「ガイ、一つ質問だが……オマエはアストという能力者と行動してる時に「コード・プレデター」の手がかりを探す時に薬品倉庫を調べたのか?」

 

「まぁ、調べる方針にはなってたよ。

けどそっちの調査はアストが担当してたから詳しくは知らないんだ。

それがどうかしたか?」

 

「失踪事件の最初の数件は……それぞれ異なる薬品会社が管理する薬品倉庫に勤務する警備員だ。

そしてその警備員全員がミイラみたいな殺され方をされた上で胸のところを抉る形で心臓を奪われていた」

 

 薬品倉庫について調査したかと質問されたガイの答えに対してヒロムは今回のこの事件を調べるきっかけとなった点を話していく。

 

 そして話される内容にガイは驚きを隠せないでいると同時にヒロムが調べようと考えたとされる理由の一つに気づいてしまう。

 

「まさか……この事件は「コード・プレデター」が関与してるのか!?」

 

「いや、それはないかもしれない。

オマエの話通りヤツが倒れたことで全てのホムンクルスが消滅して街は平和になったんだ。

ただ……薬品倉庫という点を知った時、オレの偏った知識の中にあるホムンクルスは薬品を必要とすると考えたんだ。

仮に「コード・プレデター」が死んだとしても……ヤツにはユリウスとかいう仲間がいたろ?」

 

「まさか……オレやアストは「コード・プレデター」の仲間を見逃したのか?」

 

「……その可能性を調べたかった。

だからイクトと二人で調べていたんだ」

 

「そう、なのか……」

 

「……まぁ、この話の流れなら察しがついてると思うが、ガイとソラには後々頼もうと思っていたことがある」

 

「オレたちに?」

 

「何だ?」

 

「オレは「姫神」の家を利用して、イクトは情報屋を利用してこの事件の情報をもう少し集めていく。

二人には……この事件の犯人を倒す手助けをして欲しいんだ」

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